遺産分割をやり直せるのはどんなとき?やり直す場合の注意点も解説

遺産分割を完了した後は、原則としてやり直しはできません。
しかし、次の3つのケースでは例外的に遺産分割のやり直しが可能です。
- 相続人全員の合意があるとき
- 遺産分割の取り消しが認められるとき
- 遺産分割が無効であるとき
この記事では、遺産分割のやり直しについて、以下のとおり解説します。
- 遺産分割のやり直しが認められるのはどんなとき?
- 遺産分割のやり直しが必要になるのはどんなケース?
- 遺産分割後に新たな相続財産が見つかった場合はやり直しではなく追加協議する
- 遺産分割をやり直す方法
- 遺産分割をやり直す場合の注意点
遺産分割をやり直したいとお考えの方や、遺産分割についてトラブルを抱えている方は、ぜひご参考になさってください。

目次
遺産分割のやり直しが認められるのはどんなとき?
ここでは、遺産分割のやり直しが認められるケースについて解説します。
共同相続人全員の合意があるとき
遺産分割協議が有効に成立した場合でも、共同相続人全員の合意がある場合は、当初の遺産分割協議を合意解除し、再協議できます。
詐欺や脅迫等により遺産分割に合意させられたとき
遺産分割協議に際して、他の相続人に騙されたり脅迫されたりした場合は、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
他の相続人に嘘をつかれたり脅されたりして、遺産分割協議に合意した場合、その合意の意思表示は民法で規定されている取消しの対象となります(民法第96条第1項)。
合意の意思表示が取り消されたら、当初の遺産分割協議が無効となるので、やり直しをしなければなりません。

遺産分割協議において錯誤があったとき
遺産分割後、遺産分割協議書の中に、遺産でない財産が混入していたり、遺産が漏れていたり、予想しなかった債務が発見されたりすることがあります。相続人が隠していた遺産や特別受益対象財産が発見される場合もあります。
このような問題が発生した場合も、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
相続人が隠されていた財産の存在や瑕疵を最初から知っていれば、遺産分割の内容に合意しなかったようなケースでは、錯誤を理由として取り消すことができます。
ただし、取り消さなければならないほど隠されていた財産や錯誤が重大でないときは、既に作成した遺産分割協議書を維持して、補完的に協議すれば足りるケースもあります。

遺産分割協議の成立後に遺言が発見されたとき
遺産分割協議が成立した後に、遺言が発見された場合も、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
遺産分割協議後に遺言書が発見された場合は、まず、遺言の有効性や内容を確認します。遺言が法律の要求する方式を欠いているなど無効であることが判明すれば、当該遺産分割協議には何の影響もありません。
発見された遺言書が法的に有効なもので、その内容が遺産分割協議書に抵触する場合には、錯誤を理由に取り消される可能性があります。
遺言書の内容が、遺産分割協議書の効力や効果にどのような影響を与えるかは、一律に論じることはできません。しかし、遺言書の内容を把握していれば当初の遺産分割協議の成立はあり得なかったという場合は、錯誤により取り消とされる可能性が高いでしょう。

遺産分割のやり直しが必要になるのはどんなケース?
ここでは、遺産分割のやり直しが必要となるケースについて解説します。
次のようなケースでは、遺産分割が当然に無効となるため、やり直しが必要です。
- 遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった
- 遺産分割協議に参加した相続人が合意当初すでに認知症だった
- 未成年者とその親権者の両方が遺産分割協議に参加していた
ひとつずつ説明します。
遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった
遺産分割協議は、相続人全員の参加・合意が必要であるため、一部の相続人が除外されてなされた遺産分割協議は、当然に無効となります。
除外された者を含めて相続人全員で再協議をして、遺産分割協議を成立させなければなりません。
なお、遺産分割協議当時に相続人の中に胎児が含まれる場合、胎児を除外してなされた遺産分割協議も無効となります。胎児は、相続については既に生まれたものとみなされ、死体で生まれたときに権利を失うと規定されているからです(民法886条)。
遺産分割協議に参加した相続人が合意当初すでに認知症だった
遺産分割協議に参加した相続人の中に認知症の人がいて、合意当初すでに自分の意思を伝えたり、自分の状況を理解して物事を判断できなかったりした場合には、当該遺産分割協議は無効となります。
相続人本人の意思能力が欠如している場合は、家庭裁判所に後見開始の審判を申立てて、成年後見人を選任してもらう必要があります。成年後見人を選任せず、意思能力がない相続人に協議書に署名捺印させても、当該遺産分割協議は有効に成立しません。
相続人に認知症の方がいる場合は、成年後見人を選任したうえで、あらためて遺産分割協議をやり直しましょう。
未成年者とその親権者の両方が遺産分割協議に参加していた
遺産分割協議当時、相続人の中に未成年者がいて、かつ、その親権者も相続人として協議に参加していた場合は、当該遺産分割協議は無効となります。
相続人の中に未成年者がいる場合、その親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加できます。しかし、次のいずれかに該当する場合は、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらわなければなりません。
- 親権者自身も相続人として当該遺産分割協議に参加する場合
- 親権者が当該遺産分割協議において複数の未成年者の代理人となる場合
上記に当てはまる場合に、特別代理人を選任せずに親権者が未成年者を代理して遺産分割協議を成立させた場合は、遺産分割協議は無効となります。
このような場合は、特別代理人を選任したうえで、あらためて遺産分割協議をやり直す必要があります。
遺産分割後に新たに財産が見つかった場合はやり直しではなく追加協議する
ここでは、遺産分割後、新たに被相続人の財産が見つかった場合の対応方法について解説します。
新たに判明した遺産が、当初の遺産分割協議を無効とするほど重要な財産ではない場合には、未分割の遺産のみを追加協議により分割すれば足りる場合がほとんどです。
新たに判明した遺産が重要な遺産であり、相続人がその遺産があることを知っていたならば当初の遺産分割協議は成立しなかったといえるときは、遺産分割をやり直したほうが公平です。このような場合は、当初の遺産分割協議は錯誤により取り消せます。
なお、遺産分割協議に際して、後日新たな遺産の存在が判明した場合の取得者をあらかじめ定めることも可能です。
遺産分割をやり直す方法
ここでは、遺産分割をやり直す方法を具体的に解説します。
相続人全員で再協議する
遺産分割をやり直す場合、相続人全員の合意が必要になるため、相続人全員に再協議を申し入れます。
再協議の時点で死亡している相続人がいる場合は、死亡した人の相続人全員に参加してもらわなければなりません。
相続人全員の合意が得られれば、当初の遺産分割協議と同様に手続きを進めます。再協議の結果をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員で署名押印を行います。
遺産分割協議不存在確認や無効確認の訴えを提起する
相続人全員の同意が得られない場合や、当初の遺産分割協議に無効・取消事由が存在する場合は、訴訟手続きによる解決を図ります。
当初の遺産分割協議に無効原因があるかどうかについて、相続人間で紛争が生じた場合、無効の主張方法には、次のものがあります。
- 遺産分割協議不存在確認訴訟
- 遺産分割協議無効確認訴訟
いずれの場合も、原則として、訴訟の提起前に調停を申し立てる必要があります(前置調停主義)。
訴訟手続きにおいて、遺産分割協議の不存在・無効が確認されれば、改めて遺産分割の手続きを進めることになります。
遺産分割をやり直す場合の注意点
ここでは、遺産分割をやり直す場合の注意点について解説します。
贈与税や譲渡所得税がかかることがある
相続人全員の合意を得て遺産分割協議をやり直しても、一度納付した相続税は返還されません。
再協議によって得た財産は、税法上、贈与扱いとなるため、贈与税や譲渡所得税の負担が発生することがあります。再協議時にすでに相続税の申告納税を完了している場合には、相続税と贈与税の二重課税となります。贈与税は税率が高いため、税負担が大きくなる可能性があります。
登記や登録をやり直さなければならないこともある
遺産に不動産や車が含まれている場合、再協議で不動産や車の相続人を変更すると、登記や登録をやり直さなければなりません。
不動産の相続人を変更した場合は、登記にかかる費用のほか、不動産取得税も発生します。
やり直しができないケースもある
遺産分割協議をやり直しても、遺産を完全に元の状態に戻せるとは限りません。
再協議前に不動産を第三者に売却した場合で、かつ、再協議が成立する前に第三者が登記を完了している場合は、再度の遺産分割協議によって当該不動産を取得しても取り戻し請求が認められません。
詐欺や強迫によって取り消す場合も、当該第三者が相続人間の事情や行為を知らない場合には取り戻しが認められません。
まとめ
遺産分割協議に合意した後でも、事情があればやり直しできることがあります。
遺産分割のやり直しができるケースは限られていて、他の相続人トラブルが生じたり、余計なコストがかかったりする可能性もあります。
遺産分割のやり直しを検討する場合は、弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。