所有者不明土地とは?解消に向けた新たな制度について解説

草が生い茂って管理されていない土地を目にしたことがある人はいらっしゃると思います。このような土地は、所有者が分からず放置されている可能性があります。
この記事では所有者不明土地とは何か、その問題点と解消に向けて設けられた新たな制度について解説します。
目次
所有者不明土地とは?
所有者不明土地とは、不動産登記簿を確認しても所有者が分からない、もしくは所有者が分かっても所在が分からず連絡が取れない状態の土地です。
なぜこのようなことが起きるかというと、相続登記や土地の所有者が転居した際の住所変更登記が適切に行われていなかったためです。
現在、日本にはこのような土地が増えており、2022年度に地方公共団体が実施した地積調査事業で、不動産登記簿のみでは所有者の所在が判明しなかった土地の割合は24%に及んでいると分かりました。
今後も増え続けることが危惧されています。
所有者不明土地の問題点は?
所有者不明土地が増えるとどのような問題が起きるのか、以下で解説します。
土地の管理ができず環境の悪化を招く
所有者不明土地は、適切な管理ができないため環境の悪化を招くおそれがあります。
管理されていないことにつけ込んで不法投棄をする人がいると、近隣の人たちに迷惑がかかってしまいます。
防災対策ができない
所有者不明土地が増えると防災対策が適切にできなくなります。
2011年3月に発生した東日本大震災で被災した岩手県では、復興のためのまちづくりを進めるにあたり所有者不明土地が膨大だったため、用地買収が難航したといいます。そのため、復興に支障をきたしたと考えられます。
土砂災害の危険のある土地に対して何かしらの対策を施したいと考えても、所有者の許可が得られなければ、放置せざるを得ない場合があります。
土地の有効活用が妨げられる
所有者不明土地が増えると土地の有効活用が妨げられます。
過去には、国道を新設する公共事業のために取得しようとする用地について、明治時代を最後に登記がされていない事例がありました。所有者はすでに亡くなっていたため、相続人を追っていくと150人近くいることが分かりました。やっとの思いで法定相続人を特定し、用地取得までに約3年の時間がかかったといいます。
このように、相続登記未了のまま放置されている土地は、相続人が多数発生していることが多く、相続人全員へ事業概要・補償内容の説明を経て、相続登記を完了させるためには多大な時間と労力を要することとなります。
その間、国道新設工事が進められないため、多くの人が不利益を被ることになります。
所有者不明土地の解消に向けた取り組みは?
所有者不明土地の増加やそれが引き起こす問題を解消するために、国は以下のような取り組みや法改正を進めています。
- 相続登記の義務化
- 相続人申告登記の新設
- 相続土地国庫帰属制度の新設
- 所有者不明土地建物管理制度の新設
- 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正
以下で詳しく解説します。
相続登記の義務化
2024年4月に相続登記の義務化がスタートしました。
これまでは相続が発生しても土地建物の名義変更をする相続登記は任意で行えば良かったため、放置する人が多く所有者不明土地が増加する原因となっていました。
これを解消すべく、相続によって土地・建物を取得したことを知った日から3年以内に相続登記申請を義務付けました。
正当な理由なく相続登記を放置するとペナルティーが科せられる可能性があるので、気を付けなければいけません。
なお、2026年4月からは、住所や氏名の変更登記の申請が義務化される予定です。土地や建物の所有者は、住所や氏名に変更があった日から2年以内に変更登記をする必要があります。
相続登記の義務化に関しては、以下の記事を参考にしてください。

相続人申告登記の新設
2024年4月に相続登記の義務化がスタートしたと同時に、相続人申告登記が新設されました。
この制度は、不動産所有者の相続人が、法務局に対し、以下の事項を申し出て、登記官が職権で登記する制度です。
- 登記簿上の所有者が亡くなり相続が発生したこと
- 自らが相続人であること
この申出を相続登記申請義務の履行期間内に行えば、相続登記の申請義務を履行したとみなされ、ペナルティーを避けられます。
相続人申告登記については、以下の記事を参考にしてください。

相続土地国庫帰属制度の新設
2023年4月から相続土地国庫帰属制度がスタートしました。
相続や遺贈で土地を取得したけれど維持・管理が大変なので手放したいと考えている人のために設けられた、一定要件下で国が土地を引き取る制度です。
この制度を利用すれば、以下のメリットがあると考えられます。
- 土地の維持・管理から解放される
- 固定資産税の負担がなくなる
申請するためのおおまかな流れとしては、以下のとおりです。
①土地を管轄する法務局の本局に事前相談する
②申請可能な土地だと法務局が判断したら、必要書類を提出する
③法務局による土地の実地調査が行われる
④国庫帰属の承認・不承認が判断される
ただし、以下のような土地は申請ができません。
- 建物が建っている土地
- 抵当権などの担保権が設定されている土地
- 道路、墓地、境内、ため池などが含まれる土地
- 特定有害物質で汚染されている土地
- 所有権について争いのある土地
上に挙げたもの以外でも、法務局に申請して不承認になる可能性がある土地もありますので、承認されるための条件が多いと感じられるかもしれません。
相続土地国庫帰属制度については、以下の記事で解説していますので、参考にしてください。

所有者不明土地建物管理制度の新設
2023年4月に所有者不明土地建物管理制度が新設されました。
これは土地・建物の所有者が分からない、所有者は分かるけれど所在が分からない場合に、利害関係人が地方裁判所に申し立て、土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらう制度です。
従来の不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度と何が違うのかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、所有者不明土地建物管理制度は、特定の土地や建物に特化して管理するところに特徴があります。
本制度を利用するには3つの条件を満たさなければいけません。
- 調査を尽くしても所有者や所有者の所在が分からない
- 管理人による管理が必要だと認められること
- 利害関係人が申し立てること
本制度を利用する流れは以下の通りです。
①不動産の所在地を管轄する裁判所に申立てをする
②裁判所が1か月以上の異議申出期間等を定めて公告する
③裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任する
④管理人の選任が公示される
⑤所有者不明土地建物管理人が管理・処分する
所有者不明土地建物管理制度については、以下の記事で解説していますので参考にしてください。

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の改正
所有者不明土地が都市開発やインフラ整備などの事業を進めるにあたり、大きな支障となっていることから、2018年に所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が成立しました。
2023年5月には、所有者不明土地対策の更なる推進に向け、改正法が公布され、同年11月1日に施行されました。
所有者不明土地の円滑な利用等を図るための4つの仕組みを以下の表にまとめましたので、参考にしてみてください。
所有者不明土地を円滑に利用する仕組み | ①所有者不明土地で地域福利増進事業を行う場合、知事の裁定で最長10年間(一部は20年間)を上限とする使用権を設定できる
②所有者不明土地を収用等する場合、収用委員会の採決に代わって、知事の裁定で審理手続を経ずに土地が取得できる |
所有者不明土地を適正に管理する仕組み | ①所有者不明土地で災害発生を防止するため、勧告・命令・代執行の権限を市町村長に付与
②地方裁判所に対する所有者不明土地管理命令・管理不全土地管理命令の請求権を地方公共団体の長等に付与 ③家庭裁判所に対する不在者財産の管理に必要な処分や財産管理人の選任請求権を地方公共団体の長等に付与 |
所有者の探索を合理化する仕組み | 所有者を探索するにあたり、登記簿、戸籍、固定資産課税台帳などの公的書類の調査が可能 |
所有者不明土地対策の推進体制の強化 | ①市町村は、所有者不明土地対策契約の作成や対策協議会の設置が可能
②市町村長は、特定非営利法人等を所有者不明土地利用円滑化等推進法人として指定が可能 |
所有者不明土地を買いたい場合にすべきことは?
所有者不明土地を買いたい場合は、まず購入したい土地の登記内容を調査し、登記簿上の所有者への連絡を試みてみましょう。
調査を尽くしても所有者が分からない場合は、新設された所有者不明土地管理制度の利用を検討してみましょう。
購入したい土地の登記内容を調査する
購入を検討している土地の登記事項証明書を取得して、現在の登記上の所有者を確認しましょう。
登記上の所有者に連絡をとる
登記上の所有者が分かったら連絡を取りましょう。
所有者がすでに亡くなっている場合は相続人を調査し相続人に対して土地を購入したい旨交渉します。
所有者が判明しない場合は所有者不明土地管理制度の利用を検討する
調査を尽くしても土地の所有者が判明しない場合は、所有者不明土地管理制度を活用することで、所有者不明土地の購入を実現できるかもしれません。

所有者不明土地管理命令を申立てられるのは、以下のような利害関係人です。
- 当該土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれのある隣接地所有者
- 共有者の一部が不特定又は所在不明となった共有者
- 当該土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者
当該土地(建物)の買受を希望する民間事業者も、利害関係人として認められうるとされています。
もっとも、単に「当該土地を購入したい」といったものでは足りず、具体的な事業計画(対象となる土地の用途、管理方法)や、財務の健全性等を疎明する必要があると考えられますので、所有者不明土地の購入を希望する場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
所有者不明土地を買いたい場合は、以下の記事で流れを説明していますので参考にしてください。

まとめ
社会問題となっている所有者不明土地ですが、解消すべく新制度を設け、地方公共団体の長に権限を与えるなど対策を行っています。市街地に住んでいる人は所有者不明土地といってもあまりピンとこないかもしれませんが、郊外に住んでいる人は実際に目の当たりにしているかもしれません。
所有者が分からない土地が近くにあってトラブルになっている場合は、早めに弁護士に相談をしましょう。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に詳しい弁護士が在籍していますので、ぜひ一度ご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。