遺言信託と遺言書作成を弁護士に依頼するメリット

遺言信託(いごんしんたく)とは、信託銀行等が提供する遺言書の作成・保管・執行に関するサービスのことです。遺言に不備があると相続争いになりかねません。遺言信託を使えば、円満な相続を期待できます。
この記事では、遺言信託の意味と内容をご説明します。
また、遺言作成〜相続完了までのサポートは弁護士に依頼した方が安い場合があるので、後半で合わせてご説明します。
目次
狭義の遺言信託とは
遺言信託について、信託法3条2号では遺言する人(遺言者)の死亡によって設定される信託とされています。
たとえば遺言者であるAさんが遺言信託として、「自分が死んだら、子どものCとDを受益者として○○銀行の預金●千万円を半分ずつ残すので、Bさんは受託者になって欲しい」という内容の遺言を作成し、それをBさんが引き受けたとします。
Aさんが死亡すると、Bさんが信託を引き受ける人(受託者)・CさんとDさんが信託で利益を受ける人(受益者)として、信託が設定されます。そしてBさんは受託者として遺言の内容を実現します。
ただし、このような遺言信託はあまり行われていません。このため、信託法3条2号の遺言信託は狭義の遺言信託といわれています。
広義の遺言信託とは
日本で広く用いられている遺言信託は、信託銀行等が提供している遺言書の作成・保管・執行に関するサービスです。この遺言信託はサービスの愛称であって法律上の信託ではなく、広義の遺言信託ともいわれます。
以下では信託銀行等が提供している広義の遺言信託についてご説明します。
遺言書作成の相談
遺言者から遺言書作成の相談を受けた信託銀行等は、遺言者に以下を説明し了解を得ます。
- 遺言信託全般の内容
- 法定相続分や遺留分など、相続に関する基本的な法的制約
- 遺言執行者としての職務内容
- 遺言書作成・保管・執行(見込み)に関する費用
- 遺言書保管の約定書
- 遺言者の現状に関する定期照会
遺言者から遺言信託の相談を受けることは、信託銀行等にとって遺言信託の引き受け可否を決めるための情報収集を兼ねています。そのため、遺言者は信託銀行等から財産や相続人などに関して質問を受けるでしょう。
信託銀行等は、遺言者からのヒアリング事項をもとに遺言信託引き受けについて検討します。
このとき、遺言者が以下のいずれかに該当する場合は、遺言信託の引き受けを謝絶することがあるようです。
- 遺言者が20歳未満
- 遺言者が法定後見制度により被後見人の審判を受けている
- 遺言者の死亡を信託銀行に通知できる人がいない
- 公正証書遺言以外の形式を希望している
- 財産の一部のみに関する遺言(一部遺言)を希望している
- 相続人の遺留分(民法で保証された最低限の遺産の取り分)を侵害する遺言を希望している
- 財産よりも借金が多い等により、相続人や受遺者が相続放棄する可能性が高い
- 現時点の金融資産では報酬を支払えない可能性が高い、あるいは信託銀行にとって著しく低採算
- 遺言者が死亡した後、相続人や財産について争いが予想される
- 執行者(遺言の内容を実現する人)に信託銀行等以外を希望している
遺言書の作成
遺言信託の引き受けが決まると、以下の流れで遺言書が作成されます。
相続人等の調査
遺言書の作成には、財産を相続する権利のある法定相続人(受遺者)と遺言者が遺言で財産を遺したい法定相続人以外の人(第三受遺者)を確定するための調査が必要です。
相続人調査に必要な信託銀行への提出書類は以下の通りです。
- 遺言者の出生日から現在までの戸籍謄本
- 法定相続人の戸籍謄本および附票、第三受遺者の住民票
財産調査
遺言書は相続の対象となる財産を一覧化した財産目録を作成します。財産目録作成のための調査に必要な信託銀行への提出書類は以下の通りです。
- 金融資産…取引金融機関・取扱店、残高がわかるもののコピー、生命保険の契約書のコピー等
- 不動産…登記事項証明書(登記簿謄本)、登記識別情報通知(登記済権利証)、公図、名寄帳、固定資産税評価証明書、賃貸借契約書、預かり敷金・保証金等がわかる書類等
- その他の資産…ゴルフ会員権・リゾート会員権のコピー、高額な美術品や家具等の明細、老人ホーム入居返還金がわかる書類等
遺言書の内容
遺言書に記載する内容は、主に以下の通りです。
- 遺言の対象となる財産
- 相続・遺贈の割合
- 遺産分割の方法
- 債務の弁済や費用の支払い
- 祭祀(葬儀)主催者
- 遺言執行者
遺言書の内容は、基本的に遺言者が決定します。
ただし、信託銀行等が提供する遺言信託の場合は、採算確保のために信託銀行等を遺言執行者に指定すること、執行報酬を明記することが一般的です。
また、信託銀行等による遺言信託の場合、遺言書の方式は公正証書遺言であることが一般的です。
公正証書遺言の作成には2人以上の証人の立会いが必要になりますが、遺言者の依頼に基づき信託銀行等の職員が証人になることがあります。
遺言書の保管
遺言書の本文で明記することにより、その正本は信託銀行等が保管できます。
遺言書の正本を信託銀行等に保管したい場合、遺言者は信託銀行と遺言書保管に関する契約を締結します。
この契約では、信託銀行等に支払う保管手数料とともに遺言者が死亡したときにそのことを信託銀行等に通知する死亡通知人を定めます。同時に、死亡通知人になる人から、その旨の承諾書を信託銀行等に提出します。
遺言書の保管が始まると、信託銀行等は以下について遺言者に定期的に照会します。
- 遺言者の生存
- 相続人や財産に大きな変動はないか
- 死亡通知人に変更はないか
- 遺言書の書き換えの要否
遺言書の執行
死亡通知人から遺言者の死亡を通知された信託銀行は、ただちに遺言書の執行に向け動きます。以下では、死亡通知を受けてから執行完了までの流れについてご説明します。
遺言執行者になることの通知
遺言書に執行者として指定されていたとしても、実際に執行者になるかどうかは、指定された人の任意です。
遺言者の死亡通知を受け取った信託銀行等は、執行者として就職可否を検討するために以下を調査します。
- 相続人や受遺者への遺言書の開示・および信託銀行等が遺言執行者に指定されていることを通知し反応等を確認
- 遺族に執行対象財産の状況をヒアリング
- すでに死亡あるいは廃除・欠格になった受遺者や相続人はいないか、ヒアリングおよび戸籍謄本の取得により確認
信託銀行等は上記により執行者としての就任の可否を検討し、就任を承諾するときは相続人および受遺者に遺言執行者就任の承諾通知書を遺言書の写しを添付して通知します。
なお、就任しない場合も、その旨を相続人および受遺者に通知します。
財産目録の作成
遺言者の死亡時点では、遺言書を作成した時点から財産の状況が変わっていることがあります。
そのため、遺言執行者である信託銀行等は相続人および受遺者からのヒアリングや資料提供などにより、遺言者の死亡時点の財産を調査・確定させます。
調査の結果は財産目録に一覧化され、相続人および受遺者に交付されます。
遺言書の執行
遺言執行者である信託銀行等は、財産目録の作成・交付と同時並行で遺言書の内容に基づく名義変更や換金手続きを進めます。
主な手続き内容は以下の通りです。
- 金融資産…名義変更の場合は書き換え手続き後、相続人・受遺者に通帳・証券等を交付。換金分割の場合は売却代金を管理口座に入金した後、相続人・受遺者に結果の報告とともに分配。
- 不動産…相続人および受遺者を登記権利者として、相続または遺贈を原因とする所有権移転登記を行い、登記識別情報を引き渡す。
- 借地権…地主に借地権を相続人が相続した旨を遺言書正本などの書類を添えて通知する。
- その他の資産(家具、美術品など)…現物をそのまま相続人および受遺者に引き渡す。
名義変更や換金手続きで発生した費用は信託財産から支弁、つまり相続人および受遺者が間接的に負担することになります。
完了報告
すべての執行手続きが完了したら、遺言執行者である信託銀行等は以下の書類を添えて相続人および受遺者に完了報告をします。
- 執行手続きが完了したことの報告書
- 管理口座の出納報告書
- 遺言執行に関する報酬の計算書・請求書・領収書
上記を受領した相続人および受遺者は、執行手続きが完了したことを了承する旨の書類を遺言執行者である信託銀行等に差し入れます。
これで遺言書の執行手続きは完了です。
遺言信託の費用の内訳と相場
遺言信託の費用の内訳と相場についてご説明します。
遺言信託の費用の内訳
信託銀行等が取り扱っている遺言信託の費用は、一般的に以下の項目で構成されています。
- 取り扱い手数料…遺言書の相談から作成に至るまでの手数料
- 保管料…遺言書保管のための口座開設・管理のための手数料(1年ごとに発生)
- 変更手数料…遺言書の書き換えに必要な手数料
- 中途解約金…遺言信託を生前に解約するときのペナルティ
- 遺言執行報酬…遺言の執行に必要な手数料
上記のほかに、遺言作成のときは公証役場に支払う費用、遺言執行のときは司法書士への手数料や印紙代、金融資産や不動産の換価時に金融機関や不動産会社に支払う手数料などが発生します。
遺言信託の費用の相場
遺言信託の費用は各社まちまちで、信託銀行の場合は預金や投資信託などの取引状況などによっても変わるようです。また、執行報酬は執行対象財産の額に応じて段階料率を設けていることが一般的です。
このように遺言信託の費用は個別性が強いのですが、遺言信託の費用の相場は概ね以下のようです。
- 取り扱い手数料…30万円から100万円
- 保管料…0円から5千円
- 変更手数料…5万円前後
- 中途解約金…0円から20万円
- 遺言執行報酬…執行対象財産額に応じ3%から2%
上記の通り、遺言信託の費用は決して安いものではありません。
遺言信託(遺言作成)を弁護士に依頼するメリット
遺言書の作成は、弁護士に任せることもできます。
遺言書の作成を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットが期待できます。
紛争になりにくい遺言書を作成できる
遺言書を作成する目的のひとつは、遺言者の死亡後に遺産の取り分をめぐって遺族がトラブルになるのを防ぐことです。
せっかく遺言書を作成しても、その内容に納得がいかない相続人間でトラブルが発生し、遺言書の内容が実現されないようでは意味がありません。
相続問題を扱う弁護士は、トラブルになり得るポイントを知っています。一方で信託銀行等は後述するように相続人間のトラブルを取り扱うことはできないため、そのノウハウの蓄積は不十分といえます。
弁護士に依頼することで、相続発生後のトラブルを防ぐ遺言書の作成が期待できます。
遺言に関する調査を任せられる
信託銀行等の遺言信託では、遺言者自身が相続人や財産を調査することが一般的です。
相続人や財産は役所や金融機関などで調査しなければならないことが多く、相続人にとって時間と手間がかかります。
弁護士には、相続人や財産の調査すべてを依頼できます。これにより相続人の手間を省くことはもちろんのこと、調査漏れを防げます。
トラブル対応を任せられる
弁護士法72条では、弁護士でない者が法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しています。
したがって、相続人や財産の状況などから法的トラブルが生じる可能性が高い案件は、遺言書の作成および執行について信託銀行等は最初から引き受けないことが一般的です。
一方で弁護士は当事者間の言い争いから訴訟に至るまで、トラブルに対応することができます。
相続人・受遺者同士の関係が複雑あるいは仲が悪い、財産に不動産が多く権利関係が複雑などというように、何らかのトラブルが予想されるときは遺言書作成の段階から弁護士に任せることのお勧めです。
まとめ
円満な相続のためには、弁護士に遺言書の作成・保管・執行を任せることも選択肢のひとつです。遺言信託の活用に迷っている場合は、弁護士にもご相談することをお勧めします。
当事務所の弁護士費用は以下のページでご案内していますので、よろしければご確認ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。