公正証書遺言とは?作成の流れ・必要書類・手順を解説

遺言書にはいくつか種類があります。公正証書で遺言書を作成すると、証拠力・安全性・確実性が高いというメリットがあります。相続発生後の遺産争いを未然に防ぐ上で有効です。
この記事では、公正証書遺言を作成する上で知っておきたい知識をご紹介します。
目次
公正証書遺言の基礎知識
公正証書遺言の基礎知識と、他の遺言との違いについてご説明します。
公正証書遺言とは
遺言書とは「自分が死んだあとはこうして欲しい」という希望を書面にしたものです。生前に遺言書を作成しておくと、以下のメリットがあります。
- 法定相続分と異なる共同相続人の相続割合を指定できる
- 遺産分割協議(遺産の相続割合を決める相続人同士の話し合い)が不要になるので、遺産の相続割合などをめぐる相続人同士のトラブルを防ぐことが期待できる
- 法定相続人ではない人(第三受遺者)にも財産を遺せる
- 相続発生後の相続人および受遺者が行わなければならない各種手続きが容易になる
- 相続発生後に遺言の内容を実現する人(遺言執行者)を指定できる
- 遺言はいつでも変更や撤回が可能
遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。一般的な方式は普通方式で、そのひとつに公正証書遺言があります。
公正証書とは、法務大臣から任命された公証人が依頼に基づき作成する書類であり、その書類は公的な証明のある文書として法的な効力を持ちます。つまり、公正証書遺言とは遺言する人(遺言者)の依頼を受けた公証人が作成しているため、内容の証拠力が高いです。
公正証書遺言には証人がいる
公正証書遺言を作成するときは、公証人のほかに2人以上の証人の立ち合いが必要です。
ただし、以下の人は公正証書遺言の証人になれません。
- 遺言者の法定相続人になれる続柄の人(推定相続人)、およびその配偶者と直系血族
- 遺言で財産を受け取る人(第三受遺者)、およびその配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者および四親等以内の親族
- 未成年者
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
普通方式の遺言のひとつに、自筆証書遺言があります。
自筆証書遺言は、財産目録を除く遺言の内容すべてを遺言者が自筆で作成します。保管場所は自宅などのほか、法務局です。
また、法務局で保管している場合を除き、遺言者が亡くなったあとは自筆証書遺言の法的適合性や改ざんの有無をチェックするため、家庭裁判所で検認手続きが必要です。
自筆証書遺言と公正証書遺言の主な違いは、以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
作成する人 | 遺言者本人 | 公証人 |
証人 | 不要 | 必要 |
記名押印する人 | 遺言者本人 | 遺言者本人、公証人、証人 |
保管する場所 | 自宅など任意の場所または法務局 | 公証役場 |
検認手続き | 必要(法務局保管の場合は不要) | 不要 |
費用 | 不要(法務局保管の場合は必要) | 必要 |
秘密証書遺言と公正証書遺言の違い
公証人や証人を含めたすべての人に遺言の内容を秘密にしたい方には、秘密証書遺言がおすすめです。
秘密証書遺言は、以下の手順で作成されます。
- 遺言者が遺言書に署名押印
- 遺言者が、遺言書を封印(遺言書に押印したものと同じ印鑑を使用)
- 封印した遺言書の原本を、2人以上の証人の立ち合いのもと公証人に提出
- 住所氏名を述べ、自分の遺言書であることを述べる
- 遺言者・公証人・証人が封筒に記名押印
秘密証書遺言と公正証書遺言の主な違いは、以下のとおりです。
秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | |
作成する人 | 遺言者本人 | 公証人 |
証人 | 必要 | 必要 |
署名押印する人 | 遺言者本人、公証人、証人 | 遺言者本人、公証人、証人 |
保管する場所 | 自宅など任意の場所 | 公証役場 |
検認 | 必要 | 不要 |
費用 | 必要 | 必要 |
遺言書を公正証書で作成するメリット
遺言書を公正証書方式で作成するメリットについてご説明します。
秘密が守られる
法務局以外で保管している自筆証書遺言や秘密証書遺言は、遺言の内容を誰かに見られたり、紛失したりするおそれもあるでしょう。
一方で公証人と証人には、公正証書遺言の内容について法律上の秘密保持義務があります。また、遺言者が亡くなるまでは、たとえ家族であっても公正証書遺言を閲覧できません。
また、作成された公正証書遺言は公証役場で保管されるため、改ざん・紛失の心配は基本的にありません。
無効になる可能性が低い
遺言の書式や内容には法的要件が定められており、これを満たさない遺言は一部または全部が無効となることがあります。
誰からもアドバイスを受けず遺言者本人だけで作成した遺言は、検認手続き時に法的要件を満たしていないため無効になるケースがあります。
その点、公正証書遺言は公証人が作成しているため、遺言書の内容に法的要件が漏れる可能性が低いことから、無効になる可能性も低いです。
検認が不要
法務局以外で保管している自筆証書遺言や秘密証書遺言は、遺言者が亡くなったあと開封する前に家庭裁判所で遺族の立ち合いのもと検認を受けなければならないと定められています。検認を受けずに遺言書を開封した相続人は、5万円以下の科料に処される可能性があります。
検認手続きは、家庭裁判所に申し立ててから完了するまで1か月程度の時間がかかります。また、申し立てには必要書類や手順が細かく決められており、相続人あるいは受遺者にとって手間になります。
この点、公正証書遺言は検認手続きが不要です。公正証書遺言は、検認手続きに必要な相続人の手間を省けます。
公正証書遺言を作成する流れ
公正証書遺言を作成するステップについてご説明します。
財産調査
遺言の目的のひとつは、誰に・どの財産を遺すのか明らかにしておくことです。
したがって、遺言を作成するときはどのような財産が、どこに、どれだけあるのか調査しておく必要があります。
相続人調査
遺言書には、遺産を受け取る法定相続人全員(廃除された人を除く)の氏名・住所の記載が必要です。
法定相続人の氏名・住所は、戸籍謄本などにより調査します。法定相続人以外の人に遺言で財産を遺す場合は、その人の住民票で指名・住所を確認します。
公証役場で作成
公正証書遺言は、原則として公証役場で作成します。作成手順は以下のとおりです。
- 遺言者が公証人に遺言の内容を口述し、公証人はこれを筆記
- 公証人は筆記した内容を遺言者および証人に閲覧または読み聞かせ
- 遺言者および証人は筆記の内容の正確性を確認後、原本に記名押印
- 公証人は上記の方法に従って公正証書遺言が作成されたことを付記し、記名押印
公正証書遺言を作成するための必要書類
公正証書遺言を作成するときに必要な書類は、以下のとおりです。
財産や相続人の状況によって必要な書類が変わることがありますので、詳しくは公証役場にお問い合わせください。
書類名 | 説明 |
運転免許証やパスポートなどの遺言者本人の顔写真入り公的本人証明書、または印鑑証明書 | ・遺言者の本人確認書類
・印鑑証明書は市区町村役場で取得(発効後3ヶ月以内) |
戸籍謄本および附表 | ・遺言者と相続人の続柄を確認
・市区町村役場で取得 |
第三受遺者の住民票
(法定相続人以外に財産を遺す場合) |
・遺言者の法定相続人ではない第三受遺者は遺言者の戸籍謄本に続柄の記載がないため、住民票で本人確認
・市区町村役場で取得 |
不動産の権利を証明する書類 | ・登記事項証明書…法務局で取得
・名寄帳…市区町村役場で取得 ・登記識別情報通知(権利証) ・固定資産税評価証明書または固定資産税・都市計画税通知書 |
動産の状況がわかるもの | ・預貯金、有価証券、ゴルフ会員権、美術品や家財道具などの明細を示したメモ
・金融資産は通帳などのコピーがあると望ましい |
公正証書遺言を作成するための費用
公正証書遺言を作成するときに発生する公証人手数料は、以下のとおりです。
今後改定されることがありますので、費用の詳細は事前に公証役場へご確認ください。
相続財産額(時価) | 手数料 |
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
1億円を超え3億円まで | 43,000円+5,000万円を超えるごとに13,000円増加 |
3億円を超え10億円まで | 43,000円+5,000万円を超えるごとに11,000円増加 |
10億円超 | 24万9,000円+5,000万円を超えるごとに8,000円増加 |
相続財産額の合計が1億円までの場合は、公正証書遺言1通あたり11,000円が加算されます。このほか、正本および謄本の交付について1枚あたり250円かかります。
手数料は相続人ごとに計算します。たとえば、相続財産総額が1億円で正本および謄本の総枚数が10枚、2人の相続人が均等に相続する場合の手数料は以下のように計算します。
29,000円×2(相続人)+公正証書遺言の正本および謄本代2,500円+加算額11,000円=71,500円 |
上記のほか、遠隔地で作成するため公証人や証人が出張する場合はその分の割増料金が必要です。また、必要な書類を用意するために役所などへ支払う手数料も発生します。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット
公正証書遺言を作成するときは、弁護士への依頼がおすすめです。
アドバイスを受けられる
公正証書遺言作成に関する法的なアドバイスは、公証人から受けられます。
一方で、相続全般の知見やトラブル解決の経験を持つ弁護士は、公正証書遺言の作成だけではなく相続発生後を見据えたさまざまなアドバイスができます。
弁護士は相続人や財産など個別の状況を踏まえながら、依頼者にとって最適と考えられるアドバイスをします。
財産や相続人の調査を任せられる
財産や相続人の調査の多くは、金融機関や役所などで行います。また、財産や相続人および受遺者が多い場合は調査が時間と手間がかかるだけでなく、調査が漏れてしまう可能性があります。
弁護士に依頼することで、漏れのない調査が期待できます。
証人になってもらえる
弁護士には、公正証書遺言の証人を依頼できます。
相続人および受遺者と利害関係がない弁護士は、公正証書遺言の証人として適任です。
遺言執行者を任せられる
遺言では、遺言執行者を指定できます。
遺言執行者は、遺言者の代理人として遺言者の意思の実現を委任された人です。
相続財産の管理や遺言の執行について、遺言執行者は法的に強い権限があります。一部の相続人が遺言の内容に不服がある、あるいは相続人間でトラブルが生じていても、遺言執行者による遺言の内容の実現は妨げられません。
遺言者や相続人および受遺者と利害関係がない弁護士は、遺言執行者に適任です。
まとめ
円満な相続にするために、公正証書遺言は相続全般に知見のある弁護士のアドバイスを得ながら作成することをお勧めします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。