遺産分割は裁判ではなく調停・審判で解決|関連訴訟も詳しく解説

共同相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないとき、または話し合いができないときは、家庭裁判所の手続きを利用して解決を図れます。
裁判所と言うと、訴訟をイメージする方も多いでしょう。しかし、遺産分割の手続きは訴訟以外の方法で進められます。
家庭裁判所における遺産分割の手続きには、どのような種類があるのでしょうか?
この記事では、裁判所における遺産分割の手続きの種類や遺産分割に関連する訴訟(裁判)の種類について解説します。
目次
裁判所における遺産分割の手続きの種類
ここでは、家庭裁判所における遺産分割事件の特徴や手続きの種類について解説します。
遺産分割事件の特徴
遺産分割について共同相続人との間に協議がまとまらないときや、協議をできないときは、各共同相続人は家庭裁判所に遺産の分割を請求できます。
この遺産分割の請求は、家事審判法に定める非訴訟手続によって行われる審判の申立てを意味します。ただし、家事審判法は、遺産分割事件を乙類審判事項と分類し、家事調停の対象になるとしているので、各相続人は調停・審判のいずれでも申立てられます。
ただし、実務上は、審判の申立てがあった場合でも、家庭裁判所では事件の受理にあたって、まずは調停事件として申立てるよう指導することが多いです。
遺産分割事件には、前置調停主義の適用はありませんが、当事者の合意による自主的かつ円満な解決に親しむ性質上、家庭裁判所はいつでも職権で事件を調停に付せる旨規定されているからです(家事審判法11条及び19条)。
よって、明らかに調停手続きに馴染まない場合を除き、まずは遺産分割調停を申立てます。
遺産分割調停
遺産分割調停は、非公開の場で、法律的な問題点だけでなく、人間関係も考慮しながら、当事者全員の合意が成立するよう話し合いを進める手続きです。

遺産分割審判
調停不成立となって調停手続が終了した場合は、調停申立てのときに遺産分割審判の申立てがあったものとみなされます。
遺産分割審判は、当事者間の合意による解決を前提とする調停手続きと異なり、裁判官が当事者の主張を聞いたり、提出された資料を調査したりして、具体的な遺産分割方法を決めます。
遺産分割に訴訟(裁判)がない理由
遺産分割事件は、なぜ訴訟(裁判)がないのでしょうか?
ここでは、遺産分割事件が調停・審判で進められる理由について解説します。
遺産分割事件は、基本的には相続人が本来任意に処分できる遺産に対する相続分を具体化するための手続きです。
私的な財産紛争であるため、当事者の合意を可能な限り尊重する当事者主義的運用が望ましいと考えられていることから、調停・審判で進められます。
遺産分割調停・審判で裁判所に納める費用はいくらくらい?
ここでは、遺産分割調停・審判で裁判所に納める費用について解説します。
調停申立費用
遺産分割調停の申立時には、申立費用として以下の費用を裁判所に納めます。
- 収入印紙:1,200円
- 予納郵券:数千円(裁判所によって異なる)

審判申立費用
遺産分割審判の申立時には、申立費用として以下の費用を裁判所に納めます。
- 収入印紙:1,200円
- 予納郵券:数千円(裁判所によって異なる)
ただし、調停が不成立で終了した場合は、調停申立時に遺産分割審判の申立てがあったものとみなされるため、審判申立費用の納付は不要です。
その他発生しうる費用
不動産鑑定料
分割を希望する遺産の中に不動産があり、当事者間で不動産の評価に争いがある場合は、当事者の申出あるいは職権により鑑定が実施されることがあります。
その場合、不動産鑑定料として20万円〜60万円程度の費用がかかることがあります。
追加郵券
遺産分割調停・審判では、遺産の内容を調査するために、当事者の申出により裁判所が金融機関や公的機関に必要な事項を照会したり、取引明細書や確定申告書などの文書の開示を求めたりすることがあります。これらの手続きを調査嘱託・文書送付嘱託といいます。
調査嘱託や文書送付嘱託を申立て、裁判所に採用されると、照会先との書面のやり取りに必要な、郵券(切手)の追加提出を求められることがあります。
遺産分割調停・審判を裁判所に申立ててから終了するまでの期間は?
ここでは、遺産分割調停・審判の流れや期間について解説します。
調停手続きの流れ
遺産分割調停申立後の流れは、概ね以下のとおりです。
- 調停期日を調整する
- 裁判所の調査等を受ける
- 調停を開始する
- 遺産分割にかかる主張をする
- 調停条項の内容を確認する
- 調停手続きが終了する
- 調停調書に基づいて遺産を分割する
調停委員会は、以下の手順に基づいて調停を運営します。
- 相続人の範囲を確定する
- 遺産の範囲を確定する
- 遺産を評価する
- 特別受益・寄与分を確定する
- 遺産の分割方法を確定する
調停期日は概ね1か月に1度くらいのペースで設けられ、1回につき2~3時間くらい行われます。2回目からは、当事者の都合の良い日を聞いて次回の期日が定められます。
手続きの流れの詳細は、下記関連記事をご参照ください。

審判手続きの流れ
遺産分割審判の流れは、概ね以下のとおりです。
- 調停不成立により審判手続きに移行する(又は審判を申立てる)
- 審判手続きが開始する
- 審判手続終結直前に調停案が提示される
- 審判手続きが終結する
- 審判内容を実現させる
審理の手続きでは、裁判所が当事者の陳述を聴き取ったり、審判に必要な資料の収集(事実の調査)を実施したりします。
調停・審判で解決に至るまでの期間
調停期日の回数や審判手続きにおける審理期間には特に制限がなく、遺産の内容や調査の必要性など個々の事情によって異なります。
令和2年度の司法統計によると、全体の約65%が1年以内に終了しており、調停・審判を通じて、紛争解決まで5〜6回程度の期日が実施されているようです。
参考:司法統計 結果一覧 | 裁判所 – Courts in Japan
遺産分割に関連する訴訟(裁判)の種類
ここでは、遺産分割に関連する付随問題を解決するための訴訟手続きを紹介します。
相続人の地位不存在確認請求訴訟|相続人の範囲に争いがある場合
相続人の範囲に争いがある場合は、相続人の地位不存在確認請求訴訟により解決を図ります。
遺産分割を行うためには、相続人を確定しなければなりません。
共同相続人間で以下のような前提問題に争いがある場合は、それを解決しない限り、相続人の範囲を確定できません。
- 相続欠格事由・推定相続人廃除事由の存否
- 婚姻、離婚、養子縁組等の有効性
実務上、家庭裁判所の判断に当事者全員が従うことを前提とする場合に限り、遺産分割審判手続きで、このような前提問題も含めた判断をしてもらえることもあります。
しかし、審判手続きにおける判断には既判力が生じないため、当事者の対立が深刻である場合は、民事訴訟を提起して権利関係の確定を求めることが望ましいでしょう。
遺産確認請求訴訟|遺産の範囲に争いがある場合
遺産の範囲を確定させるための訴訟として、遺産確認請求訴訟があります。
遺産分割を行うためには、遺産の範囲を確定しなければなりません。
しかし、所有名義人と実質的な所有者の間に不一致がある場合など、共同相続人間で遺産の範囲に争いが生じることがあります。
例えば、登記上、相続人のうちの1人が所有者となっている不動産について、他の相続人が、実質上は被相続人の所有不動産であると主張するケースなどです。
遺産の範囲について当事者間の合意が見込めるのであれば、遺産分割調停・審判内で解決できることもあります。しかし、家庭裁判所が行う前提問題に対する判断には既判力が生じないため、民事訴訟により同一問題を再度争われる可能性があります。
当事者の対立が深刻である場合は、訴訟による解決を図るのが望ましいでしょう。
遺言無効確認請求訴訟|遺言の有効性を争う場合
遺言の有効性に争いがある場合は、遺言無効確認請求訴訟により解決を図れます。
ただし、遺言の無効確認は、調停前置主義がとられているため、訴訟を提起する前に調停を申立てなければなりません。
調停で話し合いがまとまらない場合は、遺言無効確認請求訴訟を提起します。

遺産分割協議無効確認請求訴訟|遺産分割協議の取消や無効を求める場合
遺産分割協議に無効原因があるかどうかについて紛争が生じた場合、無効の主張方法として、遺産分割協議不存在確認請求訴訟や遺産分割無効確認請求訴訟があります。
いずれも調停前置主義がとられているため、原則として、訴訟の提起前に調停を申し立てなければなりません。

遺留分侵害額請求訴訟|遺留分が侵害された場合
遺贈や贈与によって遺留分を侵害された兄弟姉妹以外の相続人は、受遺者や受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。
遺留分を侵害されていることを知ったら、まずは遺留分侵害者に対して内容証明郵便を送付する方法で遺留分侵害額請求権の行使の意思表示を行います。
当事者間の話し合いや調停手続きを経ても解決できない場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起して解決を図ります。

不当利得返還請求訴訟・損害賠償請求訴訟|遺産が使い込まれた場合
相続人の1人に遺産を使い込まれた場合、他の相続人は、使い込んだ相続人に対して不当に利得した遺産の返還を求めるか、失われた遺産に相当する金銭の賠償を請求できます。
当事者間の合意が見込めるのであれば、遺産分割調停・審判内で解決できることもあります。
しかし、使い込んだ相続人が素直に認めることは期待できないでしょう。
当事者間での解決が見込めない場合は、不当利得返還請求訴訟または損害賠償請求訴訟を提起して解決を図るのが望ましいでしょう。
まとめ
共同相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないときは、遺産分割調停・審判で解決を図ります。
遺産分割に関連する付随問題は、調停・審判内で判断してもらえることもありますが、当事者の対立が深刻である場合は、民事訴訟を提起して解決を図るのが望ましいでしょう。
審判や訴訟では、話し合いを前提とする調停と異なり、専門的な知識や経験が求められるため、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
遺産分割や前提問題に関するトラブルにお悩みの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。これまで蓄積された豊富なノウハウを活かし、問題解決をサポートいたします。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。