婚外子は父親の遺産を相続できるか?認知手続きについて解説

婚姻関係にない父親と母親の間に生まれた子は、父親が亡くなったら、父親の財産を相続する権利があるかどうか気になると思います。
この記事では、婚姻関係にない父親と母親の間に生まれた子の相続について解説します。
目次
婚外子とは
婚外子とは、婚姻届を提出していない男女の間に生まれた子を指します。
具体的には以下のケースが考えられます。
- 婚姻届を出していない事実婚の男女の間に生まれた子
- 婚姻している男性と妻以外の女性の間に生まれた子
婚外子の対義語は婚内子で、婚姻届を提出している男女の間に生まれた子を指します。
なお、法律用語では、婚外子を非嫡出子(ひちゃくしゅつし)と言い、婚外子を嫡出子(ちゃくしゅつし)と言いますが、本記事では非嫡出子を婚外子、嫡出子を婚内子と表現します。
婚外子に父親の遺産を相続する権利はある?
婚外子が父親の遺産を相続できるかどうかは、父親が子を認知しているかどうかがポイントです。以下でそれぞれ解説します。
認知されている婚外子には相続権がある
父親が認知している婚外子には相続権があります。
認知とは、父親(まれに母親)が婚姻関係にない相手との間に生まれた子を自分の子として認めることです。
父親が子を認知すると、法律上の親子関係が成立し、その子は法定相続人としての権利を持つことになります。
認知されていない婚外子に相続権はない
父親が認知していない婚外子には相続権がありません。
父親が子を認知しなければ、法律上の親子関係が生じないからです。
認知された婚外子の相続割合は婚内子と同じ
認知された婚外子は、婚内子と同じ相続割合で父親の遺産を相続できます。
例えば、あなたの父親に法律上の妻がいて、その間に子が1人いたとします。父親があなたを自分の子として認知していれば、法定相続人は法律上の妻、婚内子、あなたの3人です。相続分は、法律上の妻が2分の1、子は残りの2分の1を均等に分けるので、婚内子もあなたもともに4分の1ずつとなります。
かつては、民法第900条第4号但し書きの規定により、婚外子の相続分は婚内子の半分(2分の1)とされていました。しかし、2013年9月4日の最高裁判決で、子が自ら選択・修正できない事柄(父親と母親が法律婚ではない方法を選んでいること)を理由に子に不利益を及ぼすことは許されないとし、婚外子と婚内子の相続分に差別があるのは憲法違反だと判断されました。(最高裁2013年9月4日決定)。
これにより、2013年12月に民法の一部を改正する法律が成立し、婚内子と婚外子の相続分が同じになりました。
婚外子が相続資格を得るために必要な認知の手続きの種類
認知の手続きは、任意認知と強制認知の2つの種類があります。以下でそれぞれ解説します。
任意認知
任意認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、父親が任意に親子関係を認めて法律上の親子関係を成立させることです。
任意認知には、以下2つの方法があります。
戸籍の届出による方法
父親が、父親または子の本籍地、もしくは父親の所在地の役所に認知届を提出して、子を認知する方法です。
母親の同意は不要ですが、認知される子が成人の場合は子の同意が必要です。
提出書類は以下の3つです。
- 認知届(市区町村の役所にあります)
- 子が成人している場合は承諾書
- 父親の本人確認書類
遺言による方法
父親が遺言書を作成して、死後に子を認知する方法です。
父親が亡くならなければ認知の効力が発生しませんが、父親の遺産を相続する権利が得られます。遺言で認知をする場合は、遺言内容を実現する遺言執行者の指定または選任が必要です。遺言執行者によらなければ遺言による認知の届出ができないからです。
遺言で認知する場合は、その遺言で弁護士等の専門家を遺言執行者に指定しておくと安心です。
強制認知
強制認知とは、父親が認知に応じてくれない場合に裁判で認知を認めてもらう方法です。
以下2つの方法があります。
父親の生前に認知を求める方法
父親の生前に認知を求める場合、まずは父親の住所地を管轄する家庭裁判所に認知調停を申し立てます。
申立ては婚外子またはその母親ができます。申立てから1か月ほどで初回期日が設定されて、その後1か月に1回ほどの割合で期日が設けられます。調停では、調停委員が間に入って当事者に対してさまざまなヒアリングが行われます。それに加えてDNA鑑定が行われる場合もあります。
調停で話がまとまり審判が確定したら、10日以内に申立人(婚外子またはその母親)は役所に認知届を提出しなければいけません。
調停が不成立となった場合は、認知の訴えを提起します。裁判ではDNA鑑定で生物学的に親子関係があるかどうかを立証していきます。裁判所が親子関係を認める判決をした場合、子の出生時に遡って親子関係が発生します。判決確定日から10日以内に原告(婚外子またはその母親)が役所に認知届を提出しなければいけません。
父親の死後に認知を求める方法
父親の死後に認知を求める場合、死後3年以内であれば死後認知の請求が可能です。
婚外子本人、または本人が未成年の場合は母親が、子の住所地もしくは父親の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に訴訟を提起できます。
父親はすでに亡くなっているため、検察官を相手方として請求しますが、実際は利害関係人である父親の相続人との争いになることが多いです。
DNA鑑定や母親の妊娠、出産までに経緯などが立証でき、死後認知請求を認める判決が出たら、原告(婚外子本人、または本人が未成年の場合は母親)は、役所に認知届を提出しなければいけません。
父親の死後に認知の効力が発生する場合の注意点
父親の死後に認知の訴えを起こし、判決確定によって死後認知の効力が発生した場合、共同相続人による遺産分割協議がどの段階にあるかによって、権利行使の方法が変わってくることに注意しましょう。
他の共同相続人の遺産分割協議がまだ始まっていないか、もしくは進行中の場合は、死後認知によって相続権を得た婚外子は、遺産分割協議に参加できます。
遺産分割協議が成立した後は、やり直しを求められません。この場合、婚外子は他の共同相続人に対して、法定相続分に応じた金銭の支払いを請求できるにとどまります(民法910条)。
父親が亡くなってから3年以内であれば死後認知の請求が可能ですが、訴訟手続きは数か月から数年かかることもあるため、死後認知が認められる頃には、遺産分割協議がすでに完了していることも少なくありません。
まとめ
法律上の婚姻関係にない父親と母親の間に生まれた子が、法律婚をしている父親と母親の間に生まれた婚内子と同様の相続分が得られるようになった民法改正は、画期的なものでした。しかし、父親の遺産を相続するために避けられないのが認知です。父親が認知にすんなり応じてくれれば問題はありませんが、さまざまな事情でそれが許されない場合、裁判で決着をつけなければいけません。どうしても認知してもらいたいと裁判を考えているなら、早めに弁護士に相談をしましょう。
ネクスパート法律事務所には、相続案件を多数手がけてきた弁護士が在籍しています。婚外子だけれど父親の遺産を諦めずに相続したいと考えているなら、ぜひご相談ください。それぞれのケースによって最適な解決方法をご提案いたしますので、お気軽にお問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。