遺産分割調停の流れや調停手続きに関するよくある質問を解説

共同相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないとき、協議できないときは、各相続人はその分割を家庭裁判所に請求できます。

遺産分割調停は、どのように手続きが進められるのでしょうか。
この記事では、遺産分割調停の流れについて、以下のとおり解説します。
- 遺産分割調停を申立てるまでの流れ
- 遺産分割調停の手続きの流れ
- 遺産分割調停が不成立となった場合の流れ
- 遺産分割調停の流れに関してよくある質問
遺産分割調停の申立てをご検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
遺産分割調停を申立てるまでの流れ
ここでは、遺産分割調停を申立てるまでの流れを解説します。
申立書を準備する
管轄の家庭裁判所の窓口または裁判所ホームページから申立書の書式を取得し、申立書を作成します。申立ての内容に制限はありません。現物分割、換価分割のほか事情によってさまざまな分割方法を希望する旨を申立てたり、遺産の一部の分割を求めたりできます。
参考:遺産分割調停の申立書 | 裁判所 (courts.go.jp)
添付書類を準備する
申立書の添付書類を準備します。必須添付書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
- 申立人および相手方の戸籍謄本
- 申立人および相手方の住民票
分割を求める遺産に応じて、以下の書類も添付する必要があります。
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 預貯金の通帳または残高証明書等
- 株式の預り証または残高証明書等
- 自動車の登録事項証明書または車検証の写し
相続税申告をしている場合や遺言がある場合には、以下の書類を添付します。
- 相続税の申告書写し
- 遺言書の写し(検認済みの場合は検認済み証書も含む)

調停を申立てる
申立書や添付書類の準備が整ったら、相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所に、遺産分割調停を申立てます。
相手方が複数いる場合には、そのうちの1人の住所地を選べます。ただし、裁判所の判断で、被相続人の最後の住所地や主な遺産の住所地など、その分割事件に関わりのある住所地を選択するように指導されることもあります。
遺産分割調停の手続きの流れ
ここでは、遺産分割調停の手続きの流れを解説します。
申立書を提出した後は、概ね以下のとおり手続きが進められます。
- 調停期日を調整する
- 裁判所の調査等を受ける
- 調停を開始する
- 遺産分割にかかる主張をする
- 調停条項の内容を確認する
- 調停手続きが終了する
- 調停調書に基づいて遺産を分割する
ひとつずつ説明します。
調停期日を調整する
調停を申立てると、裁判所書記官が形式的な確認をし、形式が整っていれば受理します。調停事件として受理されると、家事調停委員会は、第1回目の調停期日と開始時刻を指定して、申立人と相手方を家庭裁判所に呼び出します。
なお、申立人に代理人弁護士が就いている場合は、弁護士を通じてあらかじめ日時を調整してもらえます。
裁判所の調査等を受ける
調停期日の呼出状は、家庭裁判所担当書記官から調停の相手方全員に送付されます。その郵便には照会書が同封され、主に以下の点について質問されます。
- 遺言の有無
- 共同相続人の確認
- 遺産の範囲
- 特別受益や寄与分の有無
- その他相続に関する事実関係
- 分割の希望
相手方は、自分の言い分を照会書に記入し、家庭裁判所に返送します。
家事審判官の指示により、必要があれば、専門的知識を有する調査官によって、以下の点を調査されることもあります。
- 当事者の主張およびその真意の把握
- 生活状況
- 事実関係
調停を開始する
当事者・代理人は、呼び出された調停期日に、家庭裁判所に出向きます。調停室で出頭カードに署名して、出席の手続きをします。
調停期日では、通常、申立人と相手方とは時間をずらして別々に調停室に呼ばれます。指定された時間になると、調停委員が待合室に呼びに来て、調停室に案内されます。
調停委員は、まず申立人から話を聞き、次に相手方の話を聞き、また申立人の話を聞くというように、双方の話を別々に聞きながら調停を進めます。
調停委員は、主に以下の点を聴取します。
- 紛争の実情
- 調停に至る経緯
- 当事者の事情
- 分割案の希望
遺産分割にかかる主張をする
法定相続分や寄与分、特別受益など法律上の主張と、それらを根拠づける資料を示します。当事者の事情に応じた分割方法を主張し、調停委員にその提案を理解してもらえるよう説得します。
調停条項の内容を確認する
通常、調停が成立する段階になると、調停委員が、家事審判官が入室する前に裁判所書記官の入室を求め、当事者を交えて、以下の点を確認します。
- 調停条項案の内容
- 申立書記載の当事者の住所の変更の有無
- 即時払いの金員がある場合には現金や小切手の所持など
上記確認を終えると、いったん当事者を退室させてから家事審判官と評議し、あらためて当事者双方を入室させて調停調書を作成します。
調停手続きが終了する
調停で当事者間の合意が成立し、調停委員会がその合意内容を相当と認めてこれを調書に記載すると、調停は成立します。調停が成立すると、調停手続きは終了します。
調停調書に基づいて遺産を分割する
調停調書に基づき、不動産の登記手続きや預貯金の名義変更等を行います。
調停調書は、確定した審判と同一の効力を有します。調停調書に、金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行その他給付義務を定めた合意内容が記載されると、執行力ある債務名義と同一の効力を有します。
そのため、例えば金銭給付義務を定めた調停調書が作成されると、給付が履行されない場合は直ちに強制執行が可能です。
遺産分割調停が不成立となった場合の流れ
ここでは、遺産分割調停が不成立となった場合の流れを解説します。
遺産分割調停が不成立となった後は、以下のとおり手続きが進められます。
- 審判手続きに移行する
- 審判手続きが開始する
- 審判手続終結直前に調停案が提示される
- 審判手続きが終結する
- 審判内容を実現させる
ひとつずつ説明します。
審判手続きに移行する
調停委員会が当事者間に合意が成立する見込みがないと判断した場合には、調停不成立として調停が終了します。不成立の旨の調停調書が作成され、遅滞なく当事者に通知されます。
調停不成立により調停手続きが終了した場合は、調停申立てのときに遺産分割審判の申立てがあったものとみなされます。
当然に審判手続きが開始されるので、あらためて審判申立書を提出する必要はありません。
審判手続きが開始する
家事審判は、裁判官である家事審判官が行います。
第1回審判期日では、当事者立ち会いのもと、家事審判官が以下の事項を確認・整理し、今後の審理計画を策定します。
- 調停での主張・書証の維持
- 争いない事実と争点
- 争点についての証拠
調停とは異なり、原則として当事者が対席する方式で審理が進められます。準備書面や書証は、あらかじめ相手方に写しを交付します。
審判手続きでは、各事件の実情に応じて、以下のような事実の調査や証拠調べが行われます。
- 陳述書、審問による当事者本人の調べ
- 事実関係人に対する照会・証人尋問
- 官公署や銀行等に対する調査嘱託
審判手続終結直前に調停案が提示される
裁判所は、審判手続終結直前の調停案を提示し、当事者間の合意による解決を試みます。調停成立の見込みがあれば、調停手続きに付します。
審判手続きが終結する
裁判所は、当事者に最終的な主張・立証の準備をする機会を与えるため、終結の段階を示します。双方の最終的な主張・立証を確認し、家事審判官が遺産の分割方法を決定します。審判により審判手続きが終了します。
遺産分割審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に不服申し立て(即時抗告)がなければ、審判が確定します。
審判内容を実現させる
審判内容に従い、遺産を分割します。遺産分割審判は、金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行その他給付を命じられます。このような給付的審判は、執行力ある債務名義と同一の効力を有するため、相手方が審判の内容を履行しない場合は、強制執行によってその内容を実現できます。
遺産分割調停の流れに関してよくある質問
ここでは、遺産分割調停の流れに関してよくある質問とその回答を紹介します。
調停期日はどのくらいの頻度で開かれる?
調停期日は、概ね1か月~1か月半に一度くらいの頻度で設けられます。
調停期日は1回どのくらいの時間?
1回につき2~3時間くらいです。
調停が成立するまで期日は何回くらい開かれる?
調停期日の回数や期間には特に制限がないため、調査の必要性や調停が成立する見込みなどによって異なります。
調停の席では相手方と顔を合わせなければならない?
調停期日は、通常、申立人と相手方とは時間をずらして別々に調停室に呼ばれるため、基本的には顔を合わさなくて済みます。申立人側と相手方側にはそれぞれ申立人待合室と相手方待合室が用意されているので、調停の前後も顔を合わさなくてもよいよう配慮されています。
調停は傍聴される?
調停は非公開の手続きであるため、第三者に傍聴されることはありません。
調停を途中で取下げるのは可能?
申立人は、調停手続きが係属している間は、いつでも書面または口頭で、調停を取下げられます。取下げ理由や相手方の同意も不要です。調停申立てが取下げられると調停は終了します。
まとめ
共同相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないとき、協議ができないときは、遺産分割調停を申立てられます。遺産分割調停には、共同相続人全員が参加しなければなりません。
調停による遺産分割は、家庭裁判所の手続きとはいえ、あくまで当事者の合意が基本となります。調停委員は、あらかじめ提出された資料を精査し、調停期日において各当事者から詳しく事情を聴いて、紛争解決の糸口を掴むよう努めてくれます。
当事者間で話し合いが困難なときは、遺産分割調停の申立てを検討しましょう。
調停手続きへの不安がある方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。