家族信託契約とは?契約の仕組みや契約書の作成などについて解説

インターネット上には家族信託契約書のひな型が多く掲載されています。書籍も販売されており、一般の方の家族信託契約書の作成時の参考となるでしょう。
しかし、ひな型を丸写しして信託の当事者や財産の種類を埋め込むだけでは、信託の目的を実現できない可能性があります。
信託の目的は各人各様であり、契約書もそれぞれ異なります。
この記事では、家族信託の具体的な書き方をポイントとともに解説します。
目次
家族信託契約とは
信託契約とは、委託者(財産を託す人)が受託者(財産を託される人)に財産の管理処分権限を与え、定められた目的(受益者へ利益をもたらすこと)に沿って、財産を管理・処分させる契約です。家族信託契約は、委託者と受託者の間で締結します。
家族信託契約書の内容や書き方
家族信託契約書にはどのような内容を記載すれば良いでしょう。家族信託契約書の具体的な書き方や条項例を見てみましょう。
家族信託契約書の書き方
家族信託契約書には、必要記載項目と任意記載項目があります。
必要記載項目 | 任意記載項目 |
①契約の趣旨 ②信託の目的 ③委託者・受託者・受益者 ④信託財産の内容
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①信託財産の管理・運用方法 ②信託期間と信託終了事由 ③受託者の信託報酬に関する事項 ④信託の目的実現のための給付の方法と給付額 ⑤信託監督人及び受益者代理人に関する事項 ⑥信託事務を委任する場合の信託事務代行者 ⑦信託の変更に関する事項 ⑧信託終了時の残余財産の帰属先 ⑨清算に関する事務 ⑩その他信託に関する事項 |
必要記載項目を一つずつ確認しましょう。
契約の趣旨
信託契約の締結を締結したこと、すなわち、信託の設定の内容を記載します。
信託の目的
信託の目的を記載します。ここで定める目的は、その後の受託者の権利を規定する枠となります。このため、目的規定の記載は手を抜かず丁寧な記載が必要です。
委託者・受託者・受益者
信託契約の当事者である委託者・受託者・受益者を定めます。委託者は契約書の冒頭に記載することでも足ります。
信託財産の内容
信託する財産(受託者に託す財産)の内容を記載します。信託できる財産の例は、不動産、現金、有価証券などです。
家族信託契約書の例とケース別条項の解説
では、次に契約書例を見ながら具体的な記載方法を確認しましょう。
信託契約書のひな型
この契約書例は、以下を前提に作成しています。
- 当事者:委託者=夫、受託者=長男、受益者=夫(夫の死亡後は妻A)
- 信託の目的:夫が所有する不動産と現金の管理権限を長男に託し、信託財産から得た収益を夫と妻の生活費(生活・医療・介護の資金)に充てる
- 信託する財産:不動産及び現金
上記契約書例では、信託する財産を不動産及び預金とし、委託者とその妻の老後の生活資金を確保することを目的とした契約です。認知症対策として資産凍結防止の側面を有します。
信託の目的に応じた条項例
信託の目的は様々です。以下では、目的に応じた条項例を簡単に説明します。
相続の円滑化・共有トラブルの防止
信託の目的を相続の円滑化とした場合の条項例は次のとおりです。
第2条(信託の目的) 本信託は、次条記載の不動産及び金融資産(金銭)を信託財産として管理し、その他目的の達成のため必要な行為を行い、受益者の福祉の確保と相続手続きを円滑にすることを目的とする。 |
障害者福祉型・未成年養護型
信託の目的を障害者の生活の支援と福祉の確保とした場合の条項例は次のとおりです。
第2条(信託の目的) 本信託は、次条記載の不動産及び金融資産(金銭)を信託財産として管理運用し、その中で受益者の生涯にわたる安定した生活の支援と最善の福祉を確保することを目的とする。 |
事業継承対策
信託の目的を事業の円滑な承継とした場合の条項例は次のとおりです。
第2条(信託の目的) 本信託は、次条記載の本件株式について、相続等による分散を防止し経営の安定のために管理し、円滑に後継者に承継させることを目的とする。 |
このように、信託の目的だけでも、契約書の条項は異なります。
家族信託契約書を作成する際のポイント
家族信託契約書を作成する際の主なポイントは次のとおりです。
- ひな型は参考程度にする
- 必要記載項目は漏らさず記載する
- 信託の目的は丁寧に規定する
- 信託の内容に応じて任意記載項目を付記する
家族信託契約書を公正証書にする理由
家族信託契約書は公正証書にすることをおすすめします。
公正証書とは
公正証書とは、公証人が作成する公文書(法律に従って作成する文書)です。公証人は、法務大臣から任命を受けた法律の専門家で、公証人が執務する場所が公証役場です。
公正証書の作成にかかる費用
公正証書作成手数料
公正証書作成手数料は、信託財産にもよりますが、2万円〜10万円程度が目安です。
信託財産の額に応じて決められる基本手数料に証書の枚数に応じて手数料が加算されます。
弁護士に同行を依頼する場合は同日当
公正証書の作成の際、弁護士に公証役場への同行を依頼する場合は、日当として3~5万円程度を要します。
家族信託契約書を公正証書にするメリット
家族信託契約書を公正証書にすると、次のメリットがあります。
- 法的に不備のない契約書を作成できる
- 後のトラブルを防止できる
- 滅失、棄損、偽造のおそれがない
一つずつ説明します。
法的に不備のない契約書を作成できる
公証人は、長年に亘り弁護士や検察官、裁判官をはじめ法律の職に就いていた人の中から任命されます。法律の知識を十分に備えた公証人が公正証書を作成することで、法的に不備のない契約書を作成できます。
後のトラブルを防止できる
私文書の場合、相続開始後、信託契約時の委託者の判断能力が争われることや、契約書の偽造を疑われるリスクが生じます。契約書そのものの有効性が争われる場合は、裁判に発展する可能性があります。
家族信託契約書を公正証書にすることで、法的に不備のない契約書を作成できるため、契約の効力が争われるリスクを最小限にできます。
滅失や棄損のおそれがない
公正証書は、原本が公証役場に保管されます。万一、当事者に交付される公正証書正本を紛失した場合も再発行ができます。よって、紛失や棄損のおそれがありません。
公正証書の要否の判断基準
公正証書の要否の判断基準として、必要度を3つに分けて説明します。
公正証書にする必要があるケース
- 信託口口座の開設を予定する場合
- 受託者が信託契約で定められた借入権限を根拠に融資を受ける場合(信託内借入)
公正証書にすべきケース
①委託者の判断能力の低下が見られる場合
②家族間にトラブルがある場合(仲が悪い場合)
③契約書の紛失や滅失の不安がある場合
④相続の円滑化・承継先の指定を希望する場合
公正証書にする必要はないケース
①上記いずれの条件にも当てはまらない場合
②契約書(私文書)作成後、委託者の判断能力が著しく低下した場合
家族信託契約書は自分で作成できる?
上記を踏まえ、ご自身で作成する場合の注意点を見てみましょう。
家族信託契約書を自分で作成する場合の注意点
家族信託契約書をご自身で作成する場合の主な注意点は次の3つです。
家族信託契約書の作成時ひな型に頼るのは危険
家族信託契約書の作成の際、ひな型を丸写しして信託の当事者や財産の種類を埋め込むだけでは、信託の目的を実現できない可能性があります。ひな型を使用する場合は参考程度にとどめ、信託の目的に応じてアレンジする作業が必要です。
契約書の内容に不備がある可能性がある
家族信託契約書は、高度な専門知識が必要な難しい契約です。ご自身で作成した場合、法律上のルールを満たさない内容になることがあります。また内容に不備があり、信託の目的を達成できない可能性もあります。
契約書に不備があった場合のリスク
契約書に不備があった場合、契約が無効となるおそれがあります。その結果、次を例にトラブルに発展することがあります。
- 信託口口座が開設できない
- 信託登記・登録ができない
- 契約締結時の委託者の意思能力を疑われる
- 契約書の偽造を疑われる
- 家族間のトラブルが訴訟に発展する
したがって、家族信託契約書の作成時は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
家族信託契約書の作成を弁護士に依頼する場合
家族信託を弁護士に依頼した場合のメリットや費用を紹介します。
契約書の作成を弁護士に依頼するメリット
法的に問題のない家族信託の契約書を作れる
契約書に不備があった場合、無効と判断されるおそれがあります。弁護士に依頼すれば、法的に問題のない契約書を作成できます。
公正証書にするときも対応してもらえる
家族信託を弁護士に依頼すると、書類の提出や契約条項の確認を含め公証人との事前打ち合わせを弁護士が行います。公証役場に同行しますので、公正証書の作成をフルサポートできます。
目的に沿った契約内容を相談できる
家族信託を弁護士に依頼することで、目的に沿った信託の内容を設計できます。弁護士から様々な提案を受けることで、隠れていた希望や想いが具体化することもあるでしょう。
遺留分についてアドバイスがもらえる
遺留分とは、相続人(兄弟姉妹を除く)に対して最低限保証される遺産の取り分です。
これまで、「家族信託で遺留分を回避できる」との意見と、「家族信託は遺留分侵害額請求の対象となる」との意見に二分されていました。
信託と遺留分の関係性に触れたのが、東京地方裁判所平成30年9月12日判決です。
同判決では、次の2点を明示しました。
- 信託受益権は遺留分侵害額請求の対象となる
- 遺留分侵害額請求の回避を目的とした信託契約は公序良俗に反し無効となる
この判決では、遺留分侵害額請求を回避することだけを信託の目的としたと判断され信託契約の一部が無効となりました。
このように、家族信託を利用する場合、遺留分については最大限の配慮をする必要があります。弁護士に依頼すれば、遺留分を最大限配慮し、かつ、遺留分の制度を潜脱しない信託を設計できます。
契約書作成にかかる費用は?
家族信託を弁護士に依頼した場合にかかる費用は、次のとおりです。
相談料
30分5,500円(税込)〜/初回相談料を無料としている事務所もあります。
コンサルティング料
信託財産×1%程度(目安:50万円~200万円)
まとめ
以上、契約書例や条項例を用いて、家族信託契約書の作成方法やポイントを説明しました。
家族信託契約書に記載すべき事項は、信託の目的によって異なるため作成が難しく感じた人もいるでしょう。
弁護士のサポートを得ることにより、実情に合った適法な契約書が作成でき、トラブルを未然に防ぐことができます。ご自身での契約書の作成を検討されている方も、万が一トラブルが発生した場合に適切な対処が取れるよう、家族信託の利用にあたっては弁護士に相談されることをおすすめします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。