遺産の一部分割は可能か?方法と遺産分割協議書の書き方について解説

相続が開始し、被相続人の遺産を誰がどのように相続するか、なかなか決まらないケースがあります。
相続人で分けられる預貯金は合意しやすいですが、分けられない不動産は、誰が相続すべきか話し合いが難航する場合があります。とりあえず遺産の一部分割ができたらよいのに…と考える人もいらっしゃることでしょう。
この記事では、遺産の一部分割が可能かどうか、可能であれば方法と遺産分割協議書の書き方について解説します。
目次
遺産の一部分割は可能なのか?
相続人全員の合意があれば、遺産の一部分割は可能です。
旧法下における裁判所実務でも、一定の要件のもとで一部分割が行われていましたが、法文上、一部分割が可能かどうかは明確ではありませんでした。
2018年の相続法改正により、家庭裁判所への遺産の一部分割の申立ても可能と明文化されました。
すべての財産をまとめて分割するには相続人同士の話し合いが長期化する可能性がありますが、一部分割ができるようになったことで、とりあえずスムーズに話し合いが済むものから順番に解決が可能になりました。
遺産の一部分割をする方法は?
遺産の一部分割をするには、以下2つの方法があります。
遺産分割協議を行う
相続人全員で遺産分割協議を行います。
話し合いがスムーズにできそうなものについて先に話を進めて、合意できれば遺産の一部分割が可能です。
例えば、相続人全員で分けられる預貯金について先に遺産分割協議をして、不動産に関しては誰が相続するかゆっくり協議をします。これは、取り急ぎ現金が必要な相続人にとって都合の良い方法といえます。
遺産分割調停を申し立てる
遺産分割協議で遺産の一部分割が合意できない場合、相続人は他の相続人に対して、遺産分割調停を申立てられます。
ただし、他の相続人の利益を害するおそれがある場合は、一部分割の申立ては認められません。
他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合とは、例えば、一部の相続人に特別受益があり、一部分割を認めると、具体的相続分を超過する遺産を取得させる結果となるおそれがあるケースで、残余財産の分割の際に、当該遺産を取得する相続人に代償金を支払う能力があるかどうか疑わしい場合などが考えられます。
遺産の一部分割をする際の遺産分割協議書の書き方は?
遺産の一部分割を遺産分割協議で合意した場合、遺産分割協議書を作成します。
一部分割をする場合には、協議書で次の点を明確にすることが重要です。
- 一部分割であること
- 一部分割が残余財産の分割に影響があるかないか
書き方については、以下を参考にしてください。
遺産分割に関する一部協議書 被相続人〇〇(〇年〇月〇日死亡、本籍地〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地)の共同相続人である妻〇〇、長女〇〇、長男〇〇は、本日遺産分割協議を行い、以下のとおり合意した。 1.相続財産中、〇〇銀行にある被相続人〇〇の預貯金1000万円は、妻〇〇に500万円、長女〇〇に250万円、長男〇〇に250万円分けることとする。 2.相続人全員は、前項の遺産を除く残りの遺産について、前項の分割とは別個独立にその相続分に従って分割することとし、前項の遺産の一部分割がその余の遺産分割に影響を及ぼさないことを確認する。 以上のとおり相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証するため本協議書を3通作成し、署名押印のうえ各自1通ずつ所持する。 〇年〇月〇日 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 氏名 〇〇 〇〇 ㊞ 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 氏名 〇〇 〇〇 ㊞ 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 氏名 〇〇 〇〇 ㊞ |
遺産の一部分割を行うメリットは?
遺産の一部分割を行うメリットは、話し合いがまとまりやすい遺産を先に分割して、相続税やその他必要経費に充てられる点です。
遺産がたくさんあったり相続人が多かったりする場合は、すべてを一度に解決しようとすると年単位で時間がかかるケースがあります。
段階的に進めていけば、相続人同士の負担が少しは楽になりますし、その間に相続人に入用があれば、相続した遺産で対応ができるメリットがあります。
遺産の一部分割を行うデメリットは?
遺産の一部分割を行っても、残った遺産について引き続き話し合いを行わなければならないため、問題を先送りしているだけに過ぎません。
一部分割をすることで、かえって遺産全体の分割協議がスムーズに進まない可能性や、手間や費用が嵩むこともあります。
残余財産の協議がスムーズに進まない可能性がある
一部分割した遺産とのバランスを取りながら残った遺産をどのように分けるかについて、相続人同士で話し合いが難航する可能性があります。
一部分割により相続税の納税資金を確保できたこと等に安心して、残余財産の遺産分割協議を進めるきっかけを失ってしまう可能性もあります。
そのため、一部分割を採用する場合であっても、基本的にはできるだけ早い段階で残余財産の遺産分割協議を行った方が良いでしょう。
手間や費用がかかる
調停で解決を目指す場合、一部分割であっても全部分割と同じ方法で申立てをしなければいけません。
申立書に添付する遺産目録にはすべての遺産を記載した上で、どの遺産の分割を求めるのかを書く必要があります。
一部分割だからといって、当事者・費用・申立通数・添付書類が変わることがないので、その都度、手間や費用がかかる点もデメリットといえます。
まとめ
被相続人がたくさんの財産を残した場合や相続人の数が多い場合、遺産分割協議を行うのはなかなか大変です。相続税の支払い期限が気になり強引に協議を進めようとして、相続人同士の仲が険悪になってしまうケースもあるといいます。
そんなときは、遺産の一部分割を検討してみてもよいかもしれません。ただし、遺産の一部分割に向くケースと向かないケースがあるため、悩んだときは弁護士に相談をおすすめします。
ネクスパート法律事務所には、相続全般を得意とする弁護士が在籍しています。遺産分割協議が思うように進まないとお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
相続人と顔を合わせなくないから代理人がほしいと考えたとき、友人等にお願いするのも可能ですが、話し合いがこじれた時のことを考えたら、弁護士に依頼するのがよいです。
法的な場で代理人になれるのは、数ある士業の中でも弁護士だけです。
当事務所は、初回相談が30分無料になる場合もありますので、お気軽にご連絡ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。