相続土地国庫帰属制度はどんな制度?利用するメリットは?

2023年4月27日から相続土地国庫帰属制度がスタートしました。土地を相続したものの、遠方に住んでいるので利用しない、維持・管理が大変といった理由で手放したいと考えている人のために国が土地を引き取る制度です。
今回の記事では、相続土地国庫帰属制度の内容についてと制度を利用するメリットについて解説します。
目次
相続土地国庫帰属制度とは?
ここでは、相続土地国庫帰属制度について解説します。
相続土地国庫帰属制度の概要
相続土地国庫帰属制度は、相続によって土地を所有した人が法務大臣の承認を受けて土地を手放し、国庫に帰属させる制度です。
土地を相続したけれど遠方に住んでいるので活用できない、維持・管理に費用がかかるので手放したいと考える人が増えています。2020年に行った法務省の調査では、本制度の利用を希望する世帯が約20%にのぼっています。
相続したものの管理が行き届かず荒廃した土地が増えたり、活用できる土地でなければ相続をしたくないと相続放棄をしたりすることで、最終的には所有者が誰なのか分からなくなる所有者不明の土地が増えて問題になっています。
こうした問題を解決するために発足したのが、相続土地国庫帰属制度です。
相続土地国庫帰属制度でできること
相続や遺贈で手に入れた土地の活用や管理に悩んでいる場合、一定の要件を満たせば相続土地国庫帰属制度を利用することで、その土地を国に引き取ってもらえます。
相続土地国庫帰属制度を利用するメリット
相続土地国庫帰属制度を利用するメリットは、土地の維持・管理から解放される点です。
土地を資産として持つことの懸念点は、維持管理費がかかることです。
土地は適切な管理をしなければ、草木が生えたり伸びたりして荒れ地になります。草木の伸びる速度は想像以上で、少し管理を怠けただけで、隣近所に迷惑をかけてしまいトラブルに発展する場合もあります。
さらに活用していない土地でも、所有していれば固定資産税がかかります。維持管理費と固定資産税をあわせると、年間を通して金銭的にかなり負担になります。
相続土地国庫帰属制度を申請するには?
ここでは、相続土地国庫帰属制度を申請するにはどうすればいいのかについて解説します。
相続土地国庫帰属制度を申請できる人は?
相続土地国庫帰属制度を申請できるのは、相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限ります)で土地を取得した人のみです。
土地が共有名義になっている場合は、共有者全員で申請しなければいけません。その際、共有名義の中に相続以外で持ち分を取得した人がいた場合でも申請が可能です。
相続土地国庫帰属制度の申請の手順は?
相続土地国庫帰属制度を申請するには、下記の手順を踏みます。
土地を管轄する法務局の本局で事前相談をする
手放したい土地を管轄する法務局の本局で、相続土地国庫帰属制度の申請が可能かどうか事前に相談します。土地が遠方にある場合は、近くの法務局の本局で相談可能です。対面もしくは電話での相談となり、予約制で受け付けています。
事前相談が必要なのは、申請できる土地の条件があるからです。申請の段階で直ちに却下されるものや、申請したけれど不承認になるものもあります。事前に相談することで、無駄に時間とお金を使うことが避けられます。
土地を管轄する法務局の本局へ承認申請書を提出
事前相談で申請可能な土地だと判断されたら、土地を管轄している法務局の本局にある国庫帰属申請窓口に必要書類を提出します。直接法務局に提出してもよいですし、郵送申請も可能です。
必要書類は下記のとおりです。
- 相続土地国庫帰属の承認申請書(書式は法務省のサイトに掲載されています)
- 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面(国土地理院の地図や法務局に備え付けてある地図をコピーしてマークすることで作成できます)
- 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真(隣地との境界が分かるように撮影します)
- 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真(近くから撮影したものと遠くから撮影したものを複数枚添付します)
- 申請者の印鑑証明書(期限の制限はありません)
- 遺贈で土地を取得した相続人は、遺言書など相続人が遺贈を受けたことを証する書面
- 承認申請者と登記簿上の名義人が違う場合は、遺産分割協議書など相続や一般承継があったことを証明する書面
- 審査手数料(金額の詳細は後述します)
なお、任意ではありますが、固定資産税評価額証明書、承認申請する対象の土地の境界に関する資料があれば提出しましょう。これらを提出することで、審査が適正・円滑に進められる可能性があります。
法務局が申請された土地の実地調査をする
土地の申請がされると、法務局の職員は提出された書類を審査して、土地に出向き実地調査を行います。
法務局の職員だけで土地にたどり着くことが困難な場合、同行を依頼される可能性があります。
申請した本人以外でも、次の人が実地調査に同行できます。
- 土地について詳しく知っている親族
- 申請書類の作成が代行できる弁護士・司法書士・行政書士などの資格者
- 書類作成の代行ができない資格者
なお、正当な理由なく同行を拒否すると承認申請が却下されます。
国庫帰属の承認・不承認を判断する
法務大臣(法務局)において、書類審査、実地調査を踏まえて、土地を国に帰属するかどうか承認、不承認の判断をして、結果は申請者に通知します。
承認されたら負担金を納付する
土地の帰属が承認されたら、申請者は通知書に記載されている負担金額を期限内に日本銀行へ納付します。
土地が国庫帰属される
申請者が負担金を納付したら、土地の所有権は国に移転します。所有権移転登記は、国が実施し、帰属した土地は国が管理・処分をします。
相続土地国庫帰属制度が利用できない土地は?
ここでは、相続土地国庫帰属制度が利用できない土地について解説します。
申請ができない土地
申請の段階で受け付けてもらえない土地(却下される土地)は、下記のとおりです。
建物がある土地
建物が立っている土地は、申請できません。
建物は管理コストが土地以上にかかりますし、老朽化すると管理維持費や労力の負担があります。最終的には建て替えや取り壊しを選択する可能性が高いことから、申請が不可能です。
すでに建物が取り壊されて更地になっていれば申請できる可能性がありますが、建物滅失登記の申請を済ませているかどうか、確認をしましょう。
抵当権などの担保権が設定されている土地
土地に抵当権や、地上権、地役権、賃借権などの使用収益権が設定されていると、申請ができません。
これらの権利があることで、土地を管理するにあたり権利者に配慮しなければならず、万が一抵当権が実行されてしまえば、国が所有権を失う可能性があるからです。
道路、墓地、境内、ため池などが含まれる土地
以下の土地は、今後も引き続き土地が使用されると判断され、使用者と話し合いが必要となるため、申請ができません。
- 道路として使用されている土地
- 墓地として都道府県知事の許可を受けた土地
- 宗教法人法第3条に規定する境内地
- 給水の目的で敷設する水道の水源地や貯水池として使用されている土地
- 用悪水路として利用されている土地
- ため池として利用されている土地は
特定有害物質で汚染されている土地
特定有害物質で土壌が汚染されている土地は、汚染の除去に膨大な費用がかかり周辺の人たちに害を及ぼす可能性があるため、申請ができません。
ここでいう汚染されている土地とは、土壌汚染対策法施行規則第31条第1項・第2項の基準を超える特定有害物質に汚染されている土地を指します。
所有権について争いのある土地
隣接する土地の所有者と境界について争いがある、申請者以外の人がその土地の所有権を主張しているといった、所有権について争いがある土地は、申請ができません。
申請はできるが、不承認になる土地
申請はできるものの、不承認になる可能性が高い土地は下記のとおりです。
管理が困難な崖がある土地
勾配が30度以上あり、かつ高さが5メートル以上ある崖がある土地で、管理に費用と労力がかかると判断されるものは、不承認となります。
例えば、次のような土地が挙げられます。
- 隣地に土砂が流れ込むなどの被害が出る可能性のある土地
- 擁壁工事を実施する必要性がある土地
樹木や放置車両など、処分を阻害する工作物がある土地
工作物、車両、樹木などの有体物があり、かつ有体物が土地の管理・処分を妨げる場合は、不承認になります。
主な例としては、以下のような有体物がある土地が考えられます。
- 果樹園の樹木
- 倒木のおそれがあり定期的な伐採が必要な樹木
- 建物に該当しない廃屋
- 放置車両
産業廃棄物など、除去が必要な有体物が地下にある土地
除去しなければ通常の管理・処分ができない有体物が地下にある土地は、不承認となります。
除去しなければ通常の管理・処分ができない有体物とは、以下のものなどが該当します。
- 産業廃棄物
- 屋根瓦などの建築資材
- 既存建物の基礎部分やコンクリート片
- 古い水道管
- 浄化槽
- 井戸
- 大きな石
処分にあたり、隣接する土地の所有者と争いが避けられない土地
以下に挙げる土地は、処分にあたり隣接する土地の所有者との争いが避けられない土地として、不承認となります。
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)
- 池や沼、河川や水路、海を通らなければ公道に出ることができない土地
- 崖があって公道と著しい高低差がある土地
さらに、不法占拠者がいる、隣地から生活排水等が定期的に流れ土地の使用に支障があるなど、所有者以外の第三者によって使用や収益が妨害されている土地は、不承認となります。
管理・処分にあたり費用や労力がいる土地
災害の危険を防止するために、必要な措置をとらなければいけない土地も不承認となります。
- 例えば、次のような事情がある場合です。土砂の崩壊の危険があり保護工事を行わなければならない
- 大きな陥没があるので、人が落下するために埋め立てなければならない
- 大量の水が漏出しているので、排水ポンプの設置が必要である
ただし、講じる対策が軽微なものであれば本件に該当しないと判断されることもあります。
相続土地国庫帰属制度の利用にかかる費用
ここでは、相続土地国庫帰属制度の利用にかかる費用について解説します。
審査手数料
相続土地国庫帰属制度を申請するにあたり、審査手数料として土地一筆当たり14,000円かかります。申請書に審査手数料の額に相当する収入印紙を貼って納付します。その際に収入印紙に割印をしないようにしましょう。
審査手数料を納付した後は、申請の取り下げ、審査結果が却下・不承認になっても手数料の返金はありません。
負担金
負担金とは10年分の土地管理費相当額で、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出されます。
相続土地国庫帰属制度の申請が承認されたら、負担金通知が送られてきます。通知が到達した翌日から30日以内に日本銀行(本店、代理店、歳入代理店)へ決められた金額を納付します。期限内に納付しなければ承認が失効し、最初から申請をやり直すことになります。
負担金は、宅地、農地(田・畑)、森林、その他の4種類に分けられ、土地の区分に応じて負担金が決定します。
登記簿上の地積を基準にするので、現況の地積で負担金を納付したいなら、測量をし直して地積更正や地積変更の登記をしましょう。
申請する土地が宅地、農地(田・畑)、その他であれば、面積にかかわらず負担金は20万円です。ただし、いずれの場合も例外があるので、法務省の公式サイトで確認をしましょう。
そして土地が森林の場合は、面積区分に応じて負担金が算定されます。面積の詳細は、法務省の公式サイトに掲載されています。
参考:法務省:相続土地国庫帰属制度について (moj.go.jp)
負担金の合算について
隣接する2筆以上の土地が同じ区分の場合、1筆の土地として負担金を算定できます。
例えば、宅地Aと宅地Bを合算したい場合、AとBの所有者(申請者が異なっていても可能)が共同で合算申出書を提出すれば、負担金を減らせる可能性があります。
ただし、あくまでも同じ土地の種目と区分であることが条件なので、宅地と農地は認められませんし、同じ宅地でも市街化区域内と市街化区域外のものは合算できません。
司法書士や弁護士に依頼する場合の報酬
相続土地国庫帰属制度の申請は、事前相談から始まり、複数の書類を作成したり土地の写真を撮影したり、時間と労力がかかります。さらに申請したい土地が、制度利用が可能な土地なのかどうか判断するのが難しい側面があります。
自分で申請する自信がない人は、弁護士、司法書士、行政書士による代理申請が可能です。その際には別途、弁護士、司法書士、行政書士への報酬が必要となり、報酬額はだいたい10万~20万円前後となります。
相続土地国庫帰属制度の申請方法と審査期間は?
ここでは、相続土地国庫帰属制度の申請方法と審査期間について解説します。
相続土地国庫帰属制度の申請方法
作成した申請書は、法務局の窓口に提出するか、郵送で行います。郵送申請をする際は、書留郵便かレターパックプラス(赤)を使用し、表面に相続土地国庫帰属制度の申請書が入っている旨を記載しましょう。
申請後の注意事項
申請後、法務局から書類の内容確認や現地調査の件で連絡が入ります。
長期出張や長期の旅行、入院などの理由で自宅を不在にするときは、事前に申請をした法務局へ連絡を入れましょう。連絡がつかない場合、申請が却下されることがあるので気を付けましょう。
審査期間はどのぐらいかかるのか?
相続土地国庫帰属制度の標準処理期間は、半年から1年程度といわれています。
その間に万が一申請者が亡くなり相続が起きたら、新たな相続人は相続があった日から60日以内に申請先の法務局に申し出ることで手続きを継続できます。
申し出がなければ申請は却下されます。
相続土地国庫帰属制度について弁護士に相談・依頼するメリット
ここでは、相続土地国庫帰属制度について、弁護士に相談・依頼するメリットについて解説します。
制度の対象となるか判断してもらえる
相続土地国庫帰属制度の利用を検討するにあたり、重要なのが制度の対象となる土地かどうかという点です。建物があるから対象外だとすぐに分かるものもあれば、判断に迷うものもあるでしょう。
弁護士であれば制度の対象となる土地なのかどうか、的確に判断ができます。
土地を手放す他の方法も検討できる
相続土地国庫帰属制度は、活用しない土地を抱えて悩んでいた人にとって朗報といえますが、制度を利用するための条件が比較的厳しいところが弱点です。弁護士に相談することで、相続土地国庫帰属制度を選択することが最善なのか、アドバイスができます。
土地を手放す方法は、他にもあります。それぞれにあったベストな方法を弁護士は提案が可能です。
土地の相続に関する問題をワンストップで解決できる
土地の相続問題は、時間が経てば経つほど複雑な問題が絡みます。一般的に相続が起きると、期限が決まっている相続税に注力し、期限が決まっていない相続登記を後回しにする傾向があります。
2024年4月からは、不動産の相続登記が義務化されます。これにより相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければいけません。正当な理由なく申請をしないと、10万円以下の過料が科せられる場合があります。
こうした背景から、土地の相続問題についてお悩みの方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。場合によっては司法書士と連携して、ワンストップで悩みを解決いたします。
まとめ
先祖代々から引き継いでいる土地を相続で得た場合、プレッシャーに感じる人は多いことでしょう。大切な土地だと分かっていても、管理・維持費で経済的な負担は増えるばかりです。
2023年4月にスタートした相続土地国庫帰属制度は、こうした悩みを解決できる方法の一つだと期待されています。しかし実際は制度の利用ができる土地の範囲は狭く、負担金の問題もあります。
活用していない土地をどうしたらいいか、悩んでいる方はぜひ弁護士にご相談ください。相続土地国庫帰属制度だけでなく、あらゆる選択肢を提示して最善の方法がとれるようにサポートいたします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。