成年後見申立の手引き|申立準備から審判確定までの流れを徹底解説

成年後見制度とは、認知症や知的障害・精神障害等により判断能力が十分でない方を支援・保護するための制度です。
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に後見開始の審判申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。
この記事では、成年後見制度の概要や家庭裁判所への申立て方法について解説します。
目次
成年後見を申立てる前に知っておくべきこと
ここでは、成年後見制度の概要について解説します。
成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症や知的障害・精神障害等の精神上の障害により判断能力が十分でない方を支援・保護するための制度です。
法定後見制度は、本人の判断能力に応じて、成年後見・保佐・補助に分かれます。
成年後見とは
成年後見の対象となるのは、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある方です。判断能力を欠く常況とは、支援を受けても契約等の意味や内容を自ら理解したり、判断したりできないのが通常の状態であることです。
成年後見人が選任されると、本人は日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、自ら法律行為を行えなくなります。
成年後見人は、広範な代理権と取消権が与えられます。
保佐とは
保佐の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な方です。判断能力が著しく不十分な状態とは、支援を受けなければ、契約等の意味や内容を自ら理解したり、判断したりできない状態です。
例えば、簡単な日常の買い物程度は自分でできても、以下のような重要な財産行為は自分でできない程度の人が該当します。
- 不動産の売買
- 自動車の売買
- 自宅の増改築
- 金銭の貸し借り
- 遺産分割協議
- 相続の承認・放棄
- 訴訟行為
保佐人が選任されると、これらの行為(民法13条1項各号に定められた法律行為)については、保佐人に同意権が与えられます。同意なしにされた行為は保佐人が取り消せます。
保佐人には、当然に代理権が与えられるものではありません。特定の法律行為について代理権が必要な場合は、本人の同意を得て代理権付与の申立てを行います(本人が申立てをする場合を除く)。
補助とは
補助の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が不十分な方です。判断能力が不十分な状態とは、支援を受けなければ、契約等の意味や内容を自ら理解したり、判断したりすることが難しい状態です。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は自分でできるけれど、重要な財産行為を一人で行うには不安があるので、誰かに援助してもらった方が良い人などが該当します。
補助人が選任されると、本人の同意があれば申立てにより、民法13条1項各号の法律行為の一部について同意権が与えられます。同意なしになされた行為は補助人が取り消せます。
特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判を申立てる場合も、本人の同意が必要です。
任意後見制度とは
任意後見制度は、将来、判断能力が衰えた場合に備えて、本人が十分な判断能力を有するうちに公正証書による契約で将来後見人となる人を決めておく制度です。
任意後見契約の効力は、締結時に生じるのではなく、本人の判断能力が不十分となり、申立てにより家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から生じます。
一度申立てたら裁判所の許可なく取下げられない
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に後見開始の審判を申立てます。
一度申立てたら、裁判所の許可なく取下げられません。候補者以外の人が後見人に選任されること、後見監督人が選任されることに不満があっても、それを理由に取下げることは原則できません。
成年後見を申立てる管轄裁判所はどこ?誰が申立人になれる?
ここでは、成年後見の管轄裁判所や申立権者について解説します。
申立てをする裁判所
後見開始の審判の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
参考:裁判所の管轄区域 | 裁判所 (courts.go.jp)
申立てができる人
後見開始の審判の申立てができる人は、法律上、以下のとおり定められています。
- 本人
- 配偶者
- 四親等以内親族
- 未成年後見人・未成年後見監督人
- 保佐人・保佐監督人
- 補助人・補助監督人
- 検察官
任意後見契約が登記されているときは、以下の人も申立てができます。
- 任意後見受任者
- 任意後見人・任意後見監督人
65歳以上の方や精神障害・知的障害のある方で、本人の福祉を図るために特に必要がある場合には、市町村長(特別区の区長を含む)も申立てられます。
成年後見申立てに必要な書類
ここでは、成年後見の申立てに必要な書類について解説します。
申立書類
成年後見の申立書類は、以下のとおりです。
- 後見開始等申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 親族の意見書
- 後見人等候補者事情説明書
- 財産目録
- 相続財産目録
- 収支予定表
申立書類は家庭裁判所によって様式が異なるため、管轄の家庭裁判所から申立書類一式を取得します。家庭裁判所の窓口でも入手できますが、現在はホームページからダウンロードできる家庭裁判所も多くあります。
添付資料
成年後見申立ての標準的な添付書類は、以下のとおりです。
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)(発行後3か月以内のもの)
- 本人の住民票又は戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
- 成年後見人候補者の住民票又は戸籍附票(発行後3か月以内のもの)
- 本人の診断書(発行後3か月以内のもの)
- 本人情報シート写し
- 本人の健康状態に関する資料
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書(発行後3か月以内のもの)
- 本人の財産に関する資料
- 本人の収支に関する資料
添付資料は、家庭裁判所によって異なることがあるため、事前に管轄の家庭裁判所に確認しましょう。

成年後見申立てに必要な費用
ここでは、成年後見の申立てに必要な費用について解説します。
申立手数料
申立手数料として、800円分の収入印紙を申立書に貼り付けて納付します。
郵便切手
申立時に、連絡用の郵便切手を予納する必要があります。
郵便切手の内訳は家庭裁判所によって異なりますが、3,000円~4,000円程度としているところが多いです。
登記手数料
申立時に、登記手数料として2,600円分の収入印紙を納めます。
鑑定費用
本人の精神の状況について鑑定が必要な場合には、鑑定費用として5万円~10万円程度を納めます。
成年後見申立ての流れ
ここでは、成年後見申立ての流れについて解説します。
面接の予約
各家庭裁判所では、申立当日または申立後に、申立人や後見人候補者、本人などから詳しい事情を聴取するための面接が実施されています。
そのため、通常は、必要な書類が揃ったら、申立てをする家庭裁判所に電話をして面接の予約をとります。
なお、面接の予約の要否や、面接日(申立当日または申立後別途)は、各家庭裁判所によって異なりますので、申立てをする裁判所に確認しましょう。
申立書類の提出
面接の予約後、指定された期限までに申立書類を家庭裁判所に持参又は郵送します。家庭裁判所によっては、面接の予約前に申立書類の提出を求められることもあります。
申立人及び後見人候補者の面接・調査
受理面接では、家庭裁判所の担当者が、提出された書類に基づき、申立人や後見人候補者に以下の事項を確認します。
- 申立てに至った事情
- 本人の生活状況
- 本人の判断能力
- 本人の財産状況
- 親族の意向
面接の所要時間は、1~2時間程度です。
親族への意向照会
親族の意見書を提出していない場合などには、家庭裁判所から本人の親族に対して意向照会をすることがあります。
本人の面接
本人の陳述を聴取できる場合には、家庭裁判所の担当者が本人と面接して、本人の意向や状況を確認します。
精神鑑定
必要に応じて、医師による鑑定が行われる場合があります。
成年後見の申立てでは、原則として鑑定が必要とされています。しかし、判断能力の低下が著しいことが診断書などから明らかである場合など、家庭裁判所が鑑定の必要がないと認める場合には、鑑定が不要とされています。
実務上は、鑑定が実施されないことの方が多く、令和元年の鑑定の実施率は全体の7%程度となっています。
後見人の選任
調査や鑑定が終了すると、家庭裁判所は、後見開始の審判をするとともに成年後見人選任の審判をします。
事案によっては、複数の成年後見人が選任されたり、後見監督人が選任されたりすることもあります。
成年後見申立てから審判確定までの期間はどのくらい?
ここでは、成年後見の申立てから審判確定までの期間について解説します。
申立から審判までは約1~2か月
必要な書類等がすべて整っている標準的なケースで、調査等もスムーズに行われれば、申立てから1~2か月程度で審判がなされます。
ただし、鑑定が行われる場合は、そのための期間がさらに必要になります。
審判確定までは約2週間
審判の内容は、申立人・本人・成年後見人に書面で告知されます。
成年後見人が審判書謄本を受領してから2週間以内に不服申立て(即時抗告)がなければ、審判が確定します。
成年後見申立ての弁護士費用や司法書士費用の相場
ここでは、成年後見申立てを専門家に依頼した場合の費用相場を紹介します。
成年後見の申立ては、弁護士や司法書士に依頼できます。
専門家に申立てを依頼する場合は、専門家に支払う報酬が発生します。
報酬額は、依頼する弁護士や司法書士によって異なりますが、10万円~30万円程度かかるのが一般的です。
まとめ
成年後見の申立ては、自分でもできますが、書類の作成・収集に手間や時間がかかります。
申立てを弁護士に依頼すれば、以下のメリットが得られます。
- 成年後見制度に関する知識や裁判所の手続きを習得する手間を省ける
- 資料集めや書類作成を任せられる
- 受理面接等に代理人として同行してもらえる
認知症のご親族の財産管理にお困りの方、成年後見の申立てを検討中の方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。