遺産分割協議書を一部または全部変更できるケースは?注意点も解説

遺産分割協議を無事に終えたと思っていたのに、後日問題が発覚した場合、どのような対応が可能なのでしょうか?
この記事では、どのような場合に遺産分割協議書の一部または全部が変更できるかについて解説します。
遺産分割協議書の一部または全部の変更時に注意すべき点についても述べていますので、ご参考になさってください。
目次
遺産分割協議書を一部または全部変更できるケースは?
遺産分割協議書の一部または全部が変更できるのは、以下4つのケースです。
相続人全員が合意している場合
相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意している場合は、遺産分割協議書の一部または全部変更が可能です。
具体的には、遺産分割協議後に何らかの事情が生じ、遺産分割協議で決定した内容の変更を余儀なくされた場合や新たな財産が見つかった場合などが挙げられます(新たな財産が見つかった場合は、その財産のみを対象にした遺産分割協議も可能です。)。
ただし、遺産分割協議が調停・審判で成立した場合は、相続人全員が合意していたとしてもやり直しはできません。
財産隠し、詐欺、脅迫、偽造が発覚した場合
相続人の一人が財産隠しをしていたり、遺産分割協議にあたって詐欺、脅迫、偽造をしていたりした事実が発覚した場合、遺産分割協議書の一部または全部変更が可能です。
具体的には以下にあたるケースです。
- 相続人の一人や第三者に脅迫されて、相続人が遺産分割協議書に印鑑を押すことを余儀なくされた場合
- 相続人の一人が、金庫にあった多額の現金などを意図的に隠していた場合
- 相続人の一人が、高額な生前贈与を受けていたのを隠していた場合
- 相続人の一人が、遺産の一部を使い込んでいた場合
- 相続人の一人が、遺産分割協議書を偽造していた場合
このような事由がある場合、詐欺・脅迫・偽造などを理由に当該遺産分割協議を取り消せる可能性があります。
相続人全員に対して遺産分割協議の無効または取り消しの意思表示をして、詐欺、脅迫、偽造を行っていた相続人を含め、相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意すれば、遺産分割協議書の一部または全部変更ができます。
相続人全員の合意が得られない場合は、以下のような方法で裁判所の関与のもとに、遺産分割協議の無効ないし取り消しを求めます。
- 詐欺・脅迫による場合:遺産分割協議無効確認の調停・訴訟を提起する
- 偽造による場合:遺産分割協議不存在確認の調停・訴えを提起する
無効の主張には期間制限はありませんが、取り消しは以下のいずれかの期間を超えると、主張できなくなります(民法126条)。
- 追認できるときから5年
- 法律行為のときから20年
相続人全員が参加していなかった場合
遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった場合、遺産分割協議は無効となるので遺産分割協議書の全部変更をしなくてはいけません。
遺産分割協議は必ず相続人全員で行って、遺産分割協議書に署名・押印をします。一人でも参加していなければ、遺産分割協議書は無効となります。
このパターンで多いのは、相続人調査をする上で、相続人が漏れているケースです。
以下のような場合、相続人が漏れる傾向があるため、相続人調査を的確に行うよう心がけましょう。
- 被相続人に認知した婚外子がいる場合
- 被相続人が再婚しており、前妻との間に子どもがいる場合
- 被相続人が養子縁組をしている場合
相続人の一人の判断能力が不十分だった場合
相続人の一人が重い認知症や精神疾患などで判断能力が不十分だったと判明した場合、遺産分割協議は無効となるので、遺産分割協議書の全部変更をしなくてはいけません。
この場合、家庭裁判所に成年後見人等の選任申立てを行います。その際に、相続人の判断能力の程度によって、成年後見人、保佐人、補助人のいずれかが選ばれます。
成年後見人が選任されたら、相続人に代わって遺産分割協議に参加します。
保佐人、補助人の場合は、相続人本人(被保佐人、被補助人)が遺産分割協議に参加できますが、その場合は保佐人・補助人の同意が必要となります(補助人の場合は、遺産分割につき補助人の同意を要する旨の家庭裁判所の審判があった場合のみ同意が必要です)。
遺産分割につき、代理権付与の審判がある場合は、保佐人・補助人が代わりに遺産分割協議に参加できます。
遺産分割協議書を一部変更する方法は?
遺産分割協議書を一部変更するには、以下の手順を踏まなければいけません。それぞれ解説します。
再度、相続人全員が遺産分割協議をする
再度相続人全員が集まり、遺産分割協議を行います。
合意に至らなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。
相続人の一人が亡くなっている場合は、その人の相続人全員が参加しなければいけません。
記 第1条 別紙目録に記載した土地については、甲が相続する。 第2条 被相続人〇〇〇〇の遺産分割に関して、本合意書に定めた以外の件は、〇〇〇〇年〇〇月〇〇日付遺産分割協議書に定めたとおりとする。それについて甲、乙、丙は何ら異議がないものとする。
本合意書を3通作成し、各相続人がそれぞれ記名・押印の上所持する。
〇〇〇〇年〇〇月〇〇日
住所: 氏名: ㊞ 住所: 氏名: ㊞ 住所: 氏名: ㊞ |
遺産分割協議を変更すると贈与税または所得税が課される可能性がある
遺産分割協議を変更すると、贈与税または所得税が課される可能性があります。
すでに成立した遺産分割協議を相続人の都合でやり直した場合は、相続人の間で贈与や譲渡が行われたと判断されるからです。
すでに相続税を納付していたとしても贈与税や所得税が免除されることはなく、相続税が還付されることもありません。
まとめ
遺産分割協議書の一部または全部変更は不可能ではありませんが、決して簡単ではないと理解しておきましょう。そのため遺産分割協議を行う際は、くれぐれも慎重に行わなければなりませんし、遺産分割協議書に署名・押印をする際も間違いがないか、しっかり目を通してから行うべきです。
遺産分割協議書は自分たちで作成ができますが、致命的な間違いをしてしまうと時間と手間がさらにかかってしまいます。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に詳しい弁護士が在籍しています。弁護士に遺産分割協議書の作成を任せたい方や、遺産分割協議の無効や取り消しの主張をされてお困りの方は、ご相談ください。
初回相談は30分無料になるケースもありますので、お気軽にお問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。