包括遺贈とは|包括受遺者や特定遺贈との違いなどわかりやすく解説

相続人ではない第三者に財産を渡したいとき、遺贈という方法が用いられます。遺贈には主に“包括遺贈”と“特定遺贈”の2種類があり、それぞれ法律上の扱いが大きく異なります。
とくに、包括遺贈は相続と似た側面を持ちながらも別のルールが適用されるため、内容を正しく理解することが重要です。
この記事では、包括遺贈の定義や特定遺贈との違い、包括受遺者の権利義務、注意点などを詳しく解説します。
包括遺贈とは
包括遺贈は、遺産を割合で受け継ぐ特殊な遺贈のかたちです。ただし、“遺贈”と一括りにされる他の制度や、相続との違いを明確にしておかなければ誤解や手続き上の混乱を招く恐れがあります。
ここでは、包括遺贈と類似概念との違いについて詳しく説明します。
遺贈との違い
遺贈とは、遺言によって亡くなった方の財産を特定の人に無償で譲ることをいいます。
遺贈の相手は相続人以外の第三者も指定できます。この“遺贈”には以下のような方法があります。
・特定遺贈
・包括遺贈
つまり、包括遺贈は遺贈という枠組みの中の一つの形式です。違いは、財産の渡し方にあります。特定遺贈は一部のみ、包括遺贈は全体または割合で譲ります。
それぞれに特徴があるため、誰に何をどのように残したいかを考えて、適した方法を選ぶことが大切です。
包括遺贈と相続との違い
相続とは、人が亡くなったときに開始される財産承継の制度です。民法で定められた法定相続人が、遺言の有無にかかわらず一定の割合で財産を引き継ぎます。
債務も含めて一切の権利義務を承継するのが特徴です。
一方、包括遺贈は遺言によって特定の人に財産の全部または割合的な一部を包括的に与える方法です。たとえば「全財産をAに与える」「遺産の3分の1をBに遺贈する」といった形が該当します。
包括遺贈の受遺者は、法定相続人でなくても指定でき、相続人と同じように財産だけでなく債務も引き継ぐ義務を負います。
つまり、包括遺贈は相続に近い効果をもつ遺贈の一種であり、遺言によって任意に指定される点で法定相続とは異なります。相続と遺贈の中間的な性質をもつ制度といえるでしょう。
包括受遺者とは
包括遺贈を受ける人のことを“包括受遺者”といいます。
包括受遺者は、相続人とほぼ同じ権利や義務をもち、財産の取得に加えて債務も引き継ぐ立場となります。
ここでは、包括受遺者の基本的な位置づけや、具体的にどのような権利・義務が生じるのかを解説します。
包括遺贈を受けた人のこと
包括遺贈を受けた人は、“包括受遺者”と呼ばれます。
遺言で「全財産をCに遺贈する」や「遺産の3分の1をDに与える」といった内容があった場合、その対象者が包括受遺者に該当します。
包括受遺者は、特定の財産ではなく遺産全体またはその一定割合を包括的に承継する立場にあります。
包括受遺者が取得する財産は、相続財産の内容が確定した時点で判明するため、あらかじめ取得物が明確な特定遺贈とは異なります。
加えて、受け取るのはプラスの財産に限られず、借金などのマイナスの財産も含まれるのが特徴です。
そのため、包括受遺者は財産全体を包括的に受け継ぐ立場でありながら、内容を精査しないと不利益を被るおそれもあります。
包括遺贈を受けるかどうかは、事前に内容を確認し、専門家と相談した上で対応するのが望ましいです。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つ
包括受遺者は、民法第990条により相続人と同一の権利義務を持つとされています。
法定相続人でなくても、遺言によって遺産の全部または一定割合を譲り受けた者は、法律上、相続人と実質的に同じ立場に置かれます。
たとえば、他の相続人と遺産分割協議に参加する権利が認められており、債務を含めた財産全体を包括的に承継することになります。
これは、特定の財産のみを受け取る特定遺贈の受遺者にはない権限です。
加えて、包括受遺者が遺贈を放棄するには、相続人と同様に遺贈を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で放棄手続を行う必要があります(民法915条)。
特定遺贈の放棄は意思表示だけで足り、家庭裁判所の手続は不要です(民法986条・987条)。
包括受遺者と相続人との違い
包括受遺者は、相続人とほぼ同じ権利義務を持ちますが、法的な立場は異なります。特に注意すべき違いがあるのが、遺留分と代襲相続の扱いです。
遺留分とは、法定相続人に保障された最低限の取り分のことです。
たとえ遺言があっても、遺留分を侵害された法定相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。一方、包括受遺者には遺留分は認められていません。
そして、代襲相続は、相続人が死亡している場合にその子どもなどが代わりに相続する制度です。これも法定相続人に限られた制度であり、包括受遺者には適用されません。
以下に、両者の違いを表にまとめます。
項目 | 相続人 | 包括受遺者 |
遺留分の権利 | あり(直系尊属等に限る) | なし |
代襲相続 | あり(民法887条などに規定) | なし |
地位 | 民法で定められた権利者 | 遺言によって指定された権利者 |
債務の承継 | あり | あり(相続人と同様) |
遺産分割協議 | 参加可能 | 参加可能 |
包括遺贈と特定遺贈との違い
包括遺贈と特定遺贈は、いずれも遺言によって財産を譲る方法ですが、その法的性質や受遺者の立場には大きな違いがあります。
両者を混同したまま遺言を作成すると、相続手続に支障をきたす可能性もあるため、それぞれの特徴を正確に理解しておくことが重要です。
以下では、包括遺贈と特定遺贈の違いを整理し、具体的な比較を通じて解説します。
特定遺贈とは
遺贈には、大きく分けて“包括遺贈”と“特定遺贈”の2種類があります。
特定遺贈とは、遺言によって特定の財産を特定の人に譲る形式の遺贈です。
たとえば、「長男に◯◯市の土地を与える」や「友人Bに預貯金1,000万円を遺贈する」といった形が該当します。
特定遺贈では、受け取る財産が明確に指定されているため、受贈者は遺言の内容に従ってその特定財産のみを取得することになります。
包括遺贈のように、割合や全体を包括して承継するわけではなく、債務の引き継ぎも基本的にはありません。
遺贈される財産
遺贈の方法によって、譲られる財産の内容は異なります。
特定遺贈で指定される財産の例
- ◯◯市の土地
- A銀行の預金1,000万円
- 自宅にある家具や美術品
このように、特定遺贈では遺言の中で具体的な財産が明示されており、受遺者はその財産だけを受け取ります。
一方、包括遺贈では、財産の全部や一定の割合が譲られるため、個別に財産が指定されることはありません。たとえば、「全財産の3分の1を与える」といったように記されます。
どの財産を誰に渡したいかが明確に決まっている場合は、特定遺贈の形式が選ばれることが一般的です。
遺産分割協議の参加の有無
遺産分割協議とは、相続人たちが集まり、遺産の分け方を話し合う手続きのことです。
この協議に参加できるかどうかは、遺贈の形式によって異なります。
- 包括遺贈を受けた人(包括受遺者)
相続人とほぼ同じ立場とされ、遺産分割協議に参加できます。
- 特定遺贈を受けた人(特定受遺者)
指定された財産のみを受け取る立場のため、協議には参加できません。
包括遺贈を受けた場合は、遺産全体の中から自分の取り分を主張することができるため、協議への関与が認められています。
これに対して、特定遺贈では、渡す財産があらかじめ決まっているため、話し合いに加わる必要がないという扱いになります。
マイナスの財産の引き継ぎの有無
遺贈で受け取るのは、預金や不動産などのプラスの財産だけとは限りません。
借金や未払い金などの“マイナスの財産(負債)”を引き継ぐかどうかは、遺贈の形式によって異なります。
- 包括遺贈の場合
財産全体をまとめて受け取るため、債務も一緒に引き継ぐことになります。相続人と同じ扱いです。内容によっては、事前に放棄を検討する必要もあります。 - 特定遺贈の場合
特定の財産だけを受け取るため、債務を負うことはありません。プラスの財産のみを取得します。
放棄の方法
遺贈を受ける側には、“受け取らない”という選択も可能です。
ただし、包括遺贈か特定遺贈かによって、放棄の方法や手続きが異なります。
- 包括遺贈の場合
受け取る財産に債務も含まれるため、相続放棄と同じ手続きが必要です。遺贈があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で正式に放棄の申し立てをする必要があります。 - 特定遺贈の場合
特定の財産だけが対象となるため、「いらない」と意思表示するだけで放棄できます。家庭裁判所の手続きは不要です。つまり、包括遺贈の放棄には期限と手続きがある一方で、特定遺贈の放棄は柔軟で手軽に行えます。どちらの形式かを正しく理解し、対応することが大切です。
不動産取得税
遺贈によって不動産を受け取った場合、不動産取得税がかかるかどうかは、遺贈の形式によって異なります。
- 包括遺贈の場合
相続と同じ扱いを受けるため、不動産取得税はかかりません。税法上も、相続による取得として非課税になります。 - 特定遺贈の場合
個別の不動産が指定されているため、不動産取得税の課税対象になります。不動産を遺贈で取得する場合は、その形式によって税負担が変わる可能性があるため、事前に確認しておくことが大切です。
包括遺贈のメリット・デメリット
包括遺贈は、財産全体または一定の割合をまとめて譲る遺贈の方法です。
相続人以外の人にも相続に近い権利を与えられる点で便利な制度ですが、その一方で注意が必要な点もあります。
ここでは、包括遺贈を選ぶことで得られるメリットと、知っておくべきデメリットについて整理して解説します。
包括遺贈のメリット
- 法定相続人以外でも、遺産の全部または一定の割合を受け取ることができる
法定相続人以外でも、遺言によって財産全体や割合を包括的に承継できる。 - 遺産分割協議に参加できる
相続人と同じように協議に関与できるため、取り分について意見を反映できる。 - 取得税がかからない
不動産を含む遺産を受け取っても、相続と同じ扱いになるため不動産取得税が非課税になる。 - 債務も含めた財産全体を把握できる
割合で取得するため、遺産全体の内容を調査・確認する機会が得られる。
このように、包括遺贈は単なる「贈与」とは異なり、相続に近い柔軟な制度です。
包括遺贈のデメリット
包括遺贈にはメリットも多い一方で、注意しておきたい点もあります。
- 借金などの負債も引き継ぐ
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も自動的に承継する。 - 放棄には家庭裁判所での手続きが必要
不要だからと簡単に断れず、3か月以内に家庭裁判所で正式に放棄しなければならない。 - 相続人との間でトラブルになることも
法定相続人以外の人が包括受遺者になった場合、遺産分割協議への参加が摩擦の原因になることもある。
こうした特徴があるため、包括遺贈を受ける場合は遺産の内容を把握したうえで慎重に判断することが重要です。
包括遺贈を受ける際の注意点
包括遺贈を受けることで、相続人と同じように財産を引き継ぐことができますが、その反面、税金や手続きの面で注意すべき点もあります。
特に、相続税の取り扱いや、他の相続人との関係によってはトラブルになるケースもあるため、制度の内容を正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、包括遺贈に関する代表的な注意点をわかりやすく解説します。
包括遺贈を受けると相続税の課税対象になる
包括遺贈で財産を受け取ると、その取得分に対して相続税が課税されます。
税法上、包括遺贈は相続とほぼ同じものと見なされるため、相続人でなくても税金がかかる仕組みになっています。
遺言で「全財産をAに与える」などと指定され、Aが包括受遺者となった場合、その取得割合に応じた財産全体に対して相続税の申告と納付が必要になります。
注意すべきなのは、相続税の申告義務が生じるのは、法定相続人に限らないという点です。
包括遺贈によって財産を得る場合も、税負担が発生することを想定して、早めに財産の内容を確認しておくことが重要です。
相続税の基礎控除額は増えない
相続税には「基礎控除額」と呼ばれる非課税枠があり、一定額までは相続税がかかりません。
この基礎控除額は以下の計算式で決まります。
3,000万円 +(法定相続人の数 × 600万円)
たとえば、法定相続人が2人いれば、基礎控除額は4,200万円になります。この範囲内であれば、相続税は課税されません。
ただし、包括受遺者は法定相続人とは見なされないため、人数にカウントされません。
そのため、包括遺贈を受けた人がいても、基礎控除額が増えることはなく、課税対象の金額が増える可能性があります。
包括遺贈を受ける際は、控除の枠が広がるわけではないという前提を理解したうえで、税額を計算する必要があります。
相続税が2割加算される
被相続人の配偶者や一親等の血族(子や代襲相続人となった孫など)ではない人が、包括遺贈で財産を受け取ると、本来の相続税に20%上乗せされた金額を納める必要があります。
これは、税法上の“相続税2割加算”というルールによるものです。
本来、相続財産は親から子など、一親等の血族を中心に引き継がれるのが基本です。
しかし、法定相続人以外に財産が渡る場合は、以下の理由から課税が重くなる仕組みになっています。
・偶然性が高く、本来想定された相続とは異なるため
・相続税を1回分回避できる可能性があるため
包括遺贈は相続と似た制度ですが、受け取る人の立場によっては税額が大きく変わる点に注意が必要です。
死亡保険金が非課税にならない
死亡保険金には、相続税がかからない非課税枠が設けられています。ただしこの非課税が適用されるのは、受け取る人が法定相続人である場合に限られます。
非課税になる金額は以下のとおりです。
500万円 × 法定相続人の数
たとえば相続人が2人いれば、合計1,000万円までは相続税がかかりません。
しかし、包括遺贈を受けた人が法定相続人ではない場合、この非課税枠は一切適用されず、受け取った保険金の全額が相続税の課税対象になります。
死亡保険金を受け取る立場でも、相続人かどうかによって税負担が大きく変わるため、事前の確認と対策が重要です。
他の相続人から包括遺贈無効や遺留分を主張される
包括遺贈の内容によっては、他の相続人から遺言の無効や遺留分の侵害を主張されることがあります。
特に、包括受遺者を相続人ではない第三者にした場合や、相続人のうち一部の人だけを指定した場合、対象外となった相続人が不満を抱くケースは少なくありません。
「本来もらえるはずの遺産を奪われた」と感じた相続人が、遺言そのものの効力を争ってくる可能性があります。
たとえば、遺言者が遺言作成当時すでに認知症だったと主張し、遺言能力がなかったとして無効を訴えるケースがあります。
こうした場合は、話し合いで一定の金銭を支払うなどして解決することもありますが、折り合いがつかないと裁判に発展し、遺言が無効と判断されるおそれもあります。
無効になれば、包括遺贈そのものが成立しなくなります。
包括遺贈に関するよくある質問
包括遺贈は相続人以外に遺贈できる?
亡くなった方の財産を受け取る権利があるのは、基本的には“法定相続人”とされる人たちです。
配偶者は常に相続人となり、子どもや親などには相続順位が設けられています。一方で、内縁の妻や息子の配偶者など、法定相続人ではない人には相続の権利がありません。
しかし、遺言によって財産を贈る“遺贈”を利用すれば、法定相続人以外の人にも財産を残すことができます。
中でも包括遺贈を使えば、相続人以外の人に対しても、財産全体やその一部を包括的に承継させることが可能です。
血縁のない友人や介護を支えてくれた知人などにも財産を遺せますが、他の相続人とのトラブルを避けるため、内容や配分には注意が必要です。
まとめ
包括遺贈は、遺言によって財産の全部または一定割合を包括的に遺贈する方法です。
相続人でない人にも財産を遺せる便利な制度ですが、相続税の加算やトラブルの可能性など、事前に知っておくべき点も多くあります。
包括遺贈を受けると、債務も含めた財産を引き継ぐことになり相続税の対象にもなります。
相続税が2割加算されたり、死亡保険金が非課税にならなかったりと、法定相続人とは違う扱いになる点も理解が必要です。
また、他の相続人との関係によっては、遺言の無効や遺留分をめぐる争いに発展することもあります。包括遺贈を検討する際は、税金や人間関係のリスクも見据えたうえで慎重に進めることが大切です。
不安がある場合は、相続や遺言に詳しい専門家に早めに相談しておくと安心です。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。