遺産分割未了のうちに相続人が死亡したら遺産分割や相続税はどうなる?

被相続人の死亡後、遺産分割が終わらないうちに相続人が死亡し、次の相続が発生することを数次相続といいます。
数次相続が発生した場合は、新たに亡くなった人の相続人を含めて遺産分割を行わなければなりません。
この記事では、遺産分割未了のうちに相続人が死亡した場合の遺産分割の進め方や相続税の取り扱いについて解説します。
目次
遺産分割未了のまま相続人が死亡したらどうなる?
ここでは、遺産分割未了のまま相続人が死亡したらどうなるのかについて解説します。
死亡した相続人に配偶者と子がいる場合
遺産分割未了のまま死亡した相続人に配偶者と子がいる場合には、死亡した相続人の地位は配偶者と子が承継します。
例えば、被相続人Aの相続人として長男Bと次男Cがいたとします。長男Bと次男Cの法定相続分はそれぞれ2分の1です。
遺産分割手続きの途中で長男Bが死亡した場合、Bの相続分(2分の1)は配偶者と子がそれぞれ法定相続分に応じて取得します。Bの相続人が配偶者と子2人の場合、それぞれが承継する一次相続の相続分は、以下のとおりです。
配偶者の相続分=Bの相続分(2分の1)×法定相続分(2分の1)=4分の1
子2人の相続分=Bの相続分(2分の1)×法定相続分(各4分の1)=各8分の1 |
死亡した相続人が被相続人の直系尊属の場合
遺産分割未了のまま死亡した相続人が被相続人の父母・祖父母などの直系尊属の場合は、死亡した相続人の地位は被相続人の兄弟姉妹が承継します。
被相続人の直系尊属が相続人となるのは、被相続人に子がいない場合です。
例えば、被相続人Aの相続人として配偶者Bと母Cがいたとします。配偶者Bの法定相続分は3分の2、母Cの法定相続分は3分の1です。
遺産分割手続きの途中で母Cが死亡した場合、被相続人の兄弟姉妹が存命であれば、母Cの相続分(3分の1)を均等割合で取得します。
母Cの相続人である兄弟姉妹が4名いる場合は、以下のとおりそれぞれが12分の1ずつ承継します。
兄弟姉妹の相続分=Cの相続分(3分の1)×法定相続分(各4分の1)=各12分の1 |
死亡した相続人が兄弟姉妹の場合
遺産分割未了のまま死亡した相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合には、死亡した相続人の地位は、その子(被相続人の甥姪)が承継します。
例えば、被相続人Aの相続人として兄B、姉C、弟Dがいたとします。それぞれの法定相続分は3分の1ずつです。
遺産分割手続きの途中で兄Bが死亡した時点で、Bの配偶者は既に死亡し相続人として子E、Fがいた場合、Bの相続分は子E、Fが以下のとおり均等割合で取得します。
子E、Fの相続分=Bの相続分(3分の1)×法定相続分(各2分の1)=各6分の1 |

遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の遺産分割の進め方
ここでは、遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の遺産分割の進め方について解説します。
一次相続と二次相続の相続人全員を確定する
遺産分割が終わらないうちに相続人が死亡して、新たな相続が発生することを数次相続といいます。一つ目の相続を一次相続、二つ目の相続を二次相続といいます。
数次相続が発生した場合には、二次相続の相続人が一次相続の遺産分割協議に参加します。
そのため、一次相続と二次相続の相続人全員を確定しなければなりません。
相続人調査にあたっては、以下の戸籍謄本等を取得して調査します。
- 一次相続の被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 一次相続の相続人全員の戸籍謄本
- 二次相続の被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 二次相続の相続人全員の戸籍謄本

一次相続の遺産分割協議に二次相続の相続人が参加する
一次相続と二次相続の相続人が確定したら、遺産分割協議を行います。
一次相続の遺産分割協議には、一次相続の相続人と二次相続の相続人が参加します。
両親が立て続けに亡くなったケースなど、一次相続と二次相続の共同相続人が同一である場合は、一次相続と二次相続の遺産分割協議を同時に行っても構いません。
共同相続人が同じでも、以下のような場合には、被相続人ごとに別々に行った方がよいケースもあります。
- 二次相続の被相続人に固有財産がある場合
- 共同相続人の中に二次相続の被相続人から特別受益を受けた人がいる場合
共同相続人が重複しない場合は、一次相続と二次相続を個別に遺産分割協議を行った方が混乱を避けられます。
遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の遺産分割協議書の書き方
ここでは、遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の遺産分割協議書の書き方を解説します。
遺産分割協議書作成時の留意点
数次相続が発生した場合の遺産分割協議書は、一次相続と二次相続を1通にまとめる方法と、2通作成する方法があります。
1通にまとめる場合
両親の相続が相次いで発生した場合など、一次相続と二次相続の共同相続人が同一のケースでは、遺産分割協議書を1通にまとめて作成するのが簡便です。
一次相続と二次相続を1通にまとめる遺産分割協議書の書き方のポイントは、以下のとおりです。
- 一次相続の被相続人の表示の下に二次相続人の被相続人の情報を記載する
- 数次相続が発生した経緯を記載する
- 相続人の署名欄の肩書を「相続人兼〇〇〇〇(二次相続の被相続人)の相続人」とする
2通作成する場合
一次相続と二次相続の遺産分割協議書を2通に分ける場合も、基本的なポイントは1通にまとめる場合と変わりません。
遺産分割協議書の記載例
遺産分割協議書の記載例を紹介します。
1通にまとめる場合
遺産分割協議書
被相続人 A(令和〇年〇月〇日死亡) 最後の住所 〇〇県○○市〇〇町〇丁目○-○ 最後の本籍 ○○県○○市〇〇町〇丁目〇番地
相続人兼被相続人 B(令和△年△月△日死亡) 最後の住所 〇〇県○○市〇〇町〇丁目○-○ 最後の本籍 ○○県○○市〇〇町〇丁目〇番地
被相続人Aは令和〇年〇月〇日に死亡し、その相続人である妻Bは令和△年△月△日に死亡した。被相続人A及び相続人兼被相続人Bの遺産については、被相続人の長男C(以下「甲」という。)、被相続人の長女D(以下「乙」という。)の相続人全員が遺産分割協議を行い、本日、下記のとおりに遺産分割の協議が成立した。
第1条 ・・・・(省略)・・・・
以上の遺産分割協議の合意を証するため、本書2通を作成し、各相続人が署名捺印のうえ、各自1通を所持する。
令和〇年〇月〇日
△△県△△市△△町△丁目△-△ 相続人兼Bの相続人 C 印
□□県□□市□□町□丁目□-□ 相続人兼Bの相続人 D 印
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2通作成する場合
遺産分割協議書
被相続人 A(令和〇年〇月〇日死亡) 最後の住所 〇〇県○○市〇〇町〇丁目○-○ 最後の本籍 ○○県○○市〇〇町〇丁目〇番地
被相続人Aの遺産につき、相続人全員による遺産分割協議の結果、以下のとおり遺産を分割し、取得することに合意した。なお、相続人の1人である次男Cについては、令和△年△月△日に死亡したため、Cの相続人であるD、Eがその地位を承継し、協議に参加した。 第1条 ・・・・(省略)・・・・
以上の遺産分割協議の合意を証するため、本書3通を作成し、各相続人が署名捺印のうえ、各自1通を所持する。
令和〇年〇月〇日
○○県○○市〇〇町〇丁目○-○ 相続人 B 印 △△県△△市△△町△丁目△-△ 相続人 D 印 □□県□□市□□町□丁目□-□ 相続人 E 印 |
遺産分割協議書を2通に分ける場合、二次相続の遺産分割協議書の書き方は、通常の遺産分割協議書の書き方と同じです。

遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の相続税の取り扱いは?
ここでは、遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合の相続税の取り扱いについて解説します。
申告・納税義務を承継する
申告・納税義務のある人がその申告・納税をしないで亡くなった場合には、相続税法上、その相続人が申告・納税義務を承継することとされています。
申告・納税期限は延びる
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
数次相続が発生した場合は、一次相続で相続税を申告・納税しようとしていた人の死亡を知った日の翌日から10か月以内まで申告期限が延長されます。
基礎控除は増額されない
相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求めます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
基礎控除額の計算にカウントされる相続人の数は、一次相続の法定相続人の数であり、二次相続が発生して相続人が増えてもカウントに含まれません。
例えば、一次相続で死亡した父の相続人が、母、長男、次男で、相続税申告前に長男が死亡し、長男の子2人が二次相続人となっても、基礎控除額の計算上は、母、長男、次男の3人のままです。
控除や特例の適用は可能
数次相続では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を考慮して遺産分割すると、一次相続、二次相続全体の相続税を軽減できることがあります。
数次相続が発生した場合は、相続税に詳しい税理士に、二次相続を踏まえたシミュレーションをしてもらうことをおすすめします。
相次相続控除の適用を受けられることがある
相次相続控除とは、二次相続の被相続人が過去10年以内に一次相続の相続税を支払っていた場合に、その金額のうち一定の金額を二次相続の相続税から控除できる制度です。
控除額は、一次相続と二次相続との間が短ければ短いほど大きくなります。
各相続人の相次相続控除額は以下の計算式で求められます。
A × C ÷(B-A)× D ÷ C ×(10-E)÷ 10 |
A | 二次相続の被相続人が一次相続で支払った相続税額 |
B | 二次相続の被相続人が一次相続で取得した財産額 |
C | 二次相続の相続財産の合計額 |
D | 相次相続控除の適用を受ける相続人が、二次相続で取得する財産額 |
E | 一次相続から二次相続までの期間(1年未満切り捨て) |
遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合は弁護士に相談を
ここでは、遺産分割未了のまま相続人が死亡した場合に弁護士に相談するメリットを解説します。
煩雑な手続きや交渉を任せられる
数次相続が発生した場合は、一次相続の相続人と二次相続の相続人を確定しなければなりません。そのため、通常よりも取得すべき戸籍謄本等の数が増え、手続きも複雑化します。
相続人の数が増えると遺産分割協議がスムーズに進まないこともあります。
弁護士に依頼すれば相続人調査や遺産分割協議を任せられるので、手間や時間を削減できます。
不備のない遺産分割協議書を作成してもらえる
数次相続の遺産分割協議書は、通常の遺産分割協議書と書き方が異なります。
遺産分割協議書に不備があると、相続登記などのその後の相続手続きがスムーズに進まなくなるおそれがあります。
弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼すれば、数次相続により権利関係が複雑な手続きも、適正かつスムーズに進められます。
スムーズな手続きが望める
数次相続が発生した場合は、一次相続で相続税を申告・納税しようとしていた人の死亡を知った日の翌日から10か月以内までに相続税を申告・納付しなければなりません。
相続登記も原則として個別の相続ごとに行わなければなりません。
相続手続きのワンストップサービスを提供している法律事務所に相談すれば、提携先の司法書士や税理士も紹介してもらえるので、相続問題をワンストップで解決できます。
まとめ
遺産分割未了のまま相続人が死亡して次の相続が発生すると、相続人が増えて遺産分割協をスムーズに進められなくなることがあります。
相続税申告や相続登記にも通常以上の手間や負担がかかります。
遺産分割未了のまま相続人が亡くなった場合には、相続手続きを迅速かつ的確に進めるために、相続に詳しい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
当事務所は、ネクスパートアドバイザリーグループとして、税理士・司法書士などの他仕業と連携しており、相続・遺産分割問題に関しワンストップでの対応が可能です。
相続に関してお困りのことがあれば、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。