遺産分割に納得できない6つのケースと対処法を解説

遺言がない場合は、遺産を法定相続分どおりに分割するのか、相続人全員での話し合いで法定相続分と異なる割合で分割するのかを決めなければなりません。
相続人の一部に、被相続人から生前贈与を受けている人がいる場合や、被相続人の介護や事業の手伝いをして被相続人の財産の維持または増加に貢献(寄与)した人がいる場合は、法定相続分に従って分割したのでは公平を欠くこともあります。
法定相続分と異なる割合で遺産を分割する場合には、相続人全員の合意が必要です。
全員が納得できる遺産分割方法が決まればよいですが、意見や見解が対立して全員の納得が得られないケースも少なくありません。
この記事では、遺産分割の内容に納得できないケースや対処法について解説します。
遺産分割協議の内容に納得ができない方は、ぜひご参考になさってください。


遺産分割に納得できない!損をしているかもしれない6つのケース
ここでは、遺産分割に納得できないケースの具体例について解説します。
不公平な遺産分割案を提示された
遺産分割協議は、相続人全員の参加・合意が必要です。
他の相続人から、自分の希望だけを反映した一方的な遺産分割を提案されたり、明らかに不公平な分割内容の提案を受けたりしても、安易に応じないようにしましょう。
自分に有利な内容での遺産分割を強引に進めようとする相続人がいる場合、その他の相続人が不公平感を感じたり、納得がいかなかったりするのは当然のことです。

遺言の内容に納得がいかない
被相続人が、遺言によりすべての財産について遺産分割方法を指定した場合は、相続財産は、原則として遺言で指定された方法で分割されるため、共同相続人は遺産分割協議を行う必要がありません。
ところが、以下のように遺言で相続分のみが指定された場合は、具体的に誰がどの財産を相続するかが決められていないため、遺産分割協議が必要です。
遺言者は、次のとおり相続分を指定する。 ① 妻A 16分の2 ② 長男B 16分の9 ③ 次男C 16分の1 ④ 長女D 16分の1 ⑤ 次女E 16分の3 |
上記のように、遺言により法定相続分と異なる相続分が指定された場合、相続人の中には自らが相続できる割合に納得できない人もいるでしょう。
遺言と異なる遺産分割案を提示された
遺言は、被相続人の最終意思を示すものであるため、相続手続きにおいては原則として相続人の意思よりも優先されます。しかし、遺言の中には、相続人の一部または全員が納得いかないような内容のものもあります。
遺言の内容に納得できなくても、相続人は原則として遺言に従わなければなりません。例外的に、相続人全員の合意がある場合には、遺言と異なる遺産分割ができます。
そのため、遺言の内容に納得できない相続人から、遺言と異なる遺産分割案を提示されることもあります。
遺言の内容に納得している相続人や被相続人の意思を尊重したい相続人の立場からすれば、そのような提案に不満を感じることもあるでしょう。
特定の相続人に生前贈与がある
遺産分割協議で揉めないためには、各相続人の法定相続分を目安に分割方法を検討するのも有効です。しかし、被相続人から生前、一部の相続人が学費や結婚費用、生計の資本として贈与(特別受益)を受けているケースもあります。
特別受益を考慮しないで法定相続分に応じて遺産を分けると、特別受益者である相続人は他の相続人より遺産を多く受け取ることになるため公平を欠くこととなります。
特別受益が問題となる遺産分割協議では、相続人間の公平性を保つために特別受益分を考慮して相続財産の分配をしなければなりません。
特別受益を考慮して各相続人の具体的相続分が算定されていれば、贈与を受けていない人も納得して遺産分割協議を進められますが、そうでないケースが多数です。
生前贈与を受けた相続人の中には、特別受益であることを認めない人もいるため、話し合いがまとまらずトラブルになるケースもあります。
被相続人への寄与が反映されていない
相続人の中に、被相続人の生活の世話や病気の看護をしたり、無償で家業を手伝ったりして、被相続人の財産の維持または増加に貢献(寄与)した人がいる場合、遺産の一部はその相続人の寄与によって生じた財産とみることができます。
他の相続人が、この寄与を無視した遺産分割案を提示した場合、被相続人の財産の維持または増加に貢献した相続人が納得できず、遺産分割協議が進まないこともあります。
遺産の価格が適正に評価されていない
不動産や有価証券などの遺産の客観的な価値は、被相続人の死亡時から遺産分割がなされるまで絶えず変動します。遺産分割協議を進めるにあたり、いつの時点を基準に、どのような方法で、遺産の価値を評価するのかを決めなければなりません。
評価の基準時や評価方法について、当事者全員が合意できれば良いですが、相続人間で意見が対立することがあります。
例えば、相続人の1人が不動産を取得して、他の相続人に金銭を支払って清算する場合(代償分割)、不動産が時価より安く評価すると、他の相続人に支払われる代償金が低くなり、不動産を取得する人が実質的に多く遺産を取得することがあります。
遺産分割の前提問題である遺産の価格が適正に評価されていない場合には、相続人間に不満が生じることもあるでしょう。

遺産分割の内容に納得できない場合の対処法
ここでは、遺産分割の内容に納得できない場合の対処法について解説します。
法定相続分に基づく公平な遺産分割案を提案する
一部の相続人に有利な内容の不公平な遺産分割案を提案された場合には、公平な遺産分割案を再提案しましょう。
特別受益や寄与分を考慮する必要がない遺産分割協議では、法定相続分に従った相続配分を提案すると良いでしょう。
再提案に際して、相続人全員が理解・納得できるよう遺産の全容が把握できる遺産目録を作成して回覧するのも有益です。
遺言と異なる遺産分割案を提案する
遺言の内容に納得ができない場合は、遺言と異なる遺産分割ができないか他の相続人に話し合いを求めましょう。
遺言と異なる遺産分割を行うには、相続人全員の合意が必要です。
相続人全員による合意を得るためには、自身の希望だけでなく相続人全員の希望や意見を聞き取ることも重要です。各相続人の事情をお互いに理解し合い、互いにある程度の譲歩をすることを心がけましょう。
遺留分侵害額を請求する
遺留分を侵害する相続分が指定されたことを理由に、遺言と異なる遺産分割協議を申し入れても、他の相続人が合意しなければ、遺言に従わなければなりません。
ただし、遺言により、自己の遺留分を侵害する相続分が指定された場合などには、相続分の指定によって利益を受けた相続人や受遺者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く相続人に保障された遺産の最低額の取り分です。

遺留分侵害額を請求する場合は、その旨の書面を作成して、相手方に対し配達証明付き内容証明郵便で意思表示します。遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しなければ、時効により消滅するため、1年以内に意思表示しましょう。
意思表示を行った後は、相手方と遺留分侵害額について協議します。協議の結果、遺留分侵害額の金額について合意できれば、合意書を作成します。
当事者間で協議がまとまらない場合には、調停・訴訟等の裁判手続きを利用します。

特別受益の持ち戻しを主張する
一部の相続人に特別受益が認められる場合には、まずは遺言によって持ち戻し免除の意思表示がなされていないかを確認します。
持ち戻し免除の意思表示がない場合は、遺産分割において特別受益を相続財産に持ち戻すよう主張します。特別受益の主張は、特別受益のない相続人が行わなければなりません。通常、特別受益者が自発的に相続分の減額を申し出ることはないからです。
持ち戻しとは、特別受益を相続分の前渡しと考えて、計算上相続財産に戻して加算することです。特別受益を加算した相続財産全体を基礎として、各相続人の相続分を計算すれば、公平な分配が実現できます。
特別受益を主張する場合は、贈与の事実を証明できる資料や証拠を収集して、特別受益を受けたと考えられる人に、贈与等があった事実を認めてもらわなければなりません。当事者間の話し合いで合意できない場合は、遺産分割調停・審判で解決を図ります。
寄与分を主張する
共同相続人のうち被相続人の財産の維持又は増加について特別に寄与した人は、遺産分割にあたり、寄与分を主張できます。
寄与分を主張するためには、次の要件を満たさなければなりません。
- 寄与行為(被相続人の療養看護、被相続人の事業への労務の無償提供等)があること
- 法定相続分による分割が不公平と思われる程度の寄与(特別の寄与)があること
- 被相続人の財産の維持または増加があること
- 寄与行為と被相続人の財産の維持または増加との間に因果関係があること
寄与分を認めてもらいたい場合は、自身が特別の貢献をしたことを裏付ける資料を準備し、遺産分割協議において具体的な寄与分の額を含めて自ら主張しましょう。
共同相続人の理解・納得が得られれば、他の相続人よりも多くの遺産を取得できる可能性があります。
寄与分について相続人間で協議がまとまらないときや、協議ができないときには、遺産分割調停・審判の手続きを利用できます。
弁護士を通じて遺産分割の交渉をする
他の相続人から提示された遺産分割案に納得できない場合や、提示された分割案が公平な内容なのか判断できない場合は、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、他の相続人の言い分が正当なものであるか不当な要求であるかを判断できるため、的確に反論できます。法的に認められる権利や制度も説明してもらえるので、不利な結果になるのを防げます。

遺産分割調停・審判を利用する
当事者間の話し合いでは、相続人全員が納得できる遺産分割の方法を見出せない場合は、裁判所の手続きを利用するのも有効な手段です。
遺産分割調停では、調停委員会が相続人全員の事情や希望を聴き取った上で、解決案の提示や解決のために必要な助言をしてもらえます。
調停で合意に至らなかった場合には、審判手続きにおいて、裁判官に具体的な分割方法を決めてもらえます。

遺産分割の内容に納得できない場合は弁護士に相談を
ここでは、遺産分割の内容に納得できない場合に弁護士に相談・依頼するメリットを解説します。
他の相続人と顔を合わせなくても済む
自分に有利な内容での遺産分割を強引に進めようとする相続人がいる場合は、遺産分割や相続の実務に精通している弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、代理人として遺産分割協議に参加してもらえるため、他の相続人と直接顔を合わせたり話したりする必要がなくなり、心理的負担が軽減されます。
法的に認められる権利を説明してもらえる
相続人だけで話し合いを進めると、意見が対立したり、感情的になったりして遺産分割協議が進まないケースがあります。
弁護士に依頼すれば、法的に認められる権利や制度を説明してもらえるため、法律的な考え方をベースに適正な方法で交渉を進められます。
遺産の価格を適正に評価してもらえる
他の相続人が遺産を不当に安く評価したり、遺産を隠したりしている場合は、遺産分割協議を正しく進められません。
弁護士に依頼すれば、被相続人の遺産を調査して適正に評価してもらえるため、不利な内容で合意するリスクを軽減できます。
特別受益や寄与分について適切な主張を提案してもらえる
特別受益や寄与分を主張するためには、主張を裏付ける証拠資料を収集し、法的根拠のある主張をしなければなりません。
相続の実務に精通した弁護士であれば、過去の判例や学説に基づき、適切な資料を集めて法的根拠のある主張・立証を行えます。
まとめ
遺産分割協議では、他の相続人から不公平な提案を受けたり、不当な要求をされたりしてトラブルになるケースがあります。
提案された分割案に納得できない場合や、自分では相手の主張が正しいかどう分からない場合は、弁護士への相談をおすすめします。
相続の実務に精通した弁護士に依頼すれば、遺産分割後も円満な親族関係を維持できるよう、相続人全員が納得できる落としどころを探り、最善の形で交渉をまとめてもらえる可能性があります。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。