遺言書に納得ができないとき相続人はどのように対応すればよい?

被相続人が遺言書を残していた場合、内容に納得がいかない人がいるかもしれません。
そんなとき、どのように対処すればよいのでしょうか。
この記事では、遺言書の内容に納得できない場合に、相続人ができることについて解説します。
目次
遺言書の内容には必ず従わなければいけないのか?
ここでは、遺言書の内容には必ず従わなければいけないのかについて解説します。
遺言書が残されている場合、故人の意思を尊重してその内容どおりに相続手続きを進めるのが原則です。ただし、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議を行って遺言書の内容と異なる方法で遺産を分割できます。
遺言書に納得できないときに確認すべきことは?
ここでは、遺言書の内容に納得ができないときに確認すべきことについて解説します。
遺言書に不備がないか確認する
遺言書は、法律で定められた方式に則って作成されていなければ無効になります。
例えば、自筆証書遺言は、下記の条件を満たしている場合に、有効に成立すると規定されています(民法968条)。
- 遺言者が自筆で全文を書いている(財産目録を除く)
- 作成した日付、署名、押印がある
- 訂正がある場合、訂正箇所に本人による変更する旨の記載と署名、押印がある
上記の条件を満たしていても、2人以上のものが同一の証書で行った(夫婦が共同で遺言しているなど)遺言は、民法975条で禁止されているので、無効です。
法務局の遺言書保管制度を利用している場合を除き、自筆証書遺言は家庭裁判所に検認を請求しなければいけませんが、検認は遺言書の有効性を判断する手続きではありません。
遺言書作成時に意思能力があったか確認する
遺言書の作成当時、遺言者に遺言能力がなかったことが認められると、その遺言書は無効となります。
例えば、遺言書作成時に認知症や精神疾患等によって、遺言の内容やその法律効果を正しく理解・判断できない状態だった場合などが該当します。
ただし、認知症等を患っている方が作成した遺言書が、すべて無効になるわけではありません。遺言能力の有無は、以下のような観点から総合的に判断されます。
- 遺言の内容(複雑さの程度)
- 遺言書作成に至る経緯や動機
- 遺言者の年齢
- 遺言者の病状を含む心身の状況および健康状態とその推移
- 発病時と遺言時の時間的間隔
- 遺言時とその前後の言動および健康状態
- 日頃の遺言についての意向
- 遺言者と受遺者の関係
- 前の遺言の有無や前の遺言を変更する動機の有無
遺言書の内容に納得できないときの対処法は?
ここでは、遺言に納得ができないときの対処法について解説します。
相続人全員の合意のもと遺産分割協議を行う
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議を行って、遺言と異なる内容で遺産を分ける方法もあります。相続人全員が納得して遺産分割協議が整い、遺産分割協議書を作成すれば、特別な手続きは不要となります。
ただし、遺言で遺言執行者を指定している場合は、遺言執行者の同意がなければ、共同相続人全員の合意があっても遺言と異なる内容の遺産分割を行えません。
遺言の無効を主張する
遺言の無効を主張したい場合、家庭裁判所に対して、遺言が無効であることの確認を求める調停を申立てる方法があります。遺言の無効確認には、調停前置主義が取れられており、訴訟を提起する前に調停を申立てなければなりません。
調停で話し合いがまとまらない場合は、遺言が無効であることの確認を求めて訴訟を提起します。
遺言が無効である旨の判決を得た場合、その遺言は無効となります。
遺言無効の判決を得ただけでは、遺産の帰属は決まらないので、遺言無効判決確定後に遺産分割手続きが必要です。
遺留分侵害額請求を行う
遺言によって遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分を回復できます。
ここで注意すべきなのは、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅することです。遺言書の内容に納得がいかないと思いつつも、遺留分侵害額請求をするほどではないかもしれないと躊躇していると、あっという間に1年が過ぎてしまいます。遺留分侵害額請求を検討している場合は、迅速な対応を心がけましょう。
なお、遺言が遺留分を侵害する場合でも、その遺言が無効になるわけではありません。遺留分権者が遺留分侵害額請求権を行使することで、遺言そのものは有効のまま、遺留分を侵害する部分だけ無効として扱われます。

公正証書遺言に納得がいかない場合も遺言無効を争える?
ここでは、公正証書遺言に納得がいかない場合、遺言無効を争えるか否かについて解説します。
方式不備によって無効となることは極めて少ない
公正証書遺言は、法務大臣から任命された公証人が作成に関与する遺言書です。公証人は、主に裁判官や検察官もしくは法務局職員などとして長年の実務経験を有する人が任命されています。
公正証書遺言は、遺言者が遺言内容を公証人に口頭で伝え、公証人がそれを筆記する形で作成されます。公証人は、遺言書の内容がほぼ明らかになった段階で、遺言者に対し、その遺言の効力や問題点等についての説明や、将来の紛争防止の見地から助言・指導を行うため、形式不備により無効となることはほとんどありません。
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、偽造・変造のおそれもありません。
公正証書遺言が無効となったレアケース
公正証書遺言が無効になることはほとんどありませんが、時には無効となるケースもあります。具体例を紹介します。
遺言能力がなかった
公正証書遺言を作成した時に、遺言者が認知症によって遺言能力がなかったと判断され、無効になったケースがあります。これは、公正証書遺言が無効になる裁判例で最も多いパターンです。
このような事案で、裁判所は、遺言書作成の数年前からの遺言者の病状と精神状態に関する事実を丹念に認定し、さらに医師の診断書などに基づき、遺言者の遺言能力を判断します。
そのため、遺言能力がなかったことを理由に遺言無効を主張する場合には、医師の診断書やカルテ、介護記録などの証拠が必要です。
口述が行われなかった
公正証書遺言は、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で伝えることが必要です。その内容を公証人が紙に書いて確認のために読み上げ、遺言者に間違いがないかどうかを確認します。
過去の裁判で、公証人が遺言者に対して、遺言の内容が間違いないかどうか直接意思を確認していないことや、遺言書の内容に同意して返事をしていないことから、適切な口述が行われなかったとみなされ、公正証書遺言が無効になった例があります。
- 公正証書遺言を作成した時に、遺言者が、次のような疑いがある場合は、それを証明することで公正証書遺言の無効が認められる可能性があります。普段から身振りや動作で肯定・否定の意思表示はできたが言葉は発していなかった
- 認知症や重い病気で口述できる状態ではなかった
- 自身の意思で遺言書の内容に同意できる状態ではなかった
立ち会った証人に欠格・不適格事由があった
公正証書遺言を作成するにあたっては、2人以上の証人が必要となります。ただし、以下に該当する人は、証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人とその配偶者や直系血族
- 財産を譲り受ける人とその配偶者や直系血族
- 公証人の家族や4親等以内の親族
- 公証役場の職員など
これらの人が証人として立ち会っていた場合、公正証書遺言は無効となります。
遺言書の内容に納得できないときに弁護士に相談・依頼するメリットは?
ここでは、遺言書の内容に納得できないときに弁護士に相談・依頼するメリットについて解説します。
遺言が有効かどうか、適切な判断ができる
遺言書が有効かどうかを一般の人が見極めることは、遺言の形式によって異なるため難しい側面があります。弁護士に相談をすることで、遺言が有効かどうか、無効であればどのような対応が可能なのか、適切な判断ができます。
相続人同士のトラブルを避けられる的確なアドバイスができる
遺言書が無効になることで、相続人同士が争うことになる可能性もあります。そうしたトラブルを避けるために何ができるのか、弁護士に相談をすることで的確なアドバイスを受けられます。
遺留分侵害額請求を行う場合、代理人として対応ができる
遺言書の内容にどうしても納得ができず、遺留分侵害額請求を行う場合、弁護士が代理人として対応できます。遺留分侵害額請求を裁判所に申し立てるには、さまざまな手続きが必要なので、弁護士に対応してもらうことがスムーズに事を進めるのに重要なポイントとなります。
まとめ
家族が残した遺言書の内容に納得ができない場合、そのまま引き下がるのは悔しい想いが残ります。遺言書は故人の意思を尊重する重要なものですが、必ずしもその通りに実行されなければいけないものではありません。遺言の内容に少しでも疑問に思うことがあるなら、早い段階で弁護士に相談をしましょう。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。