法定代理人とは|法定代理人になれる人や家族がなる場合の必要な手続き

法定代理人とは、本人に代わり意思表示や法律行為を代理できる法律で定められた代理人のことです。
法律用語として耳にしたことがある人もいるかもしれません。例えば、未成年者は単独で法律行為ができないため、法定代理人である親権者の同意を得て法律行為が可能となります。
相続では、本人と法定代理人との間で利害がぶつかることがあり、そのような場合は特別代理人の選任が必要となります。
以下では、法定代理人の概要や他の代理人との違い、家族が代理人になる方法などをわかりやすく解説します。
目次
法定代理人とは
法定代理人とは、本人に代わり意思表示や法律行為を代理する法律で定められた代理人のことです。
代理人が行った意思表示により、本人はその効果を得ることができます。
たとえば、民法第5条では、未成年の子どもが法律行為をする際は、その法定代理人(親権者)の同意が必要と定められています。
これは、未成年者の判断能力が成人と比べて十分ではないと考えられているためです。
このように、本人が法律上の行為を行う能力がない場合に、法律で定められた人が代理として行うのが法定代理人です。
法律上、あるいは、本人の判断能力や意思疎通において、自分で適切な判断が難しい人を、不利な立場から守るために定められた制度です。
法定代理人と各種代理人との違い
本人の行為を代理で行う代理人にもさまざまな種類があります。以下では、各代理人との違いについて解説します。
- 任意代理人との違い
- 特別代理人との違い
- 相続の法定相続人との違い
任意代理人との違い
任意代理人は、本人が自分の意思で、この人に代理してもらおうと決めて委任する代理人です。
たとえば、仕事が忙しくて行政手続き(申請や届け出)ができない場合に、委任状を得た親族が本人の代理で手続きを行うことが考えられます。
さらにわかりやすい例で言えば、相続手続きについて、弁護士に依頼し、契約書を結んで、依頼者の代わりに交渉や裁判所の手続きを行うのも任意代理人です。
任意代理人は本人が選んだ人が務めますが、法定代理人は法律であらかじめ代理人として決められている点が異なります。
特別代理人との違い
特別代理人は、法定行為の中で、本人と法定代理人で利益相反が生じる場合に、家庭裁判所の許可を得て一時的に選ばれる代理人です。
たとえば、親が子どもの法定代理人である場合に、親自身も相続人として遺産分割協議を行うと、子どもの利益と親の利益が衝突する可能性があります。
そのようなときに、中立の立場で代理を行う人が特別代理人です。
相続の法定相続人との違い
法定代理人と法定相続人は名前が似ていますが、意味はまったく異なります。
法定相続人とは、亡くなった人の財産を法律上受け取る権利がある人のことを指します。
法定相続人は、相続の際に使用される用語です。
法定代理人の種類となれる人
法定代理人にはさまざまな種類があります。
例えば、相続人がいない場合に、亡くなった人の財産管理や清算を行う相続財産清算人なども法定代理人の一種です。
相続財産清算人は専門知識が必要であるため、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門家を選びます。
家族が関係する法定代理人には以下の種類があります。
- 親権者(母親・父親)
- 未成年後見人
- 成年後見人
親権者(母親・父親)
未成年者は、原則として法律行為を単独で行えず、法定代理人の同意が必要です。
親権者は、未成年の子どもを監護し、教育し、財産を管理する権利と義務を持つ親のことを指します。
一般的には父母の両方が親権者ですが、離婚などの事情でどちらか一方が親権者になることもあります。
補足として、2026年5月までに離婚後の共同親権が導入されるため、離婚後も両親が親権者となることがあります。
親権者は子どもの法定代理人として、相続手続きや契約などの法律行為を代わりに行うことができます。
未成年者の法定代理人とは未成年後見人
未成年後見人は、親権者がいない未成年者に対して、家庭裁判所が選任する代理人です。
たとえば、両親が亡くなった場合や親権を喪失した場合に、子どもが単独で法律行為を行うことができないため、未成年後見人が必要になります。
未成年後見人となるのに必要な資格はないため、成人であれば兄弟姉妹などでも立候補して、未成年後見人になれます。
未成年後見人は、未成年者の生活や教育、財産管理などを行い、法的手続きを代理して進めます。
高齢者の法定代理人とは成年後見人
成年後見人は、認知症や障がいなどにより判断能力が低下した人が安心して生活できるように、財産管理や法律行為の代理を行う人です。
成年後見人にもいくつか種類があります。
後見人の種類 | 内容 |
法定後見人 | 家庭裁判所が選任する代理人のこと 財産管理・契約手続き・契約の取り消しなどが可能 |
保佐人、補助人 | 判断能力の程度に応じて、家庭裁判所が選任する代理人のこと 法定後見人の一種 本人が法律行為を行う際の同意や、同意のない行為を取り消しできるなどの権限がある |
任意後見人 | 本人が判断能力があるうちに、任意後見契約を結んで選ぶ後見人 判断能力が低下した際に、契約書の範囲で代理行為をする |
成年後見人は、家庭裁判所が後見開始の審判を出したうえで選任されます。
成年後見人には、家族や弁護士、司法書士などが選ばれることがあり、代理権の範囲は幅広く、本人の生活を支える重要な役割を果たします。

相続で法定代理人が必要となるケース
相続人が未成年者の場合
相続で法定代理人が必要となるケースの一つは、相続人が未成年者である場合です。
未成年者は単独で法律行為を行う能力がないため、相続人として遺産分割などの手続きを行うには、法定代理人が必要です。
なお、代理人ではなく、未成年者が単独で相続手続きを行うと、その法律行為は無効となります(民法第3条の2)。
通常は親権者が代理人となりますが、親子が相続人で利害関係にある場合には、家庭裁判所が選任する特別代理人が必要になることがあります。
相続人が高齢で認知能力が低下している場合
高齢の相続人が認知症などで判断能力が十分でない場合、相続手続きを適切に進めることが難しくなります。
その場合は、家庭裁判所に申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。
なお、高齢の相続人にすでに成年後見人がついていても、両者が相続人であるなど、利益相反がある場合には、特別代理人の選任が必要です。

相続手続きが難しい場合
遺産分割協議や不動産の名義変更、税務申告など、相続には多くの手続きが必要です。
他にも、相続人同士のトラブルで、遺産分割協議が進まないような場合は、任意代理人として、弁護士に依頼するのも一つの選択肢です。
相続の経験豊富な弁護士であれば、法律や相続の経験を活かし、依頼者やその相続人の意見を整理して、納得できる遺産分割が実現できる可能性があります。

相続人同士で利益相反がある場合は特別代理人が必要
前述のとおり、未成年者や認知症など代理人を必要とする人と、実際の代理人の利益が衝突する場合は、家庭裁判所に申し立てをして、中立の立場で行動できる特別代理人を選任してもらう必要があります。
なお、相続人に未成年者が複数人いるような場合は、未成年者の数だけ特別代理人を選任しなければなりません。
相続手続きで家族が代理人になるには
相続手続きで家族が代理人になることはできるのでしょうか。
以下では、家族が法定代理人になる方法、特別代理人を選任する方法などを解説します。
家庭裁判所に申し立てる
未成年者や判断能力が低下した高齢者が相続人となる場合、家族が代理人として相続手続きを行うには、家庭裁判所に申し立てて正式に法定代理人として認められる必要があります。
ただし、法定代理人をつけている本人と法定代理人が相続人となる以下のようなケースでは、利益相反となるため、後述する特別代理人の選任を行うとよいでしょう。
- 未成年者と親が相続人
- 高齢者と成年後見人(兄弟)が相続人
- 未成年者と未成年後見人(祖父)が相続人 など
なお、成年後見人に対して家庭裁判所が監督人を選任している場合は、監督人が被後見人(本人)の代理人となるため、特別代理人の選任は不要です。
法定代理人がいない未成年者や高齢者が相続人の場合は、未成年者や高齢者の住所を管轄とする家庭裁判所に下記の申し立てを行います。
- 未成年者の場合は、未成年後見人選任の申し立て
- 成人で判断能力が低下している場合は、後見開始の申し立て
申し立ては、相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申し立て手数料はいずれも800円程度ですが、その他戸籍謄本や財産に関する資料などの取得が必要です。
参考:未成年後見人選任 – 裁判所
参考:後見開始 – 裁判所
利益相反がある場合は特別代理人を選任してもらう
家族が代理人になる場合でも、相続人同士に利益相反があるときは、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てなければなりません。
特別代理人を選任してもらうには、相続人前任の合意を得たうえで、本人の住所地を管轄とする家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。
手続きの流れとしては、申立書や関係書類を提出後、裁判所による審査・選任が行われ、選任決定が出されると、特別代理人が正式に代理権を持ちます。
特別代理人に特別は資格は必要とされず、利害関係がない人であれば誰でも候補者になれます。
候補者がいない場合や、相応しくないと判断された場合は、家庭裁判所が選任した弁護士や司法書士などが特別代理人となります。
もちろん信頼できる弁護士などに、特別代理人を依頼することも可能です。
なお、特別代理人が選任された場合、特別代理人の報酬として、裁判所が決定した10万円~数十万程度の報酬を支払う必要があります。
これは代理人が必要となった本人が支払うことになりますが、遺産が少ない場合は、特別代理人の報酬で赤字となる可能性があります。
そのため、親族に特別代理人になってもらうことなども検討した方がよいことがあります。
特別代理人を選任すべきかどうか迷った場合は、無料相談を活用して弁護士に相談してみるとよいでしょう。
相続の法定相続人についてよくある質問
夫婦は法定代理人になれる?
夫婦は法定代理人になることが可能です。
まず子どもが未成年者の場合は、夫婦が親権を持っているため、両親どちらも子どもの法定代理人です。
さらに、夫婦どちらかの判断能力が低下した場合に、家庭裁判所に認められれば、片方が成年後見人になることも可能です。
ただし、成年後見人となる配偶者が高齢などである場合は、士業や社会福祉の専門家などが成年後見人として選任されることもあります。
特別代理人は誰がなれる?
特別代理人になるには、未成年者や判断能力が低下した人本人と利害関係がない人で、家庭裁判所が認めれば誰でも特別代理人になれます。
ただし、親族などが誰も候補者とならない場合は、弁護士や司法書士が選任されることになります。
相続人が未成年者だけの場合はどうする?
両親が亡くなり、相続人が未成年の子どもだけというケースでは、まず未成年後見人を家庭裁判所に申し立てて選任してもらう必要があります。
このとき、未成年後見人の選任を申し立てられるのは、相続人など利害関係がある人です。
未成年者は自ら遺産分割協議を行うことができないため、未成年後見人が選任されたうえで、遺産分割や名義変更などの手続きを進めます。
まとめ
法定代理人とは、法律関係の用語としてごくたまに耳にすることもあるかもしれません。
特に相続では、相続人が未成年後見人や判断能力が低下した高齢者である場合に、法定代理人や特別代理人の選任が必要です。
ただし、代理人の選任には報酬も発生するため、親族から候補者を出すかどうかなども検討する必要があります。
法定代理人の手続きが難しい場合や、相続手続きが進まず困った場合は、相続の経験豊富なネクスパート法律事務所にお気軽にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。