家族信託は危険?家族信託の制度に潜むリスクやデメリットを解説

家族信託には、以下を例に様々なメリットがあります。
- 老親の判断能力に左右されない財産管理ができる
- 成年後見制度より柔軟な財産管理ができる
- 思い通りの資産承継ができる
- 不動産の共有回避・共有不動産のトラブル回避ができる
- 二次相続が指定できる
その反面、デメリットもあります。
この記事では、家族信託に潜むリスクやデメリットについて解説します。
目次
家族信託に潜む7つのリスク・デメリットとは
家族信託のデメリットを7つ紹介します。
家族間にトラブルが生じるおそれがある
家族信託では、次のとおり、家族間のトラブルが生じるおそれがあります。
受託者が決まらない
受託者の財産の管理・運用には、事務手続きや税申告をはじめ手間や労力がかかります。財産の管理を任せたい相手が「受託者になりたくない」と拒否するケースも少なくありません。
信託財産の管理が適切に行われない
信頼して選んだ受託者による財産管理が不適切であると、他の家族から不満が生じて家族間の争いに発展しかねません。
当事者以外の家族から不満が出る
複数の子がいて、そのうち受託者と受益者を1人ずつ指名した場合、他の子らに何の説明もないと、「不公平だ!」と不満が出ることもあります。
30年ルールにより強制終了となる
家族信託では、二世代・三世代先まで財産の承継先を指定できます。受益者の死亡を原因として受益者の地位を引き継ぐ者を指定する信託を受益者連続型信託といいます。
信託法には、信託設定時から30年経過後に現存する受益者又は二次受益者が受益者連続型信託によって受益権を取得した後に死亡すると終了する、という30年ルールがあります。
受益者連続型信託をしても、信託設定時から30年経過後は一度しか承継が認められません。
当事者を長期間拘束する
家族信託は受託者を長期間拘束します。
何世代にも亘って財産の処分や運用に制限をかけることもあります。
財産の管理や税務申告に労力がかかる
財産の管理や税務申告に労力がかかるのもデメリットの一つです。
不動産を信託した場合、受託者には当該不動産を管理する義務があります。
具体例は次のとおりです。
- 空き地の管理(雑草処理、不法投棄対策)
- 建物の修繕や老朽化対策
- 信託の計算書の作成・提出
- 固定資産税の納税
- 受益者の申告義務
受益者には信託財産から得た収益を申告する義務があります。
初期費用がかかる
家族信託を利用する場合、次を目安とした初期費用がかかります。
- 専門家への相談料および着手金:50万~100万円程度
- 公正証書作成費用:10〜15万円程度
- 不動産の信託登記:10〜30万円程度

贈与税がかかる場合がある
家族信託の利用により、贈与税が課税される場合があります。
家族信託は、開始日や効力発生の条件が定められていない場合、信託設定時に効力が生じます。
信託の設定時に効力が発生することを前提とした場合、税務上の取り扱いは次のとおりとなります。
- 自益信託(委託者=受益者):原則として贈与税は課税されない
- 他益信託(委託者≠受託者):受益者に贈与税が課税される
受益者の変更時や信託の終了時にも贈与税が発生する場合があります。

遺留分侵害額請求の対象となる
信託財産はみなし相続財産であるため、遺留分算定の対象になります。特定の法定相続人に受益権を集中させた場合、相続に際して遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
なお、遺留分侵害額請求の回避を主たる目的とした信託は、受益者のためになされるべき財産管理の実態がないと判断され、無効となる可能性があります。
家族信託ではできないこと
リスクやデメリットのほか、家族信託ではできないこともあります。
判断能力が低下した後は契約できない
家族信託は、委託者の判断能力が十分なうちに契約します。委託者が判断能力を失った後は利用できません。
信託財産の損失を別の信託財産と損益通算できない
信託財産から出た損益はその他の所得と損益通算できません。
信託財産の赤字を翌年以降に繰り越しできません。
身上監護権がない
家族信託は身上監護ができません。
病院や介護施設との契約や役所への申請その他生活に関する手続きができません。
信託できない財産もある
預貯金、借金、保証債務は信託できません。
農地(畑、田)は農業協同組合または農地保有合理化法人による信託の引受けを除き、原則として信託できません。
節税対策にはならない
家族信託の利用自体では節税対策になりません。
受託者への信託報酬を定めにより信託財産が減少した結果、節税効果を生む場合はありますが、原則として、家族信託そのものに節税効果はありません。
家族信託で生じ得るトラブル
次に該当する場合、トラブルに発展することがあります。
契約書に不備がある
契約書に不備があった場合、契約そのものが無効となるおそれがあります。
その結果、次のようなトラブルに発展することがあります。
- 信託口口座が開設できない
- 信託登記・登録ができない
- 家族や関係者から訴訟を提起される
信託契約書を公正証書化していない
信託契約書を公正証書にしておかないと、次のようなリスクが高まります。
- 信託口口座が開設できない
- 契約締結時の委託者の意思能力を疑われる
- 契約書の偽造を疑われる
抵当権が設定された不動産を信託の対象にした
住宅ローン・アパートローン契約に基づき金融機関の抵当権が設定された不動産を信託する場合、当該金融機関から事前の承諾を得る必要があります。
事前に承諾を得ず信託契約・信託登記をすると、契約違反となりローン残高の一括請求や抵当権を実行される可能性があります。
家族信託に潜むリスクやデメリットを避けるために
家族信託に潜むリスクやデメリットを避けるためにはどうすればよいでしょうか。対策方法を見てみましょう。
他の制度と併用する
家族信託はあくまでも財産管理や相続対策の一つの手段です。
事案によっては、家族信託以外の選択肢を選ぶことや、他の手続きとの併用も検討する必要があります。
他の選択肢や併用方法を具体的に見てみましょう。
成年後見制度の利用
成年後見制度は、裁判所が選任した成年後見人が、本人の財産管理や身上監護を行います。
家族信託との主な違いは次のとおりです。
- 本人の意思能力が低下した後に利用できる
- 成年後見人による身上監護が受けられる
- 親族が近くにいなくても支援を受けられる
- 信託の対象外の財産も管理できる
なお、成年後見制度は家族信託と利用の場面が異なり、また信託契約を無効にする効果があるため、原則として家族信託との併用はできません。
家族信託と任意後見契約との併用
任意後見契約は、本人の判断能力の低下後に効力が発生します。
したがって、家族信託と併用すれば、次のとおり相乗効果が得られます。
- 判断能力低下前も財産管理ができる(家族信託)
- 判断能力低下後は身上監護ができる(任意後見契約)
家族信託と遺言との併用
家族信託と遺言は併用できます。
遺言で、信託できない財産(預貯金債権)の行先を指定すれば、相続の円滑化を図れます。
ただし、遺言の内容と家族信託の内容が異なるとトラブルの原因になりますので、併用時は注意しましょう。
弁護士に相談する
家族信託の知識や経験が豊富な弁護士に相談することによって、リスクやトラブルを回避することができます。
家族信託を弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼した場合、得られるメリットを紹介します。
個々のニーズに応じた信託内容を決められる
家族信託の個別具体的なニーズに沿った信託の内容を設計できます。
弁護士に相談することで、より具体的な目的が見えることもあるでしょう。
適法な契約書を作成できる
当事者間で作成した契約書に不備があった場合、無効と判断されるおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、法的に問題のない契約書を作成できます。契約書を公正証書にする際もサポートを受けられます。
遺留分を考慮した信託内容を相談できる
家族信託の受益権は遺留分侵害額請求の対象となります。
家族間に不公平が生じると、後のトラブルに発展するリスクが高まります。
弁護士に依頼すれば、予め遺留分を考慮した内容の信託契約を検討できます。
家族信託を弁護士に依頼した場合にかかる費用
弁護士に依頼した場合、50~100万円程度の費用がかかります。
家族信託に関する報酬が他の業務に比べて高額となるのは、次の理由があります。
- 信託法以外の法律知識を要すること
- 関係者や金融機関、公証人との折衝が含まれること
- 信託契約後の継続的サポートを想定していること
家族信託は、契約すれば終わりではありません。長期的な視点で捉えると、弁護士に依頼すれば費用以上のメリットや安心感を得られることもあるでしょう。

まとめ
今回は家族信託のデメリットやリスクを解説しました。
家族信託は上手に利用すれば財産管理や相続をスムーズに進められます。そのためには、リスクやデメリットを十分に理解することが肝心です。
ご家族間で協議を行われる前に、まずは弁護士に相談してみるのも良いでしょう。弁護士は、個別具体的な事情に応じて、想いを実現するための最適な方法を提案できます。
当事務所では相続に関するご相談は初回無料です。家族信託の仕組みを知りたい方や、なるべくリスクを回避した家族信託を設計したい方は、お気軽にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。