相続分の譲渡とは何か?方法・メリット・相続放棄との違いを解説

相続が発生し相続人になった際、できれば面倒な相続手続を避けたいと考える人もいらっしゃると思います。
そのように考える人にとって選択肢の一つとなりうるかもしれないのが相続分の譲渡です。
この記事では、相続分の譲渡とは何か、方法やメリット、相続放棄との違いについて解説します。
目次
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、相続開始によって承継取得している自己の相続分を、他の者に包括的に譲渡することです。
相続分の譲渡には、主に以下の3つの特徴があります。
自己の相続分の一部または全部が譲渡できる
相続人は、遺産分割が行われるまでに自己の相続分を他の者にまとめて譲渡できます。
相続分の一部譲渡が認められるか否かについては見解が分かれますが、相続分自体が遺産全体に対する一定の割合である以上、相続分の一部のみの譲渡も可能と考えられています。
注意したいのは相続分を譲渡する場合、特定の財産について指定ができず、持ち分割合を譲渡する考えとなる点です。
例えば、相続分の一部を譲渡したいと考えた場合、相続分の2分の1を譲渡するという方法を取らなければならず、A不動産を譲渡してB不動産は相続するという特定の財産の指定はできません。
相続人以外にも譲渡ができる
相続分は、相続人以外の第三者にも譲渡できます。
複数人にも譲れるので、他の相続人と相続人以外の第三者の両方に譲渡ができます。
もっとも、この場合は相続関係をかえって複雑にする可能性はあります。
有償または無償で譲渡ができる
相続分の譲渡は、有償でも無償でも行えます。
ただし、次のような問題がからんできますので、慎重に検討しなければいけません。
他の相続人に無償で相続分を譲渡した場合、当該相続分に財産的価値があると言えない場合を除き、譲渡した人の相続において、民法903条1項に規定する贈与とみなされる可能性があります(最高裁平成30年10月19日判決)。
例えば、相続人Bが被相続人Aの相続(一次相続)で自己の相続分を無償で相続人Cに譲渡すると、Bが死亡した場合の相続(二次相続)の際に、Bの相続人(遺留分権を有する相続人)がCに対して、遺留分侵害額請求権を行使する場面が想定されます。
この場合は、Bの行った相続分の譲渡は、遺留分額算定の基礎となる財産額に参入されます。
第三者に有償で譲渡した場合は、譲渡した人に相続税だけでなく利益を得た分の(譲渡)所得税がかかる可能性があります。無償で譲渡した場合は相続分を譲り受けた人に贈与税が課税されます。
相続分の譲渡をする方法は?
相続分の譲渡は、相続開始後から遺産分割成立前であればいつでもできます。
家庭裁判所に申し立てるといった特別の手続きは不要です。以下で具体的な方法を解説します。
相続分の譲渡証明書を作成する
相続分の譲渡は口約束でも成立しますが、後々のトラブルを避けるために、相続分の譲渡が行われたことを証明する相続分譲渡証明書を作成したほうがよいです。
以下で相続分譲渡証明書の一例を紹介します。
相続分譲渡証明書 譲渡人の住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 譲渡人の氏名:〇〇 〇〇(以下、甲とする)
譲受人の住所:〇〇県〇〇市〇〇町△丁目△番△号 譲受人の氏名:△△ △△(以下、乙とする)
甲は乙に対し、本日被相続人亡〇〇〇〇(令和△年△月△日死亡)の相続について、甲の相続分全部を譲渡し、乙はこれを譲り受けた。 令和△年△月△日
甲:(署名)(実印※印鑑証明書の添付が必要) 乙:(署名)
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他の相続人全員に相続分の譲渡を行ったと通知する
相続分の譲渡を行ったら、他の相続人全員に相続分の譲渡を行ったと通知をします。
相続分を譲り受けた人は、他の相続人とともに遺産分割協議書に参加しなければならないため、誰に遺産分割協議の開催日時を連絡するかという意味で、他の相続人に通知が必要です。
相続分の譲渡と相続放棄との違いは?
自己の相続分を譲渡することから、相続放棄と似ている制度と思う方もいらっしゃるでしょう。ここでは相続分の譲渡と相続放棄の違いについて解説します。
相続分の譲渡は、相続人の地位を失わない
相続分の譲渡を行っても相続人の地位は失いません。
相続放棄の場合は相続人としての地位を失い、最初から相続人でなかった立場となる点が違います。
ただし、自己の相続分の全部を他の者に譲渡した場合、譲渡人は遺産分割手続の当事者となり得ないと解されています。
相続分の譲渡は、債務の支払い義務を免れない
相続分の譲渡をしても、借金などの債務の支払い義務は原則として免れません。
相続分の譲渡によって債権債務を譲受人に譲渡しても、あくまで譲渡人と譲受人の間の関係であるため、それを債権者に対抗できないからです。そのため、債権者の同意を得ていない限り、債権者が、法定相続分の割合で被相続人の借金の支払いの督促をしてきた場合は、譲渡人である相続人はこれを拒めません。
相続放棄をすれば、財産を得られないだけでなく、借金の支払い義務もなくなりますので、相続分の譲渡と違う点です。
相続分の譲渡は、裁判所の手続きが不要となる
相続分の譲渡は裁判所の手続きが不要で、譲渡人と譲受人の間で合意できれば成立します。
これは、決められた期限内に、書類や添付書類をそろえて家庭裁判所に申し立てなければいけない相続放棄と違う点です。
相続分の譲渡は、一部の財産についてのみ行える
相続分の譲渡は、一部の財産についてのみ行えます。
相続放棄をしたら、すべての財産を放棄しなければならないため点と相違します。
相続分の譲渡は、期間制限がない
相続分の譲渡は、期間制限がなく行えます。
相続放棄は、被相続人が亡くなったことまたはそれによって自分が相続人となったことを知った時から3か月以内にしなければいけないので違う点です。
相続分の譲渡のメリットは?
相続分の譲渡を行うメリットは、以下の4点が考えられますのでそれぞれ解説します。
相続トラブルに巻き込まれない
自己の相続分を譲渡すれば、相続トラブルに巻き込まれずにすみます。
被相続人が遺した財産をめぐって、相続人がそれぞれ自分の意見を主張し、遺産分割協議がなかなかまとまらない場合があります。それまでは友好な関係を築いていたのに、相続の話し合いをきっかけに仲違いしてしまうケースもあります。
相続分の譲渡を行えば、こうしたトラブルを避けて巻き込まれずにすみますし、相続手続にかかる面倒な手続きから逃れられます。
相続分の譲渡をしたい人を選べる
自己の相続分を譲渡したい人が選べるのは、相続分譲渡のメリットです。
その際は、譲渡する相手との間で合意できれば自由にできますので、他の相続人の許可を得る必要がありません。
例えば、自分は生前、被相続人からさまざまな支援をしてもらったので、自分の相続分は独身の弟に譲りたい…といった選択が可能となります。
有償であれば対価が得られる
相続分の譲渡は、有償で譲渡すればその分の対価が得られます。
相続人として財産を得るなら、遺産分割協議の成立が不可欠です。遺産分割協議は成立するまでに年単位の時間がかかるケールがありますが、相続分の譲渡であれば、遺産分割協議の成立を待たずに現金を得られる可能性があります。
他の相続人に譲渡すれば、遺産分割協議がスムーズに進む可能性がある
他の相続人に自分の相続分を譲渡すれば、遺産分割協議がスムーズに進む可能性があります。
相続分の譲渡をすれば、遺産分割協議へ参加しなくても済みますので、話し合いをする相続人の人数が減るのはメリットといえるでしょう。
ただし、相続分を相続人以外の第三者に対して譲渡した場合は、遺産分割協議に相続人以外の人が参加することになるため、他の相続人と揉める可能性があります。
相続分の譲渡のデメリットは?
相続分の譲渡をするにあたり、デメリットもいくつかあります。以下の3つについてそれぞれ解説します。
債務の支払い義務を免れない
相続分の譲渡により債権債務が譲渡人から譲受人に移転しても、相続債権者に対する借金など債務の支払い義務は原則として免れません。
債権者に対抗するには、債権者の同意を得なければならないからです。それがない限り、債権者は、相続人の地位を有している者にたいして法定相続分の割合で被相続人の借金を返済するように求められます。
この場合、譲渡人が被相続人の借金を返済した場合、自己の相続分を譲渡した相手(譲受人)にその分の返還を求められます。
税金がかかる可能性がある
相続分の譲渡を相続人以外の第三者に対して行った場合、相続税だけでなく利益を得た分の所得税が課税される可能性があります。
遺言がある場合、相続分の譲渡ができない場合がある
被相続人が遺言をしている場合は、相続分の譲渡ができない場合があります。
遺言書で被相続人の財産をどのように分けるか、すべて記載があった場合はそのとおりに相続手続を進めていきますので、相続分の譲渡ができません。
相続人以外に相続分の譲渡をする場合の注意点は?
相続分の譲渡をする際に、相続人以外の第三者に対して行う場合、注意すべき点がいくつかありますので、以下で解説します。
相続人以外の第三者が遺産分割協議に参加することになる
自己の相続分を相続人以外の第三者に譲った場合、遺産分割協議に相続人以外の者が参加する事態となります。
そのため他の相続人との間でトラブルが生じる可能性があります。
不動産を譲渡する場合、一度の登記で済ませられない
自己の相続分として不動産を相続人以外の第三者に譲渡した場合、登記を一度で済ませられません。
最初に自己が相続によって取得したとして相続登記を行い、その後第三者に対して相続分の売買もしくは相続分の贈与を登記原因とした登記を行わなければいけません。
他の相続人が譲渡された相続分を取り戻す可能性がある
自己の相続分を相続人以外の第三者に譲渡しても、他の相続人が譲渡された相続分を取り戻す可能性があります。
民法では、相続人の一人が相続分を相続人以外の第三者に譲渡した場合に、譲渡を知った時から1か月以内であれば取り戻し請求ができると規定しています。
取り戻し請求をされたら、相続分を譲り受けた人は応じなければいけません。その際は、支払われた金銭等を返さなければならなくなります。
相続分の譲渡を検討しているなら弁護士に相談を!
相続分の譲渡を検討している場合、弁護士に相談することをおすすめします。
相続分の譲渡は適しているケースとそうでないケースがあります。もしかしたら相続分の譲渡ではなく相続放棄が良い場合もあるかもしれません。そうした判断は、専門家のアドバイスを聞いた上で決定したほうが良いです。
まとめ
相続手続は、相続人全員が協議に参加しなければなりませんし、さまざまな書類の準備が必要です。そのため時間を労力がかかり、面倒に思う人も少なくないでしょう。そうしたことを避けるために相続分の譲渡を検討するのは良いと思いますが、向いているケースと向かないケースがあるのを理解しなければいけません。安易に相続分の譲渡を決めるのではなく、事前に弁護士といった専門家に相談をしましょう。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に精通している弁護士が多数在籍しています。相続分の譲渡に向いているケースかどうか、アドバイスが可能ですので一度ご相談ください。初回は30分無料でご相談ができる場合がありますので、お問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。