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成年後見制度とは|後見制度の種類と手続きをわかりやすく解説

成年後見制度とは

成年後見制度とは、判断能力が低下した人の生活をサポートするために、後見人が財産管理・法律行為・身上監護などを行う制度です。

厚生労働省によると、成年後見制度の利用者は2018年の21万8,142人から2023年で24万9,484人まで増加しています。

成年後見制度は心強い制度ですが、一方でデメリットもあるため、慎重に決めることが重要です。

この記事では、成年後見制度の概要や種類、メリットとデメリットなどをわかりやすく解説します。

成年後見制度とは

判断能力が十分ではない人の保護制度

成年後見制度とは、判断能力が低下した人が安心して生活できるように、法的・財産的な支援を行う制度です。

認知症などで判断能力が低下すると、悪質な業者に騙される詐欺被害に遭ったり、不要な契約により財産を失ったりするおそれがあります。

成年後見制度を利用することで、成年後見人が本人に代わって財産管理や契約を行い生活をサポートしてもらえます。

成年後見制度の対象者

成年後見制度を利用できる対象者は、主に認知症や知的障害、精神障害、高次脳機能障害などで判断能力が低下している人です。

自分の行為の結果について認識し判断することが難しい場合に、成年後見制度を利用できます。

成年後見制度の利用が必要となるケース

成年後見制度の利用が必要となるケースは、判断能力が低下したことで、財産管理が難しくなったようなケースが挙げられます。

2023年の成年後見関係事件の概況によると、成年後見制度を利用した原因は以下のとおりでした。

成年後見制度を利用した理由引用:成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月― – 裁判所

成年後見制度利用に至った主な動機については、以下のものが挙げられます。

  • 預貯金等の管理・解約:31.1%
  • 身上保護:24.3%
  • 介護保険契約:14.3%
  • 不動産の処分:11.8%
  • 相続手続き:8.5%
  • 保険金の受け取り:5.5%
  • 訴訟手続き:1.9%
  • その他:2.4%

このように、預貯金などの管理や解約の手続きなどが難しくなり、成年後見制度を利用するに至った人が多いようです。

成年後見制度の種類と違い

成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2種類があります。

任意後見制度 本人が元気で判断能力があるうちに自分で後見人を選べる
法定後見制度 判断能力がなくなった場合に、家庭裁判所が後見人を選ぶ

成年後見制度の種類と違いについて解説します。

任意後見制度

任意後見制度とは、本人がまだ元気で判断能力があるうちに、自ら信頼できる人を後見人として選ぶ制度です。

任意後見制度を利用する際は、任意後見人と任意後見契約書を結んでおきます。

しかし、契約書を結んだだけでは、任意後見の効力は発生しません。

本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所に申し立てを行ってから、任意後見人として財産管理や契約手続きを行います。

家庭裁判所に申し立てを行うと、任意後見監督人(弁護士司法書士など)が選ばれ、任意後見人の仕事を見守ります。

法定後見制度

法定後見制度は、すでに判断能力が低下している人を対象に、家庭裁判所が法定後見人を選任する制度です。

法定後見制度には①後見、②保佐、③補助の3種類があり、それぞれの判断能力の程度によって選ばれます。

制度名 選任される人 対象者 後見人の権限
後見 成年後見人 日常生活を一人でおくるのが難しいほど判断能力がない人 財産管理・契約手続き・契約の取り消しなどが可能
保佐 保佐人 日常生活をおくれるが、法律行為を行うには判断能力が不安な人 重大な法律行為(不動産の購入など)には保佐人の同意が必要

同意のない行為は取り消し可能

補助 補助人 一人で日常生活をおくれるが、法律行為に不安を感じる人 必要だと認められた行為にのみ同意が必要、取り消しが可能

例えば、認知症が重度で、ほぼ意思決定ができない場合は成年後見人が選任されます。

一方で、軽度の認知症や精神障害があり、一部の契約に不安がある場合は補助人が選ばれることが考えられます。

法定後見人は、本人や配偶者などが家庭裁判所に申し立てることで選任してもらえます。

申し立てを行うと、家庭裁判所は必要に応じて審問・調査・聴取(医師に意見を聞く)などを行い、支援内容を決定し、判断能力に応じた後見人を選任します。

任意後見制度と法定後見制度の違い

任意後見制度と法定後見制度の違いを下表にまとめました。

違い 任意後見制度 法定後見制度
後見人 本人が選ぶ 家庭裁判所が決定
開始時期 判断能力があるうちに後見人を選ぶ

判断能力低下時に支援開始

判断能力が低下した際に家庭裁判所に申し立て
権限 任意後見契約書の範囲内の行為は可能だが、契約の取り消しはできない 一定の範囲内の代理行為、契約の取り消しが可能
本人の意思の反映 本人が内容を決めるため、本人の意思が反映される 反映されない

任意後見制度と法定後見制度は、本人が後見人や支援の内容を決定できるかという点で大きな違いがあります。

成年後見人とは

成年後見人とは、判断能力が低下した人の代わりに、契約などの法的手続きや財産管理を行う人のことです。

以下では、成年後見人について、役割やできること、できないこと、成年後見人になれる人について解説します。

成年後見人の役割

成年後見人は、本人の財産管理や法律行為だけでなく、生活や医療、介護や福祉など、本人の身の回りにも気を配り支援や保護を行う役割があります。

成年後見人の仕事は以下のように多岐にわたります。

  • 本人の収支の把握(入出金のチェック)・年金の振り込み確認・保険金の受け取り
  • 財産の調査
  • 不動産の管理(リフォーム・手入れ・処分など)
  • 賃貸契約や家賃の支払い
  • 自宅を訪問し生活に問題がないかの見守り
  • 治療や入院の各種手続き
  • 介護やリハビリなどの利用手続き
  • 老人ホームの入退去手続き
  • 法律行為・契約書の取り消し
  • 相続手続き など

一方で、成年後見人は以下のような行為を行うことはできません。

  • 老人ホーム入居時の身元保証人や身元引受人
  • 食事や入浴介助、通院時の付き添い、部屋の掃除などの事実行為
  • 本人の医療行為を行うかどうかの判断 など

成年後見人になれる人

成年後見人になるには資格などは不要です。成年後見人になれる人と、なれない人は以下のような人々です。

成年後見人になれる人 子ども、配偶者、兄弟姉妹などの親族

弁護士、司法書士、社会福祉士など法律・福祉の専門家

研修を受けた一般市民

社会福祉法人やNPO法人などの法人

成年後見人になれない人(民法第847条 未成年者

自己破産をした人

成年後見人として選任されていたが、家庭裁判所から解任された人

後見人をつけたひと(被後見人)に対して裁判をした人やその配偶者や直系血族

行方不明者

前述の統計によると、親族が成年後見人に選ばれた割合は18.1%でした。それ以外は以下のような内訳で、親族以外が選ばれています。

成年後見人親族以外内訳引用:成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月― – 裁判所

なお、以下のようなケースは、親族以外の専門家が選ばれることがあります。

  • 親族間で、誰を成年後見人にするか意見が対立している
  • 後見人の候補者が高齢者
  • 被後見人に多額の資産がある
  • 被後見人に賃料などの事業収入がある など

成年後見制度の手続きの流れと費用

任意後見制度の場合

任意後見制度は、以下のような流れで手続きが進みます。

①本人が判断能力があるうちに、任意後見人を選ぶ

②双方で任意後見の契約内容を決める

③任意後見契約書を締結して、公正証書化する

④公証人が法務局へ登記手続きを行う

⑤判断能力が低下した場合に、後見人が家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人を選任

⑥任意後見人として支援を開始する

任意後見人は、本人に代わり財産管理などを行いますが、本来は委任状が必要です。

こうした委任状に代わる書面である後見後登記事項証明書を交付してもらうために、公証人が法務局で任意後見登記を行います。

法定後見制度の場合

法定後見制度の場合は、以下の流れで手続きが進みます。

①医師の診断書や必要書類を用意する

②本人の住所地を管轄する家庭裁判所に後見開始申し立ての手続きを行う

③家庭裁判所が審理を開始

④申立人・本人・後見人などの調査

⑤裁判官の判断により親族への意向照会

⑥本人の判断能力が判定できない場合は、医師の鑑定を実施

⑦後見人の選任・必要に応じて成年後見監督人の選任

⑧家庭裁判所の審判が確定

⑨家庭裁判所からの依頼で法務局が後見登記を行う

⑩成年後見人として支援を開始

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成年後見制度にかかる費用

成年後見制度の利用には、申し立て費用や後見人への報酬がかかります。以下にその内訳をまとめます。

費用項目 任意後見制度 法定後見制度
契約書の作成 任意後見契約書の公正証書作成手数料:1万1,000円

4枚を超える場合は1枚250円が加算

法務局の手数料:2,600円

登記嘱託手数料:1,400円

公証人が出張する場合:1~2万円+交通費

申立手数料 任意後見監督人選任

申し立て手数料:800円

登記手数料:1400円

書面送付用の切手代

約800円

後見登記手数料:2,600円

書面送付用の切手代:3,000~5,000円程度

医師の鑑定が必要な場合の鑑定費用:1~20万円

その他各種必要書類の交付手数料:2,500円程度

医師の診断書費用 約5,000~1万円
後見人の報酬 親族などの場合:無償~月3万円程度

専門家に依頼した場合:月3~5万円程度

専門家が選ばれた場合:月額2万~6万円程度

※管理する財産によって異なる

監督人の報酬 月額1万~3万円程度

参考:Q 22. 任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか? – 日本公証人連合会

参考:申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター – 裁判所

なお、成年後見制度の申し立て手数料は申立人が、後見人への報酬は被後見人の財産から支払います。

成年後見制度は、被後見人が病気から回復するか、亡くなるまで続きます。

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成年後見制度はひどい?メリット・デメリット

成年後見制度は、判断能力が低下した人を保護するための有益な制度ですが、一方でデメリットも存在します。ここでは、メリットとデメリットを具体的に解説します。

メリット

成年後見制度を利用することで、成年後見人が本人に代わり財産管理や法律行為、手続きなどを代行してくれます。

それにより、以下のようなメリットがあります。

  • 詐欺や不要な契約などのトラブルが防止できる
  • 財産や不動産について適切な管理ができる
  • 保険金の受け取りをしてもらえる
  • 医療手続きや介護施設の契約がスムーズにできる
  • 相続手続きを進めてもらえる
  • 任意後見制度なら、支援内容を自分で決められる

デメリット

成年後見制度には、以下のようなデメリットもあります。

  • 成年後見制度は一度利用すると、被後見人が回復するか亡くなるまでやめられない
  • 希望した成年後見人が選ばれない可能性がある
  • 後見人への報酬が毎月発生する
  • 本人の財産保護の観点から、柔軟な財産管理や生前贈与が難しい
  • 成年後見人が不正を行うケースがある

成年後見制度は一度利用すると被後見人が回復するか亡くなるまでやめられません。さらに、成年後見人に支払う報酬が毎月発生します。

加えて、裁判所によると2014年の成年後見人の不正事例は831件と最多で、2023年位は185件発生しています。

2023年の不正な財産管理や着服による被害額は2億7,000万円にものぼります。

ただし、こうした不正を行っている後見人は専門職以外の人で多いという点も留意しておきましょう。

他にも、財産管理が厳しすぎるゆえに、配偶者が被後見人の年金から生活費を使用できずに困窮したり、報酬を受け取っている後見人が仕事をしなかったりするトラブルも指摘されています。

成年後見制度は、判断能力が低下した人にとっては支えとなる制度ですが、このようなデメリットもあるため、慎重に判断することが重要です。

参考:後見人等による不正事例 – 裁判所

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成年後見制度以外で財産管理できる制度

成年後見制度は財産管理などに有効な制度ですが、前述したようなデメリットもあります。

以下では、成年後見制度以外で財産管理ができる制度を紹介します。

家族信託

家族信託とは、信頼できる家族や知人などに財産を託し、託された人(受託者)が財産を管理・運用する制度です。

成年後見制度とよく似ていますが、以下のような違いがあります。

違い 家族信託 法定後見制度
利用可能なタイミング 判断能力低下前 判断能力低下後
管理者の選定 本人が受託者を選べる 家庭裁判所が後見人を選任する
裁判所の関与 原則としてなし あり
財産管理の柔軟性 契約で定めた範囲内で柔軟な財産管理が可能

財産の処分や投資などもできる

法律で定められた範囲で財産管理が可能
身上監護への対応 原則対応不可 対応可能
費用 初期費用はかかる 定期的な報酬が発生する
終了 契約で定めた事由に該当した場合や合意により契約終了も可能 本人が回復・亡くなるまで継続

家族信託は、家族信託契約書を作成し、契約書に基づいて財産管理を行います。本人が受託者を選ぶことができ、柔軟な財産管理が可能です。

一方で、医療手続きや介護施設の契約などの身上監護はできません。身上監護も行いたい場合は、成年後見制度を利用することになります。

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生前贈与とは、元気なうちに財産を家族や親しい人に贈与することです。生前贈与を利用することで、相続税対策となり、税負担を軽減できます。

家族や親しい人が財産を受け継ぐことができるほか、譲渡した財産を本人の生活費にあててもらうことも可能です。

本人が亡くなった場合に、残った財産をそのまま受け取る契約にすることもできます。

生前贈与をすることで相続税対策にもなりますが、利用する制度によっては相続時に相続税が発生したり、他の相続人から遺留分を請求されたりする可能性があるため、注意が必要です。

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まとめ

成年後見制度は、判断能力が低下した人が安心して生活できるようにする制度です。

成年後見人がつくことで、詐欺被害や不要な契約による不利益を防止できます。

ただし、一度利用するとやめることはできず、後見人の報酬が発生するほか、柔軟な財産管理が難しくなる可能性があります。

財産管理の方法として、家族信託や生前贈与といった方法も検討するとよいでしょう。

継続的に報酬が発生する点や金銭的な負担も考慮して、総合的に判断することが重要です。

成年後見制度を利用するべきか迷った場合は、自治体や弁護士などにも相談することをおすすめします。

 

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この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)

はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。

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