【状況別】遺産分割の流れ|協議・調停・審判それぞれを解説

相続人が2名以上いる場合は、遺産の分け方を決める必要があります。相続放棄や限定承認を選択しない場合、遺産分割の方法には、次の3つがあります。
- 協議による分割
- 調停による分割
- 審判による分割
この記事では、協議・調停・審判それぞれの手続きの流れを解説します。
遺産分割をご予定の方は、ぜひご参考になさって下さい。


遺産分割協議の流れ
ここでは、遺産分割協議の流れについて解説します。
遺産分割協議の大まかな流れは、以下のとおりです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人と相続財産を調査する
- 遺産分割協議を行う
- 遺産分割協議書を作成・締結する
- 協議書に基づいて遺産を分割する
遺言書の有無を確認する
遺産分割の話し合いをする前に、遺言書の有無を確認する必要があります。被相続人が遺言を遺したことを周りの人に告げていないこともあるので、被相続人の居宅内をひととおり探索します。相続人以外の第三者(友人・知人、弁護士・司法書士など)に預けられていることもあります。
自筆証書遺言の保管場所は、人によってそれぞれですが、次のような場所が一般的です。
- 通帳などを保管する書類棚や手提げ金庫
- 机の引き出し
- 仏壇の物入れ
- 銀行の貸金庫
公正証書遺言であれば、全国で公正証書遺言を登録するシステムがあるので、全国どこの公証役場でも検索できます。公正証書遺言の検索システムは、東京では昭和56年、大阪では昭和55年から採用され、平成元年以降は全国で採用されています。

相続人と相続財産を調査する
遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割の話し合いをします。遺産を分割するにあたって、まず相続人と相続財産を調査する必要があります。
相続人の調査
相続人を確定するには、戸籍の調査が必要です。戸籍調査では、原則として被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取り寄せます。同一の市町村役場で複数の戸籍謄本等を取得できる見込みがある場合、戸籍謄本等交付請求書に「(対象者)の出生から現在(死亡)までが分かる御庁所有の全ての戸籍謄本類を各1通交付いただきたい」旨を記載すると、同役所に存在する謄本類をまとめて取得できる場合があります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等が揃ったら、相続人の戸籍謄本を取得します。被相続人の戸籍謄本から相続人の本籍地がすぐに判明しない場合は、当該相続人の本籍地が記載された住民票を取得することで本籍地を確認できます。
民法所定の相続順位に従い、相続人の範囲を確定します。
相続財産の調査
遺産分割の話し合いをする前に、遺産分割の対象とならない財産も含め、被相続人が相続開始時に有していた全てのプラスの財産・マイナスの財産(相続財産)を調査します。
遺産分割協議を進めるにあたり、遺産をいつの時点でどのように評価するのかを話し合う必要があります。
相続財産の調査方法や、相続財産に含まれる財産・遺産分割の対象とならない財産は、下記関連記事をご参照ください。


遺産分割協議を行う
遺産の範囲について当事者の合意が見込める場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。相続人が一人でも欠けると、遺産分割協議は無効となります。
協議は、相続人全員が一堂に会して行う方法のほか、電話・メール・手紙などの持ち回りの方法で行っても差支えありません。
遠方に住んでいる相続人がいたり、どの遺産を誰が取得するかが決まっていたりして話が複雑でない場合は、持ち回りで協議が行われるのが通常です。相続人の1人が遺産分割協議書を作成して回覧させる方法で合意が成立するケースもあります。
遺産分割協議書を作成・締結する
相続人全員が遺産分割の内容に合意すれば、その内容を遺産分割協議書として書面にします。遺産分割協議書には、相続人全員が署名・押印(実印)します。
以下の手続きでは、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書や印鑑登録証明書が必要です。
- 相続税申告
- 不動産の相続登記申請
- 金融機関の相続手続き
遺産分割協議書の作成は、弁護士に依頼することも可能です。

協議書に基づいて遺産を分割する
遺産分割協議が成立したら、協議書に基づいて名義変更等の手続きを行います。
名義変更等が必要な遺産の代表例・方法は、以下のとおりです。
- 不動産:法務局への相続登記申請
- 預貯金:各金融機関への所定(名義変更・解約等)の手続き
- 株式:信託銀行への所定(名義変更・解約等)の手続き
- 自動車:陸運局への名義変更手続き
遺産分割協議書に基づく名義変更等の各手続きは、弁護士に依頼することも可能です。

遺言書がある場合の遺産分割協議の流れ
ここでは、遺言書がある場合の遺産分割協議の流れについて解説します。
遺言書に基づいて遺産を分割する
遺言書がある場合は、遺言書の有効性に問題が無い限り、遺言書の内容に従い遺産分割を行います。
自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません。検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言執行前に遺言書を保全し、後日の変造や隠匿を防ぐための手続きです。
封がされている場合は開封せず、そのままの状態で家庭裁判所に提出します。勝手に開封することは法律で禁止されています。
遺言の効力に問題がない場合は、検認手続きが済んだら、遺言書に基づいて相続手続きを進めます。遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が手続きを進めます。

遺言書に記載のない遺産については別途遺産分割協議を行う
遺言書に記載のない遺産がある場合は、別途遺産分割協議が必要です。
遺言書に記載のない財産を誰が取得するか、相続人全員で話し合います。相続人全員で話し合いがまとまれば、遺産分割協議書を作成・締結します。
相続人全員の合意で遺言と異なる遺産分割もできる
遺言があっても、相続人全員の合意がある場合は遺言と異なる遺産分割も可能です。
ただし、相続人全員の合意のほか、次の3つの点をクリアしなければなりません。
- 遺言で遺産分割が禁止されていない
- 遺言執行者の同意が必要(遺言執行者が相続人でない場合)
- 受遺者の同意が必要(遺言書に相続人以外の者に遺贈する旨の記載がある場合)
遺言と異なる遺産分割をする場合は、遺産分割協議書に以下の事項を明記します。
- 相続人・遺言執行者・受遺者の全員が遺言の内容を確認したこと
- 相続人・遺言執行者・受遺者の全員が遺言と異なる遺産分割をすることに合意したこと
遺産分割調停の流れ
ここでは、遺産分割調停の流れについて解説します。
家庭裁判所に調停を申立てる
話し合いや協議が進まないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てる方法があります。
調停手続きは、非公開の場で、法律的な問題点だけでなく人間関係も考慮しながら、全員の合意が成立するように話し合いを進める手続きです。
調停の申立ては、相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所に行います。
調停を申立てると、裁判所書記官が形式的な確認をし、形式が整っていれば受理されます。調停事件として受理されると、第1回目の調停期日と開始時刻が指定され、申立人と相手方を家庭裁判所に呼び出します。
調停期日の呼出状は、家庭裁判所の書記官から相手方ひとりひとりに送付されますが、その郵便には照会書が同封されます。この照会書では、次の質問事項が記載されています。
- 遺言の有無
- 共同相続人の確認
- 遺産の範囲の確認
- 特別受益や寄与分の有無
- 分割案の希望
- その他相続に関する事実関係
相手方は、照会書に回答を記入して返送します。この照会書は調停手続きを進める上で参考資料として利用されます。
調停期日に出席する
当事者および代理人は、呼び出された調停期日に、指定された場所に出向きます。
申立人側と相手方側は、それぞれ別々の待合室が用意されていて、顔を合わせなくても良いよう配慮されています。
通常は、申立人と相手方とは時間をずらして別々に調停室に呼ばれます。調停委員が、当事者や代理人から、主に次の事項を聴取します。
- 紛争の実情
- 調停に至る経緯
- 当事者の事情
- 分割案の希望
調停期日は概ね1か月から1ヶ月半ごとに1度くらいの割合で設けられ、1回につき2~3時間程度行われます。2回目以降は、当事者双方の都合を聞いて期日が定められます。
調停期日の回数や期間には制限はなく、調査の必要性や調停が成立する見込みの有無など様々な事情によって異なります。
調停の成立・不成立
調停の成立
調停において、当事者間に合意が成立し、調停委員会がその合意内容を相当と認めて調書を作成すると、調停が成立します。
調停調書に基づき、名義変更等の手続きを行います。調停調書は確定した審判と同一の効力を持ちます。金銭給付義務や登記義務などを定めた調停調書が作成された場合、相手方が給付を履行しない場合は直ちに強制執行が可能です。
調停の不成立
調停委員会が当事者に合意が成立する見込みがないと判断した場合は、調停不成立として調停が終了します。不成立の旨の調停調書が作成され、当事者にその旨が通知されます。

遺産分割審判の流れ
ここでは、遺産分割審判の流れについて解説します。
調停の不成立により自動的に審判に移行する
調停不成立により調停手続きが終了した場合は、調停申立てのときに遺産分割審判の申立てがあったものとみなされます。調停不成立により自動的に審判手続きが開始されるので、審判申立書を提出する必要はありません。
なお、遺産分割事件には調停前置主義の適用がないため、各相続人は調停を経ずに審判を申立てることも可能です。ただし、実務上、家庭裁判所は、まず調停事件として申立てるよう指導する、あるいは、審判として受理したものの調停事件に付すことが多いようです。
審判期日に出席する
審判手続きに移行すると、第1回審判期日が指定されます。審判期日では申立人と相手方が同席し、全当事者に立ち会いの機会が与えられます。
家事審判官が、調停での主張・書証や争いのない事実・争点を確認・整理して、審理計画を策定します。審理計画に沿って、争点整理、事実の調査及び証拠調べが行われます。
審判期日は1か月から1か月半ごとに1回くらいの割合で設けられます。終結まで長ければ2~3年かかることもあります。
家庭裁判所による審判
十分な審理が尽くされたら、審理手続きが終結し、審判期日が指定されます。審判期日では、裁判官が、遺産をどのように分割するかの結論を示します。
審判が出されると、家庭裁判所で審判書が作成され、当事者に交付送達されます。
審判の確定・不服申し立て
遺産分割審判が確定するのは、次のいずれかのときです。
- 即時抗告の期間が徒過したとき
- 即時抗告権者全員が抗告権を放棄したとき
- 即時抗告期間経過後に即時抗告を取下げたとき
- 抗告審の裁判が確定したとき
審判が確定した後は、同一手続内で取消し・変更はできなくなります。審判確定後は、審判書謄本と確定証明書をもって、相続手続きを行います。
不服申立て(即時抗告)
遺産分割審判に不服がある安倍は、即時抗告を申立てられます。即時抗告が可能な期間は、審判の告知を受けた日(審判書謄本の交付を受けた日)の翌日から起算して2週間です。相続人ごとに告知を受けた日かから進行します。
即時抗告は高等裁判所で審理されますが、即時抗告の申立書は原審家庭裁判所に提出します。高等裁判所は、申立ての適否・理由の有無により、次のいずれかの裁判をします。
- 却下
- 棄却
- 原審判の取消し
原審判を取り消す場合は、原則として原審判を原審家庭裁判所に差し戻します。更なる事実の調査を要しないときなどは、高等裁判所が自ら審判に変わる裁判をすることもあります。
遺産分割の流れに関するよくある質問
ここでは、遺産分割の流れに関するよくある質問とその回答を紹介します。
遺言で遺産分割が禁止されている場合はどうなる?
被相続人(遺言者)は、遺言により、相続開始のときから最大5年間、遺産分割を禁止できます。
遺言書で遺産分割が禁止されている場合は、相続人全員が合意しても遺言書と異なる遺産分割協議はできません。
相続人の中に未成年者がいる場合はどうすればいい?
相続人の中に未成年者がいる場合、その親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加します。ただし、次のいずれかに該当する場合は、親権者の行為が利益相反行為となるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を求める必要があります。
- 親権者自身も共同相続人である場合
- 親権者が当該遺産分割協議において複数の未成年者の代理人となる場合
特別代理人の選任は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。
特別代理人が選任されると、その特別代理人が遺産分割協議に参加します。
相続人の中に認知症の者がいる場合はどうすればいい?
相続人の中に認知症など事理弁識能力を欠く状況にある者がいる場合は、その者について後見開始の審判を申立てる必要があります。後見開始の審判は、被後見人(認知症の者など)の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。
成年後見人が選任されると、その成年後見人が成年被後見人に代わって遺産分割協議に参加します。
すでに成年後見が開始されていて、成年後見人自身も共同相続人である場合は、成年後見人の行為が利益相反行為となるため、未成年者の場合と同様に特別代理人を選任する必要があります。
相続人の中に行方不明者がいる場合はどうすればいい?
相続人の中に調査を尽くしても行方が分からない者がいる場合、共同相続人は、当該相続人を不在者として、家庭裁判所に対し、財産管理人の選任を求められます。財産管理人の選任は、当該相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
財産管理人が選任された場合は、その財産管理人が遺産分割協議に参加します。
不在者が7人以上生死不明である場合は、失踪宣告の申立てを検討することもあります。
一部の遺産だけ分割できる?
相続人全員の合意があれば、一部の遺産だけを分割し、残りについては時間をかけて協議することも可能です。
次のようなケースでは、一部分割を検討することがあります。
- 遺産の一部について訴訟が係属しており確定までに時間を要する場合
- 遺産が莫大で調査や評価に時間がかかる場合
- 相続税や相続債務の支払いにあてるための原資を早急に確保する必要がある場合
ただし、一部分割は、後日に紛争の種を残すことにもなりかねないため、やむを得ず一部分割を行ったときは、その旨を遺産分割協議書に明記することをおすすめします。
遺産分割協議後に遺産が見つかったらどうすればいい?
遺産分割協議書後に新たに遺産が見つかった場合には、原則として新たに判明した遺産についてのみ、改めて相続人全員で分割協議します。
新たに判明した遺産が重要な遺産であり、当事者がその遺産があることを知っていれば当初の内容での遺産分割協議を成立させるつもりがなかった場合などには、遺産分割協議をやり直すこともあります。
新たに判明した遺産の価値が遺産全体の価値のバランスを変えてしまう場合なども、相続人の1人が異を唱えることで、既に成立した遺産分割協議を無効として、遺産分割のやり直しが可能なケースもあります。
遺産分割調停は欠席できる?欠席したらどうなる?
遺産分割調停は、原則として相続人全員の出席が求められています。調停期日に欠席しても罰則はありませんが、その分、自分の主張を聞いてもらう機会を失います。
遺産分割調停は共同相続人の話し合いにより解決を促す手続きであるため、欠席が度重なると調停が不成立となり、審判に移行します。
代理人が就いている場合は、当事者の出席は不可欠ではありませんが、調停委員会は当事者も一緒に出頭することを推奨しています。
遺産分割審判は欠席できる?欠席したらどうなる?
審判は、当事者の話し合いの場ではなく、裁判所が主導で行う手続きです。審判期日を欠席したり、書面や証拠書類を提出しなかったりすると、不利な内容で審判が下される可能性があります。
そのため、審判期日は欠席しないようにしましょう。やむを得ず欠席する場合は、事前に家庭裁判所に連絡することをおすすめします。
まとめ
遺産分割の手続きを進めるためには、相続に関する法的知識が必要です。
相続人同士では話し合いがまとまらない場合など、弁護士のアドバイスやサポートが必要となる場面もあります。第三者である専門家が間に入ることで協議がスムーズに進むこともあります。
弁護士に依頼すれば、調停や審判に移行した場合も、自分に有利な主張・立証をするために必要なアドバイス・支援を受けられます。
遺産分割にお悩みの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。初回相談は無料で対応しています。
この記事を監修した弁護士

佐藤 塁(東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の佐藤塁と申します。当事務所の特徴は、法的な専門性や経験はもちろんのこと、より基本的に、お客様と弁護士との信頼関係を大事にしていることです。お客様のご依頼に対して、原則2人の弁護士が対応し、最初から最後までその弁護士が責任を持って対応させていただきます。難しい案件でも投げ出しませんし、見捨てません。良い解決ができるよう全力でサポートさせていただきますので、何でもまずはご相談いただけますと幸いです。