遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の対応と放置するリスク4つ

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければ無効となります。
遺産分割協議に応じない相続人が1人でもいれば、遺産分割を進められません。
協議に応じない相続人がいる場合はどうすれば良いのでしょうか?
この記事では、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の対応について、以下のとおり解説します。
- 遺産分割協議に応じない相続人がいるのはどんなケース?
- 遺産分割協議に応じない相続人を放置するリスク
- 遺産分割協議に応じない相続人がいる場合はどうすればいい?
- 遺産分割協議に応じたくない場合はどうすればいい?
- 遺産分割に応じない相続人がいる場合に弁護士に相談・依頼するメリット
協議に応じない相続人がいる方や、協議に応じたくない相続人の方は、ぜひご参考になさってください。

相続税が発生する場合、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません。期限を1日でも過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課せられます。
弁護士が間に入ることで話し合いがスムーズに進むこともあります。お困りの方は一度ご連絡ください。
目次
遺産分割協議に応じない相続人がいるのはどんなケース?
ここでは、遺産分割協議に応じない相続人がいるケースについて解説します。
遺産分割に応じない相続人がいるケースの具体例は、以下のとおりです。
- 相続人間の感情的な対立が深い
- 相続財産を管理している人に不審な言動がある
- 遺言内容に納得がいかない人がいる
- 特定の相続人が多額の生前贈与を受けている
- 被相続人への特別の貢献が考慮されない
ひとつずつ説明します。
相続人間の感情的な対立が深い
相続人間に感情的な対立があると、遺産分割協議が進まないことがあります。
もともと不仲であるが故に、相手方と顔を合わせたくない、話もしたくないというケースでは当事者間での協議が現実的に困難なことが多いでしょう。
遺産分割協議が、これまで蓄積してきた家族に対する様々な感情を吐き出す場であると誤認しているケースも多く見られます。それぞれが抱く被相続人への想いの違いや、家族間の問題をすべて解決しようとすると、感情的な対立が深刻化・複雑化することもあります。
相続財産を管理している人に不審な言動がある
相続財産を管理している相続人が、財産の内容を開示しなかったり、遺産の使い込みが疑われたりする場合は、遺産分割協議を進められなくなります。
例えば、被相続人と同居していた相続人の1人が、被相続人の生前から財産を管理しており、他の相続人が相続財産を把握していないケースです。他の相続人が相続財産の開示を求めても、管理している相続人が開示しなければ、遺産分割の対象財産を確定できないため、遺産分割協議を進められません。
相続財産を管理している相続人に使い込みの疑いがある場合は、他の相続人に追及されることから逃れるため遺産分割協議に応じないケースもあります。

遺言内容に納得がいかない人がいる
遺言書で指定された相続分に納得がいかない相続人がいる場合も、遺産分割協議が進まないことがあります。
例えば、「遺言者の全部の財産について、妻に遺産の5割、長男に4割、長女に1割と相続分を指定する。」旨の遺言では、相続分を指定しているだけで、どのように財産を分割するかは指定されていません。そのため、相続人間で遺産分割協議をする必要があります。
上記の例では、法定相続分を下回る相続分を指定された長女が、遺産分割協議に応じないことが考えられます。被相続人の妻や長男が譲歩せず、遺言書通りの割合による分割を求めると、長女が頑なに協議を拒み続ける可能性もあります。

特定の相続人が多額の生前贈与を受けている
被相続人が、特定の相続人に多額の生前贈与をしていた場合も、遺産分割協議がスムーズに進まない原因の一つです。
特別受益を受けた相続人が特別受益の持戻しをすることに同意すればよいですが、同意が得られなかった場合は、当事者間での分割協議が困難となります。
被相続人への特別の貢献が考慮されない
被相続人の生前に、献身的に介護したり被相続人の事業を手伝ったりして、被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人がいる場合は、その相続人は寄与分を主張できます。
法定相続分による分割が不公平と思われる程度の寄与があったかどうかについては、法的な判断が必要です。相続人間での協議で寄与分の主張が認められなければ、調停や審判による解決を図らなければならないことがあります。
遺産分割協議に応じない相続人を放置する4つのリスク
ここでは、遺産分割協議に応じない相続人を放置するリスクについて解説します。
遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しないため、協議に応じない相続人を放置すると、いつまでも遺産分割ができません。
遺産分割協議を放置すると、以下のようなリスクが生じます。
- 相続税申告の期限が過ぎてペナルティが課せられる
- 相続財産の使い込み・隠ぺいの恐れ
- 相続財産を活用できない
- 二次相続が発生すると手続きが煩雑になる
ひとつずつ説明します。
相続税申告の期限が過ぎてペナルティが課せられる
被相続人の財産を相続した場合、金額によっては相続税が課せられる場合があります。
相続税が発生する場合は、相続開始を知った日(被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません。期限を1日でも過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課せられます。
相続財産を隠蔽した場合には、重加算税(最大40%)を課せられるおそれもあります。重加算税は、財産を隠蔽した相続人以外の相続人も連帯して納付義務を負います。
相続財産を管理する相続人に不審な行為が見られる場合や、財産開示を受けられずに遺産分割協議が進まない場合は、放置せずに弁護士や裁判所のサポートを受けましょう。
相続税申告の期限内に、遺産分割協議が成立しない場合は、判明している相続財産だけでも仮申告・仮納税をすることで、ペナルティを最小限に抑えられます。
相続財産の使い込み・隠ぺいの恐れ
遺産分割未了の財産を相続人の1人が管理している場合、管理者である相続人は他の相続人の同意を得ずに相続財産を処分できません。
しかし、管理者である相続人が、生前から被相続人の財産を管理していた場合は、相続財産の使い込みや隠蔽が比較的容易に起こる可能性があります。
相続財産の使い込み・隠蔽を防ぐためには、早期に遺産分割を完了して、自身が取得する財産を自分で管理する状態に移行する必要があります。
管理者が相続財産の開示を拒む場合は、放置せず弁護士に相談しましょう。弁護士に依頼すれば、管理者である相続人の協力が得られない場合でも、弁護士法23条の1に基づく照会により一定の財産を調査できる可能性があります。
相続財産を活用できない
相続財産の中に不動産が含まれている場合、遺産分割をしなければ、売却や賃貸等の有効活用ができません。共有状態の不動産を売却するには相続人全員の同意が必要であり、賃貸に出すには共有持分割合の過半数を有する共有者の同意が必要だからです。

二次相続が発生すると手続きが煩雑になる
遺産分割を行わない間に、相続人が亡くなり次の相続が発生すると、相続人の数が増え遺産分割の手続きが煩雑になるリスクがあります。
遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければならないため、相続人が増えると時間的制約などの負担が影響することもあります。面識のない相続人がいたり、相続人同士の関係が希薄になったりすることで、話し合いがスムーズに進まない可能性もあります。
遺産分割協議に応じない相続人がいる場合はどうすればいい?
ここでは、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の対応方法を解説します。
遺産分割調停・審判を利用する
遺産分割協議に応じない相続人がいる場合は、遺産分割調停や審判を利用することで解決できる場合があります。
家庭裁判所に調停を申立てると、裁判所からの呼出しに応じて調停に参加してもらえる可能性があります。調停への出席を拒む相続人がいる場合は、審判手続きで裁判所に遺産の分割方法を決めてもらえます。

弁護士に相談・依頼する
遺産分割協議に応じない相続人がいる場合は、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、財産開示に非協力的な相続人がいる場合も、一定の調査が行えるため、相続財産の使い込みや隠蔽を回避できることがあります。
相続人調査や相続財産調査を行い、法的に根拠のある主張ができるため、相続人間にも納得感が生まれ、遺産分割協議がスムーズに進む可能性があります。
相続人と直接やり取りしたくない場合も、弁護士に交渉を依頼することで、精神的な負担も軽減できます。
遺産分割調停・審判の手続きに移行した場合も安心して任せられます。

遺産分割協議に応じたくない場合はどうすればいい?
ここでは、遺産分割協議に応じたくない場合の対応方法について解説します。
遺産分割調停を申立てる
他の相続人と顔を合わせたり、直接やり取りしたりすることに心理的負担を感じる場合には、遺産分割調停を利用する方法があります。
遺産分割調停では、通常、申立人と相手方は時間をずらして、別々に調停室に呼ばれます。待合室も別室が用意され、当事者が顔を合わさなくてもよいように配慮されています。
調停委員は、双方の話を別々に聞きながら調停を進めるため、調停委員を介して相手方に自分の主張や希望を伝えられます。
遺産を相続したくない場合は相続放棄を検討する
被相続人のマイナスの財産(借金等)がプラスの財産を上回る場合など、遺産を相続したくない事由がある場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申請しなければなりません。3か月以内に相続財産の調査が終了せず、相続を放棄するかどうか決められない場合には、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申立てることも可能です。
遺言の有効性に争いがある場合は遺言無効確認調停を申立てる
遺言の内容が、生前の被相続人の言動や遺言書が作成された時期などから見て不自然な場合は、遺言の無効を疑うこともあるでしょう。
遺言の有効性に争いがある場合には、遺言が有効か無効かを確定させるための手続きとして、遺言無効確認訴訟が用意されています。
遺言無効確認の訴えは、前置調停主義がとられているため、通常は訴訟提起に先立ち、家庭裁判所に遺言無効確認調停を申立てます。相続人間での見解の対立が激しく、調停で解決できる見込みがない場合には、調停を得ずに訴訟を提起することもあります。
裁判の結果、遺言が無効であると判断された場合は、遺言書は無かったものとして、法定相続人全員で遺産分割協議をすることになります。

生前贈与に納得がいかない場合は特別受益の持ち戻しを主張する
共同相続人の中に、被相続人から婚姻や生計の資本として生前に多額の贈与を受けた者がいる場合は、特別受益の持ち戻しを主張できる可能性があります。
特別受益の持ち戻しとは、相続人間の実質的公平を図るため、生前贈与として受け取った金額を相続財産に加算して、各相続人の具体的相続分を計算することです。
特別受益の持ち戻しについて、相続人間で意見が分かれ、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申立てることで解決を図れます。
遺産分割に応じない相続人がいる場合に弁護士に相談・依頼するメリット
ここでは、遺産分割に応じない相続人がいる場合に弁護士に相談・依頼するメリットを解説します。
弁護士介入により話し合いがスムーズに進むことがある
弁護士が話し合いに介入するだけでも、当事者が冷静に遺産分割協議をすすめるきっかけになります。
相続人同士の話し合いでは、自分の利害だけに意識を向けがちですが、弁護士は、審判に至ったらどのような結果になるかも踏まえて公正・公平な解決案を提案できるため、相手方の納得が得られやすくなることもあります。
調停や審判に移行した場合も安心して任せられる
弁護士が介入しても遺産分割協議がまとまらない場合には、調停や審判の手続きに移る必要があります。
弁護士に依頼すれば、調停や審判に同席してもらえるため、自身の主張や希望をうまく伝えられない場合でも、状況に応じて適切なアドバイスを受けられます。
法的根拠に基づいた主張書面を作成してもらえて、有利に進めるための資料も選定してもらえるので、安心して手続きを任せられます。
特別受益や寄与分について法的に根拠のある主張をしてもらえる
他の相続人の特別受益や自身の寄与分の主張を裁判所に認めてもらうためには、正確な財産調査や根拠となる証拠資料の収集が不可欠です。
弁護士に依頼すれば、過去の判例や審判例に照らした専門的判断に基づき、適切な資料を準備し法的根拠のある主張をしてもらえます。
まとめ
相続人間に感情的なもつれや意見の対立がある場合、遺産分割の話し合いがスムーズに進まず、紛争がより深刻化・長期化することがあります。
当事者間で納得がいくまで話し合えればよいですが、お互いに不信感を募らせてしまうケースも少なくありません。
相続人間で話し合いができない場合や、どのように話し合いを進めればよいか分からない場合は、なるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。