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認知症の人は相続放棄ができるのか?ケース別の方法について解説

認知症になると単独で法律行為ができないため、日常生活を送る上でさまざまな弊害が出てきます。

この記事では、認知症の人が相続人になって相続放棄をしたいと考えたとき、どのような方法があるか解説します。

認知症の人は相続放棄ができるか?

認知症の中でも事理弁識能力を欠いた常況の人は、相続放棄ができません。

認知症の程度によっては、法定代理人の同意を得て相続放棄ができたり、場合によっては単独で相続放棄ができたりします。

後述しますが、成年後見制度を利用している場合には、相続放棄をする人が成年被後見人・被保佐人・被補助人のいずれに該当するかで判断される場合があります。

認知症の人が相続放棄する方法は?

事理弁識能力を欠いた状況の認知症の人は、相続放棄をしたいなら成年後見人を立てなければいけません。
事理弁識能力を欠いた状況で相続放棄をしても判断能力がないとみなされ、自分自身の判断ではないとみなされます。

こうした状況の認知症の人が相続放棄をする具体的な流れについては後述します。

成年後見制度とは?

家族に認知症の人がいる場合、成年後見制度の利用を検討する人もいるでしょう。ここでは成年後見制度の概要と申立ての方法、任意後見制度との違いについて解説します。

成年後見制度の概要

成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神疾患等が原因で自己判断能力が低下した人の財産を守るなど、法律行為のサポートをする制度です。

成年後見制度には、判断能力が低下した後に利用する法定後見制度と、将来、認知症になるリスクに備えて利用する任意後見制度2つがあります。ここでは法定後見制度について概要を説明します。

法定後見制度は、判断能力の程度に応じて成年被後見人、被保佐人、被補助人の3つに分けられています。どれに該当するかは主治医の意見を参考にして家庭裁判所が決定します。

それぞれの判断能力の程度と受けられるサポートの範囲について、下の表にまとめましたので参考にしてください。

成年被後見人 被保佐人 被補助人
判断能力について 精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により事理弁識能力を欠く常況にある者 精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分な者 精神上の障害により事理弁識能力が不十分な者
受けられるサポートの範囲 すべての契約を代わりにしてもらったり、取り消してもらったりする 財産に関わる重要な契約を一緒に決めてもらったり、代わりにしてもらったり、取り消してもらったりする 一部の限られた手続きや契約を代わりにしてもらったり、取り消してもらったりする

後見・保佐・補助の違いは、以下法務省のホームページをご参照ください。

参考:Q3~Q15 「法定後見制度について」(moj.go.jp)

成年後見人は、以下に該当しなければ誰でもなれます。

  • 未成年者
  • 過去に後見人を解任された者
  • 破産者
  • 過去に被後見人に対して訴訟を起こした者とその配偶者と直系血族
  • 行方不明者

一般的には、家族や親族のほかに社会福祉士といった福祉の専門家や弁護士などの法律の専門家、専門的な研修を受けた市民後見人や福祉関係の法人がなり、家庭裁判所が申立人の状態や生活環境を考慮して選任します。

成年後見人等がサポートするのは、被成年後見人等の契約関連のサポートや財産の管理です。実際に介護する、食事を作ったり掃除をしたりするなどの日常生活のサポートはできません。

成年後見制度の申立てができる人は?

成年後見制度の申立てができるのは、以下に該当する人たちです。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 未成年後見人・未成年後見監督人
  • 保佐人・保佐監督人
  • 補助人・補助監督人
  • 検察官
  • 市区町村長(法律上の一定の条件を満たしている場合)

なお、被補助人の申立てに関しては本人の同意が必要です。

成年後見制度の申立てで必要な書類は?

成年後見制度の申立てをするにあたり、必要な書類は以下のとおりです。

  • 申立書類一式(
  • 本人に関する資料(健康状態が分かる資料、支出入が分かる資料、財産が分かる資料等)
  • 戸籍謄本(本人と後見人候補者のもの)
  • 住民票(本人と後見人候補者のもの)
  • 後見登記されていないことの証明書(本人のもの)
  • 医師による診断書
  • 申立手数料(収入印紙800円)
  • 郵便切手(各家庭裁判所に確認が必要)
  • 成年後見登記の登記費用(収入印紙2600円)

※申立書類の様式は、家庭裁判所によって異なります。例えば東京家庭裁判所の場合は、申立書式セット一式がホームページからダウンロードできます。

参考:申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助) | 裁判所 (courts.go.jp)

任意後見制度との違いは?

任意後見制度は、本人が任意後見人となる人や権限を自分で決められるのが法定後見制度と違う点です。

法定後見制度は、本人の判断能力が低下してから手続きを取るのに対して、任意後見制度は判断能力があるうちに、将来認知症等になるリスクに備えて任意後見契約を締結します。

法定後見人の場合、家庭裁判所に申立てをしなければいけませんが、任意後見制度は本人と任意後見人の候補者が公証役場で契約を結びます。

法定後見人と違って、誰を後見人にするか、どのような権限を与えるかなど自分で決められますが、そのため代理権は契約で決めた範囲内に限定されます。

事理弁識能力を欠いた状況の認知症の人が相続放棄をする流れは?

事理弁識能力を欠いた状況の認知症の人が相続放棄をする流れについて解説します。

家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをする

必要書類をそろえたら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。直接家庭裁判所へ持参してもよいですし郵送でも可能です。提出した書類はコピーをして手元においておくとのちのち家庭裁判所とのやり取りをする際に安心できます。申立てをしたら本人の都合で取り下げはできませんので注意しましょう。

申立後、申立人や成年後見人の候補者は家庭裁判所と面接をしなければならないので、面接日の予約をします(事案によっては予約が不要な場合もあります)。事前予約を要する場合は、(裁判所にもよりますが)電話をした日から概ね1週間後に面接日が調整されますので、申立書類が揃ってから予約を取られることをお勧めします。

入院等されていて家庭裁判所に行くのが難しい場合は、病院で面談も可能です。

家庭裁判所による審理が行われる

成年後見人選任の申立てがされると、家庭裁判所による審理が行われます。書類がきちんと提出されているか、本人の健康状態はどうか、本人のまわりの環境等が調査されます。

先述した申立人と後見人候補者の面接もこれらの審理の一環として行われます。

家庭裁判所が審判をし、成年後見人等が選任される

申立人が提出した書類や家庭裁判所による調査結果をもとに、成年後見人等が選任されます。状況によっては成年後見人だけでなく、成年後見人を監督・指導する成年後見監督人が選任される場合もあります。

家庭裁判所から成年後見人等が決定した内容を記した審判書が送られてきます。不服申立てをしないかぎりは、審判書謄本が成年後見人等に届いてから2週間を経過すると後見開始の審判が確定し、効力が生じます。

成年後見人が相続放棄を申立てる

成年後見人が選任されたら、その成年後見人が本人に代わって家庭裁判所に相続放棄の申立てを行います。

成年後見人はすべての財産に関する法律上の手続きを代理できるので、相続放棄の申立てをするにあたって本人から委任状をもらわなくてもよいですし、家庭裁判所の許可を得る必要もありません。

認知症の人の相続放棄をする場合の熟慮期間はどうなる?

認知症の人が成年後見制度を利用する場合、相続放棄をする場合の熟慮期間は延長されます。

相続放棄は通常、自己のために相続の開始があったこと(被相続人が亡くなったこととそれによって自分が相続人になったこと)を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てなければいけません。

ただし、事理弁識能力がない認知症の人は、自分が相続人になったことが分からない状況と判断されますので、相続放棄の期間は開始しないと考えられています。

成年後見人が相続放棄をする場合、認知症の相続人の熟慮期間は、法定代理人(成年後見人等)が本人のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄を申述できます。

そのため、成年後見人等を立てるまでは、熟慮期間は進行しません。

認知症の人が成年後見制度を利用して相続放棄をする際の注意点は?

認知症の人が成年後見制度を利用して相続放棄をする際、注意しなければならないのは利益相反です。

利益相反とは、当事者間の行為が一方では利益になるけれど他方で不利益になることです。そのため認知症の人と成年後見人が利益相反の関係にある場合は、代理人で相続放棄ができません。

例えば、母親が事理弁識能力のない認知症で、成年後見人に息子が選任されたとします。父親が亡くなったことで相続が発生し、十分な財産があったにも関わらず、成年後見人という立場を利用して母親に相続放棄をさせ、息子が相続放棄をしなければ、息子が得られる財産が増えます。これが利益相反にあたる事例です。

このようなケースが考えられる場合は、家庭裁判所で特別代理人選任の申立てをしなければいけません。

ただし、母親も成年後見人の息子も相続放棄をするなら利益相反には該当しません。

まとめ

認知症になったら絶対に相続放棄ができないわけではありませんが、事理弁識能力を欠く場合には成年後見制度の利用が必須となります。被相続人が多額の借金を残しているなど、相続放棄をしたほうがよい場合は、成年後見人の選任申立てを行いましょう。

事理弁識能力を欠いた認知症の人が相続放棄をする場合、熟慮期間は延長されますが、相続放棄を決めているなら、他の相続人のためにも早めに成年後見人の選任申立てをしたほうがよいでしょう。

ネクスパート法律事務所には、相続全般に関わる案件を多数手がけてきた弁護士が在籍しています。相続人の一人が認知症でどうすればよいか困っているなど、相続に関するお悩みがありましたら、初回相談は30分無料(相続放棄のご相談の場合は異なる場合がございます。)となりますのでぜひ一度お問合せください。

 

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この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)

はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。

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