遺留分侵害額請求とは?対象になるものと流れについて解説
亡くなった人が遺言書を残していた場合、遺言書どおりに相続手続きをするケースがほとんどだと思います。
しかし、法定相続人の一人や法定相続人以外の人に多くの財産を譲る旨の遺言に、不公平感を抱かずにはいられないこともあるでしょう。
自身がもらえるはずの財産が極端に少ない場合は、遺留分が侵害されていないかどうかを確認しましょう。
この記事では、遺留分侵害額請求について以下の点について解説をします。
- 遺留分侵害額請求とは?
- 遺留分侵害額請求の対象となるものは?
- 遺留分侵害額請求の消滅時効と除斥期間
- 遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求とは?
遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分を金銭で取り戻すことです。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上留保することが保障された遺産の取り分です。
遺留分は、被相続人の近親者の生活利益の保障をはかるためのもので、遺言をもってしても侵害はできません。
遺留分を侵害された人(遺留分権利者)は、遺留分を侵害した人(受遺者・受贈者)に対して、遺留分侵害額請求ができます。

遺留分侵害額請求の対象となるものは?
遺留分侵害額請求の対象となる法律行為は、遺贈と生前贈与です。
以下でそれぞれ解説します。
遺贈
各相続人に認められる遺留分を侵害する遺贈は、遺留分侵害額請求の対象となります。
遺贈とは、遺言により財産の一部または全部を無償で譲ることです。
被相続人は、遺言により、自己の財産を自由に処分できます。
しかし、有効な遺言による遺贈でも、やはり遺留分を侵害できません。
遺留分を侵害する遺贈がある場合には、遺留分侵害額請求の対象となります。

生前贈与
生前贈与のうち、以下にあげる贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。
- 相続開始前1年間にされた贈与
相続開始前の1年間に行われた相続人以外への贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。
相続開始前1年間にされた贈与とは、贈与契約が相続開始前の1年間に締結されたことを意味します。 - 特別受益としての贈与
2019年7月1日以降に発生した相続において、相続人になされた特別受益としての贈与は、相続開始前の10年間に行われたものが、遺留分侵害額請求の対象となります。
相続開始が2019年6月30日以前の場合は、特別受益として与えられたすべての財産が遺留分侵害請求の対象とされる可能性があります。
特別受益とは、婚姻もしくは養子縁組のための贈与や、生計の資本としての贈与です。 - 遺留分権利者に損害を与えることを知ってされた贈与
相続開始の1年以上前にされた贈与でも、遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。
相続開始の10年以上に行われた特別受益でも、遺留分を侵害すると知って行われたものは、遺留分侵害額請求の対象です。 - 不相当な対価でなされた有償行為
不相当な対価でなされた有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、遺留分侵害額請求の対象となります。
不相当な対価でなされた有償行為とは、例えば1000万円の価値がある土地を100万円で売買したケースなどが挙げられますが、売買のような有償契約に限らず、対価を支払ってなされた債務免除のような単独行為も該当します。

遺留分侵害額請求権の消滅時効と除斥期間
遺留分侵害額請求権の消滅時効と除斥期間について、以下で解説します。
消滅時効|相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
遺留分侵害額請求権は、相続開始と遺留分の侵害を知ってから1年以内に行わなければ、時効により権利が消滅します。
除斥期間|相続開始から10年
相続開始の時から10年経過した場合、時効で権利が消滅します。
除斥期間は、時効の中断が認められないと解されているため、相続の開始や遺留分の侵害を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅します。
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求の流れは、以下のとおりです。
遺留分侵害額の計算をする
遺留分侵害額の計算をしましょう。
遺留分侵害額は、以下の計算式で求めます。
| 遺留分-遺留分権利者が受けた特別受益-遺留分権利者が取得すべき具体的相続分+ 遺留分権利者が承継する相続債務の額 |
|---|
上記計算結果がゼロよりも大きい場合は、遺留分侵害があると考えられます。
具体的な計算方法や手順は、下記関連記事で詳しく解説しています。

遺留分侵害額請求の相手方や請求の順序を確認する
遺留分侵害額請求の相手方や請求の順序を確認しましょう。
遺留分侵害額請求の相手方は、遺留分侵害の対象となる遺贈・贈与の受遺者・受贈者およびその包括承継人です。
遺留分を侵害している人が複数いる場合は、どのような順序で遺留分侵害額請求を行うかが問題となります。
民法は、受遺者および受贈者の負担割合について、以下のとおり順序を定めています(民法1047条)。
| ケース | 負担割合 |
|---|---|
| 受遺者と受贈者がいる場合 | 受遺者が先に負担する。 |
| 受遺者が複数いる場合 | 原則は、目的の価格の割合に応じて負担する。遺言者が別に定めた場合は、それに従う。 |
| 受贈者が複数いる場合 | 後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。 |
したがって、遺留分権利者は、①遺贈 → ②贈与(新しいものから古いものへ)の順序で請求していくことが基本です。
受遺者や遺贈者が複数いる場合は、遺贈や贈与の目的物の価額に応じて按分して負担することになるため、誰が遺留分を侵害しているのか、その人が遺贈または贈与で受けた価額がいくらなのか等を確認しましょう。
遺留分侵害額請求の意思表示をする
相手方に遺留分侵害額請求の意思表示をしましょう。
確実に意思表示をしたことを記録に残すために、配達証明付き内容証明郵便で送付することをおすすめします。
当事者同士で話し合う
当事者同士で話し合いをしましょう。
相手と遺留分をどのような方法で返還するか、話し合いをします。
合意ができたら、合意内容を記した合意書を取り交わしましょう。
遺留分侵害額の請求調停を申立てる
相手との話し合いが合意に至らなかったり、話し合いに応じなかったりする場合は、遺留分侵害額の請求調停を申立てましょう。
調停委員が間に入って話し合いをし、遺留分侵害額請求について合意を目指します。
調停が不成立の場合は遺留分侵害額請求訴訟を提起する
遺留分侵害額の請求調停が不成立になった場合は、遺留分侵害額請求訴訟を提起しましょう。遺留分侵害の事実が立証できれば、裁判所が相手方に支払いを命じる判決を出します。
遺留分侵害額請求に関するQ&A3選
遺留分侵害額請求に関するよくある質問と回答について解説します。
遺留分侵害額請求の内容証明には金額も書かなければいけない?
遺留分侵害額請求権を裁判外で行使する場合は、必ずしも侵害額を明示する必要はありません。消滅時効が1年でかなり短いため、消滅時効が迫っている場合は、取り急ぎ相手方に対し、遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思を表示する内容証明を送ったほうがよいでしょう。
遺留分侵害額の請求調停を申し立てれば意思表示をしたことになる?
家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申立てただけでは、相手方に意思表示をしたことになりません。
相手方に内容証明郵便等を送るなど、別途、意思表示が必要です。
遺産分割協議を申入れれば遺留分侵害請求の意思表示をしたことになる?
相手に対して遺贈の効力を争うことなく遺産分割協議の申し入れをした場合は、遺留分侵害請求の意思表示をしたものと解されます。
ただし、遺贈の効力を争っている場合は、遺留分侵害額請求をする意味がないため、意思表示とは解されません。
まとめ
遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された場合、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分侵害額請求権の行使が認められます。
遺留分侵害額請求は、相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内に行う必要があります。しかし、ご自身の遺留分額がいくらで、どのくらい侵害されているのかの計算は複雑です。少しでも難しいと感じたら弁護士に相談することをおすすめします。
ネクスパート法律事務所には、相続全般を多数手掛けた経験のある弁護士が在籍しています。遺留分侵害額請求を検討している方は、一度ご相談ください。
初回相談は30分無料ですので、お気軽にお問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。
