内縁の妻は相続権がない|事実婚でも相続する5つの方法

2025年現在、内縁の妻は法律上は妻に準ずる存在として扱われる場面が多いです。しかし、内縁の妻には相続権が認められていません。
何の対策もしないでいると、全ての財産が法定相続人に分配され、内縁の妻のその後の生活が苦しくなる可能性があります。
本記事では、遺言書の作成や生前贈与をはじめとして、内縁の妻が遺産を引き継ぐ方法を5つ紹介します。
相続税や遺留分の問題など、事前に知っておくべき注意点についても詳しく説明します。
なお、記事では便宜上内縁の妻と表記していますが、内縁関係の夫にも該当するため、ぜひ参考にしてみてください。
内縁の妻は遺産を相続できる?
内縁の妻に相続権はない
法律では、内縁の妻には法定相続権が認められていません。
民法では、相続人の範囲が配偶者と血族(子、直系尊属、兄弟姉妹など)に限定されており、法律上の婚姻関係がない内縁の妻は含まれません。
過去に婚姻関係があって離婚している場合も、相続権はありません。内縁の妻が遺産を受け取るには、生前に対策を講じる必要があります。
認知された婚外子は相続権がある
内縁の妻には相続権がありませんが、内縁関係にある夫婦の間に生まれた子(婚外子)は、法律上の相続権を持つことができます。ただし、父親が生前に認知していることが条件です。
婚外子を認知するには、以下の3つの方法があります。
①父親が役所に届け出る
②父親が遺言で認知を宣言する
③母親(内縁の妻)が家庭裁判所を通して強制認知を申し出る
認知がされていれば、婚外子も戸籍上の子どもとして扱われ、法定相続人になります。
(認知の訴え)
第七百八十七条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
内縁の妻が子どもの相続権を確保するためには、父親が生前に認知の手続きを済ませておくことが非常に重要です。
この際も、相続権を持てるのは婚外子であり、内縁の妻はやはり相続人とはならない点に注意してください。

実子と認知した子の相続分は同じ
婚姻関係上の妻との間に生まれた子どもと、婚外子の相続分は同じとなっています。
たとえば、被相続人(亡くなった人)に嫡出子が1人、認知された婚外子が1人いる場合、それぞれの子が平等に遺産を相続することになります。
ただし、実際の遺産分割は、法定相続分だけでなく、遺言や相続人同士の協議によって決まるため、相続人同士で話し合う必要があります。
内縁の妻が遺産を相続する5つの方法
原則として、戸籍上の配偶者にあたらない内縁の妻は相続権を持たないため、亡くなった夫の遺産を相続できません。
内縁の妻が遺産を相続するためには以下のいずれかの対策をとることが重要です。
①結婚する
②遺言書を残す
③生前贈与をする
④生命保険の受取人にする
⑤特別縁故者の手続きを行う
これらの対策について、それぞれ具体的に必要な手続きや、相続税・贈与税の発生の有無を解説します。
結婚する
内縁の妻が遺産を相続するために最も確実な方法は、正式に結婚して法律上の配偶者になることです。
婚姻届を提出して法律上の夫婦になれば、内縁の妻ではなく配偶者として扱われ、法定相続人の権利を得ます。
法定相続人となれば、法定相続分にしたがって以下の通り遺産を相続できます。
相続人の状況 | 配偶者の法定相続分 |
自分(配偶者)のみ | 全て |
配偶者+子や孫 | 半分 |
配偶者+父母・祖父母 | 3分の2 |
配偶者+被相続人の兄弟姉妹・甥・姪 | 4分の3 |
さらに、配偶者には相続税の優遇措置があり、1億6,000万円または法定相続分のいずれか大きい金額までは相続税がかからないメリットもあります。
内縁の妻のままでは、どれだけ長く一緒に暮らしていても相続権が発生しないため、死別前に結婚するのも一つの選択肢です。
遺言書を残す
内縁の妻が夫の財産を受け取る方法の一つは、遺言書を作成することです。遺言書では、法定相続人以外を指名して遺産を贈与することが可能です。
遺言書で内縁の妻○○に財産を遺すと明記されていれば、他の相続人と関係なく財産を取得できます。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、最も確実なのは公正証書遺言です。
公証人が作成し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。
ただし、遺言によって財産を受け取る場合は、贈与税が発生しない代わりに相続税が発生します。
配偶者のような税額控除が適用されないため、課税対象となる額が大きくなる可能性がある点には注意が必要です。

生前贈与をする
内縁の妻に遺産を残す方法として、生前に財産を贈与する選択肢があります。
生前贈与では、法定相続人に関係なく、本人が希望する相手に自由に財産を贈ることができます。
相続ではなく贈与の形を取ることで、他の法定相続人とのトラブルを回避しやすくなります。
さらに、生前贈与には税務上のメリットもあります。
内縁の妻が遺言による相続を受ける場合、配偶者控除が適用されず、多額の相続税が課される可能性があります。
一方、生前贈与を活用すれば、贈与税は発生するものの、年間110万円までが非課税となるため、複数年にわたり計画的に贈与を行うことで税負担を軽減できます。
生命保険の受取人にする
生命保険の受取人を内縁の妻に指定する方法も有効です。生命保険金は相続財産とは別に扱われるため、他の法定相続人の影響を受けることなく財産を残せます。
通常、生命保険の受取人は2親等以内の親族とされますが、以下の条件を満たせば内縁の妻を指定することが可能です。
- お互いに戸籍上の配偶者がいない
- 一定以上の期間同居している・生計を共にしている
生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産とみなされ、相続財産には含まれません。
ただし、税法上は相続税の課税対象となります。
生命保険金には500万円×法定相続人の数までの非課税枠が適用されますが、内縁の妻は法定相続人に含まれないため、この非課税枠は利用できません。
そのため、受け取る保険金のうち一定額が相続税の対象となる点には注意が必要です。
特別縁故者の手続きを行う
特別縁故者とは、亡くなった人に法定相続人がいない場合に、家庭裁判所の審判を経て財産を受け取ることができる人のことです。
特別縁故者になるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 被相続人と生計を共にしていた人(内縁の妻を含む)
- 被相続人の療養看護に努めていた人
- その他、特別に縁故があったと認められる人
特別縁故者の手続きは、家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所で他に相続人がいないか調査委を行い、相続人がいないと確定したら、確定から3か月以内に、特別縁故者と財産分与請求を行います。
裁判所の審判では、特別縁故者に該当するか判断され、被相続人との関係性に応じた分与額が決定されます。
ただし、一人でも法定相続人がいたら特別縁故者とはなれないので注意が必要です。
内縁の妻が相続を受けた際の注意点
本来は相続権を持たない内縁の妻であっても、生前贈与や遺言などの適切な対策をとれば故人の財産の一部を受け取ることは可能です。
しかし、以下のような点に注意する必要があります。
- 他の相続人から遺留分を請求される可能性がある
- 相続税が2割加算される
- 配偶者控除や障がい者控除は認められない
- 小規模宅地等の特例が受けられない
他の相続人から遺留分を請求される可能性がある
内縁の妻には相続権がありませんが、被相続人が遺言書を作成することで遺産を受け取ることは可能です。
しかし、子や親などの他の法定相続人には遺留分が認められており、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分とは、一定の法定相続人に保障される最低限の相続割合のことです。
たとえ遺言で内縁の妻にすべての財産を遺贈しても、他の相続人が請求すれば遺留分相当額を支払わなければなりません。
トラブルを避けるためには、事前に法定相続人と話し合いをする、または生命保険を活用するなどの対策が重要です。
なお、内縁の妻は相続権が無いのと同様に、遺留分も認められていません。

相続税が2割加算される
内縁の妻が相続により遺産を取得すると、相続税額が通常よりも2割増しになります。
これは、被相続人の一親等の血族または配偶者以外の人が相続すると適用される相続税法上のルールです(相続税法第18条)。
たとえば、通常の相続税額が500万円の場合、内縁の妻が相続すると2割増しの600万円(500万円×1.2)の相続税を支払わなければなりません。
配偶者控除や障がい者控除は認められない
法律上の配偶者には、相続税負担を軽減するための配偶者控除が適用され、1億6,000万円または法定相続分までは非課税)となります。
しかし、内縁の妻は法律上は配偶者として認められないため、この控除は適用されません。
相続人が障がい者である場合、本来であれば障がい者控除を受けられますが、これも内縁の妻には適用されません。
結果として、婚姻関係のある配偶者よりも高額な相続税が課せられる可能性が高いといえます。
小規模宅地等の特例が受けられない
小規模宅地等の特例は、被相続人と同居していた配偶者や親族が、自宅や事業用の土地を相続する場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
しかし、内縁の妻はこの特例の適用対象外となります。
たとえば、被相続人が住んでいた土地の評価額が5,000万円の場合、配偶者や法定相続人であれば特例適用後の評価額は1,000万円となり、相続税が大幅に軽減される可能性があります。
しかし、内縁の妻が相続する場合、特例が適用されないため5,000万円のままとなり、相続税負担が大幅に増加します。
内縁の妻の相続に関するよくある質問
内縁の妻は遺族年金を受け取れる?
内縁の妻は、一定の条件を満たせば国民年金や厚生年金の遺族年金を受け取ることができます。
具体的には、死亡した被保険者と生計を同じくしていたことが証明できる場合に限り、遺族年金の受給が認められることがあります。
ただし、認定基準は厳しく、内縁関係を示す書類を多数提出する必要があるほか、生活費の依存状況などに関する証明が必要です。
内縁関係を証明できる書類には、以下のようなものがあります。
- 内縁の妻が健康保険の被扶養者になっている場合は、健康保険被保険者証の写し
- 内縁の妻が扶養者になっており、扶養手当を受けていた場合は、給与明細書
- 続柄に妻(未届)と記載された住民票
- 内縁の妻が喪主となり葬儀を行った場合は、葬儀を主催したとわかる書類
- その他、連盟の郵便物、公共料金や生命保険の領収書、賃貸契約書の写し
- 各地域の民生委員が作成する内縁関係の証明書 など

内縁の妻は遺産を相続できるように法改正された?
2025年現在の法律では、内縁の妻に法定相続権は認められていません。今後、法改正によって内縁の妻でも法定相続権が得られるようになるかもしれません。
内縁の妻には配偶者居住権はある?
配偶者居住権とは、法定相続人である配偶者が、一定期間または終身にわたり被相続人が所有していた自宅に住み続けることができる権利です。
この権利は2020年の法改正によって認められましたが、内縁の妻には適用されません。
内縁の妻が住み続けるには、事前に遺言で所有権や住居権を認めてもらう、または住宅を生前贈与する方法があります。

内縁の妻が遺産を相続したら相続税はかかる?
内縁の妻が遺産を相続した場合、以下のようなケースでは相続税が発生します。
- 遺言の内容にしたがって相続した
- 生命保険の受取人となった
- 特別縁故者の申し立てをして相続した
内縁の妻が遺産を相続した場合は、相続税法の規定により相続税が2割加算されるほか、生命保険の非課税枠も適用されません。
配偶者控除の適用も受けられないため、法律上の配偶者に比べて相続税負担が重くなる点に注意が必要です。

内縁の妻は何年経てば相続できる?
残念ながら、10年、20年と長く一緒に暮らしていても、内縁の妻として相続権が自動的に発生することはありません。
遺産を確実に受け取るためには、遺言書の作成、生前贈与を行うなどの対策を行うことが重要です。
まとめ
2025年現在、内縁の妻に相続権は認められていません。
そのため、どれほど長く連れ添っても、遺産を相続できず、内縁の妻の生活が困難になる可能性があります。
内縁の妻が遺産を受け取り、夫の死後も安心して生活するためには、生前に対策を講じることが重要です。
生前贈与や遺言書の作成を行うことで、大切な人に確実に遺産を残すことができます。
内縁関係の相続や贈与について検討する際は、弁護士に相談し、適切な手続きを進めましょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。