本事件は、被相続人が作成した2つの公正証書の優劣関係が問題となりました。先に作られた1つ目の公正証書は、唯一の相続人である配偶者以外の第三者に「特定の遺産を死因贈与する」というものでした。他方で、のちに作成された2つ目の公正証書は、「全部の遺産を配偶者に相続させる」旨の遺言でした。
1つ目の公正証書を作成した背景には、依頼者と当該第三者との感情的な対立関係にあり、当該不動産を依頼者に相続させないように諸々の策略をして、作成するに至った疑いがあるものでした(とはいえ、公正証書の無効を争うことができるほどの立証は困難)。他方で、その後作られた2つ目の公正証書は、被相続人が1つ目の公正証書でなした第三者への死因贈与について後悔の念を抱き、配偶者に撤回したい旨の申し入れがなされことから、新たに作成するに至ったものでした。
被相続人の配偶者である依頼者は、弊所にご来所される前、本事件においてはすでに1つ目の公正証書が有効であり、第三者になした死因贈与の効力が2つ目の「全部相続させる旨」の遺言公正証書に優先するため、公正証書の効力をここから争っても勝訴することは難しいとのアドバイスを受けたそうです。
しかしながら、判例調査を含めた法的観点から事案を分析し、本件では争う価値が十分にあるとの結論に至り、お引き受けする運びとなりました。
本事件は、交渉段階から全面的な対立となり、最終的には最高裁まで争われました。
一貫して2つ目の公正証書にある「全部の遺産を配偶者に相続させる」旨の遺言が優先されることを主張しました。
第一審から最高裁まで我々の主張が全面的に認められました。最高裁まで喧々諤々と争うに至ったことから解決までには相応の時間を要しましたが、依頼者においては、最終的に全ての遺産を自身に帰属させることができたことはもとより、被相続人の意思が報われたと喜んでおられました。