遺言書の効力とは|効力が争われるケースや無効を争う方法も解説

遺言書にどのような事項を記載するかは遺言者の自由です。
しかし、遺言書に記載した内容の全てが法律上の効力を有するわけではありません。
民法その他の法律によって、遺言により法的な効力が生じる事項(遺言事項)が厳格に定められています。
遺言の作成についても、民法で方式が定められています。
この記事では、遺言書の効力について、以下の点を解説します。
- 遺言書が持つ14つの効力
- 遺言書の効力が争われる(無効となる)ケース
- 遺言書の効力に争いがある場合の対応方法
遺言書の作成を検討中の方や、遺言書の効力についてお悩みの方は、ぜひご参考になさってください。
遺言書が持つ14つの効力
ここでは、遺言書が持つ14つの効力について解説します。
民法その他の法律は、遺言により効力を生ずる旨を定めた事項(法定遺言事項)を明文化しています。遺言により効力を生ずる事項には、主に次の14つがあります。
- 認知
- 遺贈
- 未成年者の後見人指定・未成年後見監督人の指定
- 推定相続人の廃除・廃除の取消し
- 相続分の指定・指定の委託
- 遺産分割方法の指定・指定の委託
- 遺産分割の禁止
- 相続人相互間の担保責任の定め
- 遺言執行者の指定・指定の委託
- 祖先の祭祀主宰者の指定
- 持ち戻し免除の意思表示
- 信託の設定
- 保険金受取人の変更
- 一般財団法人の設立
ひとつずつ説明します。
認知
遺言認知は、遺言執行者による執行(届出)を要する遺言事項です。
遺言認知は、適法な遺言がなされ、遺言者の死亡により遺言の効力が生じると同時に法的な親子関係が生じます。遺言認知における届出は報告的届出と解されます。
遺言による認知には、次の4種類があります。
- 未成年の子の認知
- 成年の子の認知
- 胎児の認知
- 死亡した子の認知
成年の子および胎児の遺言認知には、以下の者の承諾が必要です。
- 成年の子を認知する場合:被認知者である子
- 胎児を認知する場合:胎児の母
遺贈
遺贈とは、遺言によって遺産の全部又は一部を、無償又は負担を付して贈与することです。遺贈は、遺言者の自由な処分に委ねられる財産を対象とするので、どのように処分するかは公序良俗に反しない限り自由です。
遺贈は、その目的物によって、次の2つに分けられます。
- 特定遺贈:遺贈の目的が特定の財産である遺贈や種類によって指定されている遺贈
- 包括遺贈:遺贈の目的が遺産の全部または遺産に対する割合をもって表示した遺贈
未成年者の後見人指定・未成年後見監督人の指定
遺言者は、遺言により未成年後見人や未成年後見監督人を指定できます。
未成年者の親権者が亡くなった場合に備えて未成年後見人を指定したり、後見人の怠慢や不正を防ぐために未成年後見監督人を指定したりできます。
推定相続人の廃除・廃除の取消し
推定相続人の廃除・廃除の取消しは、遺言執行者による執行(家庭裁判所への審判申立て・戸籍の届出)を要する遺言事項です。
推定相続人の廃除
推定相続人の廃除とは、推定相続人に相続させたくない事由がある場合に、家庭裁判所に請求することでその推定相続人から相続権を奪う制度です。
推定相続人の廃除が認められる推定相続人は、遺留分を有する推定相続人(子、直系尊属または配偶者)です。遺留分を有しない推定相続人(兄弟姉妹)は、廃除の対象となりません。
推定相続人の廃除が認められるのは、遺留分を有する推定相続人に以下の事由がある場合です。
- 被相続人に対し虐待をした場合
- 被相続人に対し重大な侮辱を加えた場合
- その他の著しい非行があった場合
推定相続人の廃除の取消し
被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消を家庭裁判所に請求できます。遺言により廃除を取り消す意思表示もできます。
相続分の指定・指定の委託
相続分の指定とは、遺言により共同相続人の全部または一部の者について、法定相続分と異なる割合で相続分を定めることです。遺言により相続分の指定を第三者に委託することも可能です。
相続分の指定の効果
相続分の指定がなされると、法定相続分に優先して各共同相続人の相続分が定まります。
相続分が指定されただけでは、個々の財産を具体的に誰が相続するか未確定であるため、共同相続人は、指定相続分に基づいて遺産分割を行う必要があります。
遺産分割方法の指定・指定の委託
遺産分割方法の指定とは、遺言により遺産分割の方法を指定することです。遺産分割方法の指定は、遺言により第三者に委託することも可能です。
遺言により遺産分割方法が指定されても、相続人全員が同意した場合には、遺言内容と異なる遺産分割が可能であるため、必ずしも遺言どおりの遺産分割が行われるわけではありません。
遺産分割の禁止
遺産分割の禁止とは、遺言により一定期間において遺産分割を禁止することです。
遺産分割が禁止されている期間(死亡日から最長5年間)は、遺産分割が行われても、原則として無効となります。
遺産分割の禁止を検討するケースには、例えば、相続人の中に未成年者がおり、成年になるまで遺産分割を禁止する場合などがあります。
相続人相互間の担保責任の定め
遺言者は、遺言により各共同相続人の担保責任を指定できます。
相続人相互間の担保責任とは、ある相続人が取得した相続財産に瑕疵(欠陥等)があった場合、共同相続人間が相続分に応じて価値の減少分を補い合うことを意味します。
遺言執行者の指定・指定の委託
遺言者は、遺言により、遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託したりできます。
遺言執行者とは、遺言者の死後、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人です。
祖先の祭祀主宰者の指定
祭祀主宰者は、相続人の間で協議して決めるのが一般的ですが、遺言により指定できます。
祭祀主催者とは、祭祀財産(仏壇、仏具、お墓、家系図等)や遺骨を管理し、祖先の祭祀を主宰する人です。
持ち戻し免除の意思表示
遺言者は、遺言により、特別受益のある相続人について持戻を免除する旨の意思表示ができます。
特別受益とは、相続人が被相続人からの遺贈や贈与によって、優遇的に受けた特別の利益を意味します。遺贈や贈与によって優遇された相続人と、そうでない相続人の間には、財産の承継に関して不公平が発生します。
その利益分を遺産分割時の相続財産に組み入れて精算することを、特別受益の持ち戻しといいます。
被相続人が、遺言等により持ち戻しの免除の意思表示をした場合は、遺贈または相続開始前10年以内に行われた贈与に限り、相続分の計算において持ち戻しが免除されます。
ただし、遺留分の計算においては、被相続人の免除の意思表示があっても計算に含まれます。

信託の設定
遺言者は、遺言により信託を設定できます。
具体的には、遺言者(委託者)が、信頼できる個人又は法人(受託者)に対して、自己の指定する財産(信託財産)を自己が定める特定の目的(信託目的)に従い、管理・給付・処分等する旨を遺言により指定します。
遺言による信託は、遺言者(委託者)の死亡により効力が発生します。
保険金受取人の変更
保険契約者である遺言者は、遺言によって保険金受取人を指定・変更できます。
ただし、遺言により保険金受取人を変更する場合は、遺言の効力が生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、保険者に対抗できません。
他人を被保険者とする保険契約について、保険金受取人を指定・変更する場合は、被保険者の同意が必要です。
一般財団法人の設立
遺言者は、遺言により一般財団法人を設立できます。一般財団法人の設立は、遺言執行者による執行が必要な遺言事項です。
遺言により一般財団法人を設立する場合は、その旨の意思表示をし、定款に記載すべき内容を遺言に定めます。
それに基づいて、遺言執行者が定款を作成し、公証人による定款の認証を受け、財産の拠出・設定の登記を行います。
遺言書の効力が争われる(無効となる)ケース
ここでは、遺言書の効力が争われる(無効となる)ケースについて解説します。
遺言書の効力が争われる、あるいは無効となるケースには、主に次の3つがあります。
- 遺言者の意思能力(遺言能力)がない場合
- 遺言の形式的要件を欠く場合
- 遺言書が第三者により偽造された場合
ひとつずつ確認しましょう。
遺言者の意思能力(遺言能力)がない場合
遺言書を作成した時点で、遺言者に遺言能力がなければ無効となります。加齢や認知症等によって、遺言の内容を正しく理解できない状態では、遺言能力が認められないからです。
遺言能力とは、遺言の内容やその法律効果を理解・判断するために必要な能力です。
遺言能力の有無は、遺言書作成時の遺言者の状況を総合的に見て判断されます。具体的には次のような事項が判断要素となります。
- 遺言の内容(複雑さの程度)
- 遺言書作成に至る経緯
- 遺言書作成の動機
- 遺言者の年齢
- 遺言者の病状を含む心身の状況および健康状態とその推移
- 発病時と遺言時の時間的間隔
- 遺言時とその前後の言動および健康状態
- 日頃の遺言についての意向
- 遺言者と受遺者の関係
- 前の遺言の有無や前の遺言を変更する動機の有無
遺言の形式的要件を欠く場合
法律で定められた要件を満たさない様式で書かれた遺言書は、無効となります。
遺言書の種類はいくつかありますが、ここでは、有効・無効が争われる可能性が高い次の2つの遺言書について、無効となるケースを紹介します。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、押印する方法で作成する遺言書です。自筆証書遺言は作成方法(要件)が細かく定められており、要件をひとつでも満たしていないと無効となるおそれがあります。
自筆証書遺言が無効になるおそれがあるのは、次のようなケースです。
- 全文が自書で書かれていない
- 日付がない
- 作成日が特定できない日付の表記となっている
- 氏名の自書、押印がない
- 財産目録のすべてのページへの署名押印がない
- 内容が不明確である
- 加除・変更の方法が法律で定められた方式に従っていない
- 2名以上の人が同一の用紙に遺言を遺している
なお、平成31年1月13日以降に自筆証書遺言を作成する場合、財産目録についてはすべてを自書しなくてもよくなりました。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にして存在のみを公証役場で証明してもらう遺言書です。秘密証書遺言の作成手順は、概ね以下のとおりです。
- 手書きやパソコンで遺言内容を書き、署名押印する
- 遺言書を封筒に入れ、封をしてから遺言書に用いたのと同じ印章で押印する
- 公証人と証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨並びにその筆者の指名及び住所を述べる
- 遺言者と証人が署名押印する
- 遺言を持ち帰り、自分で保管する
秘密証書遺言が無効になるおそれがあるのは、次のようなケースです。
- 書面に署名捺印がない
- 本文に押印した印鑑と封筒の押印した印鑑が異なる
- 本来証人になれない人(推定相続人、受遺者等)が証人になっている
- 内容が不明確である
- 封印後、検認手続きの前に開封されている
遺言書が第三者により偽造された場合
第三者に偽造された遺言書は、自筆証書遺言の自書の要件を満たさないため、無効となります。遺言書の全文が第三者によって偽造された場合はもちろん、部分的に書き換えられた遺言書も無効です。
遺言者本人が書いた遺言書でも、第三者による詐欺や脅迫によって書かれた遺言書は無効となります。
遺言書の効力に争いがある場合の対応方法
ここでは、遺言書の効力に争いがある場合の対応方法を紹介します。
遺言の無効を争う手続きには、次の2つがあります。
- 遺言無効確認調停を申立てる
- 遺言無効確認訴訟を提起する
ひとつずつ説明します。
遺言無効確認調停を申立てる
遺言が無効であることの確認を求める調停を、家庭裁判所に申立てます。
遺言の無効確認には、調停前置主義が取れられており、訴訟を提起する前に調停を申立てなければなりません。
調停で話し合いがまとまらない場合は、遺言無効確認請求訴訟に移行します。
遺言無効確認訴訟を提起する
遺言無効確認請求訴訟とは、遺言が無効であることの確認を裁判所に求めるための訴訟手続きです。地方裁判所(または簡易裁判所)に訴状を提出し、遺言無効確認訴訟を提起します。
遺言が無効である旨の判決を得た場合は、当該遺言は無効となります。
遺言無効の判決を得ただけでは、遺産の帰属は決まりませんので、遺言無効判決確定後に遺産分割手続きが必要です。
まとめ
遺言書の取り扱いや効力に疑問や不安を感じたら、弁護士に相談することをおすすめします。
将来に備えて遺言書の作成を検討されている方や、遺言書を発見したけど効力に疑問がある方は、当事務所にお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。