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遺言執行者は必要か?|遺言執行者の指定・選任が必要な遺言事項とは

遺言書を作成する際は、必ず遺言執行者を指定しなければならないのでしょうか?

遺言者の死後、発見した遺言書において遺言執行者の指定がなされていなければ、必ず家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てなければならないのでしょうか?

この記事では、遺言執行者が必要なケースや不要なケースを解説します。

法律上は遺言執行者による執行が不要なケースでも遺言執行者を指定・選任すると円滑な遺言内容の実現に繋がることもあります。

 

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遺言執行者は必要か?

ここでは、遺言執行者が必要かどうかの判断基準のポイントについて解説します。

遺言執行者の指定・選任が必要かどうかは、遺言書に遺言執行者しか執行できない遺言事項があるかどうかによって異なります。

遺言執行者による執行が必要な場合を除き、相続人や受遺者の間に遺言の有効性や意見の対立がなければ、相続人全員が協力して遺言を実現できるケースも多くあります。

しかし、相続人や受遺者の間に紛争が予想される場合には、弁護士等の第三者を遺言執行者に指定・選任した方がよいケースもあります。

遺言執行者の指定・選任の要否を以下で確認しましょう。

遺言執行者が必要|遺言執行者のみが執行できる遺言事項とは

ここでは、遺言執行者の指定・選任が必要なケースを紹介します。

以下の遺言事項は、遺言執行者にしか執行できません。

  • 認知
  • 推定相続人の廃除・取り消し
  • 一般財団法人の設立

これらの遺言事項がある遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や遺言執行者が不在となった場合は、利害関係人の申立てにより家庭裁判所で遺言執行者を選任する必要があります。

認知

遺言による認知は、遺言執行者のみが執行できる遺言事項です。

戸籍法は、遺言による認知の届出について以下のとおり定めています。

第六十四条 遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、第六十条又は第六十一条の規定に従って、その届出をしなければならない。

引用:戸籍法 | e-Gov法令検索

すなわち、遺言執行者によらなければ遺言による認知の届出ができません。

推定相続人の廃除・取消し

遺言による推定相続人の廃除・取消しは、遺言執行者のみが執行できる遺言事項です。

民法は、遺言による推定相続人の廃除・取消しについて以下のとおり定めています。

(遺言による推定相続人の廃除)

第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

(推定相続人の廃除の取消し)

第八百九十四条 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

引用:民法 | e-Gov法令検索

すなわち、推定相続人の廃除及び廃除の取消しの請求は遺言執行者にしかできず、相続人は家庭裁判所への推定相続人廃除・取消しの請求ができません。

一般財団法人の設立

遺言による一般財団法人の設立は、遺言執行者のみが執行できる遺言事項です。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律は、遺言による一般財団法人の設立について以下のとおり定めています。

第百五十二条(省略)

2 設立者は、遺言で、次条第一項各号に掲げる事項及び第百五十四条に規定する事項を定めて一般財団法人を設立する意思を表示することができる。この場合においては、遺言執行者は、当該遺言の効力が生じた後、遅滞なく、当該遺言で定めた事項を記載した定款を作成し、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

3 (省略)

第百五十七条 設立者(第百五十二条第二項の場合にあっては、遺言執行者。以下この条、第百六十一条第二項、第百六十六条から第百六十八条まで、第二百条第二項、第三百十九条第三項及び第七章において同じ。)は、第百五十五条の公証人の認証の後遅滞なく、第百五十三条第一項第五号に規定する拠出に係る金銭の全額を払い込み、又は同号に規定する拠出に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、設立者が定めたとき(設立者が二人以上あるときは、その全員の同意があるとき)は、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、一般財団法人の成立後にすることを妨げない。

引用:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 | e-Gov法令検索

遺言による一般財団法人設立のために必要な、以下の行為は遺言執行者にしかできません。

  • 定款の作成
  • 公証人による定款の認証の申請
  • 財産の拠出
  • 財産法人設立の登記申請

遺言執行者は必要ない|遺言執行者がいなくても執行できる遺言事項とは

ここでは、遺言執行者がいなくても執行できる遺言事項を紹介します。

以下の遺言事項は、遺言執行者がいなくても相続人自らが執行できます。

  • 遺贈
  • 信託の設定
  • 祖先の祭祀主宰者の指定
  • 生命保険金の受取人の変更

ただし、上記遺言事項について遺言執行者の指定がある場合は、遺言執行者のみが執行できます。相続人が執行できる場合でも、相続開始後、家庭裁判所に遺言執行者が選任されたときは、相続人は遺言を執行する権限を失うので、選任された遺言執行者によらなければ執行できません。

遺贈

遺贈とは、遺言によって遺産の全部または一部を、無償または負担を付して他に譲与することです。

遺贈を実行する義務を負う人を遺贈義務者と言います。通常は相続人が遺贈義務者となりますが、遺言執行者がいるときは遺言執行者が相続人に代わって遺贈義務者となります。

遺贈の目的物は、遺言者の死亡により遺言の効力が発生したときに権利移転の効力を生じます。ただし、その効力を実現させるためには、登記・登録や引渡し等の遺贈の執行行為が必要です。

例えば、特定の不動産を遺贈する旨の遺言がある場合は、遺贈登記を行わなければなりません。登記手続きは、受遺者を登記権利者、相続人または遺言執行者を登記義務者として共同申請します。

信託の設定

信託とは、一定の信託の方法(信託契約、遺言または信託宣言)により、特定の物が信託目的に従って財産の管理または処分、その他信託目的達成のために必要な行為をするべきものです。

遺言による信託の場合は、受託者に対し財産の処分が行われます。この財産の処分には不動産所有権や債権などの権利の移転のほか、地上権の設定や担保権の設定も含まれています。

相続人または遺言執行者は、以下の順序で遺言執行を進めなければなりません。

①遺言書で受託者に指定された人に対し、信託を引き受けるかどうかの回答を求める

②遺言書で受託者の指定がない場合や指定された人が受託しない場合は、裁判所に受託者の選任申立てをする

③遺言書で信託管理人・信託監督人に指定された人に対し、それを引き受けるかどうかの回答を求める

④遺言書で信託管理人・信託監督人の指定がない場合や指定された人が引き受けない場合は、裁判所に信託管理人・信託監督人の選任を申立てる

⑤信託財産を受託者に移転させる手続きを行う

祖先の祭祀主宰者の指定

系譜・祭具・墳墓等の祭祀用財産は相続財産に含まれず、祭祀を主宰すべきものが承継します。

遺言により祭祀主宰者の指定を行った場合は、遺言者の死亡によりその効力が生じます。

遺言により指定された人は、祭祀主宰者になることを拒絶できず、法律上当然に承継するので(ただし、祭祀義務は負わない)、それ自体に執行の余地はありません。

しかし、遺言者は相続財産中に祭祀用財産が含まれていることを前提として祭祀主宰者を指定しているので、その指定に従って祭祀用財産の移転を行わなければなりません。

相続人または遺言執行者の役割は、遺言事項そのものではなく遺言事項に関連して以下のとおり祭祀主宰者に祭祀用財産を引き継ぎます。

  • 墳墓等の祭祀用不動産を祭祀主宰者に移転登記する
  • 祭祀用動産を祭祀主宰者に引き渡す(現実の占有を移転する)

生命保険金の受取人の変更

生命保険契約の保険契約者は、遺言によっても保険金受取人を指定・変更できると解されています(東京高等裁判所平成10325日判決)。

ただし、受取人の指定・変更は、保険者に通知しなければ対抗できません。

保険金受取人を指定・変更する旨の遺言事項がある場合は、相続人または遺言執行者は対抗要件の通知を行わなければなりません。

相続人または遺言執行者は以下の順序で当該遺言事項を執行します。

①対象となった保険契約の存在・内容の確認

②被保険者の同意を得る

③被保険者の同意書を添付して保険会社に通知する

保険会社への通知は、各保険会社に備え付けの書類があります。これに以下の事項を記載して、保険金受取人の指定・変更を通知します。

  • 保険契約者の氏名
  • 被保険者の氏名
  • 保険の種類
  • 記号・番号
  • 契約締結日
  • 遺言者の氏名
  • 遺言書の種類・作成日
  • 保険金受取人として指定された人の住所・氏名等

遺言執行者は必要ない|遺言執行が不要な遺言事項

ここでは、遺言執行が不要な遺言事項を紹介します。

以下の遺言事項は、遺言の効力発生と同時に内容が実現されるので執行を要しません。

  • 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
  • 特別受益者の持ち戻し免除
  • 相続分の指定・指定の委託
  • 遺産分割方法の指定・指定の委託
  • 遺産分割の禁止
  • 共同相続人の担保責任の減免・加重
  • 遺贈の減殺方法の指定

未成年後見人・未成年後見監督人の指定

未成年後見人・未成年後見監督人の指定は、遺言者の意思表示により効力を生じるので、未成年後見人等に指定された人が戸籍の届出を行います。

特別受益者の持ち戻し免除

被相続人が遺言により特別受益の持ち戻しを免除したときは、遺留分に関する規定に反しない範囲で、その意思表示に従った相続分となります。

相続分の指定・指定の委託

遺言書において相続分の指定・指定の委託がある場合は、遺言者または受託者の相続分の指定に従って、共同相続人が遺産分割を行います。

遺産分割方法の指定・指定の委託

遺言書において遺産分割方法の指定・指定の委託がある場合は、遺言者または受託者の指定に従って、共同相続人が遺産分割を行います。

手段が指定されている場合

遺言により現物分割・代償分割・換価分割等の分割手段が指定されている場合は、相続開始後、共同相続人全員でその指定に沿う協議を行います。

協議ができない場合は調停・審判の手続きにより遺産分割が行われることを予定しています。

分割指針が指定されている場合

例えば、「土地・建物は長男の取得とし、その他の遺産を他の共同相続人間で分配せよ。」と抽象的に分割指針が指定されている場合は、相続開始後、共同相続人全員でその指定に沿う協議を行います。

協議ができない場合は調停・審判の手続きにより遺産分割が行われることを予定しています。

財産の帰属が指定されている場合

例えば「長男にA建物を、次男にB土地を取得させる。」と特定かつ具体的に分割方法が指定されている場合は、直接権利移転の効力が認められます。

この場合は、遺言の効力が生じるとともに、特定財産の権利は当然に特定相続人に移転します。

遺産分割の禁止

被相続人は、遺言により相続開始時から5年を超えない期間内の分割を禁止できます。

遺言による遺産分割禁止の期間が5年を超えている場合には、5年間の分割を禁止するものとして効力が認められます。

ただし、共同相続人全員の合意があれば分割を実行できます。

共同相続人の担保責任の減免・加重

各共同相続人が他の共同相続人に対して負う担保の責任について、以下のとおり定めています。

(共同相続人間の担保責任)

第九百十一条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)

第九百十二条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。

2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)

第九百十三条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

引用:民法 | e-Gov法令検索

遺言により相続人間の担保責任を減免ないし加重する旨の意思表示がなされている場合は、これらの規定が適用されません。

遺留分負担の順序(旧・遺留分減殺順序)の指定

遺留分侵害がある場合、侵害された者(遺留分権利者)は、民法改正後は遺留分侵害額の請求、改正前は遺留分減殺請求ができます。

これらの請求の相手方は遺贈や生前贈与によって財産を得た人ですが、遺贈や贈与を受けた人が複数いる場合はその順序が法律で以下の順に定められています。

①遺贈その他の遺言

②死因贈与

③生前贈与

遺言により遺留分の負担の順序が指定された場合、遺留分権利者はその指定に従って遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)を行います。

ただし、民法上、遺留分の負担の順序は遺贈が先、その次に生前贈与と定められているため、この順序は遺言で変更できません。民法改正後は、遺留分の請求が金銭債権となったため、対象が物ではなく人になりました。そのため、遺留分の負担の順序は人で指定されます。

遺言執行者は必要ではないが有用|遺言執行者がいると安心なケース

遺言事項の中には遺言執行者による執行が必要なものもあり、逆に遺言執行の余地がないものもあります。財産処分に関する遺言事項の多くは、相続人や受遺者が協力すれば遺言内容を実現できるでしょう。しかし、遺言執行者がいた方が良いケースもあります。

ここでは、遺言執行者は必要なくても遺言執行者がいると安心なケースを紹介します。

財産の規模が大きく相続手続きの複雑化が予想される

相続人や受遺者が少人数で執行の対象となる財産も少ない場合は、遺言執行者を指定する必要性が乏しいと考えられることもあります。

しかし、執行の対象となる財産が多く権利関係も複雑だと、相続手続きに多大な労力や時間がかかる可能性があります。

このような場合は、相続手続きに詳しい弁護士を遺言執行者に指定・選任すれば、迅速かつ正確に遺言内容を実現できます。

相続人間で争いが発生する可能性がある

被相続人の生前から相続人同士が不仲な場合や特定の相続人に法定相続分を超えて財産を相続させる旨の遺言がある場合は、相続開始後に紛争が生じる可能性があります。

遺言執行者がいなければ、相続人らが協力して手続きに関与しなければなりません。

相続人間に意見の対立や紛争が生じると、遺言内容をスムーズに実現できないおそれがあります。

将来相続人間で紛争が予想される場合は、遺言書で遺言執行者を指定することをおすすめします。

相続人に手続きの負担をかけたくない

相続財産の中に不動産や預貯金、株式や投資信託等の有価証券がある場合は、名義変更や解約・払い戻し手続きなどが必要です。

公的機関や金融機関での諸手続きは平日日中に行わなければならず、資料収集等の手間もかかります。不慣れな方が仕事や家事の合間にそのような作業を行うことは、精神的な負担もかかります。

相続人に手続きの負担をかけたくない場合や心身の不調があり自ら手続きできない相続人がいる場合には、あらかじめ遺言書で遺言執行者を指定することをおすすめします。

まとめ

以下の遺言事項は、遺言執行者にしか執行できません。

  • 認知
  • 推定相続人の廃除・取消し
  • 一般財団法人の設立

遺言書に上記遺言事項が含まれていなければ、相続人や受遺者が協力し合い自ら手続きできます。

しかし、専門的な知識がなければスムーズに手続きを進められないこともあります。専門的知識があっても、相続人間に感情の対立や紛争がある場合などには、遺言内容の円滑な実現が叶わないこともあるでしょう。

弁護士を遺言執行者に指定・選任すれば、中立・公平な立場で迅速かつ正確に遺言の内容を実現してもらえます。

遺言執行者の指定・選任にお悩みの方や遺言書の作成を検討中の方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)

はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。

相続問題は弁護士に依頼することでトラブルなくスピーディーに解決できます。

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