遺言執行者選任申立ての手続き方法についてわかりやすく解説

亡くなった人(以下、被相続人)が遺言書を遺している場合、内容どおり相続手続を実現するのが遺言執行者の役割です。
遺言執行者は必ず選ばなければならないものではありませんが、遺言の内容によっては選任の必要があります。
この記事では、遺言執行者選任申立てとは何か、手続きの流れや選任が必要なケースについて解説します。
遺言執行者選任申立てとは何か?
遺言執行者選任申立てにあたって、手続きの概要等を以下で解説します。
手続きの概要
遺言執行者選任申立てとは、家庭裁判所に申し立てをして遺言執行者を選任してもらう手続きです。
次の場合、家庭裁判所は、遺言執行者を選任できます。
- 遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき
- 遺言執行者が亡くなったとき
遺言執行者の選任申立てができるのは、相続開始後です。被相続人が存命中に申立てはできません。
申立てができる人
遺言執行者選任申立てができる人は、以下のような利害関係人です。
- 相続人
- 遺言者の債権者
- 遺贈を受けた人 など
申立て先
遺言執行者選任申立ては、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所に行います。
申立てに必要な書類
遺言執行者選任申立てに必要な書類は以下のとおりです。
- 家事審判(遺言執行者選任)申立書
- 遺言者の死亡の記載がある戸籍全部事項証明書(★)
- 遺言執行者の候補者の住民票または戸籍の附票
- 遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し(★)
- 利害関係を証する資料(例:遺言執行者候補が親族の場合は戸籍全部事項証明書など)
※上記のうち★印を付している書類について、申立て先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は、添付不要です。
申立てに必要な費用
遺言執行者選任申立ては、執行の対象となる遺言書1通につき800円を収入印紙で納めます。
それ以外に家庭裁判所との連絡用の郵便切手が必要となります。郵便切手は各家庭裁判所によって金額に違いがありますので事前に確認をしましょう。
遺言執行者選任申立てが必要なケースは?
遺言執行者選任申立てが必要なケースについて以下で解説します。
遺言書で認知している場合
遺言書で子を認知している場合は、必ず遺言執行者を選任しなければいけません。
婚姻外で生まれた子(非嫡出子)を自分の相続人にするには認知が必要です。なんらかの事情で生前に認知が困難だった場合、遺言書で認知ができます。そうすれば嫡出子と同じ相続分が得られます。
子どもを認知する手続き(認知届)は、遺言執行者が就任から10日以内にしなければいけません。
遺言書で相続人廃除や廃除の取消しをしている場合
遺言書で相続人廃除や廃除の取消しをしている場合、必ず遺言執行者を選任しなければいけません。
相続人廃除とは、被相続人が相続の権利を持っている人を相続から外す制度です。
被相続人に暴力をふるっていたり、多額の借金をして肩代わりをさせられたりしたなど、非行が目立った相続人に対して行われます。
被相続人が生きている間に家庭裁判所に申立てをして、審判で認められれば相続廃除ができますが、事を荒立たせたくないと考え、遺言書で相続人廃除をするケースもあります。
遺言書で相続人廃除を指定したら、それを実行できるのは遺言執行者のみです。
反対に、被相続人が生前相続人廃除の申立てをしたけれど、その後廃除した相続人が心を入れ替えたため、これを取り消したいと考える人もいます。それが廃除の取消しですが、その場合の手続きも遺言執行者でなければできません。

遺言執行者選任申立てをしたほうが良いケースは?
遺言執行者を必ず選任しなければいけないケースは先述した2つですが、申立てをしたほうがスムーズに相続手続が進む場合があります。以下でそれぞれ解説します。
遺言を執行する適任者がいない場合
遺言を執行するにあたって適任者がいない場合は、遺言執行者を選任したほうがよいでしょう。
執行の対象となる財産の中に不動産や預貯金、株式や投資信託等の有価証券がある場合は、名義変更や解約・払い戻し手続きなどが必要です。公的機関や金融機関での手続きは平日日中に行わなければならず、資料収集等の手間もかかります。
相続税の納税期限が、被相続人が死亡したことを知った日(通常は被相続人死亡の日)の翌日から10か月以内というのを考えると、そんなにのんびりしていられないのが現状です。
遺言書の内容どおりに実行するには、さまざまな事務手続きがあり意外に複雑で簡単ではありません。
そうした事務手続きを一手に引き受けられる人が思い当たらなければ、遺言執行者を選任したほうがスムーズに手続きを進められます。
相続人同士で争いがある場合
相続人同士で争いがある場合、遺言執行者選任申立てをしたほうがよいでしょう。
遺言執行者がいない場合、相続手続にあたっては、相続人同士が協力し合わなければならないこともあります。相続人同士の仲が悪く争いがある場合は、こうした協力関係を結ぶのは難しいといえるでしょう。
遺言執行者を選任すれば、相続人同士が直接やり取りすることなく相続手続きが進められます。
遺言執行者選任申立てをする際の事前準備と流れは?
遺言執行者選任申立てにあたって、事前に準備しなければならないことや具体的な流れについて解説します。
自筆証書遺言・秘密証書遺言は、検認申立てをする
被相続人が作成した遺言が自筆証書遺言書や秘密証書遺言書等の場合、家庭裁判所に検認申立てが必要となります。
公正証書遺言を除く遺言書の保管者・遺言書を発見した相続人は、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認の申立てをしなければなりません。封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人立ち合いのもと開封しなければいけません。
検認を行うのは以下の意味があります。
- 相続人に対して遺言の存在と内容を知らせること
- 遺言書の形状や加筆・訂正などの状態、日付・署名を確認する
- 遺言書の偽造を防止する
遺言執行者選任の申立先が、検認手続きをした家庭裁判所と異なる場合には、検認後、検認済証明書の申請をします。
なお、2020年7月から法務局でスタートした自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合は、検認の申立ては不要です。
遺言執行者選任申立書と添付書類を準備し、家庭裁判所に申し立てる
本記事の1章で解説した申立書と添付書類を準備して家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所から照会書が送付される
家庭裁判所に申立て後、書類に不備がなければ申立人と遺言執行者候補者に照会書が送付されます。この書類には、遺言執行者への就任の意思があるかどうか、欠格事由に該当しないかどうかなどの質問が書かれています。
それぞれの質問に回答して、家庭裁判所へ返送します。回答書には返送期限があるので留意し、場合によっては遺言執行者の候補者に、迅速に返送してほしいと伝えたほうがよいかもしれません。
家庭裁判所が遺言執行者を選任し、審判書を交付する
回答書が返送されたら、家庭裁判所が審理を行います。
だいたい1~2週間ほどで遺言執行者を選任する審判がなされます。審判に対する不服申立てがなければ確定します。
確定後は、家庭裁判所が申立人と遺言執行者に対して、遺言執行者選任審判書謄本を送付します。遺言執行者選任審判書謄本は、不動産登記の申請や預貯金解約など相続手続に必要となる重要な書類ですので、大切に扱いましょう。
まとめ
被相続人が遺言書を遺していた場合、できる限り遺言書どおりに相続手続を実行するのが生きている者の役割といえるかもしれません。被相続人があらかじめ遺言執行者を選任していれば問題はないですが、相続手続を進めるのが困難だと判断した場合、遺言執行者選任の申立てを検討してみてはいかがでしょうか。
遺言書の作成を検討している方は、ご自身が亡くなった後の相続手続が複雑になる可能性が予測できる場合、遺言書で遺言執行者を選任しておくのがよいかもしれません。そうすれば相続手続に関して相続人に負担をかけずにすみます。
遺言執行者になるにあたって特別な資格は不要ですが、弁護士のような専門家であれば複雑な案件でもトラブルなく進められるので安心です。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に詳しい弁護士が在籍しています。初回の相談は30分無料で受けられる場合がありますので、ぜひお気軽にお問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。