相続した親の土地の名義変更とは|自分で手続きする場合の費用や期限

亡くなった親などから土地や建物を相続した場合、名義変更が必要です。特に、相続した土地の名義変更は相続登記とも呼び、2024年4月から義務化されています。
相続した土地の名義変更を行わない場合、過料(行政罰)が科されるほか、その土地や建物の活用ができなくなるなどのデメリットがあります。
この記事では、亡くなった親などから相続した土地の名義変更について、以下の点を解説します。
- 相続した土地の名義変更とは?
- 亡くなった親の土地の名義変更を自分でする方法
- 名義変更に必要な書類や費用
- 亡くなった人の土地の名義変更をしないとどうなる?
目次
亡くなった親の土地を相続したら名義変更が必要
ここでは、そもそも土地の名義変更とは何か、土地の名義変更の義務化についてわかりやすく解説します。
土地の名義変更とは
土地の名義変更とは、不動産の所有者が変更されたことを法務局に申請して、登記簿に記録する手続きのことです。
土地や建物などの不動産の所有者は法務局の登記簿で管理されており、所有者が変更された場合は、名義変更が必要です。
名義変更が行われないと、自分の土地だと主張することができず、不動産の売却などができなくなります。
名義変更は、不動産の売買や贈与、相続、離婚時の財産分与などで不動産の所有者が変わった場合に行う必要があります。
相続した土地の名義変更は2024年から義務化
これまで、土地を相続しても名義変更(相続登記)がなされないまま、放置されるケースが多くありました。
しかし、2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。正当な理由がないまま手続きを怠ると、10万円以下の過料の対象となります。
(所有権の保存の登記の登記事項等)
第七十六条 所有権の保存の登記においては、第五十九条第三号の規定にかかわらず、登記原因及びその日付を登記することを要しない。ただし、敷地権付き区分建物について第七十四条第二項の規定により所有権の保存の登記をする場合は、この限りでない。
2 登記官は、所有権の登記がない不動産について嘱託により所有権の処分の制限の登記をするときは、職権で、所有権の保存の登記をしなければならない。
一部引用:不動産登記法第76条 – e-Gov
相続登記義務化は、登記されていない所有者不明の土地が全国で増加し、公共事業・災害復旧事業や民間の土地開発の妨げになっているため導入されました。
国土交通省の2016年の地籍調査によると、全国の土地の所有者不明率は20.3%、約410万ヘクタール、九州の土地面積に匹敵する土地が所有者不明となっています。
亡くなった親の名義変更は3年以内
亡くなった親や亡くなった人の名義変更の期限は3年以内です。
条件 | 期限 |
不動産を相続した場合 | 自分が相続人となり相続財産に不動産があると知った日から3年以内 |
遺産分割が成立した場合 | 遺産分割が成立した日から3年以内 |
2024年4月の義務化以前に相続が開始された場合 | 相続開始から3年以内 |
なお、2024年4月の義務化以前に相続した土地についても、3年の猶予期間が設けられており、2027年3月31日までに名義変更を行う必要があります。

亡くなった親の土地の名義変更を自分でする方法
亡くなった人や亡くなった親の土地を相続した場合、自分で名義変更を行うことも可能です。相続した土地の名義変更は以下の手順で行います。
①必要書類を用意する
②登記申請書を作成する
③法務局に申請する
④登記識別情報通知を受け取る
必要書類を用意する
まずは、亡くなった親や亡くなった人の土地の名義変更に必要な書類を用意します。
必要な書類は遺産分割協議による相続なのか、遺言書によるものなのかによって異なります。必要書類については、後述します。
登記申請書を作成する
相続した土地の名義変更をする際は、登記申請書を作成・提出します。ひな形は法務局のホームページの登記申請書の様式及び記載例の見出しの下に用意されています。
登記申請書についても、遺言書による相続なのか、遺産分割協議で決定した相続なのか、法定相続分で分割したものなのかによって、使用するひな形が異なります。
例えば、遺産分割協議で土地の相続が決まった場合の申請書の記載例は以下のとおりです。
登記申請書には以下の内容を記載します。
- 不動産の所在地
- 申請人(相続人)の氏名・住所
- 被相続人の氏名・死亡日
- 相続の原因(例:令和〇年〇月〇日死亡による相続)
- 登記の目的(例:所有権移転登記)
- 固定資産評価額
- 登録免許税の計算(固定資産評価額×0.4%)
以下の点には注意が必要です。
申請書の用紙サイズ | A4サイズ・片面印刷 |
資料の添付 | 登記申請書は必要書類と一緒に左側の余白2か所をホチキスでとめる |
記載方法 | パソコンやワープロ入力、もしくは黒インクや黒ボールペンで記載
鉛筆は不可 |
法務局では、登記申請書の書き方について詳しく紹介したパンフレットも公開しているので、参考にしてみてください。
参考:相続登記申請手続のご案内(遺産分割協議編) – 法務局
法務局に申請する
登記申請書を作成したら、用意した書類と一緒に法務局に申請します。法務局への申請は以下の方法で行うことが可能です。
提出方法 | メリット | デメリット |
窓口で直接提出する | 事前予約で不明点の相談可能
不備があればその場で確認してもらえる |
法務局が遠方の場合、出向く手間がかかる
法務局の開庁時間が限られている |
郵送する | 法務局に出向く手間がかからない | 不備があった場合に再提出する手間がかかる |
オンラインで申請する | 法務局に出向く手間がかからない | 申請用ソフトのインストールや、登録免許税を電子納付が必要で、知識がないと難しい
一緒に添付する書類はオンライン申請できないので、郵送か持参が必要 |
初めて手続きを行う場合は、直接法務局の窓口に行き、職員に確認しながら申請するのが安心です。
また、法務局によっては事前相談を受け付けているため、疑問点がある場合は利用するとよいでしょう。
登記識別情報通知を受け取る
法務局の窓口で直接申請した場合は、書類の審査と登記に1~2週間ほどかかります。
登記が無事完了した場合は、登記識別情報通知及び登記完了証を受け取れます。
登記識別情報通知は、不動産の売却や贈与、担保とする場合に使用する重要なものです。
これらの書類は、郵送か窓口での受け取りが選択できます。
窓口で受け取る場合は、登記申請書に使用した印鑑が必要です。忘れずに持参しましょう。

相続した土地の名義変更の必要書類
相続した土地の名義変更に必要な書類は、相続方法によって異なります。
遺言書の場合
発見された遺言書のとおりに相続する場合に必要な書類は以下のとおりです。
対象者(誰の書類) | 書類の名称 | 入手先 | 備考 |
亡くなった人(被相続人) | 遺言書 | ①自筆証書遺言:自宅や法務局
②公正証書遺言:公証役場 ③秘密証書遺言:自宅など |
検認もしくは遺言書情報証明書が必要 |
戸籍謄本(戸籍事項証明書)または除籍謄本、改正原戸籍 | 被相続人の本籍地の市区町村役場 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本が必要 | |
住民票の除票または戸籍の附票 | 除票:住所地の市区町村役場
附票:本籍地の市区町村役場 |
死亡によって除かれた住民票(除票)、もしくは附票が必要
登記簿上の住所と本籍地の記載があるもの |
|
相続した人(新しい所有者) | 戸籍謄本(抄本)(戸籍事項証明書) | 相続した人の本籍地の市区町村役場 | 被相続人が亡くなった日以降に発行されたもの |
固定資産税課税証明書 | 不動産所在地の税務署または市区町村役場 | 相続した不動産の登記申請時の年度のものが必要(死亡した年度ではない)
所有者であれば取得可能 |
|
住民票 | 住所地の市区町村役場 | — |
除籍謄本や附票などは、相続の手続きでもお馴染みのものですが、簡単に説明します。
戸籍謄本とは | 生きている人の戸籍
被相続人の戸籍に配偶者が残っている場合に必要となる |
除籍謄本とは | 死亡者や結婚して戸籍から抜けた人の戸籍のこと
被相続人の戸籍に誰も残っていない場合に必要となる |
戸籍の附票 | 戸籍が作成されからの住所が記録されたもの |
戸籍の除票 | 死亡者や本籍地以外に転籍して戸籍から除籍となった人の附票のこと |
抄本とは | 戸籍に記載されている一部の人の証明書 |
名義変更に必要な遺言書には3種類ありますが、自筆証書遺言が法務局に保管されている場合は、遺言書情報証明書を交付してもらいましょう。
法務局に保管されておらず、自宅で発見された遺言書は、家庭裁判所で検認の手続きが必要です。
相続した土地の新しい所有者は、他にも以下の書類を作成して提出します。
登記申請書 | 法務局のホームページからひな形をダウンロードして記入する |
相続関係説明図 | 被相続人と法定相続人の関係を示した家系図のようなもの |

遺産分割協議の場合
遺言書がない場合や、相続人全員が遺産分割協議で相続することを決めた場合は、遺産分割協議で相続分を決定します。
遺産分割協議で相続が決まった場合に必要な書類は以下のとおりです。
対象者(誰の書類) | 書類の名称 | 入手先 | 備考 |
亡くなった人(被相続人) | 戸籍謄本(戸籍事項証明書)または除籍謄本、改正原戸籍 | 被相続人の本籍地の市区町村役場 | — |
住民票の除票または戸籍の附票 | 除票:住所地の市区町村役場
附票:本籍地の市区町村役場 |
||
相続した人(新しい所有者) | 住民票 | 住所地の市区町村役場 | |
固定資産税課税証明書 | 不動産所在地の税務署または市区町村役場 | 相続した不動産の登記申請時の年度のものが必要(死亡した年度ではない)
所有者であれば取得可能 |
|
相続人全員 | 戸籍謄本(抄本)(戸籍事項証明書) | 相続した人の本籍地の市区町村役場 | 被相続人が亡くなった日以降に発行されたもの |
印鑑証明書 | 住所地の市区町村役場 | 遺産分割協議書に押印された印鑑に関するもの |
他にも以下の書類を作成して提出します。
作成者 | 書類の名称 | 備考 |
新しい所有者 | 登記申請書 | 法務局のホームページからひな形をダウンロードして記入する |
相続関係説明図 | 被相続人と法定相続人の関係を示した家系図のようなもの | |
相続人 | 遺産分割協議書 | 遺産分割協議の内容をまとめた合意書
相続人全員の署名捺印(実印)が必要 |
法定相続分の場合
遺言書がなく、遺産分割協議で決定しなかった場合は、相続人全員でそれぞれの法定相続分を基準に財産を分けることも可能です。
法定相続分で分けた場合に必要な書類は以下のとおりです。
対象者(誰の書類) | 書類の名称 | 入手先 | 備考 |
亡くなった人(被相続人) | 戸籍謄本(戸籍事項証明書)または除籍謄本、改正原戸籍 | 被相続人の本籍地の市区町村役場 | — |
住民票の除票または戸籍の附票 | 除票:住所地の市区町村役場
附票:本籍地の市区町村役場 |
||
法定相続人全員 | 戸籍謄本(抄本)(戸籍事項証明書) | 相続した人の本籍地の市区町村役場 | 被相続人が亡くなった日以降に発行されたもの |
固定資産税課税証明書 | 不動産所在地の税務署または市区町村役場 | 相続した不動産の登記申請時の年度のものが必要(死亡した年度ではない)
所有者であれば取得可能 |
|
住民票 | 住所地の市区町村役場 | — |
他にも以下の書類を作成して提出します。
作成者 | 書類の名称 | 備考 |
新しい所有者 | 登記申請書 | 法務局のホームページからひな形をダウンロードして記入する |
相続関係説明図 | 被相続人と法定相続人の関係を示した家系図のようなもの | |
相続人 | 遺産分割協議書 | 遺産分割協議の内容をまとめた合意書
相続人全員の署名捺印(実印)が必要 |
相続した土地の新しい所有者や申請者は、他にも以下の書類を作成して提出します。
登記申請書 | 法務局のホームページからひな形をダウンロードして記入する |
相続関係説明図 | 被相続人と法定相続人の関係を示した家系図のようなもの |
参考:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等 – 法務局
亡くなった親の土地の名義変更にかかる費用
亡くなった親や亡くなった人の土地を名義変更する場合は、以下のような費用がかかります。
書類の取得費用
前述のとおり、相続した土地の名義変更には、戸籍謄本などさまざまな書類が必要です。
これらの書類は役所でそろえられ、1通あたり1,000円以内で発行してもらえることがほとんどです。
しかし、複数の書類が必要であるため、取得費用として数千円から1万円程度かかることになります。
登録免許税
相続した土地の名義変更を行い、登記する際は、登録免許税という税金がかかります。
登録免許税の金額は、不動産の固定資産評価額の0.4%です。課税標準(評価額の1,000円未満を切り捨てた金額)×0.4%で計算できます。
たとえば固定資産評価額が1,000万円の土地の場合、登録免許税はそのうちの0.4%、4万円となります。
固定資産評価額は、市区町村の役所で発行される固定資産評価証明書に記載されています。評価額が高いほど登録免許税も高くなるため、事前に確認しておくことが大切です。
司法書士費用
相続登記は司法書士に依頼して行ってもらうことも可能です。司法書士に依頼した場合の費用の相場は平均5~8万円程度とされています。
ただし、司法書士費用は、司法書士事務所の料金体系や、土地の評価額、相続人の人数によって変動するため、事前に見積もりを取るのが望ましいでしょう。
相続税
亡くなった親や亡くなった人の土地を相続した場合は、相続税もかかる点に注意が必要です。
ただし、相続税には基礎控除があり、3,000万円+(600万円×法定相続人)の金額は非課税です。
例えば、相続人が二人の場合は、4,200万円を超えた部分に相続税が課税されます。
他にも配偶者控除(1億6,000万円まで非課税)や、小規模宅地等の特例(評価額最大80%まで減額)といった制度があります。
土地の評価額や特例の適用によって税額は変わるため、相続税の申告が必要かどうかは税理士に相談するとよいでしょう。

亡くなった親の土地を名義変更しないとどうなる?
亡くなった親の土地の名義変更をしない場合、以下のようなリスクやデメリットがあります。
- 10万円以下の過料が科される
- 相続した土地が活用できない
- 相続が複雑になる
- 相続した土地が差し押さえられる危険性がある
以下で詳しく解説します。
10万円以下の過料が科される
2024年4月から相続登記が義務化され、亡くなった親などの土地を相続した場合、3年以内に名義変更が必要です。
正当な理由なくこの手続きを怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
過料は行政罰であるため、刑事罰のように前科がつく心配はありませんが、過料の対象とならないためにも、早めに手続きを進めましょう。
相続した土地が活用できない
土地や建物は売却したり、金融機関から融資を受ける際に担保にしたりできます。
しかし、名義変更をしないと土地の売却や担保の設定などができず、土地や建物を活用できません。
せっかく親などから土地を相続しても、活用できなければ固定資産税だけがかかり続けることになります。
相続が複雑になる
何代にもわたり土地の名義変更がなされず放置されると、次の世代が相続した際に手続きが複雑になります。
例えば、名義人が曾祖父だった場合、祖父、父、自分の3回の名義変更が必要となります。
この相続登記の手続きにも、死亡から出生までの戸籍など、各書類を用意しなければなりません。
さらに、登記手続きが複雑化すると自分では対応できなくなります。司法書士に依頼した場合でも、費用が高額になる可能性があり注意が必要です。

相続した土地が差し押さえられる危険性がある
相続した土地の名義変更を行わないと、場合によっては土地が差し押さえられる可能性があります。
これは土地を他の相続人と共有分割した際に起こり得るトラブルです。自分と兄弟の一人が親から土地を相続し、兄弟が所有した部分だけ名義変更をしていたとします。
名義変更した部分だけは売却や担保の設定が可能です。
もし兄弟が土地を担保に金融機関から融資を受けていて、その支払いを滞納した場合は、担保としていた土地が差し押さえられることになります。
しかし、自分の所有分を名義変更しておかなければ、自分の所有分だと主張できません。このようなトラブルが生じる危険性があるため、必ず名義変更を行いましょう。

相続した土地の名義変更に関するよくある質問
相続登記と名義変更の違いは?
亡くなった親や亡くなった人から相続した土地を名義変更することを相続登記と言います。
一方、土地の名義変更、いわゆる不動産登記とは、相続に限らず売買や贈与などによって所有者が変更になった際に、法務局に所有者が移転したと申請することです。
どちらも名義変更という意味では同じですが、相続の際の名義変更のことを相続登記と呼びます。
亡くなった人の土地の名義変更はいつまで?
前述のとおり、2024年4月から、相続登記は義務化されました。
これにより、亡くなった人の土地の名義変更は、相続財産に不動産があると知ってから3年以内に行う必要があります。
なお、2024年4月以前に相続が発生していた場合は、2027年3月31日までに名義変更を行う必要があります。
相続した土地の名義変更は誰に相談できる?
相続した土地の名義変更は、司法書士や弁護士に相談できます。相続登記は弁護士でも対応可能ですが、登記を専門として扱っている司法書士に依頼するのが一般的です。
一方で、相続人同士の争いに関する交渉や140万円以上の裁判手続きは弁護士にしか対応できません。
相続税に関しては、税金を熟知している税理士に相談しましょう。
まとめ
亡くなった親の土地を相続したら、名義変更を早めに行うことが重要です。
相続した土地の名義変更は、2024年からは義務化され、3年以内に手続きを完了しないと行政罰が科される可能性があります。
さらに、売却など土地が活用できないばかりか、今後自分の土地を相続する相続人にも複雑な手続きを強いることになります。
亡くなった親や亡くなった人から相続した土地は、法務局で名義変更が可能です。
もし手続きが複雑で不安な場合は、司法書士などに依頼することで、手続きをスムーズに進められます。専門家のサポートを受けながら、早めに対応を進めましょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。