家族信託にかかる税金とは?課税される税金の種類を解説

家族信託で不動産を信託した場合、当該不動産の所有権は、受託者(委託を受けた人)に移ります。
ところが、名義変更を経ても、受託者の財産になるわけではありません。
少し複雑ですが、この考えは、家族信託の課税関係にも深く結びついていますので、信託財産は名義人(受託者)の財産ではないことを念頭に置いてお読みください。
この記事では、家族信託にかかる税金の基本的な考え方と、課税される税金の種類を細かく解説します。
目次
家族信託の税金の基本
初めに、家族信託の税金の基本を確認しましょう。
家族信託により税金は増えない
第一に、家族信託をすること自体では税金が増えないことを理解しましょう。
身近なもので例えると、自動車税や固定資産税があります。自動車・不動産を持っているだけで、毎年、自動車税や固定資産税がかかります。課税される自動車税・固定資産税の税額や税率は、誰に車を預けて使用させていても変わりません。
このように、一定の資産を保有していることにより課される税は、家族信託の利用の有無で税額や税率が変わることはありません。
無論、信託のスキームによって課税される税金の種類が異なる点や、信託登記の際に登録免許税が発生する点は留意すべきですが、この点は後ほど詳述します。
税務上の原則
次に、税務上の原則を3つご紹介します。
受益者課税の原則
家族信託では、受益者に課税関係が生じるのが原則です。
家族信託により委託者が信託した財産(信託財産)の所有権は受託者に移転しますが、信託財産から生じた利益は受益者が受け取ります。
そのため、税法上は、信託財産の名義人である受託者ではなく、信託財産から実際に利益を受け取る受益者に課税関係が生じます。
自益信託と他益信託
家族信託の方法には、自益信託と他益信託があります。
- 自益信託:委託者が受益者を兼ねる信託(委託者=受託者)
- 他益信託:委託者が自分以外の第三者(家族や親族)を受益者とする信託(委託者≠受益者)
家族信託は、開始日や効力発生の条件が定められていない場合、信託設定時に効力が生じます。
以下では、信託の設定時に効力が発生することを前提に説明します。
委託者が自益信託をした場合は、その信託設定時に課税関係は生じません。
他益信託をした場合は、信託設定時に受益者に対して贈与税が課税されます。
遺言信託による場合は、委託者の死亡により信託の効力が生じるため、委託者の死亡時に委託者から遺贈があったとみなされ、相続税が課税されます。
原則、委託者に税金は課されない
他益信託の場合、委託者に課税関係が生じることはありません。
自益信託の場合も、信託財産の所有権は移転していないため、贈与税は課税されません。ただし、自益信託により信託財産から利益が生じる場合は、その利益(所得)に対して所得税が課税されます。
この3つのルールをふまえて、次に進みましょう。
家族信託により受益者に課せられる税金
信託設定時・信託期間中に受益者に課せられる税金の種類を説明します。
信託設定時に受益者に課税される税金
信託時に受益者に課税される税金は、贈与税です。
通常、不動産を贈与すると、新たに名義人となった受贈者に相続税が課税されます。
ところが、家族信託では新たに名義人となった受託者ではなく、信託財産である不動産から収益を受ける受益者に贈与税が課税されます。税務上、受益者を所有者とみなすためです。
信託設定時、受益者に贈与税が課せられるルールは次のとおりです。
原則:他益信託の場合は受益者に贈与税が課税される
他益信託の場合、受益者に贈与税が課税されます。
他益信託の場合は、委託者と受益者が異なるため、家族信託により財産が受益者に移転した扱いとなり、贈与とみなされるからです。
例外:自益信託の場合は贈与税が課税されない
自益信託の場合は、贈与税は課税されません。
委託者と受益者が同一人物である場合には、税務上、所有者の変更はない(財産の移転がない)扱いになるからです。したがって、贈与税は発生しません。
信託期間中に受益者に課税される税金
信託期間中、受益者に課税される税金は所得税と住民税です。
信託期間中、受益者が信託財産から収益(例:信託不動産である収益物件の賃料収入)を受けている間は、所得を得ていることになります。
したがって、当該所得に応じて所得税と住民税が課税されます。
家族信託により受託者に課せられる税金
次に、信託設定時・信託期間中に受託者に課税される税金を確認しましょう。
受託者は、信託財産の管理・運用・処分を行うだけで、当該財産からの利益を受けないため、税法上は信託財産の所有者とみなされません。このため、受託者には贈与税、所得税が課税されることはありません。
受託者に課税される税金の種類は次のとおりです。
信託設定時に受託者に課税される税金
信託設定時に受益者に課税されるのは、登録免許税です。
信託設定時の登録免許税は、次のとおりです。
- 所有権移転分:非課税
- 信託分(土地):固定資産税評価額の3%
- 信託分(建物):固定資産税評価額の4%
不動産は、相続・贈与・売買を原因として所有権の移転登記をすると、登録免許税が課税されます。具体的には、登記申請時に納める税金です。
これに対し、家族信託では、信託設定時の所有権移転登記の登録免許税は非課税とされています。
信託期間中に受託者に課税される税金
信託期間中に受益者が負担すべき税金は、固定資産税です。
不動産を信託した場合、固定資産税の納税通知書は受託者に届きます。
これまで、税法上、家族信託で信託財産から利益を受ける受託者が所有者とみなされると説明してきましたので、「なぜ受託者が負担するのか」と疑問が生じるでしょう。
固定資産税は、毎年1月1日現在の固定資産課税台帳に登録された人が納税義務者とされています(台帳課税主義)。このため、信託不動産の名義人である受託者に通知書が届くのです。
ただし、固定資産税は、信託契約において受益者が負担する旨を定めるのが一般的です。この場合、信託財産の収益から支払われます。
したがって、実質的には受益者が負担することになります。
信託変更時の課税関係
受益者や受託者に変更があった場合の課税関係を説明します。
受益者の変更時
受益者の変更があった場合に課税される税金の種類は次のとおりです。
贈与税
旧受益者が新受益者に対し、無償で(適正な対価の支払をせず)受益権を譲渡した場合(相続税法9条の2②)は、受益者の変更時、新受益者に贈与税が課税されます。
相続税
次の場合、受益者の変更時に、新受益者に相続税が課税されます。
- 受益者の変更の原因が旧受益者の死亡による場合(相続税法9条の2②)
- 受益者連続型信託では、受益者の死亡により受益者が交代する都度(相続税法9条の3)
譲渡所得税
受益者が受益権を有償で第三者に譲渡した場合(適正な価格の支払いがある場合)、旧受益者に譲渡所得税が課税されます(所得税法33条の1⑧)。
受託者の変更時
受託者の辞任や死亡により受託者を変更した場合は、課税関係は生じません。
受託者の変更時は、受託者変更登記が必要となりますが、登録免許税は非課税となります(登録免許税法7条の3)。
家族信託終了時の課税関係
家族信託終了時の課税関係を説明します。
信託終了時の課税関係を理解するのは、少し難しく感じるかもしれません。
ここからは、信託期間中に利益を受けていた受益者(実質的所有者)から、受益者以外の第三者に信託財産の所有権が移ると課税関係が生じることを念頭に置いてご確認ください。
信託が終了した時に残余財産が帰属する者の種類
信託が終了したときに、残余財産(信託契約の終了時に残っていた信託財産)を受け取る者は大きく分けて次の2つとなります(信託法182条)。
残余財産受益者
残余財産を受け取る受益者です。信託契約の際、受益者が有する受益債権の内容に「残余財産の給付ができる」旨を定めておくことができます。この定めがある場合は、受益者と残余財産受益者を兼ねることとなります。
帰属権利者
残余財産の帰属者として指定された者で、信託の清算により受益者とみなされる者です。
残余財産が帰属する点では残余財産受益者と同じですが、信託期間中は受益者ではありません。
なお、残余財産受益者もしくは帰属権利者の定めがない場合、委託者(またはその相続人)が帰属権利者とみなされます。相続人がいない場合には、残余財産は清算受託者に帰属するとされています。
家族信託終了時の課税関係
家族信託終了時の課税関係は、終了時の受益者と残余財産が帰属する者との関係で決定します。
すなわち、受益者と残余財産受益者または帰属権利者が同一人物でない場合には、信託期間中と信託終了後で、信託財産の所有者が変わるため(経済的価値の移動が生じる)課税関係が生じます。
詳しく見てみましょう。
相続税・贈与税・譲渡所得税のいずれも課税されないケース
信託終了時、受益者=残余財産受益者となる場合は、次のとおり、課税関係は生じません(相続税法9の2④)。
- 残余財産受益者ではない委託者には、課税関係は生じません。
- 残余財産受益者ではない受託者も、課税関係は生じません。
- 信託設定時に残余財産受益者と定められた受益者は、設定時に既に課税関係が発生しているため、終了時には課税関係が生じません(相続税法9条の2④)。
相続税または贈与税もしくは譲渡所得税が課税されるケース
信託終了時、受益者以外の者が残余財産受益者もしくは帰属権利者である場合は、贈与税もしくは譲渡所得税が課税されます。
信託の終了が受益者の死亡による場合
残余財産受益者または権利帰属者に相続税が課税されます(相続税法9条の2④)。
受益者とは別に残余財産受益者もしくは帰属権利者が設定されている場合
【有償(適正な価格の支払がある)の場合】
残余財産受益者または帰属権利者には贈与税は課税されません。
ただし、受益者には受け取った価格について譲渡所得税が課税されます(所得税法33条の1⑧)。
【無償(適正な価格の支払いがない)の場合】
残余財産受益者または帰属権利者に贈与税が課税されます(相続税法9条の2④)。
自益信託において、委託者兼受託者が死亡したことにより信託が終了した場合
信託契約で帰属権利者の定めがあれば、帰属権利者に相続税が課税されます。
信託契約で帰属権利者の定めがない場合、委託者兼受託者の相続人が帰属権利者とみなされます。この場合、帰属権利者となった委託者の相続人には、相続税が課税されます。
登録免許税・不動産取得税
不動産は原則として、登録免許税のほか不動取得税が課税されます。
ただし、自益信託において委託者兼受益者が帰属権利者となる場合は、登録免許税・不動産取得税は非課税となります。
委託者兼受益者の相続人が帰属権利者になる場合は、登録免許税のみ課税が課税されます。
具体的な課税関係を下表で整理します。
委託者兼受託者が帰属権利者 | 受益者の相続人が残余財産受益者 | 受益者の相続人以外の帰属権利者 | |
---|---|---|---|
登録免許税 | ①信託抹消登記
不動産1個につき1,000円 ②所有権移転登記 非課税 |
①所有権移転登記
評価額×0.4% ②信託抹消登記 不動産1個につき1,000円 |
①所有権移転登記
評価額×2% ②信託抹消登記 不動産1個につき1,000円 |
不動産取得税 |
非課税 |
非課税 |
課税 ※権利帰属者が、委託者兼受益者の相続人の場合、一定要件を満していれば非課税 |
家族信託は節税対策になる?ならない?
家族信託が節税対策になると考えている方も多いでしょう。実際はどうでしょうか。
家族信託の利用そのものは節税対策にならない
家族信託の税金の基本で説明したとおり、家族信託で税金が増えることはありません。
家族信託の利用そのものは節税対策になりません。家族信託をしてもしなくても、信託する財産の課税関係は変わらないからです。
信託契約で受託者への信託報酬の支払を定めておくことで、信託財産を減少させるスキームを設計し、結果的に節税効果を生む場合はありますが、原則として、家族信託そのものに節税効果はありません。
贈与税をかけずに信託財産の管理を託すことは可能
贈与税と相続税の違い
贈与税は、贈与額が年間110万円を超えると課税されます。税率は基礎控除後の課税価格により10~55%の間で定められています。
相続税は、遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えない場合は、課税されません。相続税額は、次の式に当てはめて算出します。
遺産総額-基礎控除額=課税遺産総額
課税遺産総額×各人の相続割合=法定相続に応ずる取得金額
法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額=算出税額
相続税率は、法定相続分に応ずる取得金額に応じて10~50%で定められています。
贈与税をかけない信託設計
財産の額が同じときは、相続税より贈与税の税率の方が高くなります。
信託契約に際して、相続税が課税されるスキーム(例:自益信託において委託者の死亡により受益権を移す方法)を設計すれば、相続税の課税対象となり、節税効果を生むことができる場合もあります。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁 (nta.go.jp)
参考:No.4155 相続税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
税金以外にかかる費用
弁護士・司法書士への報酬
弁護士に家族信託を依頼した場合の費用
弁護士に家族信託を依頼した場合の費用の相場は、以下のとおりです。
- 相談料:30分5,500円~
- コンサルティング料:50万円~200万円程度
コンサルティング料には信託の設計、信託契約書の作成、関係者・金融機関との折衝等が含まれます。
信託財産の1%程度が目安とされます。
司法書士に信託登記を依頼した場合の費用
司法書士への報酬は10〜30万円が目安です。信託する不動産の数により変動する場合があります。
公正証書作成費用
公正証書は、信託財産の額に応じて基本手数料がかかります。また、作成する証書の枚数に応じて手数料が加算されます。信託財産の額にもよりますが、2万円〜10万円程度が目安です。
受託者への信託報酬(契約で定めた場合)
受託者は、財産の管理・運営・処分を行います。信託の際、信託事務の対価として信託報酬を契約書で定めておけば、受託者に信託報酬を与えられます。
信託報酬の金額は、法的な決まりや相場はないので自由に設定できます。ただし、信託財産の規模や管理・運営・処分にかかる労力に比べて報酬額が高すぎる場合には、税務署から実質的には贈与にあたると指摘されることもあります。
収益不動産を信託する場合は、管理会社に支払う管理委託報酬に準じて賃料収入の5~10%を信託報酬の目安とすると良いでしょう。このように、信託報酬を定めるときは適正な金額を設定することをおすすめします。
まとめ
以上、家族信託の課税関係をご説明しました。家族信託にかかる税金の種類や、信託の内容によって課税関係が異なることをお分かりいただけたでしょうか。
家族信託は、税務上の取り扱いを含めて慎重に設計することが必要です。
当事務所では、グループ会社である税理士法人NEXPERTに所属する税理士のアドバイスを受けながら、税務の目線を取り入れたコンサルティングを実施しております。
家族信託や相続対策に関するお問い合わせは、ぜひ一度当事務所までご相談ください。
この記事を監修した弁護士

佐藤 塁(東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の佐藤塁と申します。当事務所の特徴は、法的な専門性や経験はもちろんのこと、より基本的に、お客様と弁護士との信頼関係を大事にしていることです。お客様のご依頼に対して、原則2人の弁護士が対応し、最初から最後までその弁護士が責任を持って対応させていただきます。難しい案件でも投げ出しませんし、見捨てません。良い解決ができるよう全力でサポートさせていただきますので、何でもまずはご相談いただけますと幸いです。