マンションを相続する前にすべきことは?手続きの流れや相続税も解説

相続財産に分譲マンションがある場合、どのようなことに気を付けて相続手続きを進めればよいでしょうか?
この記事では、マンションを相続する前に必要な調査や、相続した後に行わなければいけない手続きについて解説します。
目次
マンションを相続する前に必要な調査は?
相続財産にマンションがある場合、以下の3つに関する調査をしましょう。
遺言書の有無の確認
被相続人が遺言書を遺していないかどうか確認しましょう。
遺言書があれば、基本的にその内容に従って遺産を分けます。
被相続人の自宅をひととおり探し、遺言書が見つからない場合は、金融機関の貸金庫や公証役場に保管されている可能性がありますので、問い合わせてみましょう。金融機関の貸金庫に保管されている場合は、相続人全員が金融機関の所定書式に署名・実印にて押印し、手続きを経ることで開扉に応じてもらえます。
貸金庫に保管されていたのが自筆証書遺言書であれば、家庭裁判所の検認が必要なので、その場で開封しないようにしましょう。
公証役場に遺言書が保管されている可能性があれば、遺言検索システムを利用して被相続人が公正証書遺言を作成したかどうかを確認できます(1989年以降に作成された公正証書遺言に限る。)。
公正証書遺言を作成していたことが分かれば、作成された公証役場に謄本の交付請求をすることで遺言書の内容を確認できます。検索システムに登録された情報は全国どこの公証役場からでも照会可能です。
2020年7月からスタートした法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している可能性もあります。相続人は、遺言書保管事実証明書の交付を請求できますので、法務局の窓口に問い合わせてみましょう。
相続人調査と相続財産の調査
遺言書がない場合は、遺産分割協議でどのように遺産を分けるか決めるため、法定相続人と相続財産の調査が必要です。
相続人の調査
相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得し、誰が相続人になるかを調べます。
遺産分割協議は、相続人全員の参加が必須であるため、相続人調査をして相続人を確定しなければなりません。一人でも相続人が欠けた場合、遺産分割協議は無効になるため、正確な調査が必要です。
相続人が確定したら、相続人全員の戸籍を取得するとともに遺産分割協議等に備えて、住民票を取得して相続人の住所地の調査も行います。
相続財産の調査
遺産分割の対象となる財産を把握するために、相続財産調査を行います。
マンション以外の財産も含めて相続財産の全容を把握することが大切です。不動産、預貯金、動産、各種有価証券、債権だけでなく、借金などの債務も調査をします。
調査の方法は、以下の表を参考にしてください。
財産の種類 | 調査方法の例 |
不動産 | 1.被相続人の自宅内に、登記識別情報通知(登記済証)もしくは固定資産税納税通知書があるか確認をする
2.登記識別情報等がない場合は、固定資産税納税通知書を探す 3. 固定資産税納税通知書もない場合は、市区町村の窓口で名寄帳を入手する 4.法務局で登記事項証明書を取得し、現在の所有者を確認する(その際に近隣に所有している不動産があるかどうか公図を閲覧する) |
預貯金 | 1. 被相続人の預貯金通帳やカードを確認する
2. 被相続人の生活圏内の銀行に口座の有無や残高を照会する |
動産 | 1.被相続人の自宅内を確認する
2.被相続人が契約していた貸金庫等と確認する 3.自宅の駐車場・ガレージ、もしくは被相続人が契約していた駐車場・ガレージを確認する。 |
各種有価証券 | 1. 証券会社発行の取引残高報告書を確認する
2. 被相続人宛ての郵便物を確認する 3. 被相続人の生活圏内の証券会社に口座開設の有無・有価証券等の預託の有無・残高を照会する 4. ゴルフ会員権の有無を確認するため、ゴルフバックの名札を確認する |
債権 | 1. 被相続人の自宅内を探索し、契約書等の有無を確認する
2. 被相続人名義の通帳や確定申告書(控)を確認する 3. 被相続人宛の郵便物を確認する |
債務(借金) | 1. 被相続人の自宅内を探索し、契約書等の有無を確認する
2. 被相続人名義の通帳や確定申告書(控)を確認する 3. 被相続人宛ての郵便物を確認する 4. 不動産登記事項証明書を取得し乙区欄に記載がないか確認する |
相続財産の全容を把握できたら、財産の評価を行いましょう。遺産の分配を公平かつ適正に行うためには、その前提として遺産の価値(時価)を把握することが大切です。
相続税の申告の有無を確認
マンションを含む相続財産の総額が判明したら、相続税の申告が必要かどうかを確認しましょう。
相続税が課税される場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告・納付が必要です。以下で計算方法について解説します。
マンションの相続税計算方法
相続税が課税されるかどうかは、相続財産の総額が、基礎控除額を超えるかどうかで判断します。基礎控除額の計算式は、以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )
相続財産の総額が、上記計算式で求めた基礎控除額を超える場合は、相続税を申告・納付しなければなりません。相続財産の総額が基礎控除額を下回る場合は、相続税の申告・納付は不要です。
相続税の申告が必要な場合、相続税評価額の算出が必要です。相続税評価額とは、相続税の計算時に基準となる財産の価格のことです。マンションの相続税評価額は、土地と建物を別々に計算し、それぞれの額を合算して算出します。マンションには専有部分と共有部分がありますが、共有部分も含めた相続税評価額を計算します。
マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。固定資産評価額は、市区町村から毎年送付される固定資産税課税明細書で確認できます。課税明細書を紛失した場合には、市区町村役場または都・市税事務所で固定資産評価証明書を入手すれば、固定資産評価額を確認できます。
マンションの土地部分(敷地)の相続税評価額は、以下の計算式で求めます。
マンションの敷地全体の評価額×持分割合(敷地権割合)
マンションの敷地全体の相続税評価額は、原則として路線価方式で計算します。路線価方式の計算式は以下のとおりです。
マンションの敷地全体の評価額=路線価×マンション全体の面積(㎡)×画地補正率
マンションが郊外にある場合などで、路線価がない場合は、倍率方式で計算します。倍率方式の計算式は、以下のとおりです。
マンションの敷地全体の評価額=固定資産税評価額×倍率
マンション相続時に受けられる控除と特例
マンションを相続した場合、一定の要件を満たせば配偶者控除と小規模宅地等の特例が受けらます。
配偶者控除とは、配偶者が相続した財産のうち、次のいずれか多い金額まで相続税が非課税となる制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分
被相続人の配偶者がマンションを相続する場合、配偶者控除が適用されます。
小規模宅地の特例とは、被相続人が居住していた自宅の敷地や事業用の建物の敷地等の評価額を最大80%減額して評価できる特例です。居住用物件であれば、330㎡までの面積に適用できるので、分譲マンションの場合は80%減額対象になるケースがほとんどです。
マンションの相続方法は?
法定相続人が複数人いる場合、マンションなどの不動産をどのように分割して相続手続きを進めるのか、以下4つの方法を解説します。
現物分割
現物分割とは、財産をそのままの形で分割する方法です。
例えば相続人がAさん、Bさん、Cさん3人いた場合、マンションはAさんが取得し、現金はBさんが取得、有価証券はCさんが取得するという方法が現物分割です。
相続手続きがシンプルに進められますが、公平に遺産を分割するのが難しい点がデメリットです。
換価分割
換価分割とは、財産を売却して現金化して分ける方法です。
公平に財産が分けられ相続税の納付資金も得られますが、マンションの売却手続きに時間がかかったり、希望通りの金額で売却できなかったりする可能性があります。
売却にあたっては諸経費がかかるデメリットもあります。
代償分割
代償分割とは、相続人の一人が財産を相続する代わりに他の相続人に対して金銭を支払って調整する方法です。
例えば、相続人がAさん、Bさん、Cさん3人いた場合、マンションはAさんが取得し、Bさん、Cさんに対してはそれぞれの具体的相続分に見合った現金を支払います。
相続人同士が不公平感を感じない相続手続きができますが、前提として代償金を支払う相続人に相応の資力が必要となります。対象財産の評価方法によっては代償金の金額が低くなることもあるので、評価方法について相続人同士がもめる可能性がある点がデメリットです。
共有分割
共有分割とは、法定相続人全員がそれぞれの具体的相続分に応じて相続財産を取得する方法です。
相続人間で公平にマンションを相続できるメリットがありますが、次章で説明するとおり、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
マンションの共同名義は避けたほうがよい理由は?
マンションの共同名義はできるだけ避けたほうがよいです。理由は以下のとおりです。
売却をする際に共有者全員の同意が必要
マンションを売却したいと考えた場合、共有者全員の同意がなければ売却できません。
マンションを賃貸したい場合は共有者全員の同意が必要
借地借家法の適用がある賃貸借契約を締結して、マンションを賃貸したいと考えた場合、共有者全員の同意が必要です。
大規模修繕をしたい場合に他の共有者の協力が必須
マンションを修繕したいと考えた場合には、持分の過半数を有する共有者の同意が必要となります。
新たに相続が発生すると権利関係が複雑になる
新たに相続が発生したら、権利関係が複雑になってしまいます。
例えば、Aさん、Bさん、Cさんがマンションを共有した場合、Aさんが亡くなったら、今度はAさんの妻や子どもたちがBさん、Cさんとマンションを共有しなければいけません。代替わりを重ねるごとに、関係性の遠い人同士が共有者となっていくため、変更や管理の際に意見をまとめたり共有の解消を求めたりすることがさらに困難となっていきます。
相続したマンションの3つの活用方法
マンションを相続した場合、どのように活用すればよいか、以下で3つの方法を解説します。
相続したマンションに住む
相続したマンションが、現在の居住地に近かったり、相続した人に持ち家がなかったりした場合は、相続した人やその家族がマンションに住むのも選択肢の一つです。
現在よりも住環境が良くなるなら転居を検討してみましょう。ただし、転居により通勤や通学などに影響が出る場合は、別の活用方法を検討した方がよいかもしれません。
相続したマンションを賃貸に出す
相続したマンションを賃貸する選択肢もあります。
賃貸するメリットは不労所得が得られる点です。ただし、維持管理にコストがかかったり、不動産所得の確定申告に手間がかかったりするデメリットもあります。一定期間、マンションを賃貸に出し、将来的に子どもに譲る選択肢もあります。
相続したマンションを売却する
相続したマンションに住む予定がない、現金が必要な場合は売却を検討してみましょう。
うまく買い手が見つかれば、ある程度まとまったお金が手に入り、維持管理の手間やコストがかからなくなります。ただし、すぐに買い手が見つかるとは限りませんし、売却時に得た利益に対して譲渡所得税がかかるケースもあります。
相続発生~マンションの名義変更までの手続き【遺言書有】
被相続人が遺言書を遺していた場合、マンションの相続手続きをどのようにするか解説します。
遺言書の検認
遺言書が見つかったら、家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません(公正証書遺言や秘密遺言証書、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は不要)。
検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言執行前に遺言書を保全し、後日の変造や隠匿を防ぐために行う手続きです。
遺言が有効か否かを確定する手続きではなく、遺言の有効性を争う場合は、別途遺言無効確認調停や訴訟の提起を検討します。
相続登記
遺言内容を実現するため、相続登記を行います。
相続するマンションの所在地を管轄する法務局に必要書類を添付して登記申請書を提出します。2024年4月から相続登記が義務化されたことに伴い、相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内、遺産分割協議で不動産を取得した相続人は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料が科される場合があります。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が相続登記を行います。
相続登記の申請に必要な書類は、以下のとおりです。
- 登記申請書
- 被相続人の死亡の事実の記載のある戸籍(又は除籍)謄本
- 被相続人の住民票の除票(又は戸籍の附票)
- マンションを相続する人の戸籍謄本
- マンションを相続する人の住民票
- 遺言書
- 検認済証書(自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
- 固定資産評価証明書
相続発生~マンションの名義変更までの手続き【遺言書無】
遺言書がなく、遺産分割協議が行われた場合にマンションの相続手続きをどのようにするか解説します。
遺産分割協議
相続人が確定し、相続財産の全体像を把握したら、相続人全員で遺産の分け方を話し合います。法定相続分と異なる分割方法を定める場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、その内容を明確にし、後日の紛争を回避するために遺産分割協議書を作成します。
遺産分割による相続登記では、相続人全員が実印で押印した遺産分割協議書と印鑑登録証明書の提出が求められます。そのため、作成した遺産分割協議書には、相続人全員の実印による押印が必要です。
相続登記
遺言がない場合の相続登記に必要な書類は、法定相続分どおりに相続する場合と、法定相続分と異なる割合で相続する場合で異なります。
法定相続分どおりに相続する場合の必要書類
法定相続分どおりに相続する場合に必要な書類は、以下のとおりです。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(又は戸籍の附票)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 固定資産評価証明書
法定相続分どおりに相続する場合は、遺産分割協議書の添付は不要です。
法定相続分と異なる割合で相続する場合の必要書類
法定相続分と異なる割合で相続する場合の必要書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票(又は戸籍の附票)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 申請者の住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 固定資産評価証明書
登記申請時に相続関係説明図を提出しておくと、登記手続完了後に戸籍謄本等の原本が還付を受けられます。
なお、登記以外にも相続手続きがある場合は、2017年に始まった法定相続情報証明制度の利用を検討してみても良いかもしれません。
法定相続情報証明制度については、以下の記事を参考にしてください。

まとめ
相続財産の中にマンションがある場合、誰が相続するかで話し合いがまとまらないケースがあるかもしれません。マンションを相続した場合は、相続登記のほか、準確定申告、相続税申告、納税が必要になることがあります。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に強い弁護士が在籍しています。相続発生から遺産分割協議書の作成、預貯金等の解約、不動産登記までをすべてお任せいただける相続おまかせパックをご用意しておりますし、司法書士や税理士などの他士業との連携により、ワンストップで相続手続きに対応ができます。
マンションの相続にお困りの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。