法定相続情報証明制度とは?利用するメリットがあるのはどんな人?

家族が亡くなると、相続人は名義変更などやるべきことがたくさんあり、時間と労力がかかります。
相続が起きたときの手続きを少しでも効率的に行えるように発足したのが、法定相続情報証明制度です。
何やら難しい制度に感じる人も多いと思いますが、一体どのような点が便利になったのでしょうか。
目次
法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度とは、戸籍・除籍・改製原戸籍謄本等(以下、戸籍謄本等と言います。)の記載に基づいて法定相続人を明らかにする制度です。
相続手続きに係る負担を軽減するのが制度の狙いとなりますが、本制度が具体的にどのような内容なのか、どのようなことに利用できるかについて以下で解説します。
制度の概要
2017年5月29日から運用が開始された本制度は、相続登記を促進するために設けられました。
相続登記は義務ではないため(注:2024年4月1日から義務化されます)期限が設けられている相続税の手続きを優先し、そのまま手続きを忘れてしまう傾向があります。その結果、相続登記が未了のまま放置される不動産が増加し、所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっています。
本制度を利用する相続人に対して、法務局の登記官が相続登記をするメリットや放置するデメリットを説明し、相続登記の必要性に対する意識の向上を目指しています。
法定相続情報証明制度を利用すれば、法務局の登記官の認証文がついた法定相続情報一覧図によって相続人を証明できます。
制度の利用範囲
法定相続情報証明制度は、親族が亡くなったときに必要な名義変更などの手続きに利用ができます。法定相続情報証明制度の利用ができる主な手続きは、以下のとおりです。
- 預貯金の払い戻し
- 各種財産の名義変更
- 相続登記
- 相続税の申告
- 遺族年金・死亡一時金の請求など
・預貯金の払い戻し
亡くなった人(以下、被相続人といいます。)の名義の預貯金を払い戻す際、必要書類の一つとして被相続人の戸籍謄本等や相続人全員の戸籍謄本が必要です。
それに代わるものとして法定相続情報一覧図の利用ができます。被相続人が複数の金融機関に口座を持っていた場合でも、それぞれに法定相続情報一覧図を提出すれば足ります。
各種財産の名義変更
株・有価証券、自動車などの各種名義変更手続きにも被相続人と相続人全員の戸籍謄本等が必要です。戸籍謄本等の提出に代えて、法定相続情報一覧図を利用できます。
相続登記
被相続人が不動産を所有していた場合、名義変更(不動産の相続登記)が必要です。その際にも相続関係説明図とともに被相続人の戸籍謄本等、相続人の戸籍謄本が必要ですので、法定相続情報一覧図が活用できます。
相続税の申告
相続税の申告には、相続人の確定が不可欠ですので、被相続人の戸籍謄本等、相続人の戸籍謄本が必要ですので、法定相続情報一覧図が活用できます。
ただし、相続税の申告に法定相続情報一覧図を利用する場合は、被相続人との続柄を戸籍のとおりに記載しましょう。実子もしくは養子の区別ができなければ、相続税の計算が正確に行えないためです。
遺族年金・死亡一時金の請求など
遺族年金や死亡一時金の請求をする際には、被相続人と請求者の続柄等を確認するために戸籍謄本等の提出が必要なので、法定相続情報一覧図が活用できます。
相続が開始するとやらなければならない手続きがたくさんあり、そのほとんどに戸籍謄本等の提出が求められます。 法定相続情報証明制度がスタートするまでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等と相続人の戸籍謄本を1冊の束にして、手続きをする窓口ごとに提出しなければなりませんでした。 戸籍謄本等を何通も取得するのは費用の負担がかかるので、原本還付をしてもらうために戸籍謄本等のコピーを取らなければいけません。これが意外に大変な作業となります。この方法ですと、複数の手続きを並行して行うには、戸籍謄本等を複数通取得しなければなりませんでした。 法定相続情報証明制度を利用すれば、法務局の登記官の認証文が付いた法定相続情報一覧図の写しが必要な通数交付されます。戸籍謄本等の束を持ち歩く必要がありませんし、原本還付のためのコピーの手間も省けるので、複数の手続きを並行して進められます。 |
法定相続情報制度を利用する具体的な手続きの流れ
法定相続情報制度を利用するには、法務局での手続きが必要です。
法定相続情報制度の利用ができる(申出人となることができる)のは、被相続人の相続人です。
代理人による申出も可能です。
これを踏まえて、以下の流れで手続きを進めていきましょう。
戸籍などの必要書類を収集する
法定相続情報制度の利用に必要な書類は以下のとおりです。
- 被相続人の戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本
- 被相続人の住民票の除票
- 申出人の氏名・住所が確認できる公的書類相続人の住民票の写し(任意)
- 委任状(代理人に手続きを委任する場合)
被相続人の戸籍謄本等
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等が必要です。
戸籍謄本等の申請先は被相続人の本籍地がある市区町村役場です。本籍地を変更している場合は、順番にさかのぼって戸籍謄本等を取得していきます。
兄弟姉妹が法定相続人となる場合は、すべての兄弟姉妹を調べる必要があるので、被相続人の親の戸籍謄本等を取得しなければいけない場合があります。
相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本
相続人全員の現在の戸籍謄本または戸籍抄本が必要です。
被相続人が亡くなった日以後のものを取得します。申請先は相続人の本籍地がある市区町村役場です。
被相続人の住民票の除票
被相続人の住民票の除票が必要です。
住民票の除票とは、転出や死亡等により住民登録が削除されたかつての住民票です。被相続人の住民票は除票となるため、生前、同じ世帯だった人が住民票の写しを取得しても、被相続人の情報は掲載されません。そのため、被相続人の住民票の除票の取得が必要です。
申請先は被相続人の最後の住所地の市区町村役場です。住民票の除票が廃棄などで取得できない場合は、被相続人の本籍地で戸籍の附票を取得しましょう。
申出人の氏名・住所が確認できる公的書類
申出人の身分が確認できる公的書類が必要です。
相続人が複数いる場合、申出人を一人決めて手続きを進めます。
運転免許証もしくはマイナンバーカード表面のコピー、住民票の写しの中から1つを提出します。これら以外の公的書類の提出を希望する人は、法務局の窓口に確認しましょう。
相続人の住民票の写し(任意)
法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載したい場合は、住民票の写しが必要です。
申請先は相続人の住所地の市区町村役場です。
委任状(代理人に手続きを委任する場合)
申出人が代理人をたてて手続きをする場合、委任状および以下の書類が必要です。
- 親族が代理人となる場合:申出人と代理人の間に親族関係があることを証明する戸籍謄本
- 弁護士などの資格を持った人が代理人となる場合:資格者団体所定の身分証明書の写し
法定相続情報一覧図を作成する
法定相続情報一覧図とは、相続関係を一覧にした図です。
被相続人の戸籍謄本等をもとに相続人を調べ、被相続人との続柄を図式化します。
住所の記載は任意ですが、記載をすることで住民票の写しなどの提出を省略できる場合があります。書式については、法務局の公式サイトで記載例とフォーマットがダウンロードできるのでぜひ活用してください。
参考:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例:法務局 (moj.go.jp)
申出書に必要事項を記入する
法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書(以下、申出書)を作成します。
この申出書も法務局の公式サイトでフォーマットをダウンロードできます。
記載する内容は下記のとおりです。
- 被相続人の氏名・最後の住所・生年月日・死亡年月日
- 申出人の住所・氏名・連絡先・被相続人との続柄
- 代理人の住所・氏名・連絡先・申出人との関係(代理人をたてるときのみ記載する)
- 利用目的(不動産登記・預貯金の払戻し・相続税の申告・年金等の手続きなど)
- 必要な写しの通数と交付方法
- 被相続人名義の不動産の有無
- 申出先登記所の種別
参考:法定相続情報証明制度の具体的な手続について:法務局 (moj.go.jp)
法務局へ提出する
上記の書類がそろったら法務局へ提出をします。
申出先は、以下を管轄する法務局のいずれかを選択できます。
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
法定相続情報証明制度を利用するメリットは?
法定相続情報証明制度には、次のようなメリットがあります。
- 法定相続人が誰か一目で分かる
- 戸籍謄本の束を何度も出す必要がない
- 費用が無料で5年間は再発行が可能
- 郵送申請が可能
法定相続人が誰か一目で分かる
法定相続情報一覧図というA4サイズの用紙1枚で、法定相続人が誰なのか一目で分かるのがメリットです。
法務局の登記官が戸籍の内容を確認し、認証文をつけて発行されるものなので、安心感があります。
法定相続人が誰なのかを確認するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を確認しなければいけません。金融機関などの窓口で行う名義変更手続きに時間がかかるのは、戸籍謄本等の確認が複雑なことが理由の一つです。
法定相続情報証明制度を利用し、戸籍謄本等の代わりに法定相続情報一覧図を提出すれば、名義変更にかかる時間の短縮が期待できるかもしれません。
戸籍謄本の束を何度も提出する必要がない
法定相続情報証明制度を利用して法定相続情報一覧図を提出すれば、原本還付のために戸籍謄本等一式をコピーする手間もなく、戸籍の束を出す必要がないのもメリットです。
ほとんどの人は戸籍謄本等が一つで済むことはなく、出生から死亡までの戸籍謄本等を集めると分厚い束になる人もいます。
費用が無料で5年間は再発行が可能
法定相続情報証明制度は、法定相続情報一覧図の発行手数料が無料であるところもメリットです。
うっかり手続きを忘れて、追加で法定相続情報一覧図が必要になった場合でも、申出日の翌年から5年間は何度でも再発行が可能です。
郵送申請が可能
法定相続情報証明制度は、郵送申請ができる点もメリットの一つです。仕事をしている人は、役所で手続きをするために休暇を取らなければいけません。郵送で申請ができるのは、こうしたわずらわしさがないといえるでしょう。
法定相続情報証明制度のデメリットは?
法定相続情報証明制度には、次のようなデメリットもあります。
- 法定相続情報一覧図の作成が難しい
- 法定相続情報証明書の発行までに時間がかかる
- 法定相続情報一覧図の再発行は申出人しかできない
- 法定相続情報一覧図が利用できない機関がある
法定相続情報一覧図の作成が難しい
法定相続情報一覧図の作成が難しく、申出人が作成しなければならないのはデメリットといえるかもしれません。戸籍謄本等を提出すれば、法務局が法定相続情報一覧図を作成してくれると思っている方がいますが、そうではありません。
法務局の公式サイトに法定相続情報一覧図のフォーマットはあるものの、作成するために自ら戸籍謄本等を集めて法定相続人が誰なのかを調べなければいけません。戸籍謄本等を見たことがない人にとってはわかりづらいものですし、古い戸籍は読み解くのが困難なこともあります。
法定相続情報一覧図の発行までに時間がかかる
法定相続情報一覧図は、発行までに1週間ほどかかるといわれています。法務局によってはそれ以上の日数がかかることもあるので、名義変更を急いでしなければならない場合は、戸籍謄本等を取り寄せる時間も含めて、余裕をもったスケジュールで申請をしましょう。
法定相続情報一覧図の再発行は申出人しかできない
法定相続情報一覧図は再発行ができますが、当初の申出人でなければ再発行手続きができません。
後日名義変更などの手続きを忘れていたことに気付き、申出人以外の相続人が対応しようとしても法定相続情報一覧図の再発行手続きを申出人にお願いしなければいけません(他の相続人が再交付を希望する場合は、当初の申出人からの委任が必要です)。
法定相続情報一覧図が利用できない機関がある
法定相続情報証明制度は2017年に始まったばかりの制度なので、対応していない機関があります。近年利用できる機関が増えつつありますが、事前に名義変更をする機関に確認をしたほうがよいでしょう。
法定相続情報証明制度を利用すべき人は?
次のような方は、法定相続情報証明制度の利用を積極的に検討すると良いでしょう。
- 名義変更が必要な遺産がたくさんある人
- スピーディーに複数の名義変更を進めたい人
名義変更が必要な遺産がたくさんある人
被相続人が不動産をたくさん所有している、株や有価証券、銀行口座を複数所有しているなど、名義変更が必要な遺産がたくさんある人は、法定相続情報証明制度を利用すべきかもしれません。
本制度を利用すれば、各機関に戸籍謄本等を提出する手間がなくなり、スムーズに手続きを進められます。
ただし、先述のとおり、法定相続情報証明制度に対応していない機関がありますので、利用する際には事前に問い合わせたほうがよいでしょう。
スピーディーに複数の名義変更を進めたい人
法定相続情報証明制度を利用すれば、各機関に同時に法定相続情報一覧図を提出できるため、名義変更手続きを並行して進められます。
スピーディーに手続きを済ませたい人に向いているといえるでしょう。手続きをする機関も複雑な戸籍謄本等を読み解く手間が省けるので、手続きをする側にも大きなメリットがあるかもしれません。
法定相続情報制度に関するQ&A
2017年に法定相続情報制度が始まり、まだまだ本制度の知名度は高いとはいえません。
ここでは、本制度の利用を検討している人が持つ、一般的な疑問点について取り上げたいと思います。
法定相続情報一覧図にはどんな内容が載るのか?
法定相続情報一覧図は、被相続人の相続関係を一覧にしたもので、家系図を思い浮かべるとイメージしやすいです。
法定相続情報一覧図には、[〇年〇月〇日に申出のあった当局保管に係る法定相続情報一覧図の写しである]という登記官の認証文がついています。
被相続人および相続人について、下表の情報が記載されます。
被相続人 | 相続人 |
・氏名
・最後の住所 ・最後の本籍 ・出生日 ・死亡日 |
・住所
・出生日 ・被相続人との続柄 ・現住所(※任意) ・申出人の氏名 |
法定相続情報一覧図の写しは、偽造防止措置が施された専用紙で作成され、交付されます。
相続放棄をしたら、法定相続情報一覧図に載るのか?
相続放棄をした者も、法定相続情報一覧図に法定相続人として氏名が記載されます。
なぜなら、法定相続情報一覧図は、戸籍謄本等の記載から分かる相続関係を表すものだからです。
相続放棄の事実は戸籍謄本に記載されないため、相続放棄により相続順位が変動しても、変動後の相続人が法定相続情報一覧図に反映されるわけではありません。
相続人の一人が相続欠格(相続人が罪を犯すなど相続人の資格がなくなること)になった場合も、戸籍には欠格したことが記載されないため、法定相続情報一覧図に法定相続人として氏名が記載されます。
相続人の中で相続放棄をした人や相続欠格者がいる場合は、法定相続情報一覧図が利用できないため、戸籍謄本等から相続関係説明図を作成し、相続放棄申述受理証明書や相続欠格証明書または確定判決の謄本の添付等で相続手続きを進めることになります。
相続放棄・欠格・廃除・死後認知等により、被相続人の死亡時点に遡って相続人の範囲が変わる場合に、各種相続手続きで法定相続人情報一覧図が利用できるかどうかの詳細は、以下の関連記事をご参照ください。

提出した戸籍謄本は返してもらえるのか?
法定相続情報一覧図の写しを交付する際に、提出した戸籍謄本等はすべて返却されます。
手続きを代理人に頼むことができるのか?
申出人は、親族のほか、次の資格者代理人に手続きを委任できます。
- 弁護士
- 司法書士
- 土地家屋調査士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 弁理士
- 海事代理士
- 行政書士
その際には委任状の提出が必要となります。有資格者に代理を頼む場合は料金がかかりますので、確認をしましょう。
法定相続情報一覧図に記載する被相続人との続柄は戸籍どおりに記載しなければいけないですか?
申出人の選択で戸籍に記載されている長男、長女などの続柄ではなく、子と記載できます。
ただし、続柄を子と記載した場合は、相続税の申告などで法定相続情報一覧図を利用できないので気を付けましょう。
まとめ
家族の誰かが亡くなった場合、相続税の申告、相続登記の申請、銀行口座の解約、各種名義変更など、やらなければならない手続きがたくさんあります。その際に必要となるのが、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等です。
法定相続情報証明制度がスタートするまでは、名義変更などの手続きを行うためには、集めた戸籍謄本等を一式提出しなければなりませんでした。並行して複数の名義変更の手続きを進めたい場合は、戸籍謄本等を複数枚取るなど、費用面でも負担がかかりました。
法定相続情報証明制度を利用すれば、戸籍謄本等は一度だけ集めればよく、メリットは多々あります。
2024年4月から不動産の相続登記が義務化されるにあたり、本制度はよりその意義を発揮することでしょう。現在、相続が発生して手続きをどのように進めればよいのか悩んでいる人は、法定相続情報証明制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。