相続分の放棄とは何か?相続放棄との違いやメリットについて解説

相続が発生したものの、面倒な手続きや相続人同士のいざこざに巻き込まれたくない場合、取るべき方法が2つあります。それが相続放棄と相続分の放棄です。
この2つはよく似ているので混同してしまいますが、これらは似て非なるものです。
この記事では相続分の放棄とは何か、相続放棄との違いについて解説します。
目次
相続分の放棄とは何か?
相続分の放棄とは、共同相続人が相続分を放棄することです。
その性質は、遺産に対して有する共有持分権を放棄する意思表示、あるいは自己の取得分をゼロとする事実上の意思表示と解されています。
実務では、前者の見解を前提として、共同相続人の一人が相続分の放棄をすると、その放棄された相続分は他の相続人に対して相続分に応じて帰属すると解するものと考えられています。
例えば、Aさんが亡くなり、相続人がAさんの子どもBさん、Cさん、Dさん3人だったとします。この場合、それぞれの法定相続分は3分の1ずつとなりますが、Bさんが相続分の放棄をしたら、CさんとDさんの相続分は2分の1となります。
相続分の放棄と相続放棄の違いは?
相続分の放棄と相続放棄の違いは以下の4つです。
相続分の放棄は一方的な意思表示で効力が生じる
相続分の放棄は、他の相続人に対し、相続分を放棄する旨の意思表示をすることで、その効力が生じます。
もっとも、実務では、相続分の放棄が本人の意思によることを明確にするため、放棄書や遺産分割協議書への本人の署名と印鑑証明書の提出が求められることが多いです。
家庭裁判所に申し立てをしなければできない相続放棄と違う点です。
相続人としての地位が残る
相続分の放棄をしても相続人としての地位は残ります。
相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかった扱いになる点と相違します。
相続分の放棄をするのに期限はない
相続分の放棄をするのに期限はありません。
相続分の放棄は、相続が開始してから遺産分割までの間であればいつでも可能です。
自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければならない相続放棄と違う点です。
借金などのマイナス財産は引き継ぐ
相続分の放棄をしても、被相続人が残した借金などのマイナス財産は引き継がなければいけません。
プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄できる相続放棄と違う点です。
相続分の放棄と相続分の譲渡の違いは?
相続分の放棄と混同されがちなのが相続分の譲渡です。両者の違いは以下の3つで、それぞれ解説します。
相続分の放棄は他の相続人の合意は不要
相続分の放棄は、他の相続人に対して意思表示をすれば足りますが、相続分の譲渡は譲渡する相手との間で合意が必要です。
相続分の放棄の場合、法定相続登記が不要
相続分の放棄をした場合、法定相続登記が不要ですが、相続人以外の第三者に相続分の譲渡をしたら、法定相続登記のあとに相続分の譲渡を目的とした登記をしなければいけません。
相続分の譲渡については、次の関連記事をご参照ください。

相続分を放棄する具体的な方法や書式は?
相続分の放棄をする場合、方式に定めはありません。
調停・審判になった場合は、相続分の放棄書を裁判所に提出します。以下でそれぞれ解説します。
協議分割の場合は共同相続人に意思表示をする
遺産分割協議で相続分を放棄する場合は、他の相続人に対して相続分を放棄する旨の意思表示をします。
遺産分割協議が成立したら遺産分割協議書を作成しますが、その際に相続分の放棄をした人がいると分かる記載をします。
相続分の放棄をする人の相続分をゼロにすると書いても良いですが、一般的には、遺産を相続する人の名前と財産の内容を記載し、相続分の放棄をした人は署名・押印のみを行うケースが多いです。
遺産分割調停・審判の係属中は放棄書を裁判所に提出する
遺産分割調停・審判が係属中に相続分の放棄を行う場合は、裁判所に対して相続分放棄届出書兼相続放棄書を提出します。
相続分放棄届出書兼相続放棄書を提出すれば、裁判所は相続分の放棄をした相続人を遺産分割調停・審判の当事者から排除します(特に必要がある場合には、相続分を放棄しても、排除決定をせず、引き続き手続きへの関与を求められることもあります。)。
相続分放棄届出書兼相続放棄書の書式は、以下のとおりです(裁判所によって書式が異なる場合があります)。
画像引用元:相続分の放棄について(説明書)|裁判所(courts.go.jp)
相続分放棄届出書兼相続放棄書には、相続分を放棄する人の署名・押印(実印)と印鑑証明書の添付が求められます。
即時抗告権を放棄する場合は、即時抗告権放棄書も併せて提出します。
相続分の放棄をするメリットは?
相続分の放棄をするメリットは、相続の複雑な手続きから逃れられ、簡単に済ませられる点です。
手続きもそんなに複雑ではないので、以下に該当する人は相続分の放棄を検討しても良いかもしれません。
- 被相続人が借金を残していない
- 相続争いに巻き込まれたくない
- 生前、被相続人から贈与を受けている
まとめ
相続分の放棄は、相続放棄と違って家庭裁判所への申立ても不要で、比較的簡単にできる手続きです。相続手続きで他の相続人とやり取りをしたくないと考えている人は、選択肢の一つとして考えても良いかもしれません。
ただし、相続人としての地位は失うことなく、債務についての負担義務も免れないので、被相続人が借金を残していないかどうか確認してから検討したほうがよいでしょう。
相続分の放棄をすべきかどうか、自分では判断できないと考えている人は、弁護士に相談をおすすめします。ネクスパート法律事務所には、相続全般に精通している弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料で対応できる場合がありますので、一度お問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。