遺産分割協議ができない4つのケースと対応方法を詳しく解説!

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければ有効に成立しません。
相続人の中に、以下のような人がいて遺産分割協議に参加できない場合は、どうすればよいのでしょうか。
- 行方不明者
- 未成年者
- 認知症患者(意思能力が不十分な人)
- 海外居住者
この記事では、遺産分割協議ができない4つのケースと対応方法について解説します。
遺産分割協議ができない場合の相続税申告の手順についても説明していますので、申告期限内に遺産分割協議ができない方は、ぜひご参考になさってください。
目次
相続人の中に行方不明者がいて遺産分割協議ができない場合の対応方法
ここでは、相続人の中に行方不明者いる場合の対応方法について解説します。
財産管理人選任の審判を申立てる
相続人の中に調査を尽くしても行方が分からない人がいる場合、共同相続人において、当該相続人を不在者として、家庭裁判所に財産管理人選任の審判を申立てる方法があります。
管轄裁判所は、本来、不在者の住所地の家庭裁判所ですが、住所地が分からない場合は、不在者の最後の住所地を管轄する裁判所に申立てます。
財産管理人が選任された場合は、その財産管理人が遺産分割協議に参加します。
不在者が7年以上生死不明の場合は失踪宣告の審判を申立てる
行方が分からない相続人が7年以上生死不明である場合は、失踪宣告の審判申立てを検討します。失踪宣告は、利害関係人が、行方不明者の最後の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。
家庭裁判所が失踪宣告の審判を下すと、失踪者の実際の生死の有無にかかわらず、失踪者は法律上死亡したものとみなされます。
死亡の時期については、以下の時に死亡したものとして取り扱われます。
- 普通失踪の場合:行方不明となってから7年間が経過した時
- 危難失踪(船舶の沈没、震災などの危難)の場合:その危難が去った時
失踪宣告がなされた後の遺産分割協議の進め方は、失踪者が死亡したとみなさられる時期によって異なります。
相続開始前に失踪者が死亡したとみなされる場合
相続開始前に失踪者が死亡したとみなされる場合は、失踪者の代襲相続人(子や孫)を交えて遺産分割協議を行います。失踪者に代襲相続人(子や孫)がいない場合は、他の相続人全員で遺産分割協議を行います。
相続開始後に失踪者が死亡したとみなされる場合
相続開始後に失踪者が死亡したとみなされる場合は、当該失踪者の相続人を交えて遺産分割協議を行います。失踪者に相続人がいない場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申立てて、当該相続財産管理人を交えて遺産分割協議を行います。
なお、不在者の生死が7年以上不明の場合でも、失踪宣告の申立てをせず、不在者の財産管理人の選任を申立てることも可能です。
相続人の中に未成年者がいて遺産分割協議ができない場合の対応方法
ここでは、相続人の中に未成年者がいる場合の対応方法について解説します。
親権者が遺産分割協議に参加する
相続人の中に未成年者がいる場合、その親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加します。
特別代理の選任を申立てる
次のいずれかに該当する場合、親権者の行為が利益相反行為となるため、家庭裁判所に対し、特別代理人選任の審判を申立てなければなりません。
- 親権者自身も共同相続人である場合
- 親権者が当該遺産分割協議において複数の未成年者の代理人となる場合
特別代理人選任の申立ては、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
特別代理人が選任された場合は、当該特別代理人が遺産分割協議に参加します。
相続人の中に認知症患者がいて遺産分割協議ができない場合の対応方法
ここでは、相続人の中に認知症等で事理弁識能力を欠く状態にある人がいる場合の対応方法について解説します。
後見開始の審判を申立てる
認知症や精神上の障害により事理弁識能力を欠く相続人がいる場合は、家庭裁判所に対し、後見開始の審判を申立てます。
事理弁識能力とは、自分が行った行為の結果を認識できる能力のことです。
後見開始の審判は、被後見人(事理弁識能力を欠く人)の住所地を管轄する裁判所に申立てます。
成年後見人が選任された場合は、当該成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。
成年後見人自身が共同相続人である場合は特別代理人の選任を申立てる
すでに成年後見が開始されていて、成年後見人自身も共同相続人である場合は、成年後見人の行為が利益相反行為となります。この場合は、家庭裁判所に対し、特別代理人の選任を求める必要があります。
保佐人・補助人が選任されている場合
保佐人・補助人が選任されている場合は、以下2通りの対応方法があります。
- 保佐人・補助人の同意を得て、本人(被保佐人・被補助人)が遺産分割協議に参加する
- 代理権付与の審判を受けた保佐人・補助人が代理人として遺産分割協議に参加する
保佐人・補助人の同意を得て、本人(被保佐人・被補助人)が遺産分割協議に参加する
保佐人、補助人の同意を得た後であれは、被保佐人・被補助人自身が遺産分割協議に参加できます。
なお、被補助人の場合は、遺産分割につき補助人の同意を要する旨の家庭裁判所の審判があった場合のみ、同意が必要です。
代理権付与の審判を受けた保佐人・補助人が代理人として遺産分割協議に参加する
保佐人・補助人が選任されている場合は、家庭裁判所の代理権付与の審判を受けた保佐人または補助人が、本人の代理人として遺産分割協議に参加することも可能です。
相続人の中に海外居住者がいて遺産分割協議ができない場合の対応方法
ここでは、相続人の中に海外居住者がいる場合の対応方法について解説します。
海外居住者は印鑑証明書を発行できない?
市区町村役場に海外転出の届出をすると、住民票の抹消と同時に、実印登録も抹消されます。
そのため、日本国内に住所を持たない海外居住者は、印鑑証明書を発行できません。
遺産分割協議書には、通常、実印で押印して印鑑証明書を添付します。相続税申告や相続登記、金融機関の手続きの場面で実印を押印した協議書と印鑑証明書の添付を求められるからです。
印鑑証明書に代えてサイン証明を添付する
海外に居住する相続人は、印鑑証明書の代わりに、現地の在外公館(総領事館や大使館等)が発行するサイン証明(署名証明)を利用できます。
サイン証明の取得方法は、以下のとおりです。
- 在外公館に出向いて、担当官の前で遺産分割協議書に署名する
- 在外公館が発行する証明書(サイン証明)に、担当官に割り印をしてもらう
サイン証明を遺産分割協議書に添付して、日本に住む他の相続人に返送します。
なお、サイン証明の方法には以下の2種類があります。
- 在外公館が発行する証明書と私文書を綴り合せて割印を行うもの
- 申請者の署名を単独で証明するもの
いずれの方法により証明したものが必要かは、法務局や各金融機関によって異なりますので、あらかじめ確認することをおすすめします。

遺産分割協議ができない場合、相続税申告はどうすべき?
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。相続税の申告期限までに、遺産分割協議ができない場合は、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、相続税の申告期限内に遺産分割協議ができない場合の対応方法について解説します。
法定相続分どおりに相続したものとみなして期限内に申告する
申告期限までに遺産分割協議ができない場合は、法定相続分どおりに相続したものとみなして相続税申告を行います。
期限までに申告しなければならない理由は、以下のとおりです。
- 申告期限は原則として延長できない
- 申告期限を過ぎると翌日から延滞税と無申告税が加算される
このように、未分割の遺産がある場合の相続税申告は、申告期限までに仮の申告をして、後日修正申告(または更正の請求)をしなければなりません。
申告期限後3年以内の分割見込書を提出する
相続税の申告期限までに遺産分割協議ができない場合は、仮申告の際に、必要に応じて申告期限後3年以内の分割見込書を提出しましょう。
申告期限後3年以内の分割見込書とは、修正申告の際に以下の特例の適用を受けたい場合に提出する書面です。
特例 | 内容 |
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 | 要件を満たせば土地を最大80%減額して評価できる特例 |
配偶者に対する相続税額の軽減 | 配偶者が取得した財産の額が、次のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからない特例
①1億6,000万円 ②配偶者の法定相続分相当額 |
特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例 | 要件を満たせば山林を5%減額して評価できる特例 |
特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例 | 要件を満たせば自社株を10%減額して評価できる特例 |
なお、被相続人に配偶者がおらず、遺産が現金・預貯金のみの場合には、申告期限後3年以内の分割見込書を提出する必要はありません。
遺産分割の成立後に修正申告(または更正の請求)を行う
3年以内に遺産分割協議が成立したら、実際に取得する財産の額に基づき、税額を計算し直します。
法定相続分に基づいて当初納めた税金では不足が生じる場合は、追加で納税をしなければなりません。その場合は、相続税の申告内容を訂正する修正申告を行います。
法定相続分に基づいて計算した納税額が過大であった場合は、更正の請求を行うことで、納め過ぎた税金の還付を受けられます。

遺産分割協議ができないほど相続人間が不仲な場合はどうすればいい?
ここでは、共同相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合の対応方法について解説します。
遺産分割調停を申立てる
共同相続人間で遺産分割協議がまとまらないときは、各相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申立てられます。
遺産分割調停の申立ては、相手方の住所地か当事者が合意で定める家庭裁判所に対して行います。
調停手続きでは、家庭裁判所の裁判官と調停委員が各相続人の間に立ち、紛争解決の糸口をつかむよう努めてくれます。

弁護士に依頼する
共同相続人間で遺産分割協議がまとまらないときは、当事者で協議を続けるより、弁護士に交渉を任せた方が、話し合いがスムーズに進む可能性があります。
不仲な相続人がいる場合も、弁護士が交渉を代理するため、直接顔を合わさずに済みます。

遺産分割協議に参加できないのはどんな人?
ここでは、遺産分割協議に参加できない人について解説します。
相続人以外の人
遺産分割協議に参加できるのは、原則として相続人に限られます。相続とは関係のない第三者は参加できません。
ただし、相続人以外でも以下の人は、例外的に遺産分割協議への参加が認められます。
- 相続分の譲受人
- 包括受遺者
相続放棄をした人
相続放棄をした人は、その相続に関して、初めから相続人とならなかったものとみなされます。そのため、相続放棄をした人は、当該相続に関する遺産分割協議に参加できません。
相続欠格・相続人廃除により相続権を失った人
相続欠格や相続人廃除により相続権を失った人は、相続人になれません。
そのため、相続欠格・相続人廃除により相続権を失った人は、当該相続に関する遺産分割協議に参加できません。
まとめ
相続人調査で相続人を確定しても、相続人が行方不明になっていたり、重度の認知症を患っていたりすることがあります。
相続人が遺産分割協議にそのまま参加できる状況になければ、遺産分割協議を有効に成立させるために、必要な手続きを経なければなりません。
ご自身での対応が難しいと感じたら、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、必要な手続きに代行してもらえるうえ、紛争が生じた場合のサポートも受けられます。
相続人の中に行方不明者や制限行為能力者、海外居住者がいらっしゃる場合は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。