相続財産の中に株式が含まれている場合の相続手続き

株式投資を積極的に行っている人もいると思いますが、相続財産の中に株式が含まれていた場合、どのように相続手続きを行えばよいのか悩むことがあると思います。
今回は、株式を相続する際の手順や注意すべき点について解説します。
目次
株式を相続する場合の手続きはどのように進めればいい?
ここでは、株式を相続する場合の手続きをどのように進めればいいか解説します。
遺言書の有無を確認する
相続が発生したら、遺言の有無を確認します。
被相続人が遺言書を残している場合は、原則として遺言書の記載どおりに株式の相続手続きを進めます。
株式の調査方法
被相続人が株式を保有していたと思われる場合には、その有無・内容を調査します。
上場株式と非上場株式とでは、以下のとおり、調査方法に違いがあります。
上場株式の場合
上場株式は、証券会社や信託銀行で管理していることがほとんどです。証券会社等から定期的に取引残高報告書や保有有価証券残高報告書などが送られてきますので、被相続人が保有していた銘柄や株数が確認できます。
被相続人が上場株式を持っていることが分かっていても、どの証券会社で取引をしていたのか分からない場合は、証券保管振替機構(通称:ほふり)に登録済加入者情報の開示請求を行えば、どこの証券会社で口座を開設していたかが分かります。
開示請求ができる人は、以下のとおりです。
- 法定相続人
- 法定相続人の法定代理人・任意代理人
- 遺言執行者
参考:ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合 |証券保管振替機構 (jasdec.com)
非上場株式の場合
非上場株式は、証券会社経由で取引するものではないため、被相続人が管理している株券や株主名簿記載事項証明書などで確認をするか、発行会社や株主名簿管理人に問い合わせて詳細を確認しましょう。
被相続人名義の通帳の入出金記録や、確定申告書の控えから非上場株式を保有していた事実やその内容が判明することもあります。
株式の評価方法
遺産の分配を公平かつ適正に行うためには、その前提として遺産の価値(時価)を把握しなければなりません。株式は毎日価値が変動するので、時価を確認する必要があります。上場株式と非上場株式の場合では、以下のとおり、評価方法が異なります。
上場株式の場合
上場株式は、取引相場が明らかなので、以下のいずれかの方法で評価するのが一般的です。
- 分割時に最も接近した時点での最終価格(終値)をもって評価する
- 近接する一定期間の平均額をもって評価する
非上場株式の場合
非上場株式は、会社法上の株式買取請求における価格の算定方法で評価します。これには、5つの算定方式があります。
算定方式 | 詳細 |
1.純資産方式 | 会社の総資産価格から、負債・法人税などを控除した純資産価格を発行済み株式数で除して評価する |
2.配当還元方式 | 会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で除して評価する |
3.類似業種比準方式 | 会社と類似する業種の事業を営む会社群の株式に比準して評価する |
4.収益還元方式 | 将来の予想年間税引後純利益を資本還元率で除したものを発行済株式数で除して評価する |
5.混合方式 | 上記1~4の方式を組み合わせて評価する |
相続税算出のための税務上の評価基準を参考にして評価することもあります。
非上場株式の税務上の評価方法は複雑で、原則的方法と特例的方法の2種類があります。原則的方法では、会社の規模ごとに区分をして、各区分で異なる評価方法を用います。特例的方法では配当還元方式で評価されます。
相続人全員で遺産分割協議をする
被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人全員で遺産分割協議をして、株式を含む相続財産の分け方を決めます。株式を相続する人が決定したら、株式の名義を被相続人から相続人に変更します。
株式の名義変更手続きの手順は、後述します。
相続税を申告・納税する
株式を含めた遺産の総額(課税価格)が、次の計算式で求められる基礎控除額を上回る場合には、相続税がかかります。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
課税価格は、以下の計算式で求められます。
純資産価額(赤字のときは0)=[相続、遺贈によって取得した財産の価額]+[みなし相続等により取得した財産の価額]-[非課税財産の価額]+[相続時精算課税適用財産の価額]-[債務・葬式費用の金額] |
課税価格=[純資産価額]+[相続開始前3年以内の贈与財産の価額] |
相続税が課税される場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税を申告・納付しなければなりません。
株式の遺産分割方法は?
ここでは、株式の遺産分割方法について解説します。
株式をそのまま分割する|現物分割
株式を換金せずそのままの形で分割する現物分割は、平等に分けられるため多く用いられている分割方法です。1人の相続人が株式全部を取得する場合だけでなく、複数の銘柄を複数の相続人で分ける場合も現物分割です。
例えば、相続人が配偶者と子ども1人で、被相続人が500株所有していた場合は、250株ずつ取得する方法もあるでしょう。
株式を売却して現金を分ける|換価分割
相続人の代表者の一人が株式を相続し、売却後に現金を分ける方式が換価分割です。相続人全員が株式投資に関心がない場合などは、換価分割が適していますが、売却時に譲渡所得税が課税されますし、手数料もかかります。
相続人の1人または数人が株式を取得して残りの人に現金を払う|代償分割
相続人の1人または数人が株式の一部または全部を現物で取得する代わりに、具体的相続分に満たない遺産しか取得しない他の相続人に対して不足分に相当する代償金を支払うのが代償分割です。
例えば、相続人が長女と長男の2人で、株式以外に価値のある遺産がない場合、評価額1,000万円の株式を長女が相続する代わりに長男へ現金を500万円支払うことで、相続人間の公平を図れます。
現金が欲しい相続人がいたり、不動産など平等に分割できない財産があったりする場合に適した方法です。ただし、現物を取得した相続人に代償金を払うための資金(支払能力)がない場合は、代償分割は適していません。
株式の名義変更の手続きの手順は?
ここでは、株式の名義変更(名義書換)の手続きの手順について解説します。
上場株式の場合
証券会社等の一般口座(証券口座)にある株式の場合
被相続人の口座がある証券会社へ連絡をして名義変更の手続き方法を確認します。取引の内容・相続の方法等に応じて、証券会社から資料が送付されますので、案内に従って必要な書類を揃えます。
証券会社によって違いはありますが、証券会社等の所定の請求書類のほかに、以下の書類の提出を求められるのが一般的です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書または相続人全員の記載のある共同相続人同意書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 株券(株券が発行されている場合)
株式を相続するためには、相続人名義の証券口座も必要です。証券口座の名義変更はできないため、被相続人の証券口座から相続人の証券口座に株式が移管されるからです。相続人が本人名義の証券口座を有していない場合は、事前に口座を開設します。
信託銀行等の特別口座にある株式の場合
信託銀行等の所定の請求書類のほかに必要な書類は、証券口座にある株式の場合と同様ですが、被相続人の死亡日によって、名義変更手続きの手順が異なります。
具体的には、下表のとおりです。
被相続人の死亡日 | 手続きの内容 |
被相続人が2009年1月4日(株式の上場日が2009年1月5日以降の場合は、上場日前日)以前に死亡した場合 | 相続人の名義で特別口座を開設し、被相続人名義の特別口座から株式を振替える手続き(特別口座開設請求) |
被相続人が2009年1月5日(株式の上場日が2009年1月5日以降の場合は、上場日)以降に死亡した場合 | 被相続人名義の特別口座から、相続人名義の証券口座に振替える手続き(口座振替申請)
※手続きにあたり、相続人名義で開設された証券口座が必要 |
非上場株式の場合
非上場株式の場合は、会社ごとに手続きが異なるため会社へ直接問い合わせます。
多くの場合は株主名簿の書き換えが必要となり、被相続人と相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書などの書類の提出が求められます。
株式を相続する際の注意点は?
ここでは、株式を相続する際の注意点について解説します。
相続開始から遺産分割までに発生する配当金は遺産分割の対象にならない
相続開始から遺産分割までに発生した配当金は、遺産分割の対象にならないとするのが判例の立場です。
遺産分割協議が成立するまでは、株式は相続人の共有持ち分となっているため、この期間に発生した配当金は、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解されています。
つまり、配当金は相続財産そのものではなく、当然に遺産分割の対象となるものではありません。ただし、相続人全員が遺産分割の対象に含めることに合意すれば、遺産分割の対象に含められます。
相続税評価額を算出する必要がある
相続税の申告が必要な場合は、株式の価格の評価が必要です。
上場株式の相続税評価額は、原則として相続発生日(死亡日)の終値の株価に保有株式数を乗じて計算します。ただし、株価の急変などによる不利益を是正するため、下記の4つの価格で一番低い価格が相続税評価額とされます。
- 非相続人が死亡した日の終値
- 被相続人が死亡した月の毎日の終値の平均額
- 被相続人が死亡した前月の毎日の終値の平均額
- 被相続人が死亡した前々月の毎日の終値の平均額
これらの価額は被相続人が取引をしていた証券会社に、上記のそれぞれの価額が記載された残高証明書を発行してもらうことで確認できます。
被相続人の死亡日が、土日祝日など株式取引が行われていない場合は、死亡日前後で一番近い日の終値を使います。
被相続人に代わって準確定申告が必要
被相続人が、株式の運用で20万円以上の利益を出しており、運用を特定口座(源泉徴収なし)もしくは一般口座で行っていたら、所得税の準確定申告が必要となります。
準確定申告とは、亡くなった人に代わって相続人が確定申告をすることです。準確定申告は通常の確定申告とは違って、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行わなければいけません。
株式の相続について弁護士に相談・依頼するメリットは?
ここでは、株式の相続について弁護士に相談・依頼するメリットについて解説します。
相続した株式の中に非上場株式がある場合も煩雑な手続きを任せられる
株式の相続には、複雑な手続きが伴います。特に、非上場株式が含まれていた場合、評価額を算出する方法などが難しく、手間と時間がかかります。
弁護士に相談をすれば、どのような方法をとればスムーズに相続手続きが進むのか的確なアドバイスがもらえますし、煩雑な手続きを任せられます。
相続税評価や相続した株式の運用など税理士と連携してアドバイスが可能
株式を相続することで重要なポイントとなるのが相続税評価や、取得後の株式の運用です。
相続税の計算をするためには株式の評価額を算出しなければなりません。上場株式と非上場株式では算出方式が異なりますが、非上場株式の場合は計算や手続きが複雑です。
相続人の中には、株式を相続しても株式運用に興味がない人もいるかもしれません。
このような場合も、弁護士に依頼すれば税理士と連携して、最適なアドバイスができます。
まとめ
株式投資を積極的に行ってきた人が亡くなり、相続財産の中に株式が含まれていた場合、どのように処理をするか悩みどころです。相続人が株式投資に興味があるかどうかによっても、相続方法が変わってきますし、株式は時期によって価値が変動するため、タイミングも重要です。損をしない相続手続きをするためにも弁護士に相談することをおすすめします。
株式の相続にお悩みの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。