相続手続きを自分で進める流れと弁護士に相談したほうがいいケース

相続手続きは自分で進めることもできますので、手続きを進める上で特に問題がなければ、自力で終わらせるのもアリでしょう。
一方、相続人や遺産の調査に抜け漏れがあると、後々思わぬトラブルにもつながりかねません。
この記事では、相続手続きを自分で進める流れについてご説明した上で、どんな場合は弁護士等への相談を検討したほうがいいのかご説明します。
目次
相続手続きを自分でする際の流れ
相続手続きの全体像は次のとおりです。
- 関係先に連絡
- 役所などへの届け出
- 遺言書があるか確認
- 戸籍謄本の取得
- 相続人の調査
- 遺産の調査
- 準確定申告
- 遺産分割協議と遺産分割
- 相続税の申告・納付
具体的に見ていきましょう。
関係先に連絡
被相続人が死亡すると、その時点で相続が発生します。
まずはお通夜や葬儀の手配と同時に、被相続人の親族や友人たちに被相続人が死亡したことを連絡してください。これは今後の相続手続き全般にも関係することです。
預金や有価証券など金融資産の名義書き換えの必要がある場合、被相続人が口座を開設していた金融機関、保険会社にも連絡してください。
このとき、住宅ローンや未払金などの負債がある場合は、債権者との協議や調整が必要です。
役所などへの届け出
被相続人が家族であれば、死亡から7日以内に役所へ死亡診断書・死亡届死体火(埋)葬許可証交付申請書を提出します。
死亡した人が世帯主であれば、新しい世帯主を決めたうえで14日以内に世帯主変更届を提出します。
このほかにも、公的医療保険や公的保険の手続きも忘れないようにしてください。
被相続人の勤務先の健康保険や国民健康保険に資格喪失届を提出すると、埋葬料(勤務先の健保)や葬祭費(国保)が支給されます。
被相続人が国民年金・厚生年金の受給者であれば、年金受給権者死亡届の提出が必要です。これにより、一定の基準を満たすことで遺族は死亡一時金や老齢基礎年金、厚生年金であれば遺族厚生年金を受け取れます。
遺言書があるか確認
被相続人が生前に遺言書を作成していれば、その内容に従って遺産をわけることになります。
今後の相続手続きにも影響しますので、相続が発生したら早めに遺言書があるかどうか確認してください。
遺言書でもっとも多いパターンが、公正証書遺言または自筆証書遺言です。
公正証書遺言であれば、公証役場や銀行などで保管されています。このため、偽造や紛失のおそれはありません。
注意しなければならないのは、自筆証書遺言です。
2020年7月10日以降に作成された自筆証書遺言であれば、法務局に保管されていることも考えられます。しかし、そうでない場合は自宅や被相続人の知り合いなど、考えつくかぎりのところを探さなければなりません。
自筆証書遺言が見つかったら、家庭裁判所で遺言書の内容・用紙・枚数などを記録し、偽造や改ざんがされていないか確認する検認という手続きを行います。
もし自筆証書遺言が封印されている場合、検認のときに相続人が立ち会ったうえで開封しなければなりません。もし封印のある自筆証書遺言を勝手に開封すると、科料に処せられます。

戸籍謄本の取得
相続手続きには、被相続人が出生から死亡するまでの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍が必要です。
戸籍謄本の様式は、戸籍法が改正されてきた経緯から以下の4種類があります。
- 明治31年式
- 大正4年式
- 昭和23年式
- 平成6年式
戸籍は被相続人の本籍地を管轄している役所でしか取得できません。このため、戸籍に記載のある本籍地の役所が市町村合併などにより他の役所に合併されている場合は、どこが戸籍謄本を管理しているのか調べる必要があります。
相続人の調査
被相続人の戸籍謄本を取得したら、これをベースに相続人全員(被相続人の親族ではないが遺言で遺産を受け取る人も含める)の戸籍謄本や戸籍全部事項証明書を取得します。これは、相続人は誰なのかを明確にするためです。
これにより、被相続人の相続権を持つ隠し子がいたなどの事実がわかることがあります。

遺産の調査
被相続人の遺産には金融資産や不動産など、さまざまなものがあります。遺産を調査するための資料や方法は遺産の種類ごとに異なります。以下では、主な遺産や確認するための資料をご紹介します。
預金
通帳やキャッシュカード、残高通知などの定期送付物、残高証明書など
有価証券
証券会社や銀行からの残高証明書、取引残高報告書、配当金の支払い通知書、株主総会の案内など
土地、建物
権利証、固定資産税の納税通知書、固定資産税評価証明書、名寄帳、登記簿謄本、測量図など
貸家、貸地
賃貸借契約書など
生命保険
保険会社からの支払い通知書、保険契約証書など
ゴルフ会員権
会員証、払い込み証明書など
被相続人が家族などを名義にしている預金や有価証券は要注意です。たとえ被相続人の名義ではなくても、これは遺産に該当します。したがって、相続税の申告時に相続財産としていなかった場合、後に追徴課税の対象とされる可能性があります。
財産だけではなく借金などの負債も相続の対象になりますので、しっかりと調べるようにしてください。
準確定申告
準確定申告とは、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡した日までに発生した所得に対して課される所得税を、税務署に申告することです。
準確定申告の義務者は、相続人または包括受遺者(被相続人から遺言などで財産を特定せずに受け取る人)です。
準確定申告による相続人の負担割合は、遺言書があるかどうかで異なります。遺言書がある場合は、その遺言書で指定された分割割合に応じて各相続人が納税します。
一方で遺言書がない場合は、実際の相続割合ではなく法定相続割合で按分して計算した額を、各相続人が納税します。
準確定申告は、被相続人が死亡してから4ヶ月以内に行わなければなりません。期限までに申告・納税をしなかったり過少申告だったりした場合、加算税や延滞税などが課されます。
遺産分割協議と遺産分割
遺言書がない場合は、あるいは遺言書があっても遺産の分け方について指定されておらず相続人が複数以上いる場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議により、被相続人の遺産を誰が・何を・どのくらい相続するのか、法定相続人どうしで話し合って決めます。この場合、必ずしも法定相続割合で分ける必要はありません。
なお、ひとりでも相続人を欠いた状態で成立した遺産分割協議は無効になります。
遺産分割協議がまとまったあとで新たな遺産が見つかった場合は、遺産分割協議をやり直さなければならなくなることがあります。
遺産分割協議がまとまったら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人1通ずつ保管します。
遺産分割協議書の書式は、特に法律で決められているわけではありません。ただし、遺産の分け方を誰が見ても明らかなように記載し、各相続人が記名・押印しておくことが一般的です。
遺産分割協議書の作成は法律で義務付けられているわけではありません。しかし、後から相続人の間で合意した・していないのような水掛け論を防ぐ効果があること、さらには不動産の相続登記で必要になる場合もあることから、遺産分割協議書は作成しておくことをお勧めします。
遺産分割協議が終わったら、相続財産の名義変更手続きを行います。これが完了することにより、各相続人は遺産を自由に使用・処分できるようになります。
相続税の申告・納付
遺産分割協議が終わったら、税務署に相続税を申告・納付する準備を始めましょう。
相続が発生したからといって、すべての人が相続税の手続きをしなければならないわけではありません。
相続税評価額が基礎控除額の範囲に収まれば、相続税の申告は不要です。
基礎控除額は次のように算出します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の申告書は第1表から第15表まであり、続表や付表を加えると16種類になります。これに各種の必要書類があればそれを添付したうえで相続税を申告し、納付します。
これにより、一連の相続手続きは完了となります。
なお、相続税の申告・納付期限は被相続人が死亡して相続が発生した日の翌日から10か月以内です。これに合わせて、全体の相続手続きのスケジュールを立てるとよいでしょう。
相続手続きを自分でやるか、弁護士などに依頼するか判断する基準
判断基準を一言でお伝えすると、調査や手続きを自力ですべて終わらせられそうかどうかです。
特に相続人や遺産の調査に抜け漏れがある場合は、その後の手続きもやり直すことになるので、特に失敗できません。
もう少し具体的に見ていきましょう。
自分でやるといい場合
以下のような方であれば、自分で相続手続きを行ってもよいかもしれません。
- 相続人は自分ひとりだけ
- ほかにも相続人はいるが、遺産の分け方についてすでに合意している
- 遺産の種類が少ない
- 平日の昼間に相続手続きのための時間を取ることができる
- 相続手続きについて、十分な知識や経験がある
弁護士などに依頼した方がいい場合
一方で、以下のような方であれば相続手続きを弁護士などに依頼することも一案です。
- 相続人が何人もいる。また、被相続人の離婚歴などでほかにも相続人がいる可能性がある
- 遺産の分け方について揉めそうな法定相続人がいる
- 遺産の調査に不安がある
- 平日の昼間は仕事をしているため、相続手続きに十分な時間を取れない
- 相続手続きなど経験がないし、知識もない
- 見落としている手続きがありそうで不安
特にほかの相続人とトラブルになってしまっているときは、早めに弁護士に依頼するとよいでしょう。
相続手続きを相談・依頼できる先4つ
相続発生時の相談先には主に以下4つがあります。
- 税理士
- 行政書士
- 司法書士
- 弁護士
それぞれのサポート内容を確認していきましょう。
税理士
税理士には相続税に関する相談や、相続税を申告するための書類作成および税務署への申告を任せられます。これらの業務は、税理士法の既定により税理士にしかできません。
行政書士
行政書士は、官公省庁に提出する書類全般、権利義務や事実証明に関する書類の作成を代行します。
行政書士には、相続人を特定するために必要な戸籍謄本の取り寄せや財産調査を任せられます。
司法書士
司法書士には、主に法務局や裁判所へ提出する書類の作成や登記などを依頼できます。
司法書士には戸籍謄本の取り寄せ財産調査のほか、相続する不動産の権利部(所有者の住所・氏名や抵当権などの内容)についての登記を任せられます。
弁護士
弁護士は戸籍謄本の取り寄せ財産調査のほか、相続についての法的なアドバイスやトラブルへの対処を依頼できます。
特に、遺産の取り分をめぐり他の相続人とトラブルになってしまった場合や調停や裁判になってしまった場合に、相続人の代理人になることを認められているのは弁護士だけです。
まとめ
相続税以外のことであれば、相続のことは全般的に弁護士に任せられます。
もし自分で相続手続きを進めることが難しい場合は、お早めに弁護士にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。