遺言執行者の選任|家庭裁判所への選任申立ての手順を徹底解説

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合は、遺言者の死後、家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求できます。
遺言書がある場合でも、すべてのケースで遺言執行者の指定や選任が必要になるわけではありません。
しかし、遺言執行者を指定・選任すれば、煩雑な手続きを委ねられるので、相続人の物理的・心理的負担を軽減できることもあります。
この記事では、遺言執行者を指定・選任する方法や家庭裁判所の選任手続きについて解説します。
目次
遺言執行者の選任方法
ここでは、遺言執行者の指定・選任する方法を解説します。
遺言書で指定する
遺言執行者を指定する
遺言者は、遺言で遺言執行者を指定できます。
遺言執行者に就任するかどうかは指定された人の自由な意思に委ねられています。指定された人が遺言執行者への就任を承諾した場合は、その人が遺言執行者の地位につき職務が開始されます。
遺言執行者を指定する人を定める
遺言者は、遺言で遺言執行者の指定を第三者に委託できます。遺言によって遺言執行者の指定を委託された人(受託者)は、相続開始後、遅滞なく遺言執行者を指定し、これを相続人に通知しなければなりません。
受託者がこの委託を受けるかどうかは自由ですが、辞退する場合は、遅滞なくその旨を相続人に通知する義務があります。
遺言者の死後、家庭裁判所に選任してもらう
遺言により遺言執行者の指定がない場合や指定されていた遺言執行者が死亡したときは、相続開始後、利害関係人による請求により家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらえます。
家庭裁判所による選任の場合は、家庭裁判所が事前に候補者に諾否の意思を確認します。
遺言執行者を選任しないとどうなる?
ここでは、遺言執行者を指定・選任しない場合の注意点について解説します。
遺言執行者がいないと執行できない遺言事項がある
遺言執行を要する遺言事項のうち、次のものは遺言執行者によらなければ執行できません。
- 認知
- 推定相続人の廃除・取消し
- 一般財団法人設立のための財産の拠出
認知
遺言による認知の届出は、遺言執行者しかできません。認知する旨の記載があるのに遺言執行者を指定していなければ、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てなければなりません。
遺言執行者は、就職の日から10日以内に認知に関する遺言の謄本を添えてその届出を行わなければなりません。
推定相続人の廃除・取消し
家庭裁判所への推定相続人の廃除・取消しの申立ては、遺言執行者しかできません。
遺言で推定相続人の廃除・取消しに関する意思表示がなされたのに遺言執行者を指定していなければ、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てなければなりません。
遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。
一般財団法人設立のための財産の拠出
遺言による一般財団法人の設立手続きは、遺言執行者しかできません。
遺言で一般財団法人を設立する意思表示がなされたのに遺言執行者を指定していない場合は、相続人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てなければなりません。
遺言執行者は、遺言の効力が発生後、遅滞なく遺言に基づいて定款を作成して公証人の認証を受け、相続財産から財団の基礎となる財産を拠出して財団法人の設立登記の申請を行わなければなりません。
相続人の協力が得られなければ遺言を執行できなくなるおそれもある
遺言執行者にしかなし得ない遺言事項がなければ、相続人全員や受遺者が手続きに関与することで遺言内容を実現できます。
しかし、相続人の中に1人でも遺言の内容に納得できない人がいるとスムーズに手続きを進められないこともあります。
相続人全員が遺言の内容に納得していても、その実現に専門的知識が必要な場合には、多大な手間や時間を要することもあります。
遺言執行者を選任した方が良いケース
ここでは、遺言執行者を指定・選任した方がよいケースを紹介します。
相続人に負担をかけたくない
相続財産が多岐にわたる場合や第三者への遺贈が含まれる場合などは、遺言内容の実現に相応の時間と労力がかかります。
遺言の内容を実現する手続きの中には、専門的な知識を要する手続きもあります。
遺された相続人が、大切な人を亡くして気持ちの整理がつかない中で様々な手続きを進めるのには精神的にも負担がかかります。
第三者を遺言執行者に指定・選任すれば、相続人の負担を軽減できます。
弁護士等の専門家を遺言執行者に指定・選任すれば、知識や経験に基づいて円滑かつ正確に手続きを進めてもらえるので、相続人も安心して任せらます。
相続人間の紛争を避けたい
特定の相続人に優先的に財産を取得させたり、相続人以外の第三者に遺贈したりするなど、遺言の内容によっては、相続人間に紛争が生じることもあります。
遺言執行者がいない場合には、相続人全員が手続きに関与しなければならないため、思うように手続きを進められない可能性があります。
中立・公平な第三者を遺言執行者に指定すれば、相続人間の感情の対立や紛争を回避できます。
遺言執行とともに遺言書の作成を弁護士等の専門家に依頼すれば、将来の紛争を未然に防ぐために必要なアドバイスを受けられ、かつ、法的に不備のない遺言書を作成できます。
遺言書作成から遺言執行をトータルで依頼することで、相続開始後の遺言内容の実現が円滑かつ効率的に進められます。
遺言執行者の選任申立て方法|必要書類・費用
遺言により遺言執行者を指定していない場合や指定した遺言執行者が死亡した場合には、家庭裁判所への申立てにより遺言執行者を選任してもらえます。
ここでは、遺言執行者の選任申立ての方法を紹介します。
申立先
遺言執行者の選任申立ては、遺言者の最後の住所地を管轄する裁判所に行います。
申立人
遺言執行者の選任を申立てられるのは、以下の人です。
- 相続人
- 受遺者
- 遺言の債権者
必要書類
遺言執行者の選任申立ての必要書類は、以下のとおりです。
①家事審判申立書
②遺言者の死亡の記載のある戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
③遺言執行者候補者の住民票または戸籍の附票
④遺言書写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
⑤利害関係を証する資料(親族の場合は戸籍謄本等)
上記④および⑤は、申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は提出を省略できます。
家庭裁判所の審理に必要な場合は、追加書類の提出を求められることがあります。
費用
遺言執行者の選任申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙:800円分
- 郵便切手:数百円〜数千円程度(裁判所によって異なる)
遺言執行者の選任申立てには候補者を立てられる
遺言執行者の選任申立時には、遺言執行者の候補者を立てられます。
申立書中、申立ての趣旨に候補者の住所・氏名・連絡先を記載し、家庭裁判所が遺言執行者に適任と判断すれば、その候補者が遺言執行者に選任されます。
遺言執行者の選任申立てから家裁が選任審判書を交付するまでの流れ・期間
ここでは、遺言執行者の選任申立てから選任審判までの流れを解説します。
申立て
申立てに必要な書類が揃ったら、遺言者の最後の住所地を管轄する裁判所に申立てます。
申立人・候補者への照会書の送付
申立てが受理されると、家庭裁判所から申立人および遺言執行者候補者に照会書が送付されます。
申立人に送付される照会書には申立て内容についての確認、候補者に送付される照会書には就任意思の確認や欠格事由(未成年者・破産者)に該当しないかなどの簡単な質問が記載されています。
照会書の返送
申立人と遺言執行者候補者は照会書に記載された事項に回答を記入し、家庭裁判所へ返送します。
遺言執行者選任の審判
照会書(兼回答書)の返送後、家庭裁判所による審理を経て1~2週間程度で遺言執行者を選任する旨の審判がなされます。
審判書の交付
家庭裁判所は、申立人と遺言執行者に審判書を送付します。審判から2週間以内に不服申立てが無ければ審判が確定します。
遺言執行者は、確定した選任審判に基づき遺言の執行に関する各種手続きを進めます。
まとめ
遺言執行者しか執行できない遺言事項がない限り、遺言執行者は必ず指定・選任しなければならないわけではありません。
しかし、遺言執行者を指定・選任すれば以下のようなメリットがあります。
- 相続人の負担を軽減できる
- 相続人間の対立や紛争を回避できる
- スムーズな遺言執行が期待できる
遺言内容によっては、執行に法律知識が必要になることもあります。
円滑な遺言執行のためには、弁護士を遺言執行者に選任・指定することをおすすめします。
遺言執行者の指定・選任をご検討の方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。