限定承認とは|相続放棄との違いや手続きの流れをわかりやすく解説

相続財産は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産が含まれている場合があります。マイナスの財産は引き継ぎたくないけれど、引き継ぎたいプラスの財産があるから相続放棄もしたくないと考える方がいらっしゃるかもしれません。
今回の記事では、相続の選択肢の一つである限定承認についてわかりやすく解説します。
限定承認とは
ここでは、限定承認について解説します。
限定承認の概要
相続が発生したら、相続人は単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかの方法を選択できます。
限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産(債務)を弁済し、余りがあれば相続することです。被相続人がプラスの財産で支払うことができない負債を抱えていた場合、限定承認を行えば、相続人は越えた分を自らの財産から支払う必要がなくなります。
相続が開始した時点では、プラスの財産が多いのかマイナスの財産が多いのか、分からないのがほとんどです。被相続人が残した財産の中で「この土地はどうしても欲しい」など、特定の財産を相続したいときは、限定承認を選ぶとよいでしょう。
限定承認と単純承認の違い
単純承認は、被相続人が残したプラスの財産とマイナス財産のすべてを引き継ぐことです。
被相続人のマイナス財産がプラスの財産を上回った場合、相続人は自己固有の財産で弁済しなければなりません。プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ限定承認とは、この点が大きく違います。
通常の相続は単純承認を選択している場合が多く、特別な手続きは必要ありません。限定承認を選択する場合は家庭裁判所への申述が必要です。
限定承認と相続放棄との違い
相続放棄は、被相続人が残したプラスの財産とマイナスの財産のすべてを引き継がないことです。相続放棄をすることで最初から相続人ではなかった者として扱われますので、マイナス財産を含む相続財産の一切を相続できなくなります。
相続放棄も、家庭裁判所への申述が必要です。
限定承認のメリットとデメリットは?
ここでは、限定承認のメリットとデメリットについて解説します。
限定承認のメリット
限定承認のメリットは、プラスの財産の範囲内でマイナス財産の弁済を行い、越えた部分については支払う義務がない点です。
限定承認のデメリット
限定承認のデメリットは、相続人全員がそろって限定承認を選択しなければならないことです。単純承認と相続放棄は、相続人それぞれの意思で選択できますが、限定承認は相続人全員の意見が一致しなければ選択できません。
限定承認をするには、自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内に様々な書類を添えて家庭裁判所へその旨を申述しなければならず、手間がかかります。
家庭裁判所が申述を受理したあとの手続きに時間がかかることもデメリットの一つです。債権調査のための官報公告や弁済や換価などの清算手続きがあり、限定承認の申述受理申立てから完了まで、1年以上かかることもあります。
手続きが完了するまでは、相続財産を勝手に処分できず、相続人が相続財産の一部または全部を処分すると限定承認が認められなくなります。
限定承認の手続きの流れ
ここでは、限定承認の手続きの流れについて説明します。
相続人の調査と相続財産・負債の調査
限定承認は、相続人全員で行わなければいけないため、正確な相続人の調査が必要です。その上で被相続人のプラスの財産とマイナスの財産の調査をします。
例えば、被相続人が持っていた銀行の口座を調べて預貯金の残高を調べ、株を持っていたら証券会社に問い合わせます。被相続人が不動産を所有していたら、登記識別情報通知(登記済証)や固定資産税課税通知書を探して、内容を確認しましょう。
負債については、クレジットカードやカードローンの未払いや金融機関などから借り入れを調査し、金銭消費貸借契約書等の有無も調査しましょう。
熟慮期間の延長を申し立てる
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月の熟慮期間内に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれをとるのか決めなければいけません。しかし、相続人の特定やプラス財産とマイナス財産の調査には、思っている以上に時間がかかります。
3か月を経過すると相続を単純承認したとみなされるので、熟慮期間内に単純承認、限定承認または相続放棄のいずれを選択するのかを決定できない場合には、家庭裁判所に期間伸長の申立てをしましょう。
家庭裁判所に限定承認の申述書を提出
相続人が確定し、プラス財産とマイナス財産の調査が終わったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に限定承認の申述書を提出します。
申述書にはプラス財産とマイナス財産を記録した財産目録(申立書と一体になっていることもあります)のほか、下記の書類を添付します。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 申述人(相続人)全員の戸籍謄本
- 代襲相続が生じている場合は被代襲者の出生から死亡までの戸籍謄本等
限定承認の申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書が送付されますので、それに回答します。これらの手続きを経て、審判が行われ限定承認が受理されたら、家庭裁判所から通知書が送付されます。
官報に公告する
限定承認の申述が家庭裁判所に受理されたら、限定承認者は、限定承認の申述受理から5日以内に、すべての相続債権者および受遺者に対し、限定承認をしたことと2か月以内にその請求の申し出をすべきことを公告しなければなりません。
相続人が複数いる場合は、その中から選任された相続財産管理人が、選任審判の告知を受けた日から10日以内にすべての相続債権者および受遺者に対し、官報で限定承認を選択した旨と原則2か月以内に債権者であることを申し出てもらうように促す旨の公告をします。
相続財産を換価して債権者に弁済をする
プラス財産を売却し、お金に換えて債権者へ弁済をします。基本的に不動産、動産、有価証券など、すべて裁判所が関与する競売で売却をします。
ただし、「思い入れのある実家は絶対に手に入れない」という場合、家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい、鑑定人が決めた金額を支払うことで相続人がその財産を取得できます(先買権の行使)。
官報公告の期間満了後、相続債権者・受遺者に対して相続財産の範囲内で弁済をします。弁済は下記の優先順位で進められます。
- 抵当権や根抵当権など優先権を持つ相続債権者
- 期間内に申し出た相続債権者および知れたる相続債権者
- 期間内に申し出た受遺者および知れたる受遺者
- 申し出がない、または知れなかった債権者及び受遺者
相続人同士で財産を分ける
相続債権者や受遺者へ弁済が完了し、プラス財産が残っていれば限定承認者(相続人)がその財産を取得できます。
限定承認者が複数いる場合は、原則として遺産分割協議をして分配します。
限定承認についてよくある質問とその答え
ここでは、限定承認についてよくある質問とその答えについて解説します。
限定承認をした方がよいケースは?
限定承認をした方がよいケースとしては、家業を引き継ぎたい場合や、手放したくない財産がある場合です。
家業があるのに負債がある場合、相続放棄をすると家業に関わるすべての財産を手放さなければなりません。限定承認をすれば、負債を減らして家業を継続できる可能性があります。先買権を行使すれば、家業の継続に必要な資産も手放さずにすみます。
被相続人にマイナス財産があっても、家宝や実家など引き継ぎたい財産があるなら、限定承認で先買権を行使すれば、評価額を支払うことで手元に残せます。
被相続人がプラスの財産とマイナスの財産のどちらを多く残しているか、はっきりしない場合も限定承認を検討するとよいでしょう。
限定承認は相続人のうち一人だけでもできる?
限定承認は、複数の相続人がいる場合、全員で行わなければいけません。相続人の中で一人でも反対する人がいたら限定承認はできません。
限定承認では必ず相続財産管理人が選任されるの?
相続人が複数人いる場合、家庭裁判所は、職権で、相続人の中から相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、相続財産の管理と債権者および受遺者への弁済を適切に行わなければいけません。
限定承認の手続きを自分でするのは難しい?
限定承認は、相続人の特定から始まり、プラス財産とマイナス財産の調査、家庭裁判所へ申述書の提出、官報公告など、やるべきことがたくさんあります。特に相続債権者等に対する公告や清算手続きは、法律の規定に従って行わなければならず、弁護士のサポートを得ずに進めるのはハードルが高いです。
自分自身で手続きができないわけではありませんが、ミスなく行うことは、難しいでしょう。
限定承認をしてプラスの相続財産で弁済できずに残った債務は払わなくていい?
限定承認は、相続で得られるプラスの財産の総額を限度として、マイナス財産の弁済を行うことです。プラスの財産の総額を越えた債務については、弁済の責任は負いません。
不動産がある場合の限定承認で注意すべき点は?
相続財産に不動産が含まれている場合、限定承認をするとみなし譲渡所得税が発生する場合があります。限定承認をする際に、みなし譲渡所得税が発生しないか確認をしておきましょう。
限定承認をした場合も相続税はかかる?
限定承認をして、プラスの財産が残ったら相続税がかかる場合があります。ただし、プラスの財産がマイナスの財産を多少上回った程度なら、基礎控除があるので相続税がかかることはあまりありません。
限定承認を考えたときに弁護士に相談・依頼するメリットは?
ここでは、限定承認を考えたときに弁護士に相談・依頼するメリットについて解説します。
限定承認をすることが最善なのか、アドバイスができる
民法は、相続をするか否かにつき相続人の自由を認めています。
単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択する熟慮期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。
期間伸長の申立てが認められても、相続開始から数か月の間で、相続人や相続財産を調査して、限定承認または相続放棄を選択する必要があるか判断することは難しいでしょう。
弁護士であれば、正確に財産調査を行えるので、限定承認を選択することが最善の方法なのか、的確なアドバイスができます。
限定承認の手続きを任せることができる
限定承認を選択する場合、弁護士に依頼すれば手続きを任せられます。相続人の調査やプラス財産とマイナス財産の調査、家庭裁判所での手続きなど、やるべきことがたくさんあります。ミスなく効率的に進めるには、弁護士に依頼することをおすすめします。
税理士と連携して譲渡所得税へのアドバイスができる
限定承認を選択した場合、相続税と同様に気になるのが譲渡所得税の問題です。弁護士に依頼すれば、こうした税務上の懸念点を税理士と連携してアドバイスが可能です。
まとめ
被相続人が残してくれた財産をできるだけ引き継ぎたいと考える方は多いでしょう。思い入れのある実家はどうしても手に入れたい、家業はきちんと継ぎたいと希望する一方で、被相続人が多くの負債を残しているのでは…と不安があれば、すべてを相続するのに躊躇してしまいます。
そんなときは、限定承認を検討してみましょう。ただし、限定承認の手続きは複雑ですべての手続きを終えるまで時間がかかります。
弁護士であれば、本当に限定承認をするのがベストな選択なのか、的確なアドバイスができます。相続について懸念がある方は、ぜひネクスパート法律事務所の弁護士にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。