みなし相続財産とは|相続財産との違い・生命保険などの非課税枠は?

みなし相続財産とは、被相続人(亡くなった人)の死亡をきっかけに受け取る財産のことです。
みなし相続財産が複雑なのは、民法上相続財産には該当しないのに、相続税法上では相続財産として相続税の課税対象となる点です。
こうしたみなし相続財産には、生命保険の死亡保険金や死亡退職金などが該当します。
この記事では、扱いが複雑なみなし相続財産について、以下の点を解説します。
- みなし相続財産とは?その概要
- みなし相続財産に該当する財産
- みなし相続財産の非課税枠や相続税の計算方法
- みなし相続財産を理解する上で押さえておくポイント
みなし相続財産とは
被相続人の死亡により受け取る財産のこと
みなし相続財産とは、被相続人の死亡をきっかけに受け取れる財産のことです。
被相続人が所有していた預貯金や不動産などの財産ではなく、被相続人の死亡をきっかけに受け取れる生命保険の死亡保険金や死亡退職金などが該当します。
これらは、被相続人が生前に所有していた財産ではないため、厳密には相続財産ではありません。
しかし、死亡をきっかけに受け取るため、相続財産とみなされた扱いになります。
民法上と相続税法上の扱い
みなし相続財産は、民法上と相続税法上で扱いが異なるため、ややこしいと感じる人も少なくありません。
民法上では、みなし相続財産は相続の対象となる被相続人の財産とはされていません。
そのため、遺族が死亡保険金などを受け取ったとしても、相続財産とは判断されず、遺産分割の対象外です。
一方、相続税法では、被相続人の死亡を原因として取得した財産を相続税の課税対象としています。
そのため、民法上では相続財産として遺産分割の対象外であるのに対し、相続税法上では相続税の課税対象となるため、相続税の計算に含めなければなりません。
相続財産との違い
みなし相続財産は相続税の課税対象という点では、相続財産と同じです。相続財産とみなし相続財産の違いは以下のとおりです。
項目 | 相続財産 | みなし相続財産 |
定義 | 被相続人が生前に所有していた財産で相続の際に相続人で分ける | 被相続人の死亡を原因として取得できる財産 |
例 | 土地、建物、預貯金、株式など | 生命保険金、死亡退職金など |
民法上の扱い | 相続人に引き継がれる | 相続財産ではなく、受取人固有の財産 |
相続税の課税対象 | 基礎控除額を超えた部分が相続税の課税対象 |
このように、みなし相続財産は相続財産とは異なるものの、相続税の課税対象となるため注意が必要です。
みなし相続財産に該当する財産
みなし相続財産は、被相続人の死亡をきっかけに相続人が受け取る財産であり、相続税法上は相続財産と同様に課税されます。
以下では、みなし相続財産の代表例として、生命保険の死亡保険金、死亡保険金、亡くなる直前の生前贈与、相続時精算課税制度適用の贈与財産について詳しく解説します。
生命保険金(死亡保険金)
生命保険金(死亡保険金)は、被相続人が被保険者(保険の対象となる人)や生命保険の契約者となっていた場合に、相続人が受け取るお金です。
契約内容によっては、死亡保険金がみなし相続財産となることがあります。
支払者 | 被保険者 | 受取人 | 課税対象 |
被相続人 | 被相続人 | 相続人 | 相続税 |
相続人 | 被相続人 | 契約者以外 | 贈与税 |
相続人 | 被相続人 | 相続人 | 所得税 |
被相続人が特定の相続人を受取人としていた場合、生命保険の死亡保険金は民法上、受取人固有の財産となります。
一方で、相続税法上は相続税の課税対象となります。
契約者・被保険者・受取人の関係によって、相続税・贈与税・所得税のいずれかが課されるため、契約の確認が必要です。
死亡退職金
死亡退職金とは、被相続人が働いていた場合に、本人が受け取れるはずだった退職金のことです。
死亡退職金が受け取れる人は、会社の規定によって異なりますが、遺族である配偶者を受取人とすることが多いです。
退職給与規定などで、死亡退職金の受取人について定められている場合は、民法上受取人の固有の財産と判断されます。
一方で、税法上では相続税の課税対象となります。
なお、受取人について退職給与規定で規定されていない場合などは、受取人固有の財産だと判断されず、相続財産として遺産分割の対象となる点には注意が必要です。
亡くなる直前の生前贈与
生前贈与は基本的に相続税の対象外であり、贈与税が課税されます。
ただし、贈与税の暦年課税制度を利用して、被相続人が亡くなる3年以内に行った生前贈与については、相続税の課税対象となります。
この制度は、生前贈与加算、もしくは相続税の持ち出しと呼ばれています。
亡くなる直前の生前贈与は、厳密にはみなし相続財産ではありません。
しかし、亡くなる直前に贈与を行い、相続税の課税逃れを防ぐ目的で、この制度が設けられています。
すでに贈与税を納めている場合は、相続税から贈与税額を控除できます。
なお、税制改革により生前贈与加算は3年から7年以内の贈与が対象となり、2024年から2032年にかけて段階的に拡大される予定です。

相続時精算課税制度適用の贈与財産
みなし相続財産とも異なりますが、生前贈与により相続税の課税対象となる制度がもう一つあります。
相続時精算課税制度は、累計の贈与額が2,500万円まで非課税となる代わりに、贈与した人が亡くなった場合、贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算する制度です。
例えば、生前に2,000万円の財産を相続時精算課税制度で贈与していた場合、相続時には2,000万円が相続財産に加算され、相続税が計算されます。
みなし相続財産に含まれるその他の財産
その他、みなし相続財産に含まれ、相続税の課税対象となる財産をいくつか紹介します。
定期金の権利 | 定期金の権利とは、契約に基づいて一定の期間ごとに金銭を受け取る権利のこと。例えば、個人年金などが定期金に該当する |
生命保険解約に関する権利 | 被相続人が生命保険の支払いをしていた場合に、受け取れる生命保険の満期保険金はみなし相続財産に該当する |
免除された債務 | 被相続人に対して支払い義務のあったお金が免除された場合に、免除された金額がみなし相続財産として課税対象になる |
弔慰金 | 被相続人が勤務していた会社から遺族に支払われる弔慰金も、一定額を超える部分については相続税の課税対象 |
評価額よりも低額で遺産を譲受 | 被相続人の財産を、時価よりも著しく低い価格で譲り受けた場合、その差額が相続税の課税対象となることがある |
特別縁故者への財産分与 | 法定相続人がおらず、被相続人との関係が認められた特別縁故者への財産の分与もみなし相続財産として相続税の課税対象となる |
このようにみなし相続財産は多岐にわたるため、自分が受け取った財産に相続税が課税するかどうかは、税理士に相談した方がよいでしょう。

みなし相続財産に非課税枠はある?
相続税には、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の基礎控除額が設けられています。
例えば、法定相続人が1人の場合、基礎控除額は3,600万円となり、これを超える部分に相続税が課税されます。
みなし相続財産も相続税の課税対象ですが、死亡保険金や死亡退職金には一定の非課税枠が設けられています。
死亡保険金や死亡退職金の非課税枠
前述のとおり、生命保険の死亡保険金や死亡退職金には、相続税の非課税枠が設けられています。非課税額の計算方法は、死亡保険金も死亡退職金も同様です。
非課税枠は、500万円×法定相続人の数と定められています。
例えば、死亡保険金が2,000万円で、法定相続人が3人の場合、500万円×3人となり、非課税枠は1,500万円です。
死亡保険金2,000万円のうち非課税額1,500万円を差し引いた500万円が相続財産として計算します。
死亡保険金の500万円は、他の相続財産と合算して、その金額が相続税の基礎控除額を超えた場合は、超えた部分にたいして、10%~55%の相続税が課税されます。
つまり、みなし相続財産の非課税枠は相続税の基礎控除額と併用可能です。
なお、相続人以外が遺言で死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合、非課税枠は適用されません。

相続放棄をすると非課税枠は適用されない
遺産は相続放棄をして一切を受け継がないことも可能ですが、相続放棄をしても、みなし相続財産は受け取ることができます。
例えば、遺産が2,000万円、死亡退職金が2,000万円だった場合、相続放棄をすると遺産の2,000万円は受け取れませんが、死亡退職金の2,000万円は取得できます。
ただし、相続放棄をした人は、みなし相続財産の非課税枠は適用されません。そのため、受け取った死亡退職金の2,000万円に相続税が課税されます。

みなし相続財産の相続税の計算方法
以下では、みなし相続財産の相続税の計算方法を解説します。
計算をわかりやすくするために、遺産が6,000万円、死亡保険金が6,000万円、受取人は配偶者、相続人は子どもが1人とします。
死亡保険金や死亡退職金は非課税枠を適用する
みなし相続財産を含む遺産の相続税を計算する際は、非課税枠の金額を差し引きます。
死亡保険金が6,000万円で、相続人が2人の場合の計算式は以下のとおりです。
- みなし相続財産の非課税額は500×2人で1,000万円
- 6,000万円-1,000万円=5,000万円
この5,000万円が相続税の課税対象となります。
相続税の基礎控除額を差し引く
死亡保険金6,000万円とは別に、遺産6,000万円を配偶者と子どもで分けます。
遺産は遺言書がない場合、法定相続分をもとに取り分を決めます。
今回は配偶者と子どものみなので、半分で分けますが、子どもが複数人いる場合や、子どもや孫がいなくて被相続人の父母が相続する場合だと、取り分は異なるため、注意が必要です。
相続税の課税対象を算出する計算式は以下のとおりです。
プラスの遺産+みなし相続財産+生前贈与加算や相続時精算課税制度などの贈与分-マイナスの遺産(借金など)
今回は遺産6,000万円+死亡保険金5,000万円のみだとすると、課税対象は1億1,000万円です。
この1億1,000万円から相続税の基礎控除額3,000万円+(600万円×法定相続人の数)を差し引きます。
計算式は以下のとおりです。
3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
課税対象1億1,000万円-4,200万円=6,800万円
この6,800万円に応じた相続税の税率が適用されます。
相続税の税率を課税する
最後は、課税対象となる6,800万円に相続税の税率を適用して、相続税額を求めます。
6,800万円の場合、相続税の税率は30%ですが、700万円が控除されます。
6,800万円×0.3-700万円=1,340万円
そのため、みなし相続財産を含む遺産が1億1,000万円の場合、相続税は1,340万円となります。
なお、これはあくまでも簡易的な計算です。実際は、相続人の数や法定相続分、マイナスの遺産、各種控除や特例などを適用すると複雑な計算となります。
具体的に計算したい場合は、税理士に相談するのが確実です。
みなし相続財産で押さえておくポイント
みなし相続財産は、通常の相続財産とは異なり、税務上の特別な取り扱いがされる財産です。
そのため、相続手続きを進める際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
ここでは、みなし相続財産に関する注意点について詳しく解説します。
みなし相続財産は遺産分割の対象外
みなし相続財産は遺産分割の対象外です。
相続税法上は相続税の対象となりますが、被相続人の所有していた財産ではないため、民法上では、死亡をきっかけに受取人が直接取得する固有の財産となります。
そのため、遺産分割で分けることはできません。

みなし相続財産は原則遺留分の対象とならない
法定相続人の一部には、最低限の取り分を保証する遺留分があります。
被相続人が特定の人にだけ遺産を相続させた場合、他の法定相続人は自分の取り分を主張できます。
しかし、みなし相続財産は受取人固有の財産であるため、原則として遺留分の対象にはなりません。
そのため、法定相続分とは別に、特定の相続人のみがみなし相続財産を受け取ることができ、相続人同士のトラブルにつながることがあります。
ただし、例外的に著しい不公平が生じている場合は、遺留分が主張できる可能性があります。
さらに、相続人同士で合意できれば、みなし相続財産を考慮した遺産分割協議を行うのも一つの解決策です。

みなし相続財産は相続放棄をしても受け取れる
相続放棄をすると、通常の相続財産を一切受け取れなくなります。
しかし、民法上の相続財産ではなく、被相続人の死亡をきっかけに受け取れるみなし相続財産は、受取人固有の財産として扱われるため、相続放棄をしても受け取れます。
一方で、前述のとおり、法定相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、みなし相続財産の非課税額を計算する際には、その放棄した人を法定相続人の数としてカウントできません。

受取人によっては相続税が2割加算される
みなし相続財産の受取人が、法定相続人以外(例えば、孫や兄弟姉妹)である場合、相続税額が2割加算される特例があります。これは、相続税の負担の公平性を図るための措置です。
例えば、被相続人の生命保険金の受取人が子どもであれば通常の相続税率が適用されますが、孫が受取人の場合は相続税額が2割増しとなるため、注意が必要です。
生命保険の死亡保険金は契約内容を確認する
前述のとおり、生命保険の死亡保険金は、受取人によって課税される税金が異なります。
支払者 | 被保険者 | 受取人 | 課税対象 |
被相続人 | 被相続人 | 相続人 | 相続税 |
相続人 | 被相続人 | 契約者以外 | 贈与税 |
相続人 | 被相続人 | 相続人 | 所得税 |
みなし相続財産として非課税枠が適用できるケースもあれば、相続財産と判断されて遺産分割の対象となることもあります。
生命保険の死亡保険金は、契約内容をよく確認した方がよいでしょう。
まとめ
みなし相続財産は、被相続人が亡くなったことをきっかけに受け取れる財産です。
民法上では、受取人固有の財産として扱われ、相続財産に該当しないため、遺産分割の対象外となります。
一方で、相続税法上では相続税の課税対象となるため、注意が必要です。
みなし相続財産は、相続人同士の不公平感や相続税の課税対象となるかどうか、扱いが難しいことがあります。
特定の人だけが多額の財産を受け取っている場合や、他の相続人とトラブルになるような場合は、弁護士への相談を検討した方がよいでしょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。