遺産分割とは?|概要・方法・注意点をわかりやすく解説

遺産分割(いさんぶんかつ)とは、被相続人が遺した財産を共同相続人の話し合いによって具体的に分配することです。
法定相続分どおりに遺産を共同で相続することも可能ですが、将来のトラブルの原因となる可能性もあります。
この記事では、次の点を解説します。
- 遺産分割とは
- 遺産分割の3つの手続き
- 遺産分割の注意点
- 遺産分割の手続きを弁護士に依頼するメリット
目次
遺産分割とは
遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)が残した財産を、共同相続人の間で分ける手続きです。
ここでは、次の点を解説します。
- 遺産分割の対象となる財産
- 遺産分割の対象とならない財産
- みなし相続財産とは
- 遺産分割の方法
- 遺産分割の流れ
遺産分割の対象となる財産
遺産分割の対象となる財産は、相続開始時に残っている被相続人の積極財産です。
相続開始時に残存する積極財産
遺産分割の対象となる財産の例は、次のとおりです。
- 不動産
- 不動産上の権利
- 現金
- 預金・貯金(預貯金債権)
- 上場株式・国債(有価証券)
- 自動車・船舶
- 宝飾品・美術品・骨董品
- ゴルフ会員権
なお、預貯金債権は、かつては遺産分割の対象とならず、相続開始時に当然分割され、相続人が相続分に応じて権利を取得すると考えられていました(最判平成16年4月20日等)。
現在は、預貯金債権は、他の可分債権と異なり、遺産分割の対象になると考えられています(最判平成28年12月19日)。
特定・価格の評価が困難な動産類は、形見分けで配分するなど、遺産分割によらない場合もあります。
遺産分割の対象とならない財産
金銭その他の可分債権
可分債権とは、分けられる(可分)給付を目的とする債権です。
判例は、金銭債権その他の可分債権は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を取得すると示しています(最判昭和29年4月8日等)。
祭祀財産
祭祀に関する財産(系譜・祭具・墳墓)は、相続とは異なる形で承継される財産であり、遺産分割の対象になりません。被相続人の指定・慣習・家庭裁判所の指定の順番で承継者が決定されます。
債務
金銭債務は、相続により当然に各共同相続人にその相続分で承継されるため、遺産分割の対象となりません。
積極財産を多く取得する人が債務も引き受ける内容の遺産分割協議をすることができますが、債権者がその内容に同意しない限り、他の相続人は債務の負担を免れません。
生命保険金
生命保険金は、保険金受取人の固有財産です。受取人が指定されている場合は、遺産分割の対象になりません。ただし、保険金受取人と他の共同相続人との間に著しい不公平が生ずる場合には、受領した生命保険金等が特別受益として持戻しの対象となると解されています(最判平成16年10月29日)。
次の場合には、遺産分割の対象となる財産になります。
- 受取人の指定がない場合
- 受取人が相続人と指定されている場合
死亡退職金
死亡退職金は、退職金支給規定にもよりますが、多くのケースで受給権者の固有財産に該当し、遺産分割の対象となりません。
受取人が指定されていない場合も、退職金支給規定や法令解釈によっては、特定の遺族(配偶者等)の固有財産であり、遺産分割の対象にならないと解されています(最判昭和62年3月3日)。
みなし相続財産とは
遺産分割の対象とならない(民法上の相続財産ではない)財産のうち、次のものは相続税法上、遺産として取り扱われますので(これをみなし相続財産といいます。)、注意しましょう。
- 受取人の指定のある生命保険金
- 死亡退職金
上記はいずれも、特別受益として持ち戻しの対象となるケースもありますので、生命保険証券や死亡退職金規定により契約内容を確認しましょう。
遺産分割の方法
①現物分割
現物分割とは、次に例えるように遺産をそのままの形で分割する方法です。
- Aは甲土地、Bは乙建物を取得する
- Aは甲預金、Bは乙預金を取得する
ただし、共有取得を除き、具体的相続分を完全に一致させる分割が難しいため、後記③の代償分割を取り入れた分割を考慮しなければなりません。
②換価分割
換価分割は、遺産を売却して、その売却代金を分配する方法です。通常、調停や審判において現物分割・代償分割が困難な場合に用いられる方法です。
③代償分割
共同相続人の1人又は数人に法定相続分を超えて遺産の一部又は全部を現物で取得させ、その者に、現物では法定相続分に満たない遺産しか取得しない他の相続人に対して、その不足分に相当する分を代償として債務を負担させる方法です。
具体例を挙げると、次のとおりとなります。
Aは甲土地(2,000万円)を相続する。AはBに対し、甲土地取得の代償として1,000万円を支払う。(ABの2名が相続人・遺産は甲土地のみ) |
代償分割において、代償金は一括払いのほか分割払いを指定できます。
④共有分割
共有分割とは、次に例えるように遺産の一部又は全部を複数の相続人が共同で所有する方法です。
- A・B・Cは甲土地を3分の1ずつ取得する
一見、公平な分割方法と思われますが、次のようなリスクが生じます。
- 不動産を共有した場合、共有者全員の同意がないと売却・建築・取り壊しや賃貸ができない
- 共有者が死亡した場合、その持分が相続人に引き継がれる(共有者が増加する)
遺産分割の流れ
遺産分割の主な流れを説明します。
遺言の有無を確認する
被相続人が遺言を遺しているか否かを確認します。公正証書遺言であれば、公証役場で検索できます。
自筆証書遺言の場合、保管場所は人それぞれですが、次を例にひととおり探索します。
- 預貯金通帳を保管する書類棚
- 手提げ金庫
- 机の引き出し
- 仏壇の物入れ
- 銀行の貸金庫
- 弁護士・司法書士に預けている
遺言がある場合、原則として遺言書の内容に沿って遺産が分配されます。したがって、遺言で行先が指定された財産は、原則として遺産分割の対象から外します。
相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割をすることも可能です。遺言書に記載のない財産がある場合は、遺産分割協議により取得する人を決めます。
相続人を確定する
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得して、相続人を調査します。民法所定の相続順位に従い、相続人の範囲を確認します。併せて、相続放棄・相続欠格・推定相続人排除の有無を確認します。
次に該当する者は、相続人となれません。
- 相続放棄をした者
- 相続欠格事由に該当する者
- 推定相続人排除の審判がなされた者
- 遺言により推定相続人排除の意思表示がなされた者
遺産の概要を把握する
被相続人の遺産の内容を把握します。遺産分割の対象となる積極財産のみならず、消極財産(負債・債務)も調査します。
調査方法は、主に次の書類や保管場所を調査します。
- 不動産:名寄帳・登記簿謄本・固定資産納税通知書
- 動産:被相続人の居室内・貸金庫
- 預貯金:通帳・預金残高証明書・取引明細表
- 債権:契約書
- 有価証券:株券・配当通知・取引明細表
- 債務:契約書・不動産全部事項証明の乙区欄
積極財産と消極財産を正確に把握することは、将来のトラブルを防ぐ意味で重要です。
消極財産が積極財産を上回る場合は、相続放棄を検討するケースもあります。
遺産の範囲を確定する
次のような場合、遺産分割協議に先立ち遺産の範囲を確定する必要があります。
⑴遺産の範囲に争いがあるとき
不動産について、登記上は相続人のうち1人の所有名義となっていても、実質上は被相続人所有の不動産であると他の相続人が主張する場合があります。
当事者間で遺産の範囲に関する争いを解決できない場合は、遺産確認訴訟や所有権確認訴訟により遺産の範囲を確定する方法があります。
⑵遺産の変動がある場合
相続開始後、遺産分割までの間に、次のとおり遺産に変動が生じる場合があります。
- 遺産を構成する個々の財産から収益(賃料など)が生じる
- 遺産が滅失・棄損し保険金請求権や損害賠償請求権に転化した
上記①を遺産から生じた果実、②を遺産の代償財産と呼ぶことがあります。
遺産分割時の財産を遺産分割の対象となる遺産とすべきとの見解がありますが(東京家審昭和44年2月24日)、共同相続人全員の合意があれば、遺産から生じた果実、遺産の代償財産を遺産分割の対象に含められます。
相続人全員で遺産分割の内容を決める
相続人全員で協議し、遺産分割の内容を決めます。
協議は、相続人全員が一堂に会して行うだけでなく、電話・メール・手紙による持ち回りの方法でも差し支えありません。
次のようなケースでは、遺産分割協議書を相続人の1人が作成し回覧に供する方法で遺産分割協議が成立することもあります。
- 相続人が遠方に居住している
- 分割対象の遺産が少ない
遺産分割協議書を締結する
遺産について共同相続人の協議が終了すれば、その内容を遺産分割協議書として書面化します。
遺産分割協議書は、法律上作成を求められていません。しかし、次の目的にために作成すべきと考えます。
- 遺産分割の合意内容を明確にするため
- 後の紛争を回避するため
- 不動産の相続登記申請をスムーズに進めるため
- 金融機関の相続手続きをスムーズに進めるため
遺産分割協議書は、通常、相続人全員が署名・捺印(実印)し、印鑑証明書を添付します。協議書が複数頁にわたるときは、契印を押捺します。
協議が成立しない場合は調停・審判へ
共同相続人間で遺産分割協議が成立しないときは、各相続人は家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申立てられます。遺産分割事件には調停前置主義の適用はありませんが、通常は、遺産分割調停を申立てます。
遺産分割の3つの手続き
ここでは、遺産分割の3つの手続きを解説します。
遺産分割協議
家庭裁判所を通さず、共同相続人間で遺産分割を協議する手続きです。
遺産分割調停
家庭裁判所の裁判官と調停委員が仲介役となり、共同相続人間での合意を図る手続きです。
調停において、共同相続人全員での合意が成立すれば調停が成立します。
調停委員会が当事者間に合意が成立する見込みがないと判断した場合は、調停は不成立となります。調停が不成立となった場合、審判に移行します。あらためて審判申立書を提出する必要はありません。
遺産分割審判
遺産分割審判は、家庭裁判所の家事審判官の裁量により遺産分割の方法を定める手続きです。遺産分割審判は、次を命じることができます。
- 金銭の支払い
- 物の引き渡し
- 登記義務の履行
- その他給付
審判は、次のときに確定します。
- 即時抗告の期間(告知を受けた日の翌日から2週間)が経過したとき
- 即時抗告者全員が抗告権を放棄したとき
- 即時抗告期間経過後に即時抗告を取下げたとき
- 抗告審の裁判が確定したとき
当事者が審判の内容を履行しない場合は、強制執行によりその内容を実現できます。
遺産分割の注意点
ここでは、遺産分割の注意点を紹介します。
相続人に未成年者がいる場合
相続人に未成年者がいる場合は、次の2つの方法で遺産分割を進めます。
法定相続人による遺産分割
法定代理人とは、法律上代理権を有する者です。未成年者の場合は、親権者である父と母が
未成年者と父母の利害関係が対立しない場合は、未成年者の父母が法定代理人として遺産分割協議に参加できます。
特別代理人による遺産分割
未成年者と法定代理人の利害関係が対立する場合、家庭裁判所に選任される特別代理人により遺産分割協議ができます。
相続開始時に胎児がいる場合
胎児には相続権があります。相続開始時に胎児がいる場合は、胎児が生まれてから遺産分割協議をします。
胎児を除外した遺産分割協議は無効(死産の場合を除く)となりますので、胎児がいる場合は出生を待ちましょう。この場合も、法定代理人又は特別代理員による遺産分割協議が必要です。
相続人に認知症の方がいる場合
有効な遺産分割協議を行うためには、当事者である相続人が意思能力を備えていなければなりません。意思能力のない当事者が参加した遺産分割協議は無効になる可能性があります。
相続人に認知症の方がいる場合には、成年後見制度を利用しましょう。成年後見人が遺産分割協議に参加することで有効に成立します。
遺産分割の手続きを弁護士に依頼するメリット
ここでは、遺産分割の手続きを弁護士に依頼するメリットを紹介します。
手間や労力を省ける
弁護士に依頼すれば、次に例を挙げる遺産分割に必要な様々な手続きを代行してもらえます。
- 相続人の調査
- 遺産の調査
- 書類の取寄せ
- 遺産分割協議書の作成
- 相続人間の書類の受け渡し
相続人・財産の調査を自分で行うと、手間と時間がかかるほか、調査が不十分であると遺産分割協議が無効になる可能性があります。
弁護士に依頼すれば、そうしたトラブルも回避できます。
話し合いがスムーズに進む
共同相続人間で協議すると、感情の衝突により話し合いがスムーズに進まないこともあります。弁護士が第三者として遺産分割協議に介入することで、冷静に遺産分割協議を進められます。
将来のトラブルを防止できる
遺産分割協議書の記載・内容に不備があると、将来のトラブルの原因となります。
弁護士に依頼すれば、遺産分割後に紛争が発生するリスクが少ない遺産分割方法を検討でき、遺産分割協議書を不備なく作成できます。これにより、後に遺産分割の問題が蒸し返されるなどのトラブルを防止できます。
まとめ
遺産分割は、当事者のみで対応すると労力や手間がかかります。相続人や財産の調査に漏れがあると、遺産分割協議が無効となるおそれもあります。
弁護士に依頼すれば、迅速かつ円満に遺産分割できる可能性が高まるほか、将来のトラブルを防止できます。
当事務所でも、遺産分割をはじめ相続に関するご相談を受け付けております。お気軽にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。