相続時の不動産の名義変更|変更の流れやしなかった場合の不利益とは

不動産の名義変更は、相続や売買、贈与などで所有者が変わったときに行う手続きです。
名義を変えずに放置すると、売却や賃貸ができない、税金の通知が届かない、将来の相続で争いになるなどの不利益が生じるおそれがあります。
ここでは、不動産の名義変更が必要な場面、手続きの流れ、必要な費用や、名義変更をしなかった場合のペナルティなどを解説します。
目次
相続による不動産の名義変更が必要となる理由
人が亡くなって不動産を相続する場合、名義変更(相続登記)を行うことで、名義人が誰なのかを明確にできます。
名義を故人のままにしておくと、様々な不都合が発生します。
ここでは、名義変更が必要となる主な理由を5つ紹介します。
相続を通じて所有者が変わったことを証明するため
不動産の所有者が亡くなったあと、その権利は相続人に引き継がれますが、登記をしなければ第三者には所有者が誰か分かりません。
登記簿上の名義人が個人のままでは、たとえ相続していても、他人から見れば権利関係が把握できません。
名義変更をすることで、新しい所有者が誰であるかを証明できます。
不動産の売却や賃貸をするため
相続した不動産を売却したり、賃貸に出したりするには、登記簿上の名義人が現所有者である必要があります。
当然ですが、名義が故人のままでは、売買や貸付などはできません。
不動産を資産として活用するには、名義変更が必須です。
相続人間でのトラブルを防ぐため
名義変更をしないまま不動産を共有していると、相続人どうしで意見が分かれたり、無断で使用されるなどのトラブルが起こりがちです。
故人が亡くなった当時は問題がなくても、あとになって「あの家はやっぱり自分のものだ」などと主張してくる人がいるとトラブルになりかねません。
早い段階で名義を変更することで、将来のトラブルを避ける効果があります。
法改正により相続登記が義務化されたため
2024年4月からの法改正により、相続登記は義務となりました。
相続を知った日から3年以内に登記を行わなければ、正当な理由がない限り、10万円以下の過料が科される可能性があります。
これまでは任意だったため放置されるケースも多かったですが、今後は放置できないと考えましょう。
固定資産税の課税対象者を明確にするため
登記上の名義が故人のままだと、固定資産税の請求先があいまいになり、市役所からの通知が届かないなども問題が発生します。
そして、固定資産税の支払いをめぐってトラブルになることも考えられます。
名義変更をすることで、課税対象者が誰なのかを明確にし、税務上の混乱を防ぐことができるでしょう。

不動産の名義変更の流れ
名義変更の目的理由を確認する
まずは、なんのための名義変更なのか、目的や理由を明確にしましょう。目的によって、課される税金などに違いがあるからです。
- 相続
- 売買
- 贈与
- 財産分与 など
ここでは、相続をメインに説明していますが、誤った申請をしないように、不安な人は司法書士や税理士に相談するのがおすすめです。
必要書類を用意する
名義変更には、複数の公的書類が必要です。代表的な書類を以下にあげます。
- 被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍謄本
- 住民票
- 固定資産税評価証明書
- 遺産分割協議書(協議があった場合)
- 遺言書
遺言書は、故人が遺言を残していた場合のみ必要です。書類の不備があると名義変更が受理されない点に注意しましょう。
登記申請書を作成する
必要書類がそろったら、法務局に提出するための登記申請書を作成します。
申請書には、不動産の所在地、登記の目的、相続人の氏名や住所などを記載し、添付書類と一緒に提出します。
申請書の書き方には一定の形式があるため、法務局の雛形を参考にするか、司法書士に相談するのがおすすめです。
法務局に申請する
作成した登記申請書と必要書類を、該当する不動産を管轄する法務局に提出します。
提出方法には、窓口での持参、郵送、オンライン申請などがあります。
申請後、内容に不備がなければ登記手続きが開始されます。申請時に登録免許税も納付する必要があるので覚えておきましょう。
登記完了の通知を受け取る
法務局による審査が終わると、登記が完了し、新しい名義人が正式に登記簿へ登録されます。
完了後には、登記完了通知が、新しい名義人のもとに届きます。
あわせて、登記識別情報(旧権利証)も交付されるため、なくさないように保管してください。
これで名義変更の手続きは完了です。
土地や不動産の名義変更にかかる期間
不動産の名義変更は、即日でできるものではありません。必要書類を集めるところからはじまり、多少の時間がかかります。
ここでは、土地や不動産の名義変更にかかる期間について説明します。
書類の収集期間:1カ月以内
名義変更で最初に行うのは、必要書類の収集です。特に相続による名義変更では、以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍謄本
- 住民票
- 遺産分割協議書
- 固定資産税評価証明書 など
これらの書類は一部を除いて役所で取得できますが、遠方に本籍地がある場合や、複数の市町村にまたがる場合は、郵送での取り寄せに時間がかかることもあります。
通常であれば、1週間~2週間程度で揃うケースが多いですが、余裕をもって1カ月程度を見ておくと安心です。
登記申請書の作成期間:数日程度
必要書類が揃ったら、次は登記申請書を作成します。
申請書には、不動産の所在地や登記の目的、名義人の氏名や住所などを記載する必要があります。内容に間違いがあると、法務局で受理されない可能性があるので注意しましょう。
書き方自体は、法務局の公式サイトにあるひな型を参考にすれば、数日以内で作成できるはずです。
それでも不安な人や、遺産分割協議書の内容が複雑な場合は、司法書士に依頼するのも一つの手です。
専門家に依頼すれば、正確かつ短時間で書類作成が可能になります。
法務局での処理期間:1~2週間
必要書類を提出した後、法務局での審査が行われます。
通常は、1週間から2週間程度で登記が完了しますが、法務局の混雑状況や、申請書の内容に不備があった場合は、さらに時間がかかることもあります。
特に3月や4月の引っ越しシーズンは申請が集中しやすいため、通常より日数がかかることもあります。
司法書士に依頼すると名義変更が早く済む理由
不動産の名義変更をスムーズに進めたい場合、司法書士への依頼は非常に有効です。
司法書士は不動産の名義変更の作業に慣れており、書類の抜けや、誤りによる手戻りを防ぐことができます。
被相続人(故人)の戸籍や、固定資産税評価証明書など、収集に手間のかかる書類も代理で取得してもらえるため、時間と労力を節約できます。
加えて、登記申請書の作成もスピーディかつ正確で、法務局とのやり取りもスムーズです。
電子申請に対応している司法書士事務所であれば、郵送や持参の手間を省き、さらに早く登記が完了することもあります。
自分で手続きする場合、準備から登記完了まで最低でも2週間、慣れていないと1カ月以上かかることもあります。
一方、司法書士に依頼すれば、早ければ1週間〜2週間程度で完了することもあり、スピード面でもメリットがあります。
不動産や土地の名義変更にかかる費用
司法書士に依頼する場合
司法書士に名義変更を依頼する場合の総額は、3~10万円程度が目安です。不動産の数や相続人の人数、地域によって費用は異なります。
【費用の内訳】
・登録免許税:不動産の固定資産税評価額×0.4%
・司法書士報酬:3万円〜7万円程度
・書類取得代行費用:数千円〜1万円程度
・郵送・交通費などの実費:数百円〜
【メリット】
・書類の不備による手戻りを防げる
・申請書の作成から提出まで一括で任せられる
・登記の専門家による確実な処理が期待できる
【デメリット】
・報酬分の費用がかかる
・事務所によって料金体系に差がある
時間がない人や手間をかけたくない人、相続人が複数いる場合や書類収集が大変なケースでは、司法書士へ依頼するのがおすすめです。
自分で名義変更する場合
自分で手続きする場合の費用は、登録免許税などの実費のみで、1万円〜数万円程度が目安です。司法書士報酬が不要なぶん、出費を抑えられます。
【費用の内訳】
・登録免許税:固定資産税評価額×0.4%
・書類の取得費用:戸籍、住民票、評価証明書などで合計2,000円〜5,000円程度
・郵送費・交通費:必要に応じて
【メリット】
・司法書士報酬が不要でコストを抑えられる
・手続きの仕組みを自分で学べる
【デメリット】
・書類不備や記入ミスで手続きがやり直しになる可能性
・法務局とのやり取りや書類の確認に時間がかかる
・書類収集や記入方法に不安があると精神的な負担が大きい
費用をできるだけ抑えたい人にとっては選択肢になりますが、時間と労力を要する点には注意しましょう。

相続登記をしない場合のペナルティ
名義変更を放置すると、法律上の罰則や実生活での不利益が生じるおそれがあります。
10万円以下の過料が発生する
2024年4月の法改正により、相続登記は義務化されました。
相続を知ってから3年以内に登記を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります(正当な理由がある場合を除く)。
名義変更をしないことで不利益が発生する
名義を故人のままにしておくと、不動産の売却や賃貸ができません。
さらに、相続人同士で権利関係が不明確となり、後のトラブルの火種になります。
将来的に相続人が増えると、協議がさらに複雑化するため、早めの名義変更がおすすめです。
固定資産税の問題が発生する
登記名義が故人のままだと、固定資産税の請求先が不明確になります。
結果として、納税通知書が届かない、誰が支払うかで揉めるといった事態が発生します。
放置すれば延滞金が発生することもあり、経済的なダメージにもつながります。
不動産の名義変更に関するよくある質問
相続登記は自分でした方がいい?
手続きを自分ですることも可能ですが、戸籍の収集や申請書作成に手間がかかります。ミスを避けたい場合は司法書士への依頼がおすすめです。
個人名義の土地の売却はできる?
売却は可能ですが、登記上の名義が売主本人である必要があります。当然ですが、故人や他人名義の土地を売却することはできません。
抵当に入っている土地の名義は変更できる?
抵当権が設定されていても名義変更は可能です。ただし、金融機関に通知が必要な場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。
まとめ
不動産の名義変更は、相続によって所有者が変わったことを正式に記録するために必要な手続きです。
これを行わずに放置していると、不動産の売却や賃貸ができない、相続人間でのトラブルが起きる、固定資産税の請求先が不明になるなど、さまざまなリスクや不利益が生じるおそれがあります。
名義変更は自分でも可能ですが、書類の収集や申請書の作成には手間がかかり、慣れていないと時間がかかることもあります。
一方、司法書士に依頼すれば、必要書類の案内や登記申請までスムーズに対応してくれるため、正確かつスピーディーに名義変更ができます。
状況に応じて、専門家への依頼も検討しましょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。