みなし贈与とは|土地や非上場株式の譲渡が該当?国税庁にバレる?
名義を変えただけ、相場よりやすく譲渡しただけという場合でも、税務上は贈与と判断されることがあります。
このように、形式は売買や譲渡でも、実質的に無償で財産が移転したとみなされるケースをみなし贈与と呼びます。
特に家族間の土地や非上場株式の取引では対象になりやすく、想定外の贈与税が課される可能性があります。
この記事では、みなし贈与の定義や該当する事例、税額計算の考え方、国税庁の指摘リスクについて解説します。
みなし贈与とは
贈与は、当事者の合意に基づいて財産を無償で移転する行為です。
しかし、契約書がなくても、実質的に無償の利益が発生していれば税務上は贈与と判断されることがあります。
ここでは、みなし贈与の基本的な仕組みと、生前贈与との違いを整理します。
正式な贈与でなくても実質的に贈与となること
契約がなくても、無償で財産が移転された場合は贈与とみなされ、みなし贈与として課税対象になります。
形式が売買や債務免除であっても、経済的利益を一方的に得ていれば課税対象となります。
たとえば、3,000万円相当の不動産を300万円で贈与した場合、差額の2,700万円は贈与とみなされ、贈与税の対象になります。
債務免除や無利子貸付なども同様に扱われることがあります。
国税庁は、取引の形式ではなく実態に基づいて判断を行います。そのため、契約書がない場合でも、無益の利益があると認定されれば、課税が行われます。
一般的な生前贈与との違い
生前贈与は、贈与者と受贈者の合意による明確な契約に基づいて行われます。年間110万円までの基礎控除が適用され、申告・納税も本人の意思で行います。
一方、みなし贈与は、当事者の贈与の認識がなくても実質的に対価性が欠けていれば課税されます。
形式が売買でも、著しく低い価額での譲渡は贈与と判断されます。
みなし贈与の判断基準
みなし贈与に該当するかは、形式ではなく実質で判断されます。国税庁は取引の内容や当事者の関係性を踏まえ、次のような要素をもとに総合的に判断します。
- 譲渡価格と時価との間に大きな差がある
- 債務の免除、無利子貸付などが行われた
- 当事者間に親族関係などの特殊な利害関係がある
たとえば、過去の裁判例では、明確な基準はありませんが、判例上、時価の80%未満の取引について“著しく低い価額”と判断された事例があります。
これは東京地裁平成19年8月23日判決などに基づくものであり、実務上も重要な基準のひとつとされています。【参考:相続税のチェスター】
このように、契約書の有無や取引の形式にかかわらず、経済的利益が一方に移転していれば贈与とみなされる可能性があります。
不動産や非上場株式など、時価評価が難しい資産を扱う際は特に留意が必要です。

みなし贈与と判断される例
みなし贈与は、形式が売買や返済であっても、実質的に無償の利益が移転していれば該当します。
ここでは、税務上みなし贈与と判断される代表的なケースを具体的に紹介します。
土地など不動産の名義変更をした場合
不動産の名義を家族へ変更しただけでも、みなし贈与と判断されることがあります。
とくに、無償や極端に低額での移転は形式が売買であっても贈与として課税される可能性があります。
たとえば、親名義の土地を子に名義変更し、対価の授受が行われなかった場合、その土地の時価が贈与の対象とみなされます。
また、売買と称していても、譲渡価格が時価の80%を大きく下回るような取引では、税務署が贈与と判断することがあります。
不動産は評価額が高額になりやすいため、課税額も大きくなる傾向にあります。
形式にとらわれず、実質的な無償の移転があるかどうかがポイントです。
非上場株式の名義変更をした場合
非上場株式は市場での取引価格が存在しないため、第三者間での価格の妥当性が不明確になりやすい財産です。
このため、親族間などで名義変更を行った場合、その取引価格が適正かどうかが厳しく判断されます。
たとえば、親が保有する非上場株式を子に譲渡した際に、会社の評価額に比べて著しく低い価格で移転したと認定されれば、その差額が贈与とみなされることがあります。
特に企業オーナー間の承継においては、株式の評価を専門的に行う必要があります。
株価評価を軽視して名義変更を行った場合、想定外の贈与税負担が発生するおそれがあります。
個人間で著しく低い価額で譲渡した場合
財産を個人間で譲渡する際、時価よりも著しく低い金額で取引を行うと、その差額部分が贈与とみなされることがあります。
形式上は売買契約であっても、実質的に無償で利益が移転していると判断される場合には、贈与税の課税対象となります。
「たとえば、時価1,000万円の不動産を100万円で譲渡した場合、差額の900万円について課税される可能性があります。
国税庁は、特に親族間などの客観的な価格形成が行われにくい取引に対して慎重な判断を行っています。
取引金額が著しく時価を下回る場合、契約書があってもそのまま信頼されるとは限りません。対価性の実態が重視されます。
債務免除や納税義務の肩代わりをした場合
本来本人が負担すべき債務を第三者が免除したり肩代わりしたりすると、その分の経済的利益を受けたと判断されることがあります。
税務上は、このような利益も贈与とみなされる対象となります。
たとえば、親が子の住宅ローンや税金を代わりに支払った場合、それらの金額相当が贈与に該当するとされる可能性があります。
支払いの事実が記録として残っていれば、契約の有無にかかわらず課税の対象となるおそれがあります。
財産の移転が目に見える形でなくても、債務が消滅した事実そのものが利益と認定される点に注意が必要です。
金銭の貸し借りをした場合
親族間で金銭の貸し借りを行う場合には、契約書の作成や適正な利息設定が不可欠です。
これらが曖昧なままだと、貸付ではなく贈与と判断されることがあります。
たとえば、無利息で多額の金銭を長期間貸し付けた場合、本来発生するはずの利息相当額が経済的利益と評価される可能性があります。
また、返済実績がない場合や、当初から返済の意思がなかったとみなされた場合には、貸付金全体が贈与と判断されるおそれもあります。
金銭の貸し借りに関しては、契約の形式だけでなく、実際の履行状況が判断材料となります。
預金を移動させた場合
家族間で預金を名義変更したり他人名義の口座に資金を移したりした場合、その移動が贈与と見なされることがあります。
特に、口座の実質的な管理者が変わらないケースでは、形式だけの名義変更は無効と判断されることもあります。
たとえば、親の口座から子の口座に数百万円を移した場合、それが贈与契約に基づいていないときは、全額が贈与税の対象になるおそれがあります。
税務署は名義ではなく、通帳の管理者や資金の使途など実態を重視して、贈与と判断します。
離婚時の財産分与に偏りがある場合
離婚時の財産分与は、原則として贈与税の対象外とされますが、実質的に過剰な移転があれば課税されることがあります。
特に、共有財産の範囲を超えて一方に財産が移転した場合が該当します。
たとえば、夫婦共有ではない財産(例:夫の単独所有不動産)を離婚後に全額妻へ譲渡した場合、その譲渡分は贈与とみなされる可能性があります。
家庭裁判所の調停や審判に基づく分与でない限り、税務署はその実態を慎重に検討します。
公平性に欠ける財産分与については、離婚という形式だけで非課税と判断されるわけではありません。
生命保険の受取人が契約者以外の場合
生命保険契約では、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって課税の取扱いが変わります。
特に、契約者と受取人が異なるケースでは、保険金の受取りが贈与と見なされることがあります。
たとえば、契約者が父、被保険者が父、受取人が子の場合、父の死亡により支払われた保険金は、子に対する贈与として扱われる可能性があります。
これは、保険料の支払いを行った契約者と、保険金の受取人が異なることにより、経済的利益が移転したと判断されるためです。
保険契約における名義設定は、相続・贈与・所得のいずれの課税対象となるかを左右するため、事前の確認が不可欠です。
みなし贈与も贈与税の対象になる
みなし贈与も、通常の贈与と同様に贈与税の課税対象となります。
基礎控除額である110万円を超える部分には、累進税率が適用され、課税額が算出される仕組みです。この項目では、贈与税の計算方法を整理します。
贈与税の計算方法
贈与税は、年間110万円の基礎控除を超えた部分に対して課税されます。この基礎控除は、贈与者ごとではなく、受贈者が1年間に受け取った合計額に対して適用されます。
みなし贈与が発生した場合も、税務署がその金額を認定し、贈与税の課税対象とすることがあります。
たとえば、実質的な贈与額が500万円だった場合、110万円を差し引いた390万円に対して税率が適用されます。
課税額は以下の式で求められます。
(贈与額 − 基礎控除額)× 税率 − 控除額

みなし贈与は国税庁にバレる?
形式は売買や返済でも、実質が無償の財産移転であれば、税務署はみなし贈与と判断します。
なぜバレるのか、どのようなリスクがあるのか、実務上のポイントを確認しておきましょう。
税務調査でバレる可能性がある
税務署では、登記情報や金融機関からの支払調書など、多くの外部情報を通じて資産移動を把握しています。
これらの情報は、KSKシステム(国税総合管理)と呼ばれる内部データベースに集約されており、以下のようなものが参照されています。
- 不動産の所有権移転登記
- 保険金や解約返戻金に関する支払調書
- 株式の譲渡対価に関する調書
- 過去の申告履歴など
こうした情報に対し、贈与税の申告がない、あるいは金額が明らかに低い場合、みなし贈与の可能性があるとして税務調査が行われることがあります。
みなし贈与がバレるとペナルティを受ける
次の表に、代表的な加算税と延滞税をまとめました。
種類 | 内容 |
無申告加算税 | 未申告時、本税の5〜10%(調査前自主申告の場合) |
過少申告加算税 | 記載誤り訂正時、5〜10%(調査前の申告時点で免除も) |
重加算税 | 隠蔽・脱税目的がある場合課税、本税の35〜40% |
延滞税 | 期限延滞分に対して年率2〜8%台 |
税務調査により納税漏れが判明すれば、加算税と延滞税が課されます。重課税対象では刑事罰のリスクも生じかねません。
みなし贈与を受けたら期限内に申告する
贈与があった翌年の2月1日から3月15日までが申告期間です。
期限を逃すと無申告加算税や過少申告加算税が課されるため、みなし贈与の可能性がある場合は早めに申告する対応が重要です。
みなし贈与の課税を回避できるケース
みなし贈与に該当しても、全てのケースで贈与税が加算されるとは限りません。一定の条件を満たせば、課税が回避される例もあります。ここでは、代表的な非課税パターンを紹介します。
贈与税の基礎控除額以内の贈与した場合
贈与税には、受贈者1人につき年間110万円までの基礎控除が認められています。
1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額がこの範囲内であれば、贈与税は課税されません。みなし贈与が認定された場合でも、この基礎控除は適用されます。
なお、110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告自体も不要とされています。
ただし、贈与額を複数年に分けて行う場合、契約内容によっては一括贈与とみなされ、課税対象となる可能性があります。
複数の贈与者から受け取った場合でも、基礎控除は受贈者1人につき1枠のみです。贈与額の管理を誤ると課税対象となるため、定期的な確認が欠かせません。
生活費や教育費を渡した場合
扶養義務者が、通常必要とされる範囲内で生活費や教育費をつど渡した場合には非課税財産として扱われ、贈与の対象にはなりません。
ただし、金額が大きすぎる場合や生活費として渡した金銭が別の目的で使用されていた場合にはみなし贈与として判断される可能性があります。
借金の肩代わりを受けた人が返済できない場合
原則として、借金を肩代わりした場合は、債務を免除された受贈者が経済的利益を得るとみなされるため、贈与に該当する可能性があります。
ですが、債務者に返済能力がない場合には贈与とは扱われないケースもあります。これは、収入のない子供の借金を扶養義務者である親が返済した場合などが該当します。
借金の名義変更や肩代わりの方法によっては、逆に贈与と判断されることもあるため注意が必要です。判断に迷う場合には税理士や専門家へ相談するといいでしょう。
特例を適用して節税した場合
特例制度 | 非課税限度額 |
配偶者控除(おしどり贈与) | 最大2,000万円 |
相続時清算課税制度 | 最大2,500万円 |
住宅取得資金の贈与 | 最大1,200万円 |
教育資金の一括贈与 | 最大1,500万円 |
結婚・子育て資金の一括贈与 | 最大1,000万円 |
障害者への贈与 | 最大6,000万円 |
これらの特例には、使途や受贈者の年齢などに関する細かい条件があります。適用できないケースもあるため、活用する際には制度内容を確認することが重要です。
まとめ
みなし贈与は、贈与のつもりがなくても税務上は課税対象とされることがあります。
不動産の低額譲渡や債務の肩代わり、偏った財産分与などは、税務調査で指摘を受けやすい典型例です。無申告や過少申告があれば、加算税や延滞税が課される可能性もあります。
非課税となる基礎控除や各種特例を活用できる場合もありますが、形式だけでなく取引の実態が重視されます。
資産の移転を検討する際は、制度の内容をあらかじめ把握し、不安な点があれば専門家に相談することが有効です。状況に応じた適切な判断が、不要なトラブルを防ぐことにつながります。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。