遺産分割はいつまでにすべき?期限のある相続手続きを踏まえて解説

遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を、共同相続人間で分ける手続きです。
遺産分割には、法律上の期限が設けられていないため、いつ遺産分割を行うかは、原則として相続人の自由です。
ただし、相続手続きには期限が定められているものがいくつかあるため、それらの期限を念頭において、早めに取りかかることをおすすめします。
この記事では、遺産分割において留意すべき相続手続きの期限にいて解説します。
遺産分割をされる際は、ぜひご参考になさってください。
目次
遺産分割に期限はないが早めに行うのがベスト
遺産分割協議、調停・審判を行う時期について、法律上、期限は定められていません。ただし、期限が定められている相続手続きがあるため、遺産分割を先延ばしにすると不都合が生じる可能性があります。
ここでは、期限のある相続手続きについて解説します。
期限のある相続手続き
期限のある相続手続きの代表例として、次の7つ手続きがあります。
- 相続放棄・限定承認|3か月以内
- 被相続人の所得税の準確定申告|4か月以内
- 相続税の申告・納税|10か月以内
- 遺留分侵害額の請求|1年以内
- 埋葬料・葬祭費の請求|2年以内
- 死亡保険金の請求|3年以内
- 相続税の特例や軽減手続き|3年以内
ひとつずつ説明します。
相続放棄・限定承認|3か月以内
相続を放棄したり、被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続したり(限定承認)する場合は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。
この3ヵ月を過ぎると、原則として相続を放棄できなくなり、借金などのマイナス財産を含めたすべての財産を相続しなければならなくなります。
被相続人の財産を相続するか、放棄または限定承認するかを判断するためには、相続開始後、速やかに相続財産を調査してその全体像を把握しなければなりません。
3か月の熟慮期間内に相続財産の調査が終了せず、相続の承認・放棄を決定できない事情がある場合は、期限内に家庭裁判所へ申立てることで熟慮期間を伸長できる場合もあります。
被相続人の所得税の準確定申告|4か月以内
準確定申告とは、被相続人の生前の所得税についての確定申告です。
被相続人が生前、以下のいずれかに該当していた場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をしなければなりません。
- 個人事業主であった
- 賃料収入を得ていた
- 2か所以上から給料を受給していた
- 2,000万円以上の給与所得があった
- 給与所得・退職所得以外に20万円を超える収入があった
- 公的年金の受給額が年間400万円を超えていた
- 死亡した年に保険金を受け取った
- 死亡した年に不動産や株式を売却した
準確定申告は、相続人が行います。相続人が2名以上いる場合は、相続人全員が連署した準確定申告書を提出するのが一般的です。
還付申告の場合
還付申告の場合は、被相続人が死亡した年の翌年1月1日から5年以内であれば、いつでも申告できます。ただし、準確定申告による還付金は、相続財産にあたるため、相続税の申告が必要な場合には、相続税の申告期限までに還付申告を行う必要があります。
相続税の申告・納税|10か月以内
相続税が課税される場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告・納税しなければなりません。
相続税が課税されるのは、相続や遺贈によって、被相続人の財産を取得した方の相続財産等の合計額が、遺産にかかる基礎控除額を超える場合です。
遺産にかかる基礎控除額は、次の計算式で算出します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
相続税の申告期限までに、遺産分割協議が成立していない場合は、各相続人が法定相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税を計算し、申告・納税しなければなりません。
遺産分割未了のまま相続税を申告する場合は、相続税を軽減する各種特例を適用できません。ただし、申告期限から3年以内に遺産分割ができれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの一部の特例を適用できる場合があります。
その場合は、期限内に行う申告で申告期限後3年以内の分割見込書をあわせて提出する必要があります。
遺留分侵害額の請求|1年以内
遺言や贈与により遺留分が侵害された場合は、遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた受遺者や受贈者に対し、遺留分侵害額を請求できます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に留保されている相続財産の一定割合です。
遺留分侵害額の請求は、遺言や贈与により遺留分が侵害されていることを知った時から1年以内にしなければなりません。

葬祭費・埋葬料の請求|2年以内
葬祭費とは、国民健康保険または国民健康保険組合、後期高齢者医療制度の被保険者が死亡したときに、その葬祭を行った人に支給される給付金です。
給付額は市区町村によって異なりますが、5万円程度が支給されます。
葬祭費は、葬祭行った日の翌日から2年以内に、被相続人の住所地の市区町村役場に申請しなければなりません。
埋葬料とは、健康保険の被保険者が業務外の事由により死亡した場合、死亡した被保険者により生計を維持されていた人が埋葬を行った場合に支給される給付金(5万円)です。
死亡した被保険者に生計を維持されていた人がいない場合は、実際に埋葬を行った人に、埋葬料(5万円)の範囲内で実際に埋葬に要した費用が埋葬費として支給されます。
埋葬料および埋葬費は、次の期限内に年金事務所または健康保険組合に申請する必要があります。
- 埋葬料:死亡日の翌日から2年以内
- 埋葬費:埋葬を行った日の翌日から2年以内
死亡保険金の請求|3年以内
死亡保険金の請求は、被保険者の死亡日から3年以内に行わなければなりません。
被相続人が死亡保険に加入していた場合は、契約上の受取人が死亡保険金を請求できます。受取人が指定されていない場合は、法定相続人が、各人の法定相続分の割合に応じた金額を受け取る権利があります。
相続税の特例や軽減手続き|3年以内
遺産分割未了のまま相続税を申告した場合は、原則として相続税を軽減する各種特例を適用できません。
ただし、申告期限から3年以内に遺産分割ができれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの一部の特例を適用できる場合があります。
その場合は、期限内に行う申告で申告期限後3年以内の分割見込書をあわせて提出する必要があります。その後、遺産分割協議が成立すれば、4か月以内に更生の請求を行うことで、すでに行った相続税申告を修正して納めすぎた税金を還付してもらえます。
申告期限後3年以内に遺産分割が完了しない場合は、税務署の承認を得ることで、特例の適用を再延長できることがあります。
再延長が認められるケースは、以下のいずれかに該当する場合です。
- 当該遺産分割について訴訟が係属している場合
- 当該遺産分割について調停・審判等の申立てがある場合
- 遺言により遺産分割が禁止されている場合
- 上記以外で税務署長がやむを得ない事由と判断した場合

期限のない相続手続き
期限のない相続手続きの代表例は、次の2つです(2022年6月現在)。
- 不動産の相続登記
- 金融機関の相続手続き
これらの手続きには期限がありませんが、なるべく早く取りかかることをおすすめします。
ひとつずつ説明します。
不動産の相続登記
被相続人が相続開始時に所有する不動産を相続した場合は、所有権移転登記手続き(相続登記)が必要です。2022年現在、相続登記に期限はありませんが、登記手続きを先延ばしにすると以下のようなリスクが生じます。
- 不動産を売却できない・担保設定ができない
- 二次相続が発生すると権利関係が複雑になる
- 相続人の債権者から差し押さえられる可能性がある
そのため、遺産分割協議が成立したら、速やかに相続登記を済ませることをおすすめします。
なお、2024年(令和6年)4月1日より相続登記が義務化されます。相続開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請しなければなりません。
相続の発生が法律の施行前であるか後であるかを問わず適用され、期限内に登記しなければ10万円以下の過料が課せられる可能性があります。

金融機関の相続手続き
預貯金等の相続手続きには期限がありません。
ただし、当該預金口座の最後の取引から10年以上が経過すると、休眠口座になる可能性があります。休眠口座になっても預貯金の解約や名義変更ができなくなるわけではありません。
しかし、金融機関内の調査に時間を要したり、手続きに際して別途費用を請求されたりすることもあるため、なるべく早く相続手続きを済ませることをおすすめします。

遺産分割が遅れて相続手続きの期限が切れた場合のリスク
ここでは、遺産分割が遅れて相続手続きの期限を徒過した場合のリスクを解説します。
相続放棄できなくなる
相続を放棄する場合は、自己のために相続が開始されたことを知った日から3か月以内に、その旨を家庭裁判所に申述する必要があります。期限後の相続放棄の申述は、特別な事情がなければ認められません。
そのため、相続放棄の期限を過ぎると、借金の返済義務を免れなくなるおそれがあります。相続放棄が認められなければ、借金などのマイナス財産を含めすべての相続財産を相続しなければならないからです。
加算税や延滞税が課される可能性がある
相続税の申告・納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。正当な理由なく期限までに申告しなかった場合は、無申告加算税が課せられます。相続税を期限後に納付した場合は、延滞税が課税されます。
準確定申告を期限内に行わなかった場合も、無申告加算税や延滞税が課せられる可能性があります。
遺留分侵害額請求権を行使できなくなる
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければ、時効により消滅します。
そのため、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に、内容証明郵便を送るなどして相手方に遺留分請求の意思表示をしなければ、本来もらえるはずの遺留分を受け取れなくなります。
遺留分侵害額請求権は、相続が開始したことや遺留分を侵害する遺贈または贈与があったことを遺留分権利者が知らなくても、相続が開始してから10年経過すると消滅します。

葬祭費・埋葬料を受給できなくなる
国民健康保険等の葬祭費や、健康保険の埋葬料、埋葬費は、以下の期限までに請求しなければ受給できません。
- 葬祭費:葬祭行った日の翌日から2年以内
- 埋葬料:死亡日の翌日から2年以内
- 埋葬費:埋葬を行った日の翌日から2年以内
死亡保険金を受け取れなくなる
死亡保険金は、被保険者の死亡日から3年以内に請求しなければ受け取れなくなります。
相続税の特例や軽減手続きを適用できなくなる
相続税の申告書に申告期限後3年以内の分割見込書を添付して提出し、3年以内に分割が行われた場合には、次の軽減措置を遡って適用できます。
- 配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の特例
しかし、申告期限までに相続税申告を行わない場合は、申告期限後3年以内の分割見込書を提出しても、以下の適用は受けられません。
- 一定の相続財産による物納
- 農地の納税猶予
相続開始後10年経つと遺産分割で特別受益や寄与分が主張できない?|改正民法の期限
ここでは、特別受益や寄与分の主張制限について解説します。
民法改正により特別受益と寄与分が相続開始後10年に制限された
令和3年(2021年)4月21日、民法等の一部を改正する法律および相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が成立しました。
本記事掲載時点では、特別受益や寄与分に主張制限はありませんが、改正法の施行時期以後は、施行日から5年または相続開始から10年を経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなります。
改正民法の施行時期
改正民法は、令和5年(2023年)4月1日に施行されます。
施行日前に開始した相続の遺産分割にも適用され、以下のとおり、例外規定の扱いに経過措置が定められています。
平成30年(2018年)3月31日以前に相続開始があったとき | 令和10年(2028年)4月1日から特別受益や寄与分を主張できなくなる |
平成30年(2018年)4月1日以降に相続開始があったとき | 相続開始のときから10年を経過したときから特別受益や寄与分を主張できなくなる |
10年経過後に遺産分割するリスク
相続開始後、次のいずれかの時点を経過した後に、調停や審判などの裁判手続きを利用して遺産分割を請求した場合、特別受益や寄与分が主張できません。
- 平成30年3月31日以前に開始された相続:施行日から5年を経過した時
- 平成30年4月1日以降に開始された相続:相続開始から10年経過した時
そのため、特別受益や寄与分を考慮せず法定相続分によって分割されることとなります。
ただし、遺産分割協議において、相続人全員の合意が得られれば、相続開始から10年経過していても特別受益や寄与分を考慮した相続分で分割できます。

遺産分割のやり直しに期限はある?
ここでは、遺産分割のやり直しに期限があるかどうかについて解説します。
やり直しにも期限はない
遺産分割協議のやり直し自体には期限がありません。
相続人全員の同意があれば、何年経過していても遺産分割協議をやり直せます。
詐欺または強迫による取消しは5年の期間制限がある
詐欺または脅迫による取り消しで遺産分割協議をやり直す場合は、次のいずれかの期間内に取消権を行使すれば、遺産分割をやり直せます。
- 騙されていたことを知った時から5年以内
- 脅迫が止んだ時から5年以内
騙されていたことを知らなかった場合や、脅迫が止まないまま期間が進行した場合で、遺産分割協議が成立した時から20年を経過すると、取消権を行使できなくなるため、遺産分割をやり直せません。
まとめ
遺産分割には法律上の期限はありませんが、相続手続きの期限を考慮すれば早めに行うのが最善です。
遺産分割協議や調停・審判が長引くことが見込まれる場合には、専門家(弁護士・税理士等)に相談することをおすすめします。
専門家の意見を聞いて手続きを進めれば、不利益や不都合を最小限に抑えられる可能性があります。
遺産分割にお困りの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。当事務所は、ネクスパートアドバイザリーグループとして、税理士、公認会計士、宅建士などの他士業と連携しており、相続・遺産分割問題に関してワンストップでの対応が可能です。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。