サマリー
遺言書を作成することは、自分の大切な財産を誰にどのように承継させるかという意思を明確に示し、将来の遺産分割や相続手続きを円滑に進めるための相続対策の第一歩といえます。
しかし、遺言書を作成しただけでは、相続開始後に必要となる不動産の名義変更(相続登記)や金融機関での預貯金の解約・払戻し、遺産の分配といった具体的な相続手続きが自動的に進むわけではありません。
せっかく遺言書を作成しても、その内容を実際の相続手続きとして実行する人がいなければ、遺言の内容に基づく遺産の承継や各種手続きが進まず、結果として遺言の意思が十分に実現されないおそれがあります。
遺言の内容を実際の相続手続きとして実現する役割を担うのが、民法上の制度である遺言執行者です。遺言執行者は、遺言の内容に基づき相続手続きを具体的に進める中心的な役割を担います。そのため、誰を遺言執行者に指定するかは、相続人間のトラブルや相続紛争を防ぎ、遺産分割や各種手続きを円滑に進められるかを左右する重要なポイントとなります。
自らの意思をできるだけ確実に実現したい場合には、相続実務や相続トラブルへの対応経験を有する弁護士などの専門家を遺言執行者として指定する方法が、実務上よく選ばれる選択肢の一つといえます。
相続は単なる事務手続きではなく、遺産分割をめぐる親族間の感情的対立が生じたり、民法や相続実務に基づく法的判断が求められたりする場面も少なくありません。遺言は「書くこと」自体だけでなく、その内容を遺言執行として実際の相続手続きに落とし込む段階で課題が生じることもあります。
「相続手続きをできるだけスムーズに進めてほしい」「万が一、相続人間で争いが生じた場合でも自分の遺志を尊重してほしい」と考えるのであれば、遺言執行者の役割や、弁護士などの専門家を活用するポイントを理解しておくことが重要です。
本記事では、弁護士を遺言執行者に指定するメリット・デメリット、費用の目安や費用相場、後悔しない弁護士の選び方などについて、相続実務の観点から整理して解説します。
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そもそも遺言執行とは?なぜ遺言執行者が必要なのか
遺言執行とは、遺言書に記載された内容を、遺言内容の実現として実際の相続手続きの中で具体的に実行していくことを指します。
遺言書は作成して終わりではなく、被相続人が亡くなり相続が開始した後に、金融機関での預貯金の解約・払戻しや不動産の名義変更(相続登記)など、具体的な相続手続きを伴います。
例えば、以下のような手続きを進めるためには、相続人や遺言執行者などの手続主体が、金融機関や法務局などの関係機関に対応し、必要書類を収集したうえで、相続手続きの順序や期限を管理しながら進めていく必要があります。
- 不動産の相続登記(名義変更)
- 預貯金の解約・払戻し
- 株式の名義書換(証券会社で行う有価証券の相続手続き)
- 生命保険金の請求手続き(※生命保険金の請求は、受取人指定の有無や保険契約の内容によって扱いが異なるため、遺言執行者の一般的な職務に当然に含まれるとは限りません。)
- 遺贈財産の引渡し(受遺者への財産の移転)
遺言書の実行プロセスにおいては、相続手続きを統括する役割として遺言執行者の存在が重要となる場合が多くあります。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされており(民法第1012条第1項)、相続手続きの実務を主導する立場となります。そのため、相続人全員の合意が得られないと進みにくい手続きについても、手続きの窓口を遺言執行者に一本化することで、実務上は相続手続きを進めやすくなるというメリットがあります。
具体的には、以下のような相続実務を統括し、遺言内容の実現に向けた手続きを進めることができます。
- 戸籍の収集による相続人調査
- 相続人への通知
- 財産調査(預貯金・不動産・有価証券など)
- 財産目録の作成・交付
- 金融機関での預貯金払戻し手続き
- 各種の名義変更や財産の引き渡し・分配
遺言執行者がいない場合でも、相続人同士が協力すれば手続きを進められるケースもあります。しかし、遺言執行者がいない場合には相続人全員の協力が必要になる場面が多く、一人でも協力が得られない相続人がいると、名義変更や預貯金の解約手続きなどが円滑に進まないことがあります。
特に、以下のような事情がある場合には、相続手続きが長期化したり、相続人間の感情的対立や相続トラブルが深まったりする傾向があります。
- 相続人の人数が多い
- 疎遠な親族がいて連絡がつかない
- 財産の内容が複雑(不動産・預貯金・有価証券などが混在している)
- 遺言内容に偏りがある(相続人間で不公平感が生じやすい)
円滑な相続手続きを実現するためには、遺言の内容を実行する法的権限を持つ遺言執行者をあらかじめ指定しておくことが、相続人の手続き負担を軽減するうえで重要なポイントになると考えられます。
こんな場合は要注意!遺言執行者を決めておくべき4つのケース(遺言執行者が必要になりやすい典型例)
遺言執行者が必要かどうかは、遺言の内容や相続財産の性質、相続人の人数や相続人同士の関係性などの事情によって異なります。
相続人が少なく関係も円満で、財産も預貯金が中心といった比較的単純な相続であれば、相続人同士が協力することで相続手続きを円滑に進められるケースもあります。
一方で、相続人と財産を受け取る人(受遺者など)の利害が対立し得る内容や、相続人の人数が多く調整が難しい事情がある場合には、遺言執行者がいないこと自体が相続手続き上のリスクとなる可能性があります。
特に、以下の4つのケースに該当する場合には、あらかじめ遺言執行者を定めておくことが望ましいとされています。
- 子どもの認知や推定相続人の廃除があるとき
- 特定の人に多く財産を遺したい、または寄付(遺贈)をしたいとき
- 相続人の人数が多い、または疎遠な親族がいるとき
- 複雑な財産があり、2024年4月からの相続登記義務化への対応に不安があるとき
それぞれのケースについて、具体的に解説します。
子どもの認知や推定相続人の廃除があるとき
子どもの認知や推定相続人の廃除が含まれる場合には、遺言執行者を定めておいた方がよいとされています。
遺言による認知や、虐待・重大な侮辱・著しい非行があった推定相続人の相続権を失わせる廃除の手続きには、法律上の要件判断や家庭裁判所での手続きが関係するためです。
子どもの認知は、生前の届出だけでなく、遺言によって行うことも認められています(民法第781条第2項)。遺言によって子どもの認知を行う場合、相続開始後に認知届の提出など、戸籍上の身分関係に関する特有の手続きを行う必要があります。こうした手続きでは、戸籍関係の整合や届出内容の正確性が重要となるため、慎重な対応が求められます。
推定相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行などがあった推定相続人について、家庭裁判所の審判により相続権を失わせる制度です。推定相続人の廃除が遺言に含まれる場合、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所へ請求しなければなりません(民法第893条)。
推定相続人を廃除するには、単に遺言書に「廃除する」と記載するだけでは足りず、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行い、その審判によって認められる必要があります。推定相続人の廃除が含まれるケースでは、家庭裁判所への申立てを行う主体が必要になるため、実務上は遺言執行者を定めておくことが重要とされています。
特定の人に多く財産を遺したい、または寄付(遺贈)をしたいとき
特定の人に多く財産を遺したい場合や、団体などへ寄付(遺贈)を行いたい場合も、遺言執行者を定めておいた方がよいでしょう。
特定の人や団体に優先的に財産を遺す内容は、たとえ遺言者に合理的な理由があったとしても、財産を受け取らない相続人や親族の側に不満や疑念が生じやすい傾向があります。
とくに遺贈が含まれる場合には、受遺者と相続人との利害関係が対立するケースもみられます。
中立的な立場にある遺言執行者が手続きの窓口となることで、遺言の内容に基づいた相続手続きを客観的に進めやすくなります。説明や手続きの進行管理を第三者が担うことで、相続人間の感情的な衝突を緩和し、相続手続きが停滞するリスクを抑えられる可能性があります。
相続人の人数が多い、または疎遠な親族がいるとき
相続人の人数が多い場合や、疎遠な親族が相続人に含まれている場合には、相続手続きの調整を円滑に進めるためにも、遺言執行者をあらかじめ定めておいた方がよいとされています。
相続人が多いほど、連絡調整や必要書類の収集などに多くの時間と労力がかかる傾向があります。各相続人が必要書類を取り寄せるタイミングや対応のペースも異なるため、書類が揃わず相続手続きが滞ってしまうケースもみられます。
また、疎遠な親族がいる場合には、連絡先が分からなかったり、相続手続きへの協力が得られにくかったりすることもあり、相続手続きが進みにくくなる傾向があります。相続人同士が直接やり取りを行う場合、小さな言葉の行き違いがきっかけとなり、不信感が生じて相続人間の対立が深まってしまうケースもあります。
遺言執行者がいれば、通知や照会の窓口を一本化し、期限管理を行いながら必要な相続手続きを統括して進めることができます。各相続人の事務的な負担が軽減され、結果として相続手続きが安定して進みやすくなると考えられます。
複雑な財産があり、2024年4月からの相続登記義務化に不安があるとき
複雑な財産があり、2024年4月からの相続登記義務化に不安がある場合も、遺言執行者を定めておいた方がよいとされています。
2024年4月から不動産の相続登記が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から原則として3年以内に申請する必要があるため、相続登記を放置することによる法的リスクが高まっています。そのため、以下のような財産が含まれている場合には、登記手続きの期限管理が現実的な課題となることがあります。
- 不動産が複数存在する
- 共有名義の不動産が含まれている
- 私道の持分が関係している
- 借地権付き不動産や収益物件が含まれている
- 地方の土地が複数地域に点在している
こうしたケースでは、最初に相続手続き全体の設計を行い、どの不動産を誰にどのように承継させるのかを整理したうえで、相続登記を含めて正確に処理していくことが重要になります。
専門家を遺言執行者として指定することで、書類不備や認識の違いによる手戻りを減らし、相続登記を含む相続手続き実行面のリスクを抑えやすくなります。
複雑な権利関係を整理しながら適切に名義変更を進め、相続登記義務違反による過料のリスクを抑えるために、弁護士や司法書士などの専門家のサポートを受けることも一つの選択肢となります。
相続登記義務化の制度内容や具体的な対応方法については、「相続登記義務化がスタート|登記をしないとどうなるか詳細を解説」で詳しく解説しています。
遺言執行者には誰がなれる?家族と専門家の違いを比較
遺言執行者は、未成年者や破産者などの欠格事由に該当しない限り、民法上、原則として誰でも就任することができます。
遺言では、相続人の一人を遺言執行者として指定することも可能であり、弁護士・司法書士などの専門職や信託銀行など遺言関連サービスを提供する金融機関といった第三者を指定することもできます。
重要なのは、遺言の内容や家族関係を踏まえ、「その人が遺言執行の実務を最後まで遂行できるか」「手続の中立性について相続人全体の理解が得られるか」という視点です。遺言執行の実務は多岐にわたり、相続手続の進行管理、財産調査、金融機関での手続や名義変更、関係者への説明など、法律・税務・関係者調整に関する幅広い知識と実務対応力が求められる場合があります。そのため、実務能力と公平性の両面を考慮して人物を選ぶことで、相続手続全体をより円滑に進めやすくなり、相続人間のトラブル予防にもつながりやすくなります。
以下では、遺言執行者の代表的な選択肢と、それぞれの特徴や実務上のポイントを整理します。
家族・親族(相続人が遺言執行者になるケース)
家族や親族を遺言執行者に指定すると、弁護士などの専門家報酬が発生しないことが多いため、遺言執行にかかる費用負担を抑えやすい点がメリットです。
相続人の人数が少なく、財産関係も比較的単純で、相続人同士の関係が良好な場合には、家族が遺言執行者を務めることが合理的な選択となるケースもあります。
一方で、遺言執行者が相続人の一人である場合、他の相続人から「公平に手続きを進めているのか」「財産の把握や管理は適切か」といった疑問を持たれる可能性があります。その場合、財産資料の提示や手続内容の説明など、相続人に対する説明対応の負担が大きくなることがあります。
また、役所・金融機関・法務局での相続手続や名義変更の対応、書類収集、期限管理などは、実務上想像以上に手間がかかる場合があります。仕事や家庭と並行して対応する場合、相続手続が長期化しやすく、結果として相続人間の不満や相続トラブルにつながる可能性がある点にも注意が必要です。
弁護士(専門家を遺言執行者に指定するケース)
弁護士は、相続手続全体を法的観点から整理しながら進められる点が強みであり、遺言の解釈、遺留分への配慮、相続人間の紛争予防といった観点も踏まえて対応しやすい点が特徴です。
遺言の文言の解釈、相続人への説明、相続手続に必要な書類の整備など、法的判断が必要な場面でも見通しを立てて対応しやすい点が特徴です。
特に以下のようなケースでは、弁護士が中立的な立場で関与することで、相続人間の感情的対立が深刻化することを防ぎやすくなります。
- 相続人間に利害対立がある場合
- 遺言内容に偏りがある場合
- 受遺者(遺贈を受ける人)がいる場合
また、遺言執行では、金融機関、受遺者、相続人など多くの関係者との調整や相続手続の進行管理が必要になります。手続窓口を弁護士に一本化することで、相続人の心理的負担や実務対応の負担を軽減できる場合があります。
司法書士(登記実務に強い専門家)
司法書士は、不動産の相続登記や名義変更など、不動産登記を中心とした登記実務に強みを持つ専門家です。不動産が相続財産の中心となる場合や、相続人間の関係が比較的安定しており紛争の可能性が低い場合には、相続手続を円滑に進めやすい選択肢となることがあります。
ただし、相続人間の対立が深まり、相続紛争など法的対応が必要となる場合には、司法書士の業務範囲の関係から対応範囲に限界が生じる可能性があります。遺言の有効性や解釈をめぐる争い(遺言無効の主張など)が生じた場合には、最終的に弁護士による対応が必要となることもあります。
そのため、案件の内容によっては、弁護士や税理士など他の専門家と連携できる体制があるか、相続手続における役割分担が明確かを事前に確認しておくことが重要です。
信託銀行(遺言信託サービスを提供する金融機関)
信託銀行では、遺言信託などのサービスとして、遺言の作成支援、遺言の保管、遺言執行、相続手続のサポートなどを契約内容に応じて提供している場合があります。金融機関としての安心感があり、一定の手続きフローや管理体制に基づいて進められる点が特徴です。
一方で、遺言信託サービスでは最低報酬額(例:110万円以上など)が設定されている場合もあり、財産額によっては費用が高額に感じられることがあります。また、提供されるサービスの範囲や対応の柔軟性は、遺言信託のサービス内容や契約条件によって異なります。
そのため、どの範囲まで対応してもらえるのか、費用体系や追加費用が発生する条件は何かなどを事前に確認しておくことが重要です。
信託銀行が適しているかどうかは、財産規模や求めるサポート内容、遺言執行や相続手続にどこまで関与してほしいかといった事情によって異なります。
費用だけでなく、相続手続を実行する体制や対応の柔軟性も含めて、専門家や金融機関を比較検討することが大切です。
弁護士を遺言執行者にする5つのメリット
弁護士を遺言執行者に指定する大きなメリットは、遺言内容を実際の相続手続きや遺言執行の場面で円滑に実現できる可能性を高められる点にあります。
弁護士は法律の専門家として、相続手続きや相続紛争への対応を含めた幅広い法的業務に対応できる資格者です。中立的な立場を保ちながら、相続人間の関係にも配慮しつつ、相続手続き全体を整理して進めることができます。
相続では、法律上の問題だけでなく、相続人間の利害関係や感情面、実務面の調整も同時に発生することがあります。弁護士が関与することで、法的判断と実務対応の両面から相続手続全体を整理し、相続人間に意見の対立が生じた場合でも手続きを前に進めやすくなります。その結果として、遺言者の意思や遺言内容が実際の相続手続きや遺言執行の場面に反映されやすくなると考えられます。
ここでは、弁護士を遺言執行者に指定する主なメリットを具体的に整理して紹介します。
相続紛争が生じた場合でも遺言内容を実現しやすくなる
遺言は、内容が明確であっても、相続人側の受け止め方や遺言解釈の違いによって争点が生じることがあります。
例えば、次のような事情がきっかけとなり、意見の対立が生じるケースがあります。
- 遺言の有効性について疑問が示される
- 遺言文言の解釈が相続人間で分かれる
- 特定の財産の帰属について異議が出る
- 遺留分侵害額請求が主張される
弁護士を遺言執行者に指定しておけば、相続紛争の兆しが見えた段階で、法的な見通しを踏まえた対応を検討することができます。
どの程度の説明が必要か、話し合いによる解決を目指すのか、法的手続きによる判断を求めるべきかといった判断は、遺言内容の実現可能性に大きく影響することがあります。
このように、紛争が生じる可能性も踏まえて対応できる体制を整えておくことは、遺言者の意思を実現するうえでの一つの備えといえるでしょう。
第三者の専門家が関与することで相続人間の対立や相続トラブルが生じにくくなる場合がある
相続手続きでは、同じ内容の手続きであっても「誰が手続きを進めるのか」によって相続人の納得感が変わることがあります。
相続人の一人が遺言執行者となる場合、手続きの遅れや説明不足が生じた際に、不信感が生まれてしまう可能性があります。
これに対し、利害関係のない弁護士が法律に基づいて手続きを進めることで、相続人にとって中立的な進行役として受け止められやすくなります。
説明方法や情報共有の方法も一定の手続きに沿って進めやすくなるため、相続人間の対立が深刻化するリスクを抑えやすくなる場合があります。
重要なのは、相続人全員の意見を完全に一致させることではなく、手続きを円滑に進められる環境を整えることです。第三者の専門家が関与することで、相続人同士の直接的な衝突を減らしやすくなる場合があります。
複雑な相続財産や不動産の手続きも正確に処理しやすい
相続手続きでは、単に書類を提出するだけでなく、財産状況と遺言内容の整合性を確認する必要があります。
例えば、次のような事情がある場合には、手続きが複雑になることがあります。
- 遺言の記載内容と財産の実態が一致していない
- 共有名義や担保設定がある不動産が含まれている
- 名義変更が長期間行われていない不動産がある
- 財産の範囲や評価が明確でない
弁護士が遺言執行者として関与する場合、遺言の解釈や権限関係を踏まえながら、どの手続きを優先して進めるべきか整理することができます。
また、預貯金の払戻し、証券・保険、不動産など、機関ごとに必要書類が異なる場合でも、全体の段取りを整理して進めやすくなる点が特徴です。
登記や税務など、他の専門家の関与が必要な場合には、司法書士や税理士と連携して手続きを進めることもあります。
相続登記義務化などの法改正や新しい資産形態にも対応しやすい
相続手続きは、相続財産の内容や相続人の状況によって長期化することがあります。近年は、不動産の相続登記義務化などの制度変更により、期限管理や手続きの正確な進行がこれまで以上に重要になっています。こうした環境の変化の中では、法改正の内容を踏まえて手続きの進め方を整理することが求められます。
弁護士が関与することで、相続登記を含む期限管理や必要手続きの見落としを防ぎやすくなり、状況に応じた進行方法を検討しながら手続きを進めることができます。
相続登記の期限管理は、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内というルールが基本になるため、その点を踏まえた実務設計が重要です。
特に不動産が含まれる相続では、「いつまでにどの手続きを行う必要があるか」を整理し、相続人ごとの役割や負担を現実的に調整しやすくなる点が特徴です。
また、近年はオンライン手続きの普及や、暗号資産、ネット証券口座、サブスクリプション契約、クラウド上の重要データといったデジタル資産・デジタル遺品への対応など、相続手続きの対象や方法も変化しています。こうした新しい要素にも対応しながら手続きを進めるためには、制度や実務の動向を踏まえて対応できる専門家の関与が役立つ場合があります。
煩雑な遺言執行業務を任せることで相続人の負担を軽減できる
遺言執行者の業務には、相続手続きに関する多くの事務作業が含まれます。
具体的に、以下のような作業が挙げられます。
- 相続人への就任通知や遺言書の写しの送付
- 財産調査
- 残高証明書や登記事項証明書の取得
- 相続財産目録の作成・交付
- 金融機関や行政機関への申請書作成
- 手続きの進捗管理
これらの作業は一つ一つは小さく見えても、実際には多くの時間と労力を要します。相続人がこれらを担う場合、特定の相続人に負担が集中してしまうことがあります。
弁護士に遺言執行者を依頼すれば、各機関とのやり取りや手続きの窓口を一本化することができ、相続人は必要な意思決定や書類の提供などに集中しやすくなります。その結果、日常生活への影響を抑えながら相続手続きを進めることが可能になります。
また、事務負担が軽減されることで、手続きの遅延や相続人間の不信感の発生を防ぎやすくなる場合もあります。相続人の負担を適切に分担しながら手続きを進めることは、相続全体を円滑に進めるうえでも重要です。
知っておきたい!弁護士を遺言執行者に指定するデメリットと注意点
弁護士を遺言執行者に指定することには多くのメリットがありますが、費用面や心理面など、相続手続や遺言執行を進めるうえで事前に理解しておきたいポイントもあります。
代表的な注意点として、主に次のような点が挙げられます。
- 弁護士報酬(遺言執行報酬)が発生する
- 相続人が心理的に身構える場合がある
- 税理士や司法書士との連携体制も重要になる
それぞれのポイントについて、順に整理して解説します。
弁護士報酬(遺言執行報酬)が発生する
弁護士を遺言執行者に指定した場合、相続手続における遺言執行業務に対する弁護士報酬が発生します。
報酬額は遺言書の中で定められることもありますが、定めがない場合には、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる仕組みがあります。
実務では、弁護士報酬は相続財産の中から遺言執行費用として支払われることが一般的です。そのため、相続人の立場から見ると、費用の支払いにより相続財産が減少したように感じられることがあります。このような認識のズレを防ぐためにも、遺言書の付言事項や生前の説明の中で、専門家を遺言執行者として指定する理由を伝えておくことが望ましいでしょう。
弁護士報酬の算定方法は法律事務所によって異なりますが、相続財産額に応じた割合方式や最低報酬額を設定するなどの運用が見られます。費用だけで判断するのではなく、遺言執行業務の範囲や想定される手続きの難易度、税理士・司法書士など他士業との連携体制を含めて確認することが重要です。
相続人が心理的に身構える場合がある
弁護士を遺言執行者に指定すると、相続人の中には「相続争いを想定しているのではないか」と感じる人がいる場合があります。
特に、これまで弁護士に相談した経験が少ない場合には、弁護士の関与そのものが心理的な緊張を生むこともあります。
こうした誤解を防ぐ方法として、遺言書の付言事項などに、弁護士を遺言執行者として指定した理由を記載しておくことが考えられます。
例えば、次のような意図を明確にしておくことで、相続人の理解を得やすくなる場合があります。
- 手続きを円滑に進めるため
- 相続人同士の事務負担を軽減するため
- 中立的な立場で説明を行ってもらうため
また、弁護士側も最初の通知や説明の段階で、遺言執行者としての役割や中立的な立場を丁寧に説明することで、相続人の不安や緊張を和らげることにつながります。
税理士や司法書士など他の専門家との連携体制も重要になる
遺言執行の過程では、相続税の申告や不動産の名義変更(相続登記)など、弁護士以外の専門分野が関係することがあります。
例えば、相続税申告は税理士、不動産登記は司法書士が担当するのが一般的であり、弁護士が相続手続全体の進行を管理しながら各専門家と連携する形になることが多く見られます。
このとき、連携体制が十分に整っていない場合には、紹介先の選定に時間がかかったり、役割分担が分かりにくくなったりすることがあります。その結果、手続きのスピードや費用の見通しに影響する可能性もあります。
依頼前には、どの業務を誰が担当するのか、追加費用が発生する可能性がある業務は何か、専門家同士の連携がどのように行われるのかといった業務範囲や費用体系を確認しておくと、安心して手続きを進めやすくなります。
弁護士個人と弁護士法人のどちらを指定するべき?
遺言執行者として弁護士を指定する場合、弁護士個人を指定する方法と弁護士法人を指定する方法があります。それぞれに特徴があるため、状況に応じて検討することが重要です。
遺言は作成してから実際に執行されるまで、10年、20年と長い期間が経過することも珍しくありません。そのため、遺言執行者の指定方法は、長期間にわたって機能するかという視点で考える必要があります。
弁護士個人を指定する場合には、遺言作成時の相談経緯や家族関係を理解している弁護士が担当しやすく、意思疎通が円滑に進む可能性があります。一方で、その弁護士が引退したり死亡したりした場合などには、遺言執行者が不在となる可能性があるため、長期保存を前提とした継続性や事務所体制の確認が重要です。
これに対して、弁護士法人を指定する場合には、担当弁護士が変更になっても、法人として遺言執行業務を引き継ぐことができる体制が維持されやすいという特徴があります。事務所内での引継ぎが行われやすく、長期間にわたる継続性という点では一定のメリットがあります。
もっとも、弁護士法人を指定する場合でも、実際に担当する弁護士や意思決定の体制、連絡窓口などについて事前に確認しておくことが望ましいでしょう。最終的には、手続きの継続性と担当弁護士との相性の双方を踏まえて選択することが大切です。
弁護士を遺言執行者に指定する方法(指定手続きの基本)
弁護士を遺言執行者に指定する主な方法(指定手続き)として、一般的に次の3つが挙げられます。
- 遺言書に記載する
自筆証書遺言などの遺言書の条項に「遺言執行者として〇〇弁護士を指定する」と明記する方法です。民法上、遺言書の中で遺言執行者を指定することが可能であり、実務上も比較的多く利用される方法です。 - 公正証書遺言を作成する
公証役場で公証人が関与して作成するため、方式不備による無効リスクが比較的低く、遺言自体の有効性が担保されやすいとされています。弁護士に文案作成の段階から依頼することで、相続手続きや遺言執行の実務を見据えた内容にしやすく、執行時の手続きを一任しやすくなる場合があります。 - 家庭裁判所による選任
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が死亡・辞退した場合には、利害関係人(相続人など)が家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てを行うことができます。申立てを受けた家庭裁判所が事情を考慮し、適任と判断した弁護士などの専門家を遺言執行者として選任することがあります。
2024年4月1日に施行された相続登記義務化にも対応できるよう、不動産の相続登記について誰がいつまでに申請する必要があるのかという点を含め、相続手続き全体の流れを踏まえて準備しておくことが重要です。具体的な遺言内容や家族構成、財産状況によって最適な方法は異なるため、弁護士などの専門家に相談しながら、実務に沿った形で相続の備えを進めることが望ましいでしょう。
弁護士を遺言執行に指定した場合の遺言執行の流れ
遺言執行は、単に財産を分ける作業から始まるものではありません。相続人の確定や財産調査などの準備を経て、段階的に手続きを進めていきます。
一般的な遺言執行の流れは、次のとおりです。
- 就任通知と遺言書の内容の通知・開示
遺言執行者に就任した後は、遅滞なく任務に着手し、相続人に対して就任したことを通知したうえで、遺言書の内容を確認できるようにします。通常は、遺言書の写しを送付するなどの方法により、遺言の内容を確認できるようにします。 - 相続人と相続財産の調査
戸籍謄本等を収集・確認して法定相続人を確定し、相続人調査とあわせて相続財産の内容を調査します。
預貯金、不動産、有価証券などの資産だけでなく、借入金などの負債の有無についても確認し、相続財産の全体像を把握します。 - 相続財産目録の作成と交付
調査した財産の内容を整理し、相続財産目録を作成します。作成した目録は相続人に交付され、相続財産の内容を共有するための資料となります。 - 遺言内容の執行
遺言書の内容に基づき、具体的な手続きを進めます。
例えば、預貯金の払戻しや名義変更、不動産の相続登記、遺贈の実行など、遺言書に定められた内容を順に実現していきます。 - 完了報告と精算
すべての遺言執行手続きが終了した後、相続人に対して業務の完了を報告します。必要に応じて収支の報告を行い、管理していた財産の精算を行って遺言執行業務は終了します。
遺言執行者を依頼する費用相場|弁護士・司法書士・信託銀行の違い
遺言執行者を専門家に依頼する場合の費用は、依頼先の種類や相続財産の金額、手続きの難易度などによって異なります。
一般的に専門家の報酬は、相続財産額に応じた割合方式や最低報酬額を基準として、案件の内容や手続きの複雑さに応じて調整されることが多く見られます。
弁護士の遺言執行報酬は、現在では各法律事務所が独自に基準を定めており、相続財産額に応じた割合方式や最低報酬額を組み合わせる例が見られます。参考資料として、かつて用いられていた旧弁護士会報酬基準を踏まえた目安を確認する方法もあります。
※弁護士の報酬規定は、弁護士報酬の自由化により、平成16年4月1日以降は各法律事務所が独自に報酬基準を定める仕組みとなっています。現在は各法律事務所が独自に報酬基準を定めていますが、旧基準を参考にした報酬体系を採用している事務所も見られます。
| 相続財産総額 | 弁護士報酬 |
|---|---|
| 300万円以下 | 30万円 |
| 300万円を超え3,000万円以下 | 相続財産総額の2%+24万円 |
| 3,000万円を超え3億円以下 | 相続財産総額の1%+54万円 |
| 3億円超え | 相続財産総額の0.5%+204万円 |
なお、相続人間で意見の対立がある場合や財産構成が複雑な場合などには、個別事情を踏まえて弁護士と依頼者の協議により報酬額が調整されることもあります。
司法書士や信託銀行に遺言執行を依頼する場合も、料金体系は事務所やサービスによって異なります。
信託銀行では最低報酬額が設定されているサービスもあり、相続財産額が比較的少ない場合には、費用負担が大きく感じられることがあります。一方で、業務内容がパッケージ化されており、手続き範囲が明確になっているサービスもあります。
依頼先を比較する際には、単純な費用だけで判断するのではなく、次のような点も確認しておくことが重要です。
- 報酬に含まれる業務範囲
- 相続人間で紛争が生じた場合の対応範囲
- 税理士や司法書士など他士業が関与する場合の追加費用
これらを事前に確認しておくことで、遺言執行の進め方や総費用の見通しを立てやすくなります。
遺言執行者を依頼する弁護士の探し方|失敗しないための選び方
遺言執行では、相続人との調整や手続きの進め方などにおいて、弁護士の経験やコミュニケーション能力が手続きの進行に大きく影響することがあります。
そのため、弁護士を選ぶ際には、費用や知名度だけで判断するのではなく、相続分野での経験や対応体制などを総合的に確認することが重要です。
また、遺言執行は一度の手続きで完結するとは限らず、不動産登記、相続税申告、不動産売却などの関連手続きが続くこともあります。こうした業務全体を見通して手続きを進められる弁護士かどうかによって、手続きの進行や負担感が変わる場合もあります。
ここでは、遺言執行者として弁護士を選ぶ際に確認しておきたいポイントを紹介します。
相続分野の実務経験があるか
遺言執行は形式的な手続きが中心のように見えることもありますが、実際には相続人間の調整や争点への対応が必要になることもあります。
例えば、以下のような相続特有の問題が関係するケースもあります。
- 遺産分割
- 遺留分侵害額請求
- 遺言無効の主張
- 相続財産の使い込みの疑い
- 不動産共有問題
そのため、こうした相続分野の実務経験があるかどうかを確認しておくと安心です。
実績を確認する際には、単に取扱件数だけでなく、どのような類型の案件に対応してきたのかを見ることも重要です。例えば、不動産が多い相続、事業承継を伴う相続、疎遠な親族が関係する相続、遺贈が含まれるケースなど、自分の状況に近い経験があるかを確認してみるとよいでしょう。
また、初回相談の段階で、想定されるリスクや手続きの見通し、進め方の方針について具体的に説明できるかどうかも、弁護士選びの判断材料になります。
税理士や司法書士など他士業との連携体制があるか
相続手続きでは、相続税申告や不動産登記など、弁護士以外の専門家の関与が必要になることがあります。
例えば、相続税申告は税理士、不動産の相続登記は司法書士が担当することが一般的です。そのため、弁護士が他士業と連携して手続きを進められる体制があるかどうかも重要なポイントになります。
連携実績がある場合には、役割分担が明確になりやすく、費用やスケジュールの見通しも立てやすくなることがあります。
依頼前には、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
- 共同で対応した実績があるか
- 連携先の専門分野や経験
- 紹介時の説明や役割分担が明確か
こうした体制が整っていると、登記・税務・法務の境界部分で起こりやすい見落としを防ぎやすくなる場合があります。
長期間任せられる体制が整っているか
遺言執行は、相続開始後すぐに完了するとは限りません。
例えば、以下のようなケースでは手続きが長期化することもあります。
- 不動産の売却が必要な場合
- 相続人が遠方に居住している場合
- 資料収集に時間がかかる場合
そのため、担当弁護士が不在になった場合の引継ぎ体制、事務スタッフのサポート体制、連絡手段など、法律事務所としての運用体制を確認しておくことも重要です。
個人事務所か弁護士法人かにかかわらず、どのような体制で業務を進めるのかを具体的に確認しておくと安心です。
話しやすさや説明の分かりやすさ
遺言には、家族関係や本人の思いなどが背景にあることが多くあります。そのため、相談時に話を丁寧に聞いてくれるかどうか、説明が分かりやすいかどうかも重要なポイントです。
弁護士との相性を確認するためには、次のような点を意識してみるとよいでしょう。
- 説明が分かりやすいか
- メリットだけでなくリスクについても説明があるか
- 手続きの方針が明確か
- 費用の説明が具体的か
質問に対する回答が曖昧な場合には、追加で確認してみることも大切です。
遺言執行者は、相続開始後に遺言者の意思を実際の手続きとして実現する役割を担います。そのため、信頼して任せられると感じられる弁護士を選ぶことが重要です。
弁護士に相談する前にしておくとスムーズな4つのポイント
弁護士への相談の質を高め、より具体的で実務的な提案を受けるためには、事前に一定の情報を整理しておくことが重要です。
あらかじめ以下の4点を準備しておくと、相談がスムーズに進みやすくなります。
- 財産状況をリストアップする
- 誰に何を託したいか整理する
- 相続人の情報を確認する
- 懸念事項を共有する
以下で、それぞれのポイントを詳しく解説します。
財産状況をリストアップする
財産は種類ごとに整理して一覧化しておくと、弁護士に状況を伝えやすくなります。
把握している範囲で、次のような財産を分類して書き出しておくとよいでしょう。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 保険
- 負債
- 事業用資産
- デジタル資産(暗号資産・ネット口座など)
不動産については、所在地や地番が分かる資料の所在、固定資産税納税通知書や登記事項証明書の有無、共有名義の有無などもメモしておくと、実務上の確認がスムーズになります。
また、預貯金や証券については、金融機関名、支店名、口座の有無、通帳やネット口座の手がかりなどを整理しておくとよいでしょう。
財産額の評価は概算でも問題ありません。まずは「どのような財産があるのか」を把握することが重要です。
誰に何を託したいか整理する
遺言の内容を考える際には、「誰に何を渡したいのか」を財産と結び付けて整理しておくと相談が進みやすくなります。
具体的には、次のような点を整理しておきましょう。
- 相続分の基本方針
- 特定の財産を承継させたい相手
- 遺贈や寄付の有無
- 条件付きの承継を希望するか
もし財産の配分に偏りがある場合には、その理由も整理しておくと役立ちます。
遺言は法律上の要件だけでなく、相続人の納得感も重要になるため、付言事項によって遺言の意図を説明する設計につながることがあります。
「何を実現したいのか」が明確になることで、遺言執行者に期待する役割や、弁護士に依頼すべき範囲も判断しやすくなります。
相続人の情報を確認する
推定相続人が誰になるのかを整理するため、相続人に関する情報も確認しておきましょう。
例えば次のような事情は、相続関係に大きく影響します。
- 再婚の有無
- 養子縁組の有無
- 認知した子の存在
- 前婚の子の有無
また、連絡先が分かるかどうか、疎遠で連絡が難しい相続人がいるか、行方不明の可能性がある相続人がいるかといった事情も重要です。
相続手続では相続人との連絡調整が手続の進行を左右することも多いため、事前に状況を把握しておくことで実務上の対策を検討しやすくなります。
相続人の情報は、遺言の作成だけでなく、戸籍収集、連絡先確認、所在不明者対応を含む遺言執行の進め方にも大きく関係します。
懸念事項を共有する
次のような懸念事項がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士に共有することが大切です。
- 過去に親族間でトラブルがあった
- 遺留分請求が想定される
- 財産管理に不安がある
- 不動産の共有をめぐって争いが生じそう
リスク情報が共有されていないと、弁護士も適切な対策を検討することが難しくなります。例えば、財産の使い込みが疑われる状況がある場合には、財産調査の進め方や証拠の残し方が重要になります。また、遺留分が問題となる可能性がある場合には、財産配分の設計や付言事項の工夫なども検討する必要があります。
相続は揉めない前提で設計するのではなく、遺留分侵害額請求や相続人間の対立、財産の把握・立証資料の確保といった一定のリスクを想定したうえで準備しておく方が、実務上は安定した遺言設計につながることがあります。
懸念事項を事前に共有することで、遺言執行者としての弁護士が動きやすい体制を整えることができます。
まとめ
遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実際の相続手続きとして実現するための重要な役割を担います。
遺言書が作成されていても、手続きの煩雑さや相続人間の不信感・対立などにより、相続手続きが円滑に進まないケースは少なくありません。
弁護士を遺言執行者に指定する場合、一定の費用はかかりますが、次のような点でメリットがあると考えられます。
- 相続人間の利害から独立した立場で手続きを進められる
- 紛争が生じた場合にも法律的な対応が可能
- 不動産や事業用資産など複雑な財産の処理に対応できる
- 税理士や司法書士など他士業と連携して手続きを進められる
特に、遺贈がある場合や財産の配分に偏りがある場合、疎遠な相続人がいる場合、不動産が複数ある場合などには、弁護士を遺言執行者に指定することを検討する価値があります。
弁護士を選ぶ際には、相続実務の経験や他士業との連携体制、長期案件への対応力、相談時の説明の分かりやすさなどを確認することが大切です。
また、相談前に財産状況や相続人の情報、遺言で実現したい内容、懸念点などを整理しておくと、より具体的な提案を受けやすくなります。
遺言は作成して終わりではなく、実際に実現されて初めて意味を持つものです。
将来の相続手続きを円滑に進めるためにも、早い段階で専門家に相談し、ご自身の意思ができる限り適切に反映される遺言の設計を検討しておくことが重要といえるでしょう。
遺言執行者に弁護士を指定することを検討している場合には、費用の見通し、弁護士の選び方、遺留分への配慮、相続登記を含む具体的な手続きの流れを踏まえて、専門家に相談し、個別の状況に応じたアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
遺言執行者に弁護士を指定したいとお考えの方は、ネクスパート法律事務所にお気軽にご相談ください。
初回相談は30分無料で、対面相談のほかリモート(オンライン)相談にも対応しています。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。