有価証券の相続手続きの手順・分割方法と注意すべきポイントを紹介

次のような場合は、亡くなった方(以下、被相続人といいます。)が有価証券を持っていた可能性があります。
- 被相続人が、生前、株式投資をしていると話していた
- 遺品を整理していたら証券会社の封書が見つかった
被相続人が株式や投資信託などの有価証券を持っていた場合、相続手続きを行う必要があります。
しかし、あなたが有価証券を持っていなければ、何から手をつけていいのか分からず、困惑することでしょう。
この記事では、有価証券の相続手続きの手順や分割方法のほか、証券会社が分からない場合の対処法や注意すべきポイントなどについて解説します。
スムーズに相続手続きを進めるためにお役立ていただければ幸いです。
目次
有価証券の相続手続きの手順
有価証券の相続手続きの手順には、以下の4つのステップがあります。
- 相続人・相続財産・遺言書の有無を調査する
- 遺産分割協議をする
- 相続人名義の証券口座を開設する
- 有価証券の名義を変更する
以下で、それぞれのステップについて詳しく解説します。
相続人・相続財産・遺言書の有無を調査する
第1ステップとして、相続人・相続財産・遺言書の有無を調査しましょう。
相続人の調査
相続人を調査します。
相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、すべての相続人を洗い出す必要があります。
出生から死亡までの戸籍謄本を確認することで、養子や婚姻外の子など、全く知らない相続人が発覚するケースもあるためです。
相続財産の調査
相続財産の調査も並行して進めましょう。
相続放棄の要否の判断や遺産分割、相続税申告などを正しく行うために、有価証券以外の預貯金、不動産など被相続人の財産を全て洗い出す必要があるためです。
借入れなどの借金も相続の対象となります。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も漏れなく調査するよう注意しましょう。
有価証券がある場合は、取引のあった証券会社に口座名義人が亡くなったことを伝え、残高証明書を発行してもらいましょう。残高証明書を入手すれば、有価証券の保有残高や保有銘柄を確認できます。
証券会社により異なりますが、残高証明書の発行には、以下のような書類が必要になります。
- 被相続人(口座名義人)が亡くなったことが分かる書類(死亡の記載がある戸籍謄本、除籍謄本、住民票の除票など)
- 残高証明書を請求する人が相続人であることが分かる戸籍謄本
- 残高証明書を請求する人の印鑑証明書
詳しくは、申請先の証券会社に確認してください。
遺言の有無の調査
遺言書の有無も確認しましょう。
遺言書がある場合、原則として、遺言書に記載してある通りに相続財産を分割します。
公正証書遺言は公証役場に遺言書の原本が保管されているため、公証役場で遺言書の有無を調べられます。
被相続人が自分で書いた遺言(自筆証書遺言)が見つかった場合、遺言を執行するには家庭裁判所で検認手続きをする必要があります(自筆証書遺言書保管制度を利用している場合を除く)。
遺言書に不備がある場合や、その内容に疑義が生じた場合には、弁護士への相談をお勧めします。
遺産分割協議をする
第2ステップとして、遺産分割協議をしましょう。
相続人が複数おり、かつ、遺言書がない場合には、相続人全員で誰がどの財産を相続するのか話し合う必要があります。
遺産分割の方法や相続の割合について相続人全員が合意したら、遺産分割協議書を作成しましょう。相続人全員が署名・実印を押印した遺産分割協議書を人数分作成し、印鑑証明書とともに各々が所持します。
遺産分割協議書に記載する主な内容は、以下のとおりです。
- 被相続人の本籍・最後の住所・氏名・死亡年月日
- 相続人全員が分割方法や分割割合について合意している旨の内容
- 各相続人が取得する相続財産の詳細
- 相続人全員の住所・氏名
有価証券を記載する場合は、次の項目を明記して、特定できるようにしましょう。
- 証券会社名・支店名
- 口座番号
- 口座名義
- 内訳(証券の種類・銘柄・数量)

相続人名義の証券口座を開設する
第3ステップとして、相続人名義の証券口座を開設しましょう。
非上場株式などを除き、有価証券の相続手続きでは、相続人名義の証券口座の開設が必要になることが多いです。
被相続人が開設した取引口座を相続人がそのまま承継できないため、相続人が有価証券をそのまま保有する場合も、売却して現金化する場合も、相続人名義の口座を開設して移管手続きを経る必要があります。
遺言書または遺産分割協議により有価証券を相続する人が決まったら、被相続人の株式や投資信託などの有価証券が預けられている証券会社の口座から、相続人名義の口座に移管する名義変更手続きを行うことで有価証券を相続します。移管先の口座は、基本的には、被相続人の口座と同じ証券会社である必要があります。
そのため、相続人が当該証券会社に口座を持っていない場合は、相続人名義の口座を新規開設する必要があります。通常は、次のステップで紹介する書類の提出時に、相続人名義の取引口座の開設にかかる書類を併せて提出します。
有価証券の名義を変更する
第4ステップとして、有価証券の名義を変更しましょう。
相続手続きに必要な用紙や書類は、それぞれの証券会社により異なります。証券会社に口座名義人が亡くなったことを伝え、相続手続きに必要な書類をもらい名義変更手続きをしましょう。
証券会社により異なりますが、有価証券の名義変更手続きには、以下のような書類が必要になります。
遺言書がある場合 | ・証券会社所定の名義変更依頼書
・被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本等 ・遺言書 ・検認済証明書(公正証書による遺言及び遺言書保管法に基づく遺言書を除く。) ・有価証券を相続する人の印鑑証明書 |
遺産分割協議書がある場合 | ・証券会社所定の名義変更依頼書
・被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本等 ・相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図 ・遺産分割協議書 ・相続人全員の印鑑証明書 |
法定相続による場合 | ・証券会社所定の名義変更依頼書
・被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本等 ・相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図 ・相続人全員の印鑑証明書 ・委任状(相続に係る委任状兼依頼書、相続人全員の同意書、取引口座移管の念書)など |
提出書類に不備がなければ、2〜3週間程度で相続人名義の口座に移管されます。
株式(非上場株式を含む)や投資信託等の相続手続きの詳細は、以下関連記事をご参照ください。


なお、相続した財産が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。相続税の申告期限は、相続開始日(被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月です。
相続した有価証券の3つの分割方法
相続した有価証券の分割方法は、以下の3つです。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
以下で、詳しく解説します。
現物分割
現物分割とは、有価証券を現物のまま取得する分割方法です。
例えば、複数の銘柄の株式を1人の相続人が相続する場合や、2種類の有価証券を2人の相続人で分けて相続する場合などが挙げられます。
代償分割
代償分割とは、有価証券を1人の相続人が相続し、他の相続人に代償金を支払う分割方法です。
例えば、相続人が被相続人の兄弟4人である場合で、長兄が評価額1000万円相当の有価証券を単独で相続し、他の兄弟3人に250万円ずつ現金を支払う場合などが挙げられます。
代償分割する場合は、遺産分割協議書に代償金を支払う旨を記載しておきましょう。記載がない場合、上記の例で言うと、3人の兄弟に支払った250万円が贈与とみなされるおそれがあるためです。
換価分割
換価分割とは、有価証券を売却し、売却代金を相続人で分ける分割方法です。
現金で受け取るため公平に分割できるというメリットがある一方、売却手続きに手数料がかかる、譲渡所得税がかかるなどのデメリットもあります。
なお、この場合も、当該有価証券が被相続人名義で開設された証券会社の口座で管理されているときには、一旦は相続人名義(代表者名義)の口座への移管手続きが必要です。
日々変動する有価証券の評価額はどうやって決める?種類別に解説
遺産分割は、各相続人に遺産を公平かつ適正に分配することを目的とする手続きです。その目的達成のために、遺産の価値を評価する必要があります。
有価証券の評価額は日々変動するため、評価する際は時価を確認する必要があります。相続税の計算や申告に際しては、この遺産の評価方法とは別の評価方法が用いられることがあります。
以下の3つの種類別に、遺産としての評価方法、相続税評価額としての評価方法について、詳しく解説します。
- 株式
- 公社債
- 投資信託
株式
株式の評価方法は、株式を発行した会社が上場しているかどうかによって異なります。
上場株式
遺産としての評価方法
上場株式の場合は、取引価格を証券取引所などが公表しているため、その価格を基準として評価するのが一般的です。
なお、どの時点の価格を基準として評価するかはそれぞれのケースにより異なりますが、遺産分割協議が成立した時点の価格を基準とすることが多いでしょう。
相続税評価額としての評価方法
上場株式の場合は、以下の4つの価格のうち、最も低い価格が評価額となります。
- 被相続人が死亡した日の終値
- 被相続人が死亡した月の終値の平均値
- 被相続人が死亡した月の前月の終値の平均値
- 被相続人が死亡した月の前々月の終値の平均値
なお、土日祝日などの市場の休場日に亡くなった場合は、亡くなった日に近い日の終値を死亡した日の終値とみなします。
例えば、土曜日に亡くなった場合は金曜日の終値、3連休の中日に亡くなった場合は連休前と連休後の終値の平均値を亡くなった日の終値とみなします。
非上場株式
遺産としての評価方法
非上場株式の場合は、会社法上の株式買取請求における価格の算定方法で評価します。
これには、次の5つの評価方法があります。
- 純資産方式:会社の総資産価格から、負債・法人税などを控除した純資産価格を発行済み株式数で除して評価する方法
- 配当還元方式:会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で除して評価する方法
- 類似業種比準方式:会社と類似する業種の事業を営む会社群の株式に比準して評価する方法
- 収益還元方式:将来の予想年間税引後純利益を資本還元率で除したものを発行済株式数で除して評価する方法
- 混合方式:上記4つを混合して評価する方法
後述の相続税評価額を参考にすることもあります。
これらの評価方法のうち、どの方法によって合意を試みるかは個別の事案によります。なお、話し合いで評価額が決まらない場合は、裁判所が選任する鑑定士による鑑定が行われることになります。
株式の評価方法については、以下関連記事もご参照ください。

相続税評価額としての評価方法
非上場株式の場合は、原則的評価方式と特例的評価方式の2つがあり、それぞれのケースに適した方式を用いて評価額を求めます。
原則的評価方式とは、株式を発行している会社の価値や規模をもとに区分して、区分ごとに異なる方法で評価する方式です。原則的評価方式には、類似業種比準方式と純資産価額方式の2つがあります。主に、創業者の親族が株を相続するなど、非上場株式の取得者が同族株主の場合に用います。
特例的評価方式は、配当還元方式となり、配当による利回りを重視して評価する方式です。主に、非上場株主の取得者が同族株主以外の場合に用います。
参考:No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁 (nta.go.jp)
公社債
公社債には、国や地方公共団体などが発行する公共債と、会社や特定の金融機関が発行する民間債があります。なお、評価方法はどこが発行したものも同じです。
遺産としての評価方法
公社債は取引価格が公表されているため、その価格を基準として評価するのが一般的です。
どの時点の価格を基準として評価するかはそれぞれのケースにより異なりますが、遺産分割協議が成立した時点の価格を基準とすることが多いでしょう。
相続税評価額としての評価方法
公社債の相続税評価額としての評価方法は、利付債か割引債か、上場か非上場かその他か、の組み合わせによって異なります。
利付債とは、利子が支払われる債権です。割引債とは、券面額を下回る価額で発行される債権で、券面額と発行価額との差額が利子に相当します。
公社債の評価額の求め方は、以下の通りです。
参考:No.4641 利付公社債・割引発行の公社債の評価|国税庁 (nta.go.jp)
投資信託
投資信託も日々価格が変動する金融商品ですので、適切に評価する必要があります。・遺産としての評価方法
投資信託は、取引価格が公表されているため、その価格を基準として評価するのが一般的です。
どの時点の価格を基準として評価するかはそれぞれのケースにより異なりますが、遺産分割協議が成立した時点の価格を基準とすることが多いといえます。
相続税評価額としての評価方法
投資信託の相続税評価額としての評価方法は、投資信託が上場か非上場かによって異なります。
上場投資信託
上場投資信託の相続税評価額の求め方は、上場株式の場合と同じです。以下の4つの価格のうち、最も低い価格が評価額となります。
- 被相続人が死亡した日の終値
- 被相続人が死亡した月の終値の平均値
- 被相続人が死亡した月の前月の終値の平均値
- 被相続人が死亡した月の前々月の終値の平均値
なお、市場の休場日に亡くなった場合は、亡くなった日に近い日の終値を死亡した日の終値とみなします。
非上場投資信託
非上場投資信託の場合は、日々決算型投資信託とそれ以外で求め方が異なります。
日々決算型投資信託(MRF・MMFなど)は、以下の計算式で評価額を算出します。
1口あたりの基準価格×口数+再投資されていない未収分配金−源泉徴収税額−信託財産留保額及び解約手数料 |
それ以外の投資信託は、以下の計算式で評価額を算出します。
1口あたりの基準価額×口数−源泉徴収税額−信託財産留保額及び解約手数料 |
参考:No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価|国税庁 (nta.go.jp)

相続した有価証券を現金化する際に注意すべき3つのポイント
相続した有価証券を現金化する際に注意すべきポイントは、以下の3つです。
- 相続した有価証券は売却するタイミングが重要
- 相続した有価証券を売却すると税金がかかることも
- 有価証券の売却による所得が20万円を超えると確定申告が必要
以下で、詳しく解説します。
相続した有価証券は売却するタイミングが重要
注意すべきポイントとして、相続した有価証券は売却するタイミングが重要であることが挙げられます。
有価証券の価格は日々変動するため、遺産分割協議時点の価格と名義変更手続きを経て売却した時点の価格が異なる場合があるからです。
有価証券の価格は日々変動するため、売却する際は直近の値動きを確認しましょう。
相続した有価証券を売却すると税金がかかることも
注意すべきポイントとして、相続した有価証券を売却すると税金がかかる場合があることが挙げられます。
有価証券を売却し譲渡益が出た場合、売却益に対して相続税とは別に譲渡所得税がかかるため、申告しなければなりません。譲渡所得の税率は20.315%で、売却代金から取得費と売却時の手数料を差し引いて算出します。
なお、売却によって譲渡益が出なかった場合は、申告の必要はありません。
有価証券の売却による所得が20万円を超えると確定申告が必要
注意すべきポイントとして、有価証券の売却による所得が20万円を超えると確定申告が必要であることがあげられます。
有価証券の売却による所得が20万円を超える場合、年末調整を行う会社員であっても確定申告が必要になります。年末調整を行わない自営業者などは、1円でも所得があれば確定申告が必要です。
ただし、特定口座を利用かつ源泉徴収ありを選択した場合は、確定申告の必要はありません。
有価証券を持っていることは知っているが証券会社が分からない場合の対処法
被相続人が有価証券を持っていることは知っているものの、証券会社が分からない場合は、証券保管振替機構(ほふり)に問い合わせてみましょう。
証券保管振替機構(ほふり)に登録済加入者情報開示請求をすることで、被相続人がどこの証券会社や信託銀行に口座を保有していたか調べられます。
詳細は、以下をご確認ください。
参考:ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合 |証券保管振替機構 (jasdec.com)
有価証券の相続手続きは弁護士にも依頼できる
有価証券の相続手続きは、弁護士にも依頼できます。
相続人や相続財産の調査には、時間と手間を要します。遺言書がない場合、遺産分割協議で意見が一致せず、親族間で争いが起こることも考えられます。
相続開始日(被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月が相続税の申告期限であるため、やむを得ず延長せざるを得ない場合には、一旦、法定相続分で分割したと仮定して、期限内に申告手続きをしなければなりません(この際、申告期限後3年以内分割見込書を提出します)。
弁護士に依頼することで、煩雑な相続手続きを一任することができるため、相続人の負担が最小限で済みます。効率よく手続きを進められるため、早期の相続手続き完了も期待できます。
まとめ
被相続人が有価証券を所有していた場合、預貯金や不動産などと同様に、相続手続きをする必要があります。有価証券は種類が多く、種類・金融機関ごとに手続き内容が異なるため、相続手続きが複雑になりやすいです。
有価証券の相続が発生したら、早い段階で弁護士への依頼も検討しましょう。相続人・相続財産調査や遺産分割協議など、相続人が頭を悩ませるステップを、スムーズに進められるでしょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。