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親が認知症になる前に知っておきたい家族信託

認知症等により判断能力を喪失した場合、従来は成年後見制度を利用し、財産管理や財産処分をするのが選択肢の中心でした。もっとも、成年後見制度は、元気なうちから利用することはできません。

元気なうちに将来に備えるための手段として近年注目されているのが家族信託です。

この記事では、なぜ家族信託が認知症対策になるのかについて解説します。

認知症により預貯金口座が凍結される?

認知症になると預貯金口座が凍結されると聞く方も多くいらっしゃるでしょう。認知症になると、なぜ口座が凍結されるのでしょうか。

認知症による口座凍結

認知症により判断力が低下すると、日常生活の様々な面で適切な判断ができなくなります。

銀行は、窓口での取引時、意思確認や本人確認の対応から認知能力が低下していると判断した場合、口座が凍結します。これは、預金者本人の保護の観点から、本人の財産を守るためにとられる措置です。では、口座が凍結された場合、どうすればよいのでしょうか。

口座凍結への対処法

口座が凍結された時点で、既に判断能力を喪失している場合は、成年後見制度を利用するしかありません。しかし、成年後見制度は、申立までにある程度時間がかかり、成年後見人が選任されて財産の管理が開始されるまで概ね36カ月の期間を要します。その間、預金口座は事実上凍結状態となります。

家族信託は認知症対策になる?

家族信託は、認知症になる前に財産の管理を信頼できる人に託すことで、認知症になった後も財産を託された人が継続して管理できる制度です。家族信託が認知症対策に有効である理由はどういった点にあるのでしょうか。家族信託の仕組みと併せて説明します。

家族信託とは?

家族信託とは、判断能力があるうちに、その全部または一部の財産を、信頼できる相手に対して、その管理を委ねる財産管理の仕組みです。財産を託す人を委託者、財産を託される人を受託者、託される財産のことを信託財産、信託財産から利益を得る人を受益者といいます。

家族信託は、信託契約後に委託者が認知症を発症した場合も、当該信託契約に基づき受託者が有効な法律行為をすることができます。これが家族信託の重要なポイントであり、家族信託が認知症対策に有効とされる所以です。

家族信託の流れ

家族信託の流れの大筋は次のとおりです。

信託契約を締結する

家族間で信託の内容を協議し、委託者と受託者が信託契約を締結します。信託契約書は公正証書にするのが一般的です。

信託用口座の開設

信託財産の管理専用口座(信託口口座)を開設します。委託者はこの口座に信託する財産を入金します。

信託登記を行う

信託財産の中に不動産がある場合には、名義人を委託者から受託者に変更します。

家族信託運用の開始

口座の開設と登記が終わったら、受託者による財産管理が開始します。

認知症への備えとしての家族信託

認知症への備えとしての家族信託は、具体的にどういった効果を及ぼすのでしょうか。

凍結防止効果

認知症になると、口座が凍結される以外にも財産管理において多くの支障をきたします。例えば、所有不動産を賃貸して家賃収入を得ている場合、賃貸借契約の締結・解約、賃貸物件の管理が困難となります。これらの法律行為の権限は所有者が有するため、家族が代わりに行うことはできません。その結果、賃貸借契約が締結できず賃料収入を得られない、修繕を要しても工事ができない凍結状態に陥ります。

家族信託を活用すると、判断能力があるうちに財産の管理・処分権限を受託者に移譲することでこの問題を解決することができます。

トラブル防止効果

高齢者を狙った振り込め詐欺や投資詐欺は後を絶ちません。犯罪被害に遭った場合は、被害を回復することは極めて困難です。自身で財産を守ることが難しくなった場合には、家族信託を活用し、主だった財産の管理を信頼する人に託すことができます。

受益者を委託者本人とすることで、受託者から定期的に生活費や介護費用引き渡してもらうこともできます。また、信託財産を管理する口座(信託口口座)は受託者名義となるため、本人は信託財産について引き出しや振り込みができなくなります。その結果、振り込め詐欺から財産を守ることができます。

このように、家族信託は、認知症により生じる財産管理の問題を解決する有効な手段です。

家族信託は認知症になってからもできる?

「認知症になると家族信託できない」と耳にした方もいらっしゃるでしょう。認知症は大きく分類して軽度・中等度・高度に分けられていますが、全ての段階で家族信託をすることができなくなるのでしょうか。

認知症発症後の家族信託の可否

民法第3条の2は以下のように規定します。

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする

法律行為を行うことができるか否かは意思能力(自分の行為の結果を弁識し判断できる能力)の有無や程度で判断されます。したがって、認知症発症後、既に意思能力を喪失している場合は、原則として家族信託ができません。

家族信託の可否の判断基準

家族信託ができるかどうかは、あくまでも意思能力の有無によります。では、軽度の認知症であれば家族信託ができるのでしょうか。

意思能力の程度によっては家族信託ができる場合がある

加齢に伴う軽度の認知機能の低下や、認知症の前段階と言われる軽度認知症(MCI)の場合は、家族信託ができる可能性があります。

意思能力の有無・程度の判断基準

家族信託は2007年からスタートした歴史の浅い制度で判例が少なく、意思能力の有無・程度の判断基準が明確に示されていません。

実務的に検討すると、公証人による委託者の意思確認が一つの目安となります。家族信託の契約書は、私文書で作成可能ですが、公正証書を作成することが一般的です。公証人による委託者の意思確認を経て契約を締結することにより、契約の真正を担保するためです。したがって、医師が軽度認知症と診断した場合でも、公証人による意思確認によって意思能力が肯定される場合もあります。

公証人による意思確認では、最低限、以下の事項を十分に理解し、回答することが求められるでしょう。

  • 委託者自身の氏名、住所、生年月日
  • 信託の目的
  • 信託の対象とする財産の範囲
  • 受託者と指定する者
  • 信託財産の承継先

ただし、公証人による意思確認は主観的判断である側面を有します。

家族信託の契約時、軽度の意思能力の低下が認められる場合は、医師の診断書や長谷川式認知症スケールなど意思能力を示す資料を取っておくとよいでしょう。長谷川式簡易知能評価スケールは、9つの評価項目、30点満点で構成されています。20点以下だった場合、認知症の疑いが高いとされています。

長谷川式簡易知能評価スケール:遺言が有効となる要件である意思能力の有無の判断材料として、裁判で証拠として多く用いられる認知テストです。

認知症が進行している場合

認知症が進行し家族信託ができない場合には、成年後見制度の利用を検討しましょう。

成年後見制度を利用することで財産管理を行うことができます。成年後見制度は、家族信託と異なり身上監護を行えますので、判断能力が低下した本人の生活・介護・医療・住居にかかる法律行為が行えます。

まとめ

認知症対策として有効な家族信託ですが、判断能力が低下した後では信託契約を締結することができません。

認知症の程度によっては、家族信託を利用できる場合もありますが、発症後の信託契約は、その有効性が争われるおそれがあります。後の紛争を避けるためには、認知症の兆候が出現する前に家族信託を活用するのが賢明です。

家族信託の活用を検討されている方で、認知症の兆候が見られる方は、より慎重な判断が必要となりますので、弁護士へ相談することをおすすめします。

この記事を監修した弁護士

佐藤 塁(東京弁護士会)

はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の佐藤塁と申します。当事務所の特徴は、法的な専門性や経験はもちろんのこと、より基本的に、お客様と弁護士との信頼関係を大事にしていることです。お客様のご依頼に対して、原則2人の弁護士が対応し、最初から最後までその弁護士が責任を持って対応させていただきます。難しい案件でも投げ出しませんし、見捨てません。良い解決ができるよう全力でサポートさせていただきますので、何でもまずはご相談いただけますと幸いです。

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