任意後見制度のデメリットは?問題点を補える制度も解説

将来、認知症などのリスクに備えて任意後見制度の利用を検討している人がいると思います。
任意後見制度にはメリットがある一方で、いくつかのデメリットがあります。
この記事では、任意後見制度のデメリットと併用を検討できる他の制度について解説します。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、将来認知症などのリスクを考えて、財産の管理や身上監護をしてくれる人を自ら選んで、契約する制度です。
法定後見制度とは違い、判断能力があるうちに自分が希望する人を任意後見人として選べる点が特徴です。
任意後見制度について、詳細は以下の記事を参考にしてください。

任意後見制度のデメリットは?
任意後見制度は、自分が希望する人を後見人にできるメリットがある一方でいくつかのデメリットがあります。以下でそれぞれ解説します。
認知症になってから制度を利用できない
任意後見制度は、認知症になってしまったら利用できません。
任意後見契約を締結するには、判断能力が必要です。
本人に任意後見契約を締結できるほどの判断能力があるかどうかは、公証人が医師の診断書や本人・関係者からの説明等を参考に個別に判断します。
認知症であるからといって直ちに判断能力が欠けていると評価されるわけではありませんが、たいていの場合、認知症になってからの契約は難しいと考えたほうがよいでしょう。
任意後見人に取消権がなく本人を十分保護できない
任意後見人には取消権がないため、本人を十分に保護できません。
任意後見制度は、本人の自主性を重んじる制度であるため、任意後見人に取消権がありません。
例えば本人が必要のない高額な買い物をしても、任意後見人が取り消せないため、本人を手厚く保護できる制度とはいえません。
任意後見人は締結した契約以外のことができない
任意後見人は、本人との間であらかじめ締結した契約以外のことはできません。
任意後見人が代理で行えるのは、契約書の中で依頼したい内容として提示したもののみです。追加項目が生じた場合は、新たに契約を結ばなくてはいけませんし、その時点で本人の判断能力がなければ、新たな契約は結べません。
任意後見監督人を選任する必要がある
任意後見制度は、任意後見監督人の選任申立てをしなければ、効力が生じません。
任意後見制度は、本人の判断能力が低下した時点で自動的に効力が発生するわけではありません。家庭裁判所に任意後見監督人選任申立てを行い、正式に任意後見監督人が選任されなければ、任意後見人としての業務が行えません。
通常、申立てから任意後見監督人が選任されるまで3週間~1か月ほど時間がかかります。
任意後見人・任意後見監督人の両者に報酬が発生する場合がある
任意後見人・任意後見監督人の両者に報酬が発生する場合があります。
親族が任意後見人となる場合、無報酬とすることもありますが、弁護士などの専門家に依頼すれば報酬が発生します。
家庭裁判所が定める任意後見監督人の報酬は無報酬とはできず、裁判所が事案に応じて定めた報酬額を支払う必要があります。
裁判所が公開している任意後見監督人の報酬の目安は、以下のとおりです。
- 管理財産が5,000万円以下の場合:月額5,000円~2万円程度
- 管理財産額が5,000万円を越える場合:月額2万5,000円~3万円程度
死後の事務は依頼できない
任意後見制度は、本人が亡くなったら契約が終了するため、死後の事務を依頼できません。
任意後見制度の対象となるのは、生前の財産管理のみとなるため、本人が亡くなったあとの手続きは、原則相続人が行うことになります。
任意後見制度のデメリットを補うために併用を検討できる4つの制度
任意後見制度のデメリットを補うために、併用を検討できる4つの制度について解説します。
見守り契約
見守り契約とは、任意後見契約が適切な時期に効力が発生するよう、その効力が発生するまでの間、任意後見受任者が本人と定期的に連絡したり、会ったりして相互の意思疎通を図り、本人の安否や生活状況・心身の状態をチェックすることを目的とする契約です。
任意後見契約は、本人の判断能力が不十分であることが効力発生の条件となります。
一人暮らしなど、近くに家族がいなかったり見寄りがなかったりする場合は、判断能力が低下したタイミングを的確に見極めるのが難しいです。
任意後見契約と併用して、見守り契約を締結しておけば、判断能力低下のタイミングを逸しなくて済みます。
財産管理契約(委任代理契約)
財産管理契約とは、判断能力がある間に財産管理を親族などの第三者に委任する契約です。
認知症になっていないけれど、足腰が弱ってきたので預貯金を管理してほしい、入院するので入院費の支払いを代わりに行ってほしいといった場面で活用できる契約です。
財産管理契約は、本人の判断能力低下が効力の発生条件となっている任意後見契約とは違い、財産管理の開始時期を自由に決められるメリットがあります。
特約で死後の事務手続きの委任できるので、2つの制度を併用するメリットがあるといえます。
死後事務委任契約
死後事務委任契約とは、亡くなったあとに生じる事務手続きを第三者に委任する契約です。
葬儀、納骨、埋葬をはじめとして、行政手続き、お金に関する手続き、遺品の処分などを託せます。
任意後見制度では、本人が亡くなった後の手続きを委任できないため、2つの制度を併用すると安心かもしれません。

遺言
任意後見契約は、本人が亡くなったら自動的に終了となりますが、遺言書を作成すれば、自分が亡くなったあとの遺産の処理についても、ご自身の希望を反映できます。
任意後見人と同じ人を遺言執行者に指定すれば、相続に関する諸手続きも引き続き対応してもらえます。
任意後見制度が向いている人はどんな人か?
任意後見制度はデメリットも多いですが、どのような人が利用するのに向いているか、解説します。
自分で後見人を選びたい人
自分で後見人を選びたい人は、任意後見制度を利用するとよいでしょう。
配偶者や子どもがいない、頼れる兄弟姉妹がいない、高齢の両親に迷惑をかけたくないなど、将来のリスクに備えて、自分が信用でき、かつ気に入った人を後見人にしたいと考えている人に、向いている制度といえます。
障害を持つ未成年の子どもがいる人
障害を持つ未成年の子どもがいる人は、任意後見制度を利用するのに向いているといえます。障害を持つ子どもがいる人は、自分に万が一のことがあったら、子どもは誰が守るのか不安があることでしょう。
自分に判断能力がなくなった場合、障害を持つ子どもの保護や支援ができなくなってしまいます。そのリスクに早いうちから備えて、親族、弁護士などの専門家と任意後見契約を締結するのは価値があるといえます。
まとめ
任意後見制度は、将来に備えて自分が気に入った人を後見人にできる点がメリットといえます。
ただし、デメリットを理解しないで契約を締結すると自分に合わない契約だったとか、不十分な契約だったと後悔するかもしれません。
任意後見制度が自分に合っている制度かどうか、メリットとデメリットを見極めた上で利用したほうがよいでしょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。