遺言信託とは何か?メリットとデメリットについて解説

遺言書の作成を考えた場合、遺言信託を選択肢のひとつにする方がいらっしゃるでしょう。
この記事では、遺言信託とは何か、手続きの流れやメリットとデメリットについて解説します。
遺言信託とは?
遺言信託とは、信託銀行等が行っている遺言書の作成、保管、執行をトータルでサポートするサービスです。
遺言による信託と混同される方がいらっしゃいますが全く別です。遺言による信託は、遺言書で設定する民事信託を指します。
遺言信託は、信託銀行等の民間の金融機関が行っているサービスだと理解するとよいでしょう。
遺言信託の流れは?
遺言信託を利用する流れは、以下のとおりです。
信託銀行等で相談をする
遺言信託のサービスを扱っている信託銀行等に相談をしましょう。
どのような意図でサービスの利用を検討しているか、どんな遺言書の作成を希望しているか等、担当者に相談しながら遺言信託の利用を決めます。
相談を受けた信託銀行等は、以下について説明し、了解を得るのが一般的です。
- 遺言信託全般の内容
- 法定相続分や遺留分など、相続に関する基本的な法的制約
- 遺言執行者としての職務内容
- 遺言書作成・保管・執行(見込み)に関する費用
- 遺言書保管の約定書
- 遺言者の現状に関する定期照会
信託銀行等にとっては、相談を受けることで、遺言信託を引き受けるかどうかを決めるための情報収集を兼ねています。
そのため、信託銀行等から財産や相続人などに関して質問がなされます。信託銀行等は、相談者からのヒアリング事項をもとに遺言信託引き受けについて検討します。
公証役場で公正証書遺言を作成する
信託銀行等で相談をし、相続の方法が決まれば公証役場で公正証書遺言書を作成します。
遺言書を作成するにあたって誰にどの財産を渡すか決めますが、遺言信託を利用する場合は信託銀行等を遺言執行者に指定するケースが多いです。
信託銀行等で遺言信託契約をする
信託銀行等で、遺言信託契約を締結します。
その際には、以下の書類が必要です。
- 公正証書遺言書の正本
- 戸籍謄本
- 財産に関する書類(通帳、不動産登記事項証明書等)
- 印鑑証明書 など
信託銀行によって必要書類が異なりますので、事前に確認をしましょう。
遺言信託契約をしたら、信託銀行等を死亡通知人(遺言者が亡くなった際に金融機関に連絡をする人)に指定できます。
遺言者が亡くなった場合はその旨を信託銀行等に連絡をする
遺言者が亡くなった場合、相続人が信託銀行等に連絡をします。
信託銀行等を死亡通知人に指定していたら、遺言者が亡くなったことを取引のあった金融機関に通知してもらえます。
遺言者が信託銀行等に遺言書の保管のみを依頼していた場合は、相続人に対して遺言書が返還され終了となります。
財産目録を作成する
信託銀行等が遺言執行者に指定されている場合、遺言者の財産を調査して財産目録を作成します。
遺言に基づき遺言書の内容を執行する
信託銀行等が遺言執行者に指定されている場合、遺言の内容を執行します。
遺言信託の費用の相場は?
遺言信託の費用の相場は、総額で100万円以上はかかると考えておきましょう。
費用の内訳には、主に基本手数料、遺言書保管料、遺言執行報酬があります。
基本手数料|33万円~110万円程度
基本手数料は、遺言信託契約を締結した際に支払う手数料です。
多くの金融機関では、33万円~110万円(税込)程度の範囲で複数の料金プランが用意されています。
遺言書保管料|年間5,500円~6,500円程度
遺言書保管料は、信託銀行等に遺言書を保管している期間発生する料金です。
年間5,500円~6,500円(税込)程度で設定しているところが多いです。
遺言執行報酬|33万円~165万円程度
遺言執行報酬は、信託銀行等を遺言執行者に指定した場合に発生する報酬です。
33万円~165万円程度(税込)の最低執行報酬を定めている金融機関がほとんどです。
遺産の総額に応じた料率で報酬は計算されるので、遺産の額が大きいほど低い料率が適用されます。
この他、別途司法書士・税理士への報酬や、財産に不動産が含まれている場合に、鑑定手数料等がかかる場合もあります。
遺言信託をするメリットは?
遺言信託をするメリットは、主に以下の3つと考えられます。
遺言書の保管・執行を任せられる
遺言信託をすれば、信託銀行等に遺言書の保管と執行を任せられる点です。
自筆証書遺言書であれば紛失や改ざんのおそれがありますし、公正証書遺言書の場合は紛失や改ざんのおそれはないものの、相続人が公正証書遺言書の存在を把握できないケースが考えられます。
信託銀行等と遺言信託の契約を締結し、かつ遺言執行者に指定しておけば、遺言書を確実に保管して遺言書どおりに手続きができます。
遺言書作成のアドバイスが得られる
遺言信託をすれば、遺言書作成のアドバイスが得られます。
遺言書は、形式に不備があると無効になるケースがあります。こうしたリスクを避けられるのはメリットです。
資産運用のアドバイスを受けられる
遺言信託をすれば、資産運用のアドバイスが受けられます。
不動産の有効活用等、資産運用のプロならではのアドバイスで、資産が増やせる可能性があります。積極的に資産運用を考えている方には、メリットとなります。
遺言信託をするデメリットは?
遺言信託をするデメリットは、以下の5つと考えられます。
費用が高額になる可能性がある
遺言信託に関する費用が高額になる可能性があります。
遺言信託を利用する場合は、最低でも100万円以上かかる可能性があります。途中で解約する場合に解約手数料がかかることもあるため、契約締結は慎重に行ったほうがよいでしょう。
遺言内容が制限される可能性がある
遺言信託では、婚外子の認知等の身分に関することを遺言書に記載できないため、遺言の内容が制限される可能性があります。
信託銀行が扱う遺言信託は、信託業法の規定により、財産の管理や処分を目的とする業務に限定されるため、身分関係に関する遺言事項(認知、未成年後見人の指定、推定相続人の廃除など)には対応できないからです。
紛争の可能性がある場合は引き受けてもらえない
相続人の間で紛争の可能性がある場合は、遺言信託を引き受けてもらえない可能性があります。
信託銀行が報酬を得て紛争処理(訴訟等)を行うと、弁護士法に抵触する可能性があるからです。
遺言信託契約を締結した当時は問題がなくても、後日相続人の間でトラブルが起きた場合は、信託銀行が遺言執行者に就任できないケースもあります。
金融商品の勧誘対象になることがある
遺言信託をすると、金融商品の勧誘対象になる可能性があります。
遺言信託の契約や契約後の定期照会の際には、金融機関に自身の資産の規模や内容を開示することが一般的でしょう。金融機関もビジネスですから、そうした情報をもとに投資信託などの金融商品を勧誘してくる可能性は大きいです。
積極的に資産運用をしたいと考えているなら問題はありませんが、あまり興味がない場合は、勧誘される煩わしさがあるでしょう。
勧誘を断り切れずに不要不急な金融商品を購入し、遺産が目減りするリスクがある点も頭に入れておきましょう。
遺言と異なる遺産分割が困難になる場合がある
遺言信託をすると、遺言と異なる遺産分割が困難になる場合があります。
遺言書があっても、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割が可能です。
しかし、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者に同意してもらわなければなりません。遺言執行者の同意や追認なく行った遺産分割協議は、無効になる可能性があるからです。
相続人全員が遺言内容と異なる分割を希望しても、遺言執行者がその合意内容が遺言者の意思を無視する行為だと判断すれば、同意してもらない可能性もあります。
遺言書の作成は弁護士に相談を
遺言書の作成は、弁護士に相談をおすすめします。弁護士に依頼をすれば、法的に不備のない遺言書の作成ができるほか、以下のメリットがあります。
遺言書で婚外子を認知したい場合
遺言書で婚外子を認知するなど、身分に関することを遺言書に記載したい場合は、弁護士に依頼をしましょう。
認知だけでなく、特定の相続人を除外する相続人の廃除や未成年の後見人の指定も、弁護士であれば問題なく行えます。
相続人同士の紛争が予想される場合
相続人同士が常日頃から不仲で、相続トラブルが発生する可能性が高い場合は、弁護士に依頼をしましょう。
万が一訴訟になった場合は、弁護士であれば適切な対応が可能です。
遺言書の作成を弁護士に依頼するメリットについて、別記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。

まとめ
遺言信託は、人によってはデメリットのほうが多いケースがありますので、本当に自分に合っているかどうかを見極めた上で、慎重に利用を決めましょう。
ネクスパート法律事務所にご依頼いただければ、相続実務に詳しい弁護士が遺言書の作成をサポートいたします。公正証書遺言の作成、遺言書案の作成と手続きの説明、遺言執行まで対応可能です。
初回30分は相談無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。