不動産の共有名義人の片方が死亡した場合の相続手続き

不動産を共有していた名義人の片方が死亡した場合、片方の共有持ち分がもう一方の共有者へ自動的に移ると勘違いをされている方がいらっしゃるかもしれません。
このようなケースでは、どのような相続手続きを経るのか、解説します。
目次
不動産の共有名義人の片方が死亡した場合、相続はどうなるか?
不動産の共有者の片方が死亡した場合、その死亡した人の相続人が当該不動産を相続します。
以下でそれぞれ解説します。
死亡した共有名義人の持ち分のみが相続の対象となる
共有者の片方が死亡した場合、死亡した人の持ち分のみが相続の対象となります。
例えば、AさんとBさん夫婦が、不動産を2分の1ずつ共有名義にしていたとします。
AさんとBさんの間には、CさんとDさんの子どもがいるところ、Aさんが亡くなりました。その場合、Aさんの持ち分2分の1を相続する権利があるのは、上記図のとおり、妻のBさんとCさん、Dさんの3人になります。
生存している共有名義人が優先して相続するわけではない
不動産の共有者の片方が死亡した場合でも、生存しているもう片方が優先して相続するわけではありません。
生存している共有名義人が死亡した共有名義人の相続人でない場合
生存している共有者が死亡した共有者の相続人でない場合は、その不動産の共有持分は、自動的に他の共有者に移転することは原則としてありません。
死亡した共有者の持分は相続財産となり、相続手続きの対象になります。
死亡した共有者に法定相続人がおらず、特別縁故者もいない場合には、最終的には、その持分は生存している他の共有者に帰属します(民法255条)。
生存している共有名義人が死亡した共有名義人の相続人である場合
共有者の片方が死亡した場合、死亡した人の相続人が持ち分を相続するので、共有者の片方が、他の相続人に優先して相続するわけではありません。
先ほどの例で解説すると、Aさんの持ち分が自動的にBさんに移るわけではなく、Bさん、Cさん、Dさんが遺産分割協議を行った上で、誰がAさんの持ち分を相続するか決めなければいけません。
実務上は、不動産の共有状態を避けるため、他の相続財産との兼ね合いを考えて、もう片方の共有者が被相続人の持ち分を取得するケースが多いです。
相続人が1人しかいない場合は、他方の共有者が死亡した人の持ち分を取得します。
不動産の共有名義人の片方が死亡した場合、相続手続の流れは?
不動産の共有者の片方が死亡した場合、どのような相続手続の流れになるか、解説します。
遺言書の有無を確認する
死亡した共有名義人が、遺言書を作成していないか確認しましょう。
遺言書があれば、基本的に遺言書に書かれているとおりの内容で相続手続を行います。共有名義にしている不動産の持ち分を誰に相続させたいか明記があれば、そのとおりに手続きを進めます。
遺言書は大きく分けて、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言であれば、その場で開封をせずに家庭裁判所の検認手続きをしましょう。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、検認手続きは不要です。
公正証書遺言であれば、正本と謄本が遺言者に交付されているので自宅を探してみましょう。見つからなければ公証役場の遺言検索システムを利用して、どの公証役場に原本が保管されているか調べられます。
相続人を確定する
相続手続をするには、相続人を確定しなければいけません。
死亡した共有者の出生から死亡までの戸籍謄本をそろえて、それをもとに相続人を確定します。死亡した共有者の戸籍謄本を漏れなく集めなければ、正確に相続人が確定できないため注意しましょう。
遺産分割協議を行う
相続人が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。
先ほどの例でいえば、亡くなったAさんの相続人は妻のBさんと子どものCさん、Dさんです。3人全員で遺産分割協議を行って、Aさんの所有持ち分を誰が相続するか、決定します。
相続登記を申請する
死亡した共有者の持ち分を誰が相続するか決定したら、当該不動産の所在地を管轄する法務局に相続登記を申請しましょう。
2024年4月から相続登記が義務化されましたので、相続によって不動産を取得した人は、所有権の取得を知った日から3年以内に手続きをしなければいけません。正当な理由なく怠るとペナルティーが科される場合があります。
死亡した共有名義人の持分を相続したくない場合はどうすればいい?
死亡した共有者の持ち分を相続したくないと考えている場合、どのようにすればよいか対処法について紹介します。
生存している共有名義人に任意で買い取ってもらう
生存している他の共有者に、死亡した共有者の持ち分を任意で買い取ってもらう方法があります。
死亡した共有者が第三者と不動産を共有していた場合、他の共有者に対して買い取りができないか相談をしてみてもよいでしょう。
もっとも、これは共有者に買い取りの意思や資力がなければ実現できませんが、例えば共有者が親族などで、その不動産に居住したい、自身の相続が発生した場合に備えて権利関係を整理しておきたいという意向を示している場合などには、資金的に問題がなければ売却がスムーズに進む可能性があるでしょう。
共有持分を放棄する
死亡した共有者の持ち分を放棄する方法があります。
共有持分の放棄とは、他の人と共有している不動産の共有持分を放棄して、共有者に持分を渡すことです。この場合、放棄した持ち分は他の共有者に帰属します。
共有持分の放棄は単独行為であるため、他の共有者の了解を得ることなく行えますが、共有持分放棄の登記には、共有者の協力が必要になります。
共有持分を放棄すると、他の共有者は受け取った持分に応じて贈与税が課税されるため、トラブルを避けるためには、共有者に放棄することを明確に意思表示した上で実行する必要があります。
相続放棄をする
相続放棄をすれば最初から相続人ではなかった扱いとなるので、死亡した共有者の持ち分を相続しなくて済みます。
相続放棄は、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申立てをします。
ただし、相続放棄をしてしまうと欲しい財産があっても取得できなくなるので注意しなければいけません。
生存している共有名義人との共有状態を解消したい場合はどうすればいい?
不動産を共有名義にしておくと不都合なケースがあり、共有名義を解消したいと考えた場合どのような方法があるか、以下で解説します。
共有状態の解消について当事者間で話し合う
不動産の共有状態を解消すべく、当事者間で話し合います。
共有状態を解消するには、以下の方法があります。
共有者全員が合意した上で、第三者に売却する
共有者全員が合意していれば、不動産の売却が可能です。
全員が第三者に売却することに対して合意しているのが必須条件となります。合意に至らない場合、自分の持ち分のみを売却できますが、不動産の共有状態を解消するという根本的な解決にはなりません。
共有者の一人が他の共有者の持ち分を買い取る
共有者の一人が他の共有者の持ち分を買い取る方法があります。
共有者が少ない場合は、話し合いでスムーズに手続きが進む可能性があります。
土地であれば分筆して単独名義にする
共有している不動産が土地であれば、分筆すれば単独名義にできます。
調停または裁判で共有物の分割を求める
共有者同士の話し合いができない場合は、調停または裁判で共有物分割請求を求める方法があります。
家庭裁判所に対して、共有物分割請求調停を申立て、調停委員が間に入って不動産の共有状態解消について、話し合いを進めます。当事者だけで話し合いを進めるよりも調委委員が入ることで、冷静に話し合いが進められるメリットがあります。
共有物分割請求は、調停前置主義を取っていないため、話し合いで解説できる見込みがなく、なおかつ急いで解決したい場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起できます。
まとめ
夫婦や親子、兄弟姉妹で不動産を共有名義にしている方もいらっしゃると思います。共有者の一人が亡くなった場合に慌てないよう、手続き方法についてこの記事が参考になれば幸いです。
不動産を平等に分けたいという考え方で不動産を共有名義にしていると思いますが、問題点が多々あります。
例えば、共有者の一人が亡くなった場合、相続手続きが複雑になりますし、共有者の一人が認知症になったら、いざ不動産を売却したいと考えてもスムーズに手続きが進められません。このように不動産の共有名義はリスクが高いことを十分理解しておきましょう。
ネクスパート法律事務所には、相続案件を多数手がけている弁護士が在籍しています。
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この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。