遺言執行者に弁護士を指定するメリットと遺言執行費用・報酬の相場

遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言者の死後、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人です。

遺言執行者の指定・選任方法には、以下の3つの方法があります。
- 遺言者が遺言書の中で指定する
- 遺言書の中で遺言執行者を指定する人を決める
- 家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう
遺言内容の実現には法律的な知識が必要になることがあるため、弁護士を遺言執行者に指定しておけばスムーズに手続きを進められます。
この記事では、遺言執行者を弁護士に指定するメリットや遺言執行の流れ・必要な費用等について解説します。
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遺言執行者に弁護士を指定するメリット
ここでは、遺言執行者に弁護士を指定するメリットを解説します。
煩雑な相続手続きから解放される
遺言執行者は、就職と同時に遺言の内容に従い相続財産に対する管理処分権を有します。
相続財産が多岐にわたる場合や第三者への遺贈が含まれるなど遺言の内容が複雑であると、遺言執行者には相応の負担がかかります。
弁護士を遺言執行者に指定しておけば、知識や経験に基づきスムーズに手続きを進められるので、相続人に負担をかけずに済みます。
相続人間の紛争を避けられる
相続人の一人が遺言執行者に指定された場合、他の相続人が不平・不満を口にしたり、不正を疑ったりすることがあります。
中立・公正な立場である弁護士を遺言執行者に指定すれば、相続人間の対立や紛争を避けられます。
遺言書の作成サポートも依頼できる
弁護士に遺言書の作成・遺言執行をセットで依頼すれば法的に不備のない遺言書を作成でき、相続開始後の手続きもスムーズに進められます。
遺言信託より費用を抑えられる可能性がある
一部の金融機関では、遺言の作成・保管・遺言執行をサポートする遺言信託サービスが提供されています。
遺言信託サービスの利用にかかる費用は金融機関や財産の額によって異なりますが、以下の手数料として数百万円程度がかかるのが一般的です。
- 基本手数料:数十万円~100万円程度
- 遺言書の年間保管料:年間数千円程度
- 遺言執行時の手数料:数十万円~数百万円程度
遺言書に記載している内容を変更する場合には、その都度手数料が発生します。
遺言執行時の手数料(遺言執行報酬)には最低報酬額が設定され、報酬率も(旧)日本弁護士連合会報酬基準よりも高く設定されていることが多いです。
遺言書の作成・遺言執行を弁護士に依頼した方が費用を抑えられる可能性があります。
遺言執行者に弁護士を指定した方が良いケースは?
ここでは、遺言執行者に弁護士を指定した方が良いケースを紹介します。
遺言で認知や相続人の廃除・取り消しを行う場合
遺言による認知や相続人の廃除・取り消しは、遺言執行者のみがなし得る遺言事項です。
認知する旨の遺言の効力が生じたときは、遺言執行者はその就職の日から10日以内に認知の届出をしなければなりません。
推定相続人を廃除あるいは廃除を取り消す旨の遺言が生じたときは、遺言執行者は遅滞なく家庭裁判所に廃除または廃除の取消しの請求をしなければなりません。
いずれの場合も、遺言執行者は審判が確定した日から10日以内にその旨を届け出なければなりません。
弁護士を遺言執行者に指定しておけば、これらの手続きを正確かつ迅速に進めてもらえます。
財産が多岐にわたる場合
相続財産が多岐にわたる場合や権利関係が複雑な場合は、遺言執行に相応の時間と労力がかかります。
親族が遺言執行者に指定されている場合、身近な人を亡くして気持ちの整理がつかない中で様々な手続きを進めることは精神的にも負担がかかるでしょう。
弁護士を遺言執行者に指定すれば遺言執行を委ねられるため、相続人に負担をかけずに済みます。
相続人間で紛争が生じる可能性が高い場合
遺言執行者がいない場合は、相続人全員が手続きに関与します。遺言の内容に納得できない相続人がいると協力を得られず、相続手続きが停滞するおそれがあります。
相続人の一人が遺言執行者に指定されている場合も、他の相続人に不正を疑われたり、手続きが遅いと不満を述べられたりするなど相続人間に紛争が生じるおそれがあります。
利害関係がない第三者である弁護士を遺言執行者に指定すれば、このようなリスクを回避できます。弁護士であれば、知識や経験に基づきスムーズに遺言内容を実現できるので、安心して任せられるでしょう。
遺言執行者に指定された弁護士は具体的に何をする?|遺言執行の流れ
ここでは、遺言執行の流れを解説します。
遺言書の確認
遺言執行者は、遺言執行への着手に先立ち遺言書の検認手続きがとられているかを確認します(公正証書遺言を除く)。検認手続きが済んでいない場合は、遺言書の保管者に対し家庭裁判所に検認を請求するよう促します。
遺言の有効性を検討し、遺言が有効な場合は執行を要する事項かどうかを確認します。
遺言執行者の就職
遺言執行者は、就職を承諾することによってその任に就きます。遺言執行者に指定されたとしても、就職するか否かは指定を受けた者の意思に委ねられています。
相続人への遺言内容の通知
指定を受けた弁護士が遺言執行者への就職を承諾したときは、相続人・受遺者その他利害関係人に対し、遺言書の写しを添えて遺言執行者に就職したことを通知します。
相続財産の調査・管理
遺言執行者は、就職と同時に遺言の内容に従って相続財産の管理処分権を有します。
そのため、遺言執行の対象たる相続財産の存否を調査し、自己の管理下に移して適切な保管措置を講じます。
遺言執行者が円滑な執行に備えるために行う具体的な措置は下表のとおりです。
財産の種類 | 管理・保管方法等 |
不動産 | 保管者から権利証などの関係書類や鍵等を預かり、使用関係や使用の実情、賃料の授受等の状況を把握します。 |
預貯金 | 預貯金の種類・金額・金融機関等を調査します。
保管者から通帳・キャッシュカードや届出印の引渡しを受け、金融機関に対し遺言執行者の同意なく払い戻しをしないよう通知します。 |
有価証券 | 株式等の銘柄・種類・所在・数量及び額面額等を把握します。
保管者から証書・証券・株券・保護預かり証及び届出印の引渡しを受け、金融機関に対し遺言執行者の同意なく払い戻しをしないよう通知します。 |
貸金庫 | 遺言執行者以外の人が開閉しないよう金融機関に通知して、鍵を保管者から預かります。 |
貸金等の債権 | 債権の種類・金額・契約条件・当事者等を調査して、保管者から契約書等の関係書類を預かります。 |
自動車 | 自動車の種類・形式・車体番号・保管場所等を調査して、保管者から車検証やローン契約書等の関係書類を預かります。 |
貴金属等 | 種類・数量を調査して、保管者から現物と保証書・鑑定書等の引渡しを受けます。 |

財産目録の作成・交付
遺言執行者は、執行の対象となる相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません。
具体的には、財産目録を作成して自らが管理する相続財産を特定し、現在の状況を明らかにします。
遺言事項の執行
遺言執行者は、相続財産目録の作成後、あるいは作成に並行して遺言の内容を実現する手続きを進めます。具体的な手続きは遺言の内容によって異なります。
遺言執行の代表的な手続きは、以下のとおりです。
- 預貯金や有価証券の解約・名義変更手続き
- 不動産の所有権移転登記手続き
- 受遺者への財産の引渡し
- 役所への認知届の提出
- 家庭裁判所への推定相続人の廃除・取消しの申立て・役所への届出
遺言執行の完了
遺言執行者は、遺言の内容を実現する手続きをすべて終了すると、その地位を喪失します。
任務完了の通知
遺言執行者の任務が終了したときは、遺言執行者から相続人及び受遺者に任務完了を通知します。
保管・管理物の引渡し
遺言執行者は、以下の保管・管理物を相続人に引渡さなければなりません。
- 遺言執行において受け取った金銭その他の物
- 遺言執行により収取した果実
引渡しは、任務終了後、遅滞なく行います。
執行の顛末報告
遺言執行者は、任務終了後、遅滞なくその執行の顛末を相続人及び受遺者に報告しなければなりません。顛末報告の方法や内容に方式はありませんが、事務処理の経過や収支状況を報告するため、文書により報告されるのが一般的です。
金銭出納があるときは、その収支決算書を作成して併せて報告します。
遺言執行者を弁護士に依頼すると費用・報酬にいくらかかる?
ここでは、遺言執行者の報酬とその他の遺言執行費用について解説します。
遺言執行者の報酬の決め方
遺言書で定める
遺言執行者の報酬が遺言で定められている場合は、遺言書に記載された内容に従います。
遺言書に定めがない場合
遺言書に遺言執行者の報酬の定めがない場合には、相続人と遺言執行者で協議を行って報酬額を決めます。
報酬額について協議がまとまらない場合は、遺言執行者の申立てにより家庭裁判所に報酬額を決めてもらえます。
遺言執行者の報酬の相場
遺言執行者の報酬は依頼する弁護士や執行内容の難易度によって異なります。
一般的な相場は、執行の対象となる相続財産総額の1~3%程度です。
遺言執行にかかる報酬以外の費用
遺言執行には、遺言執行者の報酬以外にも以下の費用(実費)がかかることがあります。
- 相続財産目録作成の費用
- 相続財産の管理費用
- 不動産の名義変更・預貯金の解約や払い戻しに関する費用
遺言執行者の権限内に属する行為について生じた費用は、遺言執行者の管理下にある相続財産から控除できます。
遺言執行者の報酬や遺言執行費用は誰が弁護士に支払う?
ここでは、遺言執行者の報酬や遺言執行費用の負担者について解説します。
相続財産から支払う
遺言執行者の報酬を含む遺言執行費用は、遺言執行者の管理下にある相続財産の中から支払われます。
具体的には、遺言執行の完了後、現預金やその他の財産の換価金などから遺言執行費用(報酬を含む)を控除して、相続財産の引渡し・費用の清算を行うのが一般的です。
相続財産から遺言執行費用を支払えない場合
相続財産から遺言執行費用を全額控除できない場合には、遺言執行者は、遺言執行に要した費用の償還を相続人に請求できます。ただし、この場合に各相続人に請求し得る額は、当該相続人が取得する相続財産の割合に比例按分した額に留まります。
まとめ
相続財産が多岐にわたる場合や相続人や受遺者間でトラブルが予想される場合には、遺言執行者に弁護士を指定することをおすすめします。
中立・公平な立場である弁護士に遺言執行を委ねれば、相続人間の感情的な対立を回避しやすく、相続人の負担も軽減できます。
遺言書の作成や遺言執行者の指定にお悩みの方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。